ほこ)” の例文
私達はとてもあの人達のやうな自信じしんほこりを持つことが出來なかつた。決して現在げんざいの自らの心の状態を是認ぜにんすることが出來なかつた。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
かれは学校生活の時代から一種の読書家であつた。卒業ののちも、衣食のわづらひなしに、講読の利益を適意に収め得る身分みぶんほこりにしてゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
早稻田わせだたものは早稻田わせだあいし。大學だいがくたものは大學だいがくあいするのは當然たうぜんで、諸君しよくんかなら其出身そのしゆつしん學校がくかうあいほこらるゝでしよう。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
一二月いちにがつころのような小枝こえだに、黄色きいろはなけたり、また蝋梅ろうばいのようにもっとはやゆきなかかをりたかくほこるものもあります。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
成経 あなたはわしのほこりをも、康頼殿の信仰をもこわしてしまおうとするのだ。そして自分の心をもかき乱してしまおうとするのだ。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
そばには長大ちやうだい向日葵ひまわりむし毒々どく/\しいほどぱいひらいて周圍しうゐほこつてる。草夾竹桃くさけふちくたうはながもさ/\としげつたまま向日葵ひまわりそばれつをなして
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
むしろほこりとしているふうすらある。典膳にはそれが正直な人物のようにうけとれた。黙ってその顔を見あげたまま聞いていた。
剣の四君子:05 小野忠明 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かかる艱苦かんく旅路たびじうちにありて、ひめこころささうるなによりのほこりは、御自分ごじぶん一人ひとりがいつもみことのおともきまってることのようでした。
「ああ今日もまたあの図を見なくってはならないのか。自分とは全く無関係に生きほこって行く女。自分には運命的に思い切れない女——。」
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
だん伸の三きやくの上にてゝ黒布くろぬのをかぶりながら焦點せうてんあはせる時のわたし滿まん足とうれしさ、とまたほこらしさとはいひやうもなかつた。
自国じこくの名誉をほこる者あれば、自国の短所をあばく者あり、実に勝手な説をいて独り学校卒業生のみならず全体の公衆に訴える。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
あねはその子供こどもらをながめていました。そのなか一人ひとり、かわいらしいおとこがありました。だまって、真紅まっかほこったぼたんのはなていました。
灰色の姉と桃色の妹 (新字新仮名) / 小川未明(著)
お里は、ほこらしい顏をあげました。やくそこ/\の年ごろでせうが、苦勞をしたせゐか、美しいうちにも、何となく凛々りゝしいところのある娘です。
その馬上の姿は実に美しく、無造作に楽々と乗りこなしているところは、くらの下の馬までが感じ入って、乗り手をほこりとしているように見えた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
私はもう往來をかろやかな昂奮にはずんで、一種ほこりかな氣持さへ感じながら、美的裝束をして街を濶歩した詩人のことなど思ひ浮べては歩いてゐた。
檸檬 (旧字旧仮名) / 梶井基次郎(著)
常に春琴を弟子に持っていることをほこりとして人に吹聴ふいちょう玄人くろうと筋の門弟たちが大勢集まっている所でお前達は鵙屋のこいさんの芸を手本とせよ〔注
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
エーテルの世界には毎晩のようにJOAKの音楽やらラジオドラマが其の強力な電波勢力をほこりがおに夜更けまでも暴れているような時勢じせいになりました。
壊れたバリコン (新字新仮名) / 海野十三(著)
人間がタイタニックを造ってほこに乗り出すと、氷山が来て微塵にする。勘作が小麦を蒔いて今年は豊年だとよろこんで居ると、ひょうが降って十分間に打散す。
地蔵尊 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
宝暦年中平賀鳩渓きうけい(源内)火浣布をはじめてせいし、火浣布考くわくわんふかうあらはし、和漢の古書を引、本朝未曾有みそう奇工きこうほこれり。ぼつしてのち其術そのじゆつつたはらず、好事家かうづか憾事かんじとす。
「そら! また見えた、橋桁はしげたに引っかかったよ。」と、欄杆に手をけて、自由に川中を俯瞰みおろし得る御用聴ごようききらしい小僧こぞうが、自分の形勝の位置をほこるかのように
死者を嗤う (新字新仮名) / 菊池寛(著)
自分じぶんゆる色男いろをとこが、おもひをかけてとゞかぬをんなを、うしてひとほこすべ隨分ずゐぶんかぞれないほどあるのである。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ここに不思議ふしぎなことには、かくもさかんに花が咲きほこるにかかわらず、いっこうに実を結ばないことである。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
満足まんぞくさせられると思いますよ。なぜなら、エステルイエートランドは、いつになっても、ほかの地方にほこれるようなものをもっていると、予言よげんできますからね。
あらゆる苦悩くのうにたえて、そうした呪いに似た気持ちを克服こくふくするのだ、と、そう自分に言いきかせて、自分をはげますことに、あるほこりを感じていないのではない。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
たづねられし處多兵衞は少しくほこがほに喧嘩の次第まで委細くはしく申立しにより其物語そのものがたりのうち廉々かど/\此節の一件に思ひ當りしことなど有けるゆゑそれとなしに長々と多兵衞の申を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
