今更いまさら)” の例文
委員A「えたって出て来るものか。一九四四年にはゴムの在庫が全部無くなるということは一年前から分っていたんだ。今更いまさら……」
諜報中継局 (新字新仮名) / 海野十三(著)
復一は生れて地方の水産学校へ出る青年期までここに育ちながら、今更いまさらのように、「東京は山の手にこんな桃仙境とうせんきょうがあるのだった」
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
氏は別にその時入りたいとは思わなかったが、今更いまさら老人に逆らってみてもはじまらないといった気持で、御意に従う旨を表情で示すと
地図にない街 (新字新仮名) / 橋本五郎(著)
銀座の大通おほどうりに空家あきやを見るは、帝都ていと体面たいめんに関すと被説候人有之候とかれそろひとこれありそろへども、これは今更いまさらの事にそろはず、東京とうけふひらけて銀座の大通おほどほりのごと
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
これはきっと腹の中の悪魔あくま仕業しわざだろうとは思いましたが、二月の末までと約束したのですから、今更いまさら取返しはつきませんでした。
天下一の馬 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
頼長よりながはまさかとおもった夜討ようちがはじまったものですから、今更いまさらのようにあわてて、為朝ためとものいうことをかなかったことを後悔こうかいしました。
鎮西八郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
しか今更いまさらなんとかとか長文句ながもんく手紙てがみけないものだから、『承諾しようだくい』といた電報でんぱうやう葉書はがきしたんだ、さうだ。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
良人おっと自分じぶんまえ打死うちじにしたではないか……にくいのはあの北條ほうじょう……縦令たとえ何事なにごとがあろうとも、今更いまさらおめおめと親許おやもとなどに……。』
今更いまさらながら長吉ちようきち亂暴らんぼうおどろけどもみたることなればとがめだてするもせんなく、りられしばかりつく/″\迷惑めいわくおもはれて
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
彼を思ひ是を思ふに、身一つにりかゝるき事の露しげき今日けふ此ごろ、瀧口三の袖を絞りかね、法體ほつたい今更いまさら遣瀬やるせなきぞいぢらしき。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
けれども三千代と最後の会見くわいけんげた今更いまさらちゝの意にかなふ様な当座の孝行は代助には出来かねた。彼は元来が何方付どつちつかずの男であつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ほんとにまあちやんのおほきくおなんなさいましたこと、今更いまさららしくおもつてみれば、あなたもKさんも立派りつぱな母親なんですわね。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
お駒は手軽に吹屋町に乗込のりこみました、が、宏大な屋敷の中に入って、幾十人の召使の中に立ちまじわると、今更いまさらお駒の美しさが目に付きます。
黄金を浴びる女 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
死後しご幾年いくねんかをへて、それがはじめて舊石器時代きゆうせつきじだいであることにきまり、今更いまさらサウツオラの手柄てがら人々ひと/″\みとめるようになりました。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
勘次かんじ例令たとひ品物しなものつたところで、自分じぶん現在いまちからでは到底たうていそれはもとめられなかつたかもれぬと今更いまさらのやうに喫驚びつくりしてふところれてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
其所そこれい唱歌しやうか一件いつけんだがね、ぼく色々いろ/\かんがへたが今更いまさら唱歌しやうかにもおよぶまいとおもふのだ如何どうだらう。『ろ』で澤山たくさんじやアないか。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
わたくしはハツトおもつて一時いちじ遁出にげださうとしたが、今更いまさらげたとてなん甲斐かひがあらう、もう絶體絶命ぜつたいぜつめい覺悟かくごしたとき猛狒ゴリラはすでに目前もくぜん切迫せつぱくした。
今更いまさらあらためて、こんなことをくのも野暮やぼ沙汰さただが、おこのさんといいなさるのは、たしかにおまえさんの御内儀ごないぎだろうのう」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
あたかも私のそういう長い不在を具象ぐしょうするような、この高原にけるさまざまな思いがけない変化、それにつけても今更いまさらのように蘇って来る
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
という歌は万口ばんこう一斉いっせい歎賞たんしょうするように聞き候えば今更いまさら取りいでていわでものことながらなお御気おきのつかれざることもやとぞんじ候まま一応申上もうしあげ候。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
ぼつちやん、こんな世迷言よまひごとまをしまして、今更いまさら貴下あなたに、おわびねがつて、またかゝりたいのうのとまをします、うした料簡れうけんではござりませんが
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
幼いマルキストであったぼくですが、——ハワイを過ぎ、桑港サンフランシスコも近くなると、今更いまさらのように、自分は日本選手だ、という気持を感じて来ました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
わし村住居むらずまいも、満六年になった。こよみとしは四十五、鏡を見ると頭髪かみや満面の熊毛に白いのがふえたには今更いまさらの様に驚く。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それから十日余りの昨夜ゆうべ、川手氏は突然中村捜査係長の訪問を受け、宗像探偵事務所の木島助手変死の次第を聞かされ、今更いまさらのように震え上った。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
不忍池しのばずのいけ今日こんにち市中に残された池のうちの最後のものである。江戸の名所に数へられたかゞみいけうばいけ今更いまさらたづねよしもない。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
