だれ)” の例文
だれだろう。誰か知っている人だったか。二、三度視線を新聞と往復させ、ふいに彼ののどに叫びのようなものがのぼってきた。頼子だ。
十三年 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
その時君達のだれも彼もが、ちやうど教室で算術や読み方の問題を、きかれたときのやうに、一斉いつせいに手を上げられることを望んでゐる。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
老僕が何やらぼそぼそ言うと、——「ええ?……だれか来たって?」と、き返して、「となりのぼっちゃんかい? じゃ、お通しおし」
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
笠森かさもりのおせんだと、だれいうとなくくちからみみつたわって白壁町しろかべちょうまでくうちにゃァ、この駕籠かごむねぱなにゃ、人垣ひとがき出来できやすぜ。のうたけ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
わたしゑりかぶつてみゝふさいだ! だれ無事ぶじだ、とらせてても、くまい、とねたやうに……勿論もちろんなんともつてはません。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
おれが組と組の間にはいって行くと、天麩羅てんぷらだの、団子だんごだの、と云う声が絶えずする。しかも大勢だから、だれが云うのだか分らない。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
だれおれ真似まねをするのは。とつて腹を立て、其男そのをとこ引摺ひきずり出してなぐつたところが、昨日きのふ自分のれて歩いた車夫しやふでございました。
年始まはり (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
(青金でだれもうし上げたのはうちのことですが、何分なにぶんきたないし、いろいろ失礼しつれいばかりあるので。)(いいえ、何もいらないので。)
泉ある家 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
病院の玄関の傍に投げ出されたこほろぎは冷えた石に身体からだの熱をとられてたうたう死んでしまひました。だれも来ては呉れませんでした。
こほろぎの死 (新字旧仮名) / 村山籌子(著)
もし一本の手か足かゞ離れたなら、たちまちドスーンと落ちるにきまつてゐると思ふと、だれも何も言つてはゐられなかつたのです。
かぶと虫 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
「あゝ、やつぱりお父様が、だれかにいひつけて、燈火あかりをおつけさせになつたんだわ。ジウラさんも、きつと、あすこにゐるでせう」
ラマ塔の秘密 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
始終眼鏡をかけている人が外すと、だれでもちょっと妙な顔になるものだが、夫の顔は急に白ッちゃけた、死人の顔のように見えた。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
けれどももとより、舞台ぶたいにはなんの仕掛しかけもありませんし、さるは人形の中にじっとかがんでいますので、だれにも気づかれませんでした。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
若い仲間の一人がこの役を引き受けて、この夏以来毎日低温室の片隅で、横でだれか人工雪を作るのを片っ端から引受けては切っている。
雪雑記 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
自分じぶん同年齡おないどし自分じぶんつてる子供こどものこらずかたぱしからかんがはじめました、しも自分じぶん其中そのかなだれかとへられたのではないかとおもつて。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
る年の冬、その老医師の自宅が留守中に火事を起したことや、しかし村の者はだれ一人それを消し止めようとはしなかったことや
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
その輕氣球けいきゝゆう飛揚ひやうして、だれか一二めい印度インドのコロンボ其他そのた大陸地方たいりくちほう都邑とゆうたつし、其處そこで、電光艇でんくわうていえうする十二しゆ藥液やくえき買整かひとゝの
「浜にだれかおったか?」と父親に尋ねられて、いよいよ話が別の方へそれて行くのをもどかしいように情ないように感じました。
少年と海 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
だれも(パリスカス自身も)、今までパリスカスが埃及の歴史に通じているとも、埃及文字が読めるとも、聞いたことがなかったのである。
木乃伊 (新字新仮名) / 中島敦(著)
代金だいきんだれがきめたものか、いづこも宿賃やどちん二三百円びやくゑんのぞいて、をんな収入しうにふきやく一人ひとりにつき普通ふつうは三百円びやくゑんから五百円ひやくゑん、一ぱく千円せんゑん以上いじやうだとふ。
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
このはなしおまえさえ知らないのだものだれが知っていよう、ただ太郎坊ばかりが、太郎坊の伝言ことづてをした時分のおれをよく知っているものだった。
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そのときだれしのあしに、おれのそばたものがある。おれはそちらをようとした。が、おれのまはりには、何時いつ薄闇うすやみちこめてゐる。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
船室に置いておいたら、いつの間にかだれか食ってしまい、ぼくには、そんなむなしいおくり物をする、だぼはぜ嬢さんがあわれだった。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
なみだをじくじくこぼし、「だれがかえってやるもンか、田舎いなかへ帰っても飯が満足に食えんのに……今に見い」私は母の手紙の中の
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
だれ戦争せんそうまうけ、だれなんうらみもない