路次ろじ)” の例文
電柱でんちゅうに、「ほねつぎもみ療治りょうじ」と看板かんばんのかかっているところから、路次ろじがると、たりに表側おもてがわ西洋造せいようづくりにした医院いいんがあります。
僕はこれからだ (新字新仮名) / 小川未明(著)
千代之助は猟犬の姿を見た野兎のように、きびすを返すと一目散に蜘蛛手の路次ろじに、その馬鹿馬鹿しく派手な姿を隠してしまいました。
百唇の譜 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
出入でいり八百屋やおやの女房が飛んで来て、「大変でござります、唯今こちらさまのお猫さんが横町の犬に追われて向うの路次ろじに逃込みました、」
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
その意味いみで、せま路次ろじおくにあつた、木造もくざうの、あのささやかな洋館やうくわん日本麻雀道にほんマアジヤンだうのためには記念保存物きねんほぞんぶつたる價値かちつてゐるかもれない。
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
そこに立って右手の部屋を覗くと、狭い路次ろじから浅草の仲店なかみせるようなおもむきがある。実際仲店よりも低く小さい部屋であった。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その影が、おはぐろどぶのドンドン橋を左に越えて、九尺二間の軒と軒とがはさみ合っている孔雀長屋くじゃくながや路次ろじへションボリ消える。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二人は、五条油小路を中心として、手わけをして、路次ろじという路次、軒下、物陰などを隅から隅まで探しましたがとうとう見つかりませんでした。
祭の夜 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
細い路次ろじを通つて、うちの前まで來ると、表の戸は一昨日おとゝひ締めて行つたまゝである。何處をほつき𢌞つてゐたのか、宛然まるで夢中で、自分にも明瞭はつきりおぼへがない。
絶望 (旧字旧仮名) / 徳田秋声(著)
そして、歩いているうちに千束町せんぞくちょうの造花屋のことを思いだしたので、仁王門におうもんから入って公園の中を横切り、猿之助横丁えんのすけよこちょうと云われている路次ろじの中へ往った。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
通りに大きな鉄の門があつて、一直線に広い石の路次ろじがある。夜はその片側にが一つともる。路次ろじの上には何階建てかのおもての家があることは云ふ迄もない。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
付て參りし所淺草福井町とやら申町迄いたり其所の路次ろじへ入候は最早もはや丑刻頃やつどきごろとも覺敷おぼしく候に付其夜は外にて夜をあかし翌朝右の駕籠屋へ參り段々相尋あひたづね委細ゐさい事故ことがら
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
私は寝苦しいので蚊帳かやを出た。庭を一巡してさてそれから表へ出やうと、何心なく門を明けると、門から往来へ出る路次ろじ真中まんなかに何物か立つてゐる。月は明るい。
雨夜の怪談 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
あるあきあさのこと、イワン、デミトリチは外套ぐわいたうえりてゝ泥濘ぬかつてゐるみちを、横町よこちやう路次ろじて、町人ちやうにんいへ書付かきつけつてかねりにつたのであるが
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
四五人のスキャップを雇い込んで、××町の交番横に、トラックを待たせておいて、モ一人のうちへ行こうと、まがった路次ろじで、フト、二人の少年工を発見みつけ出したのだ。
(新字新仮名) / 徳永直(著)
勿論もちろん私の姿も目に入るに違いなかったので私はつと横の路次ろじの方へ大急ぎで飛び込んでゆきました。
三角形の恐怖 (新字新仮名) / 海野十三(著)
地上ちじやうなが影法師かげばふし心細こゝろぼそげにんでく、いつしか傘屋かさや路次ろじつておきやうれい窓下まどしたてば、此處こゝをば毎夜まいよおとづれてれたのなれど、明日あすばんはもうおまへこゑかれない
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
幅広の路次ろじがありまして、その裏にすまって居りまするのは上方かみがたの人でござりますが、此の人は長屋中でも狡猾者こうかつもの大慾張だいよくばりと云うくらいの人、此の上方者が家主いえぬしの処へ参りまして
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
就中なかんづく、わざ/\東京とうきやうから出張でばつて親類しんるゐのものは、あるひなぐさめ、あるひはげまし、またいましめなどする種々いろ/\言葉ことばを、立続たてつゞけに嘵舌しやべつたが、あたまからみゝにもれず……暗闇くらやみ路次ろじはいつて
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
興義枕をあげて、二九路次ろじわづらひをかたじけなうすれば、助も蘇生よみがへりことぶきを述ぶ。興義先づ問ひていふ。君こころみに我がいふ事を聞かせ給へ。かの漁父ぎよふ文四に魚をあつらへ給ふ事ありや。
その間は細い路次ろじで、奥深いバラック長家の心。正面のは入口が路次に面していて、(見物には)明りとりの小さな窓のあるはめ板が見えるだけで、下手のよりもやや奥まっている。
或る別れ (新字新仮名) / 北尾亀男(著)
ふと建物が切れて、建物と建物との間の路次ろじの様な所へ来ると、極った様に鉄の非常梯子ばしごあがり口が見えた。そして、その奥の方は薄暗く、何かゴミゴミしたものが積み上げてあった。
その家は芝明舟町あけふねちょう路次ろじの中にあった。左手は上り口で、右手には勝手のあか障子しょうじめてあって、それに油で二重の波形の模様が描いてある。そんな家である。二人はそこで泣き通した。
夜の路次ろじなどで、この猫に出逢うと一種の凄味すごみをさえ感じさせられる。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それから今一つすぐに往来に出られる口が、表口から西に当る路次ろじに附いてゐる。此離座敷なら家族も出入せぬから、奉公人に知られるおそれもない。そこで五郎兵衛は平八郎父子を夜中にそこへ移した。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
江口えぐち川尻かわじりの船の家に老い、さては野上のがみ坂本さかもと路次ろじおおがさを立てて、朗かなる歌の声を東西の旅人に送っていた者は、最初からそういう生活様式を持って、日本へ入って来た人々のすえでもあるように
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ゝゝゝ虫引く路次ろじのゝゝゝゝ 尖子