この人は苦労人だなとすぐに子路は感じた。可笑おかしいことに、子路のほこる武芸や膂力りょりょくにおいてさえ孔子の方が上なのである。ただそれを平生へいぜい用いないだけのことだ。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
瞼には深い影がさして、あのようにほこっていた長いまつげも、抜けたようにささくれて、見るかげもない。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
しるしかさをさしかざし高足駄たかあしだ爪皮つまかわ今朝けさよりとはしるきうるしいろ、きわ/″\しうえてほこらしなり。
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
何某という軍医、恙の虫の論になどえて県庁にたてまつりしが、こはところの医のを剽窃ひょうせつしたるなり云々。かかることしたりがおにいいほこるも例の人のくせなるべし。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そのとき妹の下照比売したてるひめは、あの美しい若い神は私のおあにいさまの、これこれこういう方だということを、歌に歌って、ほこりがおに若日子の父や妻子に知らせました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
しかしながら、いたづらに完全くわんぜんもののみをえらび、金錢きんせんちからもつ買入かひいれ、あるひりてあつめて、いたづらに其數そのすうおほきをほこものごときは、けつしてらぬのである。
帳場ちょうばいそ大工だいくであろう。最初さいしょつけたほこりから、二人ふたりが一しょに、駕籠かごむこうへかけった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
其故それゆゑ著者等ちよしやら地震學ぢしんがくもつ世界せかいほこらうなどとはおもつてゐないのみならず、此頃このごろのように、わが國民こくみん繰返くりかへ地震ぢしん征服せいふくせられてみると、むしはづかしいような氣持きもちもする。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
つまり上手じようずどうしが、みな肝腎かんじんてんよりもごく枝葉えだはにわたるところに苦勞くろうをして、それをおたがひにほこりあつたゝめに、それがかさなり/\して、いけないことがおこつてました。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
神父はいよいよ勝ちほこったようにうなじを少しらせたまま、前よりも雄弁に話し出した。
おしの (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
雨にれ、緑のいっそうあざやかに光りかがやく、草木のあいだに、撩乱りょうらんと咲きほこっている、紅紫黄白こうしこうはく、色とりどりの花々の美しさ、あなたは何処どこにでもいる気がふッといたしました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
私はかぜを引きつゞけた。母が、「アツ」といつたまゝんでしまつた。すると、つまが母に代つてとこについた。私のほこつてゐたもんから登るはなの小路は、氷を買ひにはしみちとなつた。
美しい家 (新字旧仮名) / 横光利一(著)
野村は別に二川を友達に持っていることを、ほこりとも、恥とも思っていないし、二川を格別尊敬も軽蔑もしていないのだが、それを変に歪めて考えられることは、少し不愉快だった。
自分が主でもない癖に自己おのが葉色を際立ててかわった風をほこ寄生木やどりぎは十兵衛の虫が好かぬ、人の仕事に寄生木となるも厭ならわが仕事に寄生木をるるも虫が嫌えば是非がない
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
時のうらかたも神のみすゞりも、十四五なるわらべ、ぢやえぢきかざて、おたかべのあらば、お祭りのあらば、うにきやらやほこて、又からやほこて、作るづくりも時々に出来できて、御祝事おいわひごとばかり
ユタの歴史的研究 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
「私の乳母うば丹精たんせいして大事に大事に育てたのです」と婦人がほこに口を添えた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
自分のなつかしい記憶きおくは、産土には青空をしてるような古い松が三本あって、自分ら子供のころには「あれがおらほうの産土の社だ。」と隣村となりむらの遠くからながめて、子供ながらほこらしく
落穂 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
美は一切の道徳どうとく規矩きくを超越して、ひとりほこらかに生きる力を許されている。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
そして金太郎は、更めて自分が專門學校生であるほこりにうつとりする。
坂道 (旧字旧仮名) / 新美南吉(著)
に自らをほこりつゝ、はたのろひぬる、あはれ、人の世。
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
海はほこりてをらん、遙かかなたなる樂土らくどを。
ほこりとしたる我にやはあらぬ
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
こはめざましきほこりかな
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
ほこきかな常闇とこやみ
全都覚醒賦 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
けれども貴殿あなたがそういふことをまうされるのも要之つまりぼくが一のちひさな小學校せうがくかう出身しゆつしんであることをほこるとか、感謝かんしやするとかふのは
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)