ひと)” の例文
こまかきあめははら/\とおとして草村くさむらがくれなくこほろぎのふしをもみださず、かぜひとしきりさつふりくるはにばかりかゝるかといたまし。
雨の夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
これらの童謡はおほかたその「赤い鳥」で公にされたものですが、今度改めて今までの分をひとまとめにして出版する事になりました。
とんぼの眼玉 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
と、いうことは素気そっけないが、話を振切ふりきるつもりではなさそうで、肩をひとゆすりながら、くわを返してつちについてこっちの顔を見た。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
燦々と降る光の泡に胸は一杯に息を塞がれ、広い視界は唯ひとつの、白金の光芒を放つて、チリチリと旋回する一点の塵と化してゐる。
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
こゝかしこにたくさんにありますから、これひととほり見物けんぶつしてあるくだけでも、ロンドンで一週間いつしゆうかんぐらゐは、大丈夫だいじようぶかゝるでせう。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
このはなし但馬守たじまのかみが、與力よりきからいて、一そう玄竹げんちくきになつたのであつた。それからもうひとつ、玄竹げんちく但馬守たじまのかみよろこばせた逸話いつわがある。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「腕力于今猶健在。一揮千紙未為難。」〔腕力今ニおいテ猶健在ナリ/ひとタビ揮ヘバ千紙モ未ダ難シト為サズ〕との意気を示していた。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
マーキュ 猫王ねこまたどの、九箇こゝのつあるといふ足下おぬしいのちたッたひとつだけ所望しょもうしたいが、其後そののち擧動次第しこなししだいのこ八箇やッつたゝみじくまいものでもない。
女等をんならみな少時しばし休憩時間きうけいじかんにもあせぬぐふにはかさをとつて地上ちじやうく。ひとつにはひもよごれるのをいとうて屹度きつとさかさにしてうらせるのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
と、武士もののふの死出を笑って、誓願寺せいがんじの曲をひとさし舞い、舞い終るとすぐ舟のうちで屠腹とふくしたと、後の世までの語りぐさに伝わっている。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
、こらしめるためのひとうちよ。あなたは、自分がからかわれているのも、わからないじゃないの。あたしはね、心の奥底からの一うちを
ひとかまの飯を食わねば、心はだんだん離れるものだろうか。茂緒はとうとう何もいわずに、泣きべそのような顔で房次の家を出た。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
大きな尨犬むくいぬの「熊」は、としをとった牝犬めすいぬだったが、主人の命で、鋭く吠えたてたので流石さすがの腕白連も、ひとたまりもなく逃げてしまった。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
出しては読み出しては読み、差し上げる手紙を書く料簡りょうけんもなく、昨夜ひとばんらちもなく過ごしました。先夜はほんとに失礼いたしました。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
ですから、われ/\が、あるひとつの土地とちにはえたを、やたらにわきへつてったつて、それが一々いち/\つくわけのものではありません。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
とのさまも びっくり しましたが、どうも あの ぼうさん おもしろそうだ、ひとつ よんで みようと、けらいにいいつけて
一休さん (新字新仮名) / 五十公野清一(著)
じいさま、うぞわたくしひとつの御神鏡ごしんきょうさずけていただぞんじます。わたくしはそれを御神体ごしんたいとしてそのまえ精神せいしん統一とういつ修行しゅぎょういたそうとおもいます。
『さあ、ひとくちに出してつて御覽なさいな。』とお吉に言はれると、二人共すぐ顏を染めては、『さあ』『さあ』と互ひに讓り合ふ。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
大地震だいぢしんのときは大地だいちけてはつぼみ、ひらいてはぢるものだとは、むかしからかたつたへられてもつと恐怖きようふされてゐるひとつの假想現象かそうげんしようである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
『もうないから、萬望どうぞはなして頂戴ちやうだいな』とあいちやんは謙遜けんそんして、『二くちれないわ。屹度きつとそんな井戸ゐどひとくらゐあつてよ』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
細字さいじにてしたためたる長文の手紙、中には議論文もあり歎願書もあり、ひとたび読みおわりてまた繰返し、再び読みおわりて思案に沈み
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
なにかねがあるばかりぢやない。ひとつは子供こどもおほいからさ。子供こどもさへあれば、大抵たいてい貧乏びんばふうちでも陽氣やうきになるものだ」と御米およねさとした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
なにうまはゐなかつたか? あそこは一たいうまなぞには、はひれないところでございます。なにしろうまかよみちとは、やぶひとへだたつてりますから。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
