おり)” の例文
あるいはその手の指の先に(ニコティンは太い第二指の爪を何と云う黄色きいろに染めていたであろう!)おりに折られた十円札が一枚
十円札 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
われゆゑぬるひとのありとも御愁傷ごしうしようさまとわきくつらさ他處目よそめやしなひつらめ、さりともおりふしはかなしきことおそろしきことむねにたゝまつて
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
△「おりう云ったっけが間に合わねえから、此の玉子焼にさわらの照焼は紙を敷いて、手拭に包み、猪口ちょこを二つばかりごまかしてこう」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「お手間てまらせることじゃない。ちとおりいって、相談そうだんしたいわけもある。ついそこまで、ほんのしばらく、つきっておくれでないか」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
おりしも沖を見ると、ちょうど真赤な入日が不安な色に凶兆を示して重たい鉄弾の焼けたのが落ちるように深蒼しんそうの日本海に沈む処であった!
暗い空 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あのおりおもいのほか乱軍らんぐん訣別わかれ言葉ことばひとつかわすひまもなく、あんなことになってしまい、そなたもさだめし本意ほいないことであったであろう……。
その上に琉球唐紙からかみのような下等の紙を用い、興に乗ずれば塵紙ちりがみにでも浅草紙にでも反古ほごの裏にでも竹の皮にでもおりふたにでも何にでも描いた。
「おやそうさん、しばらく御目にからないうちに、大変御老おふけなすった事」という一句であった。御米はそのおり始めて叔父夫婦に紹介された。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お正月だのおぼんだの、またはいろんなおまつりのおりに、町のにぎやかな広場に小屋こやがけをして、さまざまの人形を使いました。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
あれッと、僕が緊張きんちょうするおりふし、水槽の横手の方から、ぎりぎりと硝子ガラスの板が出て来て、僕の頭の上を通りすぎていった。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
何か大蔵大臣と話しつつある間におりに触れて少しずつ尋ねてみたり、疑いの起らない範囲内において研究したんですからどうせ充分な事はない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
仏蘭西人フランスじんきまって Servietteセルヴィエットおとがいの下から涎掛よだれかけのように広げて掛けると同じく、先生は必ずおりにした懐中の手拭を膝の上に置き
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
御前おんまえあわいげんばかりをへだつて其の御先払おさきばらいとして、うちぎくれないはかまで、すそを長くいて、静々しずしずただ一人、おりから菊、朱葉もみじ長廊下ながろうかを渡つて来たのはふじつぼねであつた。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
和泉いずみの山奥の百合根ゆりねをたずさえる一人に、べつの男はの国の色もくれないのたいおりをしもべに担わせた。こうして通う一人は津の国の茅原かやはらという男だった。
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
でも始終しじゅうどうかしててんかえりたいとおもって、おりがあったら羽衣はごろもかえして、げようげようとしました。
白い鳥 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
おれもこれから京へのぼって、秀吉公ひでよしこうの力を借り、武田たけだ一族をりつくすさんだんをするから、てめえもおりさえあったら、この仕返しをすることを忘れるなよ
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三人の客がわざわざ山吹村からさげて来てくれた祭典記念の神酒みきと菓子のおりとがそのあとに残った。彼はそれを家の神棚かみだなに供えて置いて、そばへ来る妻に言った。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
……それを貴女あなた離嫁わかれるおりいてけと申しましたので、しかたなく置いて帰つたので御座います
夜汽車 (新字旧仮名) / 尾崎放哉(著)
あるときも無聊ぶれうくるしんでゐたおりたれかを訪問ほうもんしようかとつてゐるときS、Hた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
やはり毎朝まいあさのようにこのあさ引立ひきたたず、しずんだ調子ちょうし横町よこちょう差掛さしかかると、おりからむこうより二人ふたり囚人しゅうじんと四にんじゅううて附添つきそうて兵卒へいそつとに、ぱったりと出会でっくわす。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
夢の中の景色けしきは、映画と同じに、全く色彩を伴わぬものであるのに、あのおりの汽車の中の景色けは、それもあの毒々しい押絵の画面が中心になって、紫と臙脂えんじかった色彩で
押絵と旅する男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
夫人がおりを見て掃除に行くと、『あなた、いつも掃除、掃除、掃除。あなたの悪いくせです』
枯れた草の中から竜胆りんどうが悠長に出て咲いているのが寒そうであることなども皆このごろの景色けしきとして珍しくはないのであるが、おりと所とが人を寂しがらせ、悲しがらせるのであった。
源氏物語:40 夕霧二 (新字新仮名) / 紫式部(著)
何にしてもそれを聞いた以上、彼女は知らない顔をしているわけにもゆかないので、進まないながらも其の日の午すぎに、近所で買った最中もなかおりを持って、津の国屋へ見舞に行った。
半七捕物帳:16 津の国屋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
一、幼少のおり、母を失ったときに、親に対して孝をつくすことができなかったが、せめて母の希望であった点は忘却ぼうきゃくせずして、遅れながらもこれを達しようと、こういう考えが浮んだ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
