とほ)” の例文
こんなとほるやうな感じの女が、どう間違つて伊丹屋の駒次郎などの思ひ者になつて居たことか、平次にはそれが不思議でなりません。
天守てんしゆしたへもあなとほつて、おしろ抜道ぬけみちぢや不思議ふしぎぬまでの、……わし祖父殿おんぢいどん手細工てざいくふねで、殿様とのさまめかけいたとつけ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
逆手さかてに取直し胸のあたりへ押當てつかとほれと刺貫さしつらぬき止めの一刀引拔ば爰に命は消果きえはてに世に不運の者も有者哉夫十兵衞は兄長庵の爲に命を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
が、風は黒雲を巻き落いて、息もつかすまじいと吹きどよもす。雨も川面かはづら射白いしらまいて、底にもとほらうずばかり降り注いだ。
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
夜が更けるに従つて秋めいた星月夜づきよとなつたが、河筋を伝つて北から吹く風が今日けふにはかに取出した冬服をとほして寒い。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
聖ピエトロの伽藍がらんには中央なる大穹窿、左右の小穹窿、正面の簷端のきば、悉く透きとほりたる紙もて製したる燈籠を懸け連ねたるが、その排置いと巧なれば
「けどもネ、梅子さん、」と銀子はかたちあらためつ「貴嬢あなたまでも独身主義をとほさうと云ふ御決心なの」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
總身そうみさむって、血管中けっくわんぢゅうとほおそろしさに、いのちねつ凍結こゞえさうな! いっみな呼戻よびもどさうか? 乳母うば!……えゝ、乳母うばなんやくつ? おそろしいこの
そのわがまゝのとほらぬこともあるまじきなれど、らきは養子やうし身分みぶん桂次けいじはつく/″\他人たにん自由じゆううらやみて、これからのすゑをもくさりにつながれたるやうにかんがへぬ。
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
庖厨はうちゆうの膳棚の下へ逃げかくれしかば、公、御刀を棚下へさし入れて、へし付け給ふに手にも覚えず刃とほりて管内死してけり、是れに依つてかくは名づけ給ふとぞ——
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして林は虔十の居た時の通り雨が降ってはすきとほる冷たいしづくをみじかい草にポタリポタリと落しお日さまが輝いては新らしい奇麗な空気をさはやかにはき出すのでした。
虔十公園林 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
独照は女を庫裏くりに連れ込み、湿とほつたその着物を脱がせて鼠色の自分の着物をせてやつた。
このをとりになるとり呼聲よびごゑは、春先はるさきから稽古けいこをしたこゑですから、たかそらはうまでよくとほりました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
その淵も瀬に移るところは浅くなつてその底は透きとほるやうな砂であるから、水遊みづあそびする童幼どうえうは白い小石などを投げ入れて水中で目を明いてそれの拾競ひろひくらをしたりするのであつた。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
たゞ単調に澄んでゐたもののうちに、色が幾通りも出来できてきた。とほあゐが消える様に次第にうすくなる。其上に白い雲がにぶかさなりかゝる。かさなつたものが溶けてながす。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
四壁沈々、澄みとほりたる星夜ほしよの空の如く、わが心一念のくもりけず、えに冴えたり。
予が見神の実験 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
月の光にかげくらき、もりの繁みをとほして、かすかに燈のひかり見ゆるは、げにりし庵室と覺しく、隣家とても有らざれば、げきとして死せるが如き夜陰の靜けさに、振鈴しんれいひゞきさやかに聞ゆるは
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
その刹那せつなに Key-y-y-y と電車のカアブする音が、眉の間を刺しとほす。
そこまで自分の意志をとほすことは出來ないのか? それは實行し得ることではないのか? 出來る! 出來る——もし私にその意志をとほす方法を探し出すだけの敏活びんくわつな頭さへあつたら
其都度、私は左右かにかくと故障を拵へて一緒に遊ぶまいとする。母は憐愍あはれみの色と悲哀かなしみの影を眼一杯に湛へて、当惑気に私共の顔を等分に瞰下みおろすのであつたが、結局矢張私の自由わがままとほつたものである。
刑余の叔父 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
かれかみ餘計よけいうるほひをして悉皆みんなみゝそことほほど呶鳴どなつてせた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ひたおもて君がすぐなる言挙ことあげききいさぎよし心にとほる (加納子爵)
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
かくて浮ぶるわが「宿世すぐせ」、瞳とほれる手弱女たをやめ
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
「今朝ツからどうもこれに酷い目に遇ひつゞけで……おまけに今日は馬車がおそろしく混んで、その中で始めから終ひまでこの通りで、もうさん/″\でござんした。」と云ひながら父親は「仙二郎、おとなしくしねエか。うちぢやねエんだぞ。」と叱つたが少しも父親の威厳はとほらず却つて仙二郎はワツと大声を
鞭撻 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
拔手ぬきても見ずつかとほれと突立れば哀むべし天一は其儘そのまゝ其處へ倒れ伏ぬ天忠は仕遂しすましたりと法衣を脱捨ぬぎすてすそをからげ萬毒ばんどくの木の根をほりて天一が死骸しがい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「お縫ですよ、——此方こつちがお萬よりぐつと綺麗だから變ぢやありませんか、——色白で上品で、とほるやうな娘ですよ」