よもや今更いまさらわすれもしめへと云ふと長庵落付おちつきはらひ夫は其方そなたが殺した話し此長庵は知らぬ事御奉行樣宜敷御推察すゐさつ願ひますと申立れば越前守殿かねて目を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
なんだって今更いまさら御離縁なぞというとんでもないお話になったのか、私共にはトンと知る由もございませんが、御実家のお父様も、二、三度おいでになって
幽霊妻 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
男たちは今更いまさらなんとも返事ができず、嵐がしずまったら死骸しがいを探しにゆこうかと、その支度したくをしはじめました。
負けない少年 (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
「は、はア、頭腦が惡いな。」と今更いまさらのやうに氣が付くと、折角出掛かツた考がけむのやうにすうと消えて了ふ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
拝啓、益〻ますます御清栄奉賀候ごせいえいがしたてまつりそろ。昨晩親方お見えに相成り、建前有之由につき、何卒至急御帰宅被下度願上候くだされたくねがいあげそろ。先日のことは呉れ呉れも私が悪く、今更いまさら後悔罷在候こうかいまかりありそろ
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
何と云っても今だにすすけた標本のように、もうひとつの記憶のらち内に固く保存しているので、今更いまさらなんぞかぞ」と云い合いする事は大変面倒めんどうな事でもあった。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
春の温泉場——そののびやかな気分を今更いまさらくわしく申し上げませんでも、どなたもよく御存じでございませう。
……瓜生ノ衛門、今更いまさらながら御父上から受けました四十年の御厚誼ごこうぎ、つくづくと身にみまする。……(涙して)しがないうり作りの山男を……これまでに……
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
そりや、本気で云ふたら此の手紙の十倍も二十倍もの長い手紙書いたかて足りないくらいに思ひますけど、今更いまさらそんなこと云ふても何にもなりわしませんものねえ。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
たったそれだけの眼の向け方でも今まで見逃していた自然の美しさが今更いまさらのように目に立つのである。
あたまきずけられて泣く/\かへつたが、くにでは田地でぢを買ひ、木材きざいり出す約束をして、手金てきんまで打つてあるから、今更いまさらかね出来できないとつてかへることは出来できない。
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
といって、君に対してはなはだ失礼な言葉ではあるが、君とはちがって雪江さん以外に、何人にも恋を感じなかった僕が、今更いまさら、誰に真実の恋を感ずることが出来よう。
恋愛曲線 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
今更いまさら、どう詫びても追いつかないが、腹のえる迄、存分に、俺を打つとも斬るともしてゆるしてくれ
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして考えているということで自ら満足していたんだが……この年になって今更いまさらのように、たとえ考えても何もしないことは、考えないも同じだということを知ったのだ。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
今更いまさらこれをあらためて苗字めうじさきにしのちにするにもおよばない。餘計よけいことであるといふひともあるが、わがはいはさうはおもはない。あやまちてあらたむるにはゞかるなかれとは先哲せんてつ名訓めいくんである。
誤まれる姓名の逆列 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
ほ、ほ、ほ、何を感ずっておいでなのさ——そんな事は、今更いまさら言うまでもありゃあしない。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
お爺さんは何も知らないように、黙っていろと御云いなすったから、一生懸命にすましていましたが、今更いまさらあんな嘘をつかなくっても、すぐに一しょにはなれるでしょうに、——
奇遇 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
二人ふたり大泣おほなきにきました。いへものどもゝ、かほかたちがうつくしいばかりでなく、上品じようひんこゝろだてのやさしいひめに、今更いまさらながのおわかれをするのがかなしくて、湯水ゆみづのどとほりませんでした。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
今更いまさらなにをかおもはむうちなびきこころはきみりにしものを 〔巻四・五〇五〕 安倍女郎
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
民謡なども諸君のような企てによって、今更いまさら何事をか語ろうとしているのであります。
そして、二三にちそのつかれのらないのに今更いまさら自分じぶんおろかさをいたやうな始末しまつだつたが、支那人しなじんが二も三たゝかひつづけて平氣へいきだといふのは、ひとつはたしか體力たいりよくのせゐにちがひない。
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
然しついに答えは無かった。——船の位置だけでも先に聞いて置けば宜かったと思うが、もう今更いまさらどうにも仕様がない。ただ、出来るだけ早く現場げんじょうへ行って、危急の友を救うことである。
流血船西へ行く (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
しかし今更いまさら気をんだところで仕方がないからこのまま死ぬよりほかはあるまい。仏法修行のためにこの国に進入して来た目的も達せずに高山積雪の中に埋れて死ぬというのも因縁であろう。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
今更いまさら、戦って見たところで、とりこめられてたちまちやられそうである。
女強盗 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
また今更いまさらかんがへれば旅行りよかうりて、無慘々々むざ/\あたら千ゑんつかてたのは奈何いかにも殘念ざんねん酒店さかやには麥酒ビールはらひが三十二ゑんとゞこほる、家賃やちんとても其通そのとほり、ダリユシカはひそか古服ふるふくやら、書物しよもつなどをつてゐる。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)