俳句の作りよう (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
海へか、路次ろじゆみだれて
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
そばまどをあけて上氣じやうきしたかほひやしながらくらいそとをてゐると、一けんばかりの路次ろじへだててすぐとなりうちおなじ二かいまどから
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
宗助そうすけしもんで、この記念きねんおほ横手よこてときかれ細長ほそなが路次ろじ一點いつてんちた。さうしてかれかよはないさむさのなかにはたとまつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
同じ路次ろじへ入ったり出たりしたのちに、やっと人通りの多い賑やかな街路とおりへ出て、やや心を落つけることができた。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
夫よりして友次郎夫婦ふうふ路次ろじ油斷ゆだんなく少しも早く江戸にいた如何いかにもして身の落付おちつきを定めんものと炎暑えんしよの強きをもいとはず夜を日についゆくほど早晩いつしか大井川を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
かれは、せま路次ろじをはいって、つつみについてゆくと、ところどころにガードがあるのでした。かれはどこへいったら、自分じぶん希望きぼういだされるのかとかんがえました。
新しい町 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あるあきあさのこと、イワン、デミトリチは外套がいとうえりてて泥濘ぬかっているみちを、横町よこちょう路次ろじて、町人ちょうにんいえ書付かきつけってかねりにったのであるが
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
わが足下あしもとに転がりたる西瓜すいかの皮をいくたびか見返りつつ行過ぎしのち、とあるぐらき路次ろじの奥より、紙屑籠背負いたる十二、三の小僧が鷹のようなる眼を光らせてでぬ
銀座の朝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この馬琴の硯の水の井戸は飯田町の中坂なかざかの中途、世継稲荷よつぎいなりの筋向いの路次ろじの奥にある。中坂といっても界隈かいわいの人を除いては余り知る者もあるまいが、九段くだんの次の険しい坂である。
ついここから二つ目の通りの最初の路次ろじを曲った右側の家ですよ。私を迎えに来たので、最初私が行ったのは、亡くなられた前の日でしたが、一目見てもう駄目だってことがわかりました。
私はかうして死んだ! (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
……幽暗ほのくら路次ろじ黄昏たそがれいろは、いま其処そことほごとに、我等われら最初さいしよ握手あくしゆの、如何いか幸福かうふくなりしかをかた申候まをしそろ貴女きぢよわすたまはざるべし、其時そのとき我等われら秘密ひみつてらせるたゞ一つの軒燈けんとうひかりを……
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
……晝間ひるま出掛でかけられますか。つて路次ろじて、觀世音くわんぜおん參詣さんけいした。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
路次ろじの隅、竿さをかけわたし
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
宗助が霜を踏んで、この記念の多い横手へ出た時、彼の眼は細長い路次ろじの一点に落ちた。そうして彼は日の通わない寒さの中にはたと留まった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あるひと牛女うしおんなまちくら路次ろじって、さめざめといているのをたといいます。しかしそののち、だれひとり、また牛女うしおんな姿すがたたものがありません。
牛女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
感じあつ禮物れいもつおくりて夫より路次ろじいそぐ程に日成ずして岡山にちやくせしかば即日そくじつ太守たいしゆへ目見申付られ花事はなことは一旦出家の望み有由にて出國致せし處兄喜内が凶變きようへんを聞心を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
女は狭い路次ろじを入った。哲郎は暗い処で転ばないようにと脚下あしもとに注意しいしい往った。左の方はトタンべいになって、右側に二階建の長屋らしい家の入口が二つ三つ見えた。
青い紐 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
行親 天下やうやく定まりしとは申せども、平家の殘黨ほろびつくさず。且は函根より西の山路やまぢに、盜賊ども徘徊する由きこえましたれば、路次ろじの用心として斯樣にいかめしう扮裝いでたち申した。
修禅寺物語 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
道太は路次ろじの前に立って、さびのついた庭を眺めていた。この町でも別にいいというほどの庭ではなかったけれど、かわいた頭脳あたまには、じじむさいような木石の布置たたずまいが、ことに懐かしくうつるのであった。
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
十年振りで始めて君等に逢ったんで何だか窮屈な路次ろじから広い野原へ出たような気持がする。どうも我々仲間の談話は少しも油断がならなくてね。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
幸吉こうきちが、けると、黒犬くろいぬは、弾丸だんがんのようにして、叔父おじさんが、仕事しごとをしている店先みせさきのブリキいた蹴散けちらして、路次ろじけてはらっぱのほうげていったのです。
花の咲く前 (新字新仮名) / 小川未明(著)
と、むこうの方から五六人の会社員らしい洋服を着た一群が来て擦れ違ったが、その後から茶の立縞たてじまになったおめしのような華美はでな羽織を着た女が来て、すぐ右側の路次ろじへ入ろうとした。
妖影 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
隣へ通う路次ろじを境に植え付けたる四五本のひのきに雲を呼んで、今やんだ五月雨さみだれがまたふり出す。丸顔の人はいつか布団ふとんを捨ててえんより両足をぶら下げている。
一夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
きよは、電車でんしゃりてから、ちいさないえのごちゃごちゃとたてこんだ、路次ろじはいっていきました。すると、くずさんのいえはじきわかったが、おもてまっていました。
雪の降った日 (新字新仮名) / 小川未明(著)