鶯の如きのどありといふ、美しき外國婦人の夜をとほして護り居たるに、醫者は心を勞し給ふな、本復ほんぷく疑なしといひきとぞといふ。我を伴ひ來し男の云はく。
その我ままのとほらぬ事もあるまじきなれど、らきは養子の身分と桂次はつくづく他人の自由をうらやみて、これからの行く末をも鎖りにつながれたるやうに考へぬ。
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
高朗の気ほねとほり清幽の情肉に浸むあしたの趣こそ比ぶるに物なけれ、今しもあふいで彼の天成の大画たいぐわ双眸さふぼうを放ち、して此の自然の妙詩に隻耳せきじを傾け、をくぐり芝生を辿たど
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
このくらゐのあめは、たけがさおよぶものかと、半纏はんてんばかりの頬被ほゝかぶりで、釣棹つりざをを、いてしよ、とこしにきめた村男むらをとこが、山笹やまざさ七八尾しちはつぴき銀色ぎんいろ岩魚いはなとほしたのを、得意顏したりがほにぶらげつゝ
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あらゆる物の形をとほしてその心を見、その心の上に物の調和を味はふことに馴れてゐる利休の眼は、最初にちらとこの肩衝を見た時から、この茶入の持つ心持がどうも気に入らなかつた。
利休と遠州 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
今年も、もう空に、透きとほった秋の粉が一面散り渡るやうになりました。
種山ヶ原 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
一つゐる葭切のこゑはすがすがし広間とほりて家裏やうらに響けり
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
透影すいかげにして浮びひ映りとほりぬ
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
とほくはゆみ張裂はりさくむね押鎭おししづめ打果さでや置べきかとすそみじかに支度したくを爲し既に一刀たばさんて出行でかけんとする其の折柄をりから後ろのふすま
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
あまりのことに、口をきく者もなく、平次の言葉は、靜かですが、地獄の判官の宣告のやうに、よくとほります。
銭形平次捕物控:260 女臼 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
あれが頭の子でなくばと鳶人足とびにんそくが女房の蔭口かげぐちに聞えぬ、心一ぱいに我がままをとほして身に合はぬはばをも広げしが、表町おもてまちに田中屋の正太郎しようたらうとて歳は我れに三つ劣れど
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
筋骨逞ましき男六人うごかせり。畫にしても見まほしき美少年一人かぢの傍にうづくまりたるが、名を問へばアルフオンソオと答ふ。水は緑いろにしてとほり、硝子ガラスもて張りたる如し。
もつと身体からだふたびくさかないてゞもれば、如何いか畜生ちくしやう業通ごふつうつても、まさかにほねとほしてはくまい、と一心いつしんまもつてれば、ぬま真中まんなかへひら/\ともやす、はあ、へんだわ
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
軍医は切り取つた心の臓を洋盃コツプのなかに入れて、卓子テーブルの上においた。多くの軍人の血と、多くの美人の涙にも、平気で堪へる事の出来た心の臓は、とほつた硝子がらすの底で蛙のやうにふるへてゐた。
貴女あなたの御一身はわたくしが御引き受け致しました、御安心なさい』と仰しやつた御一言が、しんと骨にまでとほりましてネ、有り難いのやら、嬉しいのやら、訳なしに涙がき出るぢやありませんか
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
てんの路ひとすぢとほり遥かなり今飛ぶべきはこの航路のみ
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
直ぐ樣川向うの百姓家へ行つて、やつれ果て乍らも、とほるやうに美しいお夏を救ひ出した時、念のために物置を見ると、何處から盜み溜めたか、菅笠すげがさが十八。
一切いつさい衆生しゆうじやうすてものに、わがまヽらしき境界きやうがいこヽろにはなみだみて、しや廿歳はたちのいたづらぶし、一ねんかたまりてうごかざりけるが、いはをもとほなさけさとしがことにしみそめ
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
み冬づく西湖のすずきよく冷えて釣られたりけりとほ気先きさき
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
入道にふだうみゝつらぬいて、骨髄こつずゐとほことを、一言ひとこと
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
人間が賢こくて、諸藝にも達し、人に物を言はせない女だけに、その淋しさ苦しさは骨身にとほつたことだらう。時々人前で裸體にならうとしたのも、その病氣の一つだ。
過ぎし故郷を出立しゆつたつの当時ないて姉をば送りしこと夢のやうに思はれて、今日この頃の全盛に父母への孝養うらやましく、お職をとほす姉が身の、いのらいの数も知らねば
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
兵士つはものはうやまひあつし竹刀しなひとりお前にとうと聲とほり撃つ
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
たゞ亂暴らんぼう品川しながはへもあしくれどさわぎは其座そのざり、夜中よなかくるまばして車町くるまゝち破落戸ごろがもとをたゝきおこし、それさけかへさかなと、紙入かみいれのそこをはたきて無理むりとほすが道樂だうらくなりけり
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)