卓子テーブルそばわづかすこしばかりあかるいだけで、ほか電灯でんとうひとけず、真黒闇まつくらやみのまゝで何処どこ何方どちらに行つていかさツぱりわからぬ。
検疫と荷物検査 (新字旧仮名) / 杉村楚人冠(著)
ひとたびその輿論を導いて遺憾なきを得ば、我が対支那政策に於てまた何の顧慮か有らん。吾人の常に意を用うべきは此処ここに在る。
三たび東方の平和を論ず (新字新仮名) / 大隈重信(著)
いははなをば、まはつてくごとに、そこにひとつづゝひらけてる、近江あふみ湖水こすいのうちのたくさんの川口かはぐち。そこにつるおほてゝゐる。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
上のお姉様方はお二人ふたりとももうかたづいていらっしゃるから、お姫様ひいさまはこのおひと方だ。伯爵家ではお姫様方はみんなお成績がおよろしい。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
なんとこの榎木えのきしたにはちてませう。澤山たくさんひろひなさい。ついでに、わたしひと御褒美ごはうびしますよ。それもひろつてつてください。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
けれども、せめて、絵図えずともくじだけでも、ひととおりはいけんしたいものですが、いかがでしょう、四、五にち、かしていただけませんか。
波うちぎわの海草の山の下には、ひとむれの白鳥がいました。白鳥たちは陸の上にいかないで、波にゆられながら休んでいました。
さて、わたくしは或る夜ふしぎなひとに立ち寄って見ましたが、それは何の不思議さもない、普通のお百姓家であったことを知りました。
玉章 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
ある時一尺ばかりなる小蛇来つて、この鐘を尾を以てたたきたりけるが、一夜の内にまた本の鐘になつて、きず付ける所ひとつもなかりけり云々。
ひと頃「有樂座」でやつてゐた「土曜劇場」の下手な連中さへ、自分には「藝術座」よりも立派なものだつたやうに考へられる。
かつ子さんたちはそれから一と晩じゅうバケツで池の水をはこんでは屋根へかけかけして、ひといきも休まずはたらきつづけました。
大震火災記 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
平次はお静を呼んで財布を出させると、中から小粒をひとつかみ、二三両もあろうと思うほどへ、小判を二枚添えて、ガラッ八に渡しました。
彼は食い荒されたにしんの背骨をひとさらせていたが、おくへ通ずるドアを後ろ足で閉めながら、突拍子とっぴょうしもない声でいきなり
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
しかし、いつかおじいさんにせたら、あまりほめていなかった。それでも、みんなひとまとめにしてったら、いくらかのかねになるだろう。
さかずきの輪廻 (新字新仮名) / 小川未明(著)
かつて或る時代の各人がひとかどの改良なりと信じて世に行った変革の結果が、その実我々に災いした場合は一にしてとどまらぬ。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「うちの人が、気分が悪いと、いいよる。あたしは、街の薬屋にひとッ走り、行って来るけ、あんた、しばらく、介抱しといて」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
夫婦してひとつコップから好きな酒を飲み合い、暫時しばしも離れぬので、一名鴛鴦おしの称がある。夫婦は農家の出だが、別にたがやす可き田畑もたぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ほぼひと月もするうちに、單調なこの世界の生活の中にあつて、太田は、いつしか音の世界を樂しむことを知るやうになつた。
(旧字旧仮名) / 島木健作(著)
『ピナコテエク』のやかた出でし時は、雪いま晴れて、ちまた中道なかみちなる並木の枝は、ひとびとつ薄き氷にてつつまれたるが、今点ぜし街燈に映じたり。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
ビスマークのような顔をして、船長よりひとがけもふたがけも大きい白髪の水先案内はふと振り返ってじっと葉子を見たが、そのまま向き直って
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
勿論もちろんかれ仲間なかまだけがことにさうだとはへなかつた。見渡みわたしたところ、人間にんげんみんひとつ/\の不完全ふくわんぜん砕片かけらであるのに、不思議ふしぎはないはずであつた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
と。すですること(二九)はいをはりて、(三〇)田忌でんきひとたびたずしてふたたつ。つひわうの千きんたり。ここおい孫子そんし威王ゐわうすすむ。
あれは、ひとの縁日へいった時、米屋の横の、どぶっぷちに捨てられていたのを拾ってやったのだが、また宿なしになってしまやしないかしら。
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
そうしてまだ睡い眼をコスリコスリ、今ひと寝入りすべく二階へ帰ろうとすると、暗い梯子段に足を踏みかけぬうちに、又電話口に呼び返された。
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その擧動ふるまひのあまりに奇怪きくわいなのでわたくしおもはず小首こくびかたむけたが、此時このとき何故なにゆゑともれず偶然ぐうぜんにもむねうかんでひとつの物語ものがたりがある。
「わたしは、ちょっと今、手がすいておりますから、それでは、わたしが壁辰の親方をひとぱしりに迎いに参りましょうか」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
歸つてきて、しかも、そのまゝ、そのことはひとツ言も云はずに、むつしりしてゐた——かういふことがいくらもあつた。
防雪林 (旧字旧仮名) / 小林多喜二(著)