小柄な男はそのをはじめとしておりおりやって来た。そして勘作が漁がなくて困っていると、彼は勘作の網を持ってちょっとの間どこかへ漁に往ったが、何時いつでも数多たくさんの魚をって来た。
ある神主の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
子どもらは、みんな新しいおりのついた着物きものて、星めぐりの口笛くちぶえいたり
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
プラットフォームに入っては口もろくに利けないほどいた気持になって持って来たチョコレートのおりをわたしたりしわになった衿をなおしてやって居るともう発車の時になって仕舞った。
千世子(二) (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
今からおよそ十年あまりも前に、広島県安芸あきの国〔県の西部〕の北境ほっきょうなる八幡やはた村で、広さ数百メートルにわたるカキツバタの野生群落やせいぐんらく出逢であい、おりふし六月で、花が一面に満開して壮観そうかんきわ
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
エピソードにはいろいろの美しき絵様えようあり。おりあらば詳しく書き記すべし。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
おりから何だか、気味をく思っていないところへ、ある晩高麗蔵さんが、二階へこうと、梯子段はしごだんへかかる、妻君さいくんはまたおどかす気でも何でもなく、上から下りて来る、その顔に薄くあかりして
薄どろどろ (新字新仮名) / 尾上梅幸(著)
そのおり白いペンキ塗りの手車を曳いた被告を確かに見たと云うんです。
あやつり裁判 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
兼「人を馬鹿にするなア、いつでもしめえにア其様そんな事だ、おやアおりを置いて行ったぜ、平清のお土産とは気が利いてる、一杯いっぺい飲めるぜ」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
おりから下坐敷したざしきより杯盤はいばんはこびきしおんななにやらおりき耳打みゝうちしてかくしたまでおいでよといふ、いやたくないからよしてお
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
日和ひよりおりなどにはわたくしはよく二三の腰元こしもとどもにかしずかれて、長谷はせ大仏だいぶつしま弁天べんてんなどにおまいりしたものでございます。
二郎は昨夜ゆうべ見た夢が余り不思議なもんで、これを兄の太郎に話そうかと思っていましたが、まだいいおりがありません。
迷い路 (新字新仮名) / 小川未明(著)
おおきくうなずいた伝吉でんきちは、おりからとおあわせた辻駕籠つじかごめて、笠森稲荷かさもりいなり境内けいだいまでだと、酒手さかてをはずんでんだ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
人種の発達と共にその国土の底に深くも根ざした思想の濫觴らんしょうかんがみ、幾時代の遺伝的修養を経たる忍従棄権のさとりに、われ知らずえりただおりしもあれ。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
孤堂先生は右の手に若干そこばくの銀貨を握って、へぎおりを取る左とかえに出す。御茶は部屋のなかで娘がいでいる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
東郷家にとっても、八雲にも、何のゆかりもない機屋であったが、多門寺の住職と道で口をきいたのが縁になって、彼女は、ここに今夜のおりを待っていたのであった。
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
トラ十へ、これをさしいれたいから頼みますと、にぎりずしが一おりと、鼻紙はながみじょうとをもってきたのです。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
桂木は投落なげおとされて横になつたが、死をきわめて起返おきかえるより先に、これを見たか婦人の念力、そでおり目の正しきまで、下着は起きて、何となく、我を見詰みつむる風情ふぜいである。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
どこぞに百姓家ひゃくしょうやでもつけ次第しだいたのんで一晩ひとばんめてもらおうとおもいましたが、おりあしくはらの中にかかって、見渡みわたかぎりぼうぼうとくさばかりしげったあき野末のずえのけしきで
安達が原 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
がつすえかたえがてなりしゆきも、次第しだいあとなくけた或夜あるよ病院びょういんにわには椋鳥むくどりしきりにいてたおりしも、院長いんちょう親友しんゆう郵便局長ゆうびんきょくちょう立帰たちかえるのを、もんまで見送みおくらんとしつた。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
甚兵衛はもうたいへん金をもうけていましたし、こわれた人形を見ると、ふたたび人形を使う気にもなりませんでした。さるみやこ見物けんぶつしましたし、そろそろもとの山にもどりたくなってるおりでした。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
そのうちに今年の春もあわただしく過ぎて、初鰹はつがつおを売る四月になった。その月の晴れた日に勘蔵が新らしい袷を着て、干菓子のおりを持って、神田三河町の半七の家へ先ごろの礼を云いに来た。
半七捕物帳:29 熊の死骸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
粟野さんはてれ隠しに微笑びしょうしながら、おりに折った十円札を出した。
十円札 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ブッダ・バッザラ師といろいろ話のおりに、同師が私に勧告されますには
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「大きなものといってもせいぜいおりかばん位のものです」書生は不思議相に答えた。「自動車や車は門を出たり入ったりしましたけれど、だれもそんな大きなものを運び出した人なんかありません」
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
客「うしようじゃアねえか、おりういっても間に合うめえし残して往っても無駄だから、此の生鮭なまじゃけと玉子焼とア持って行こう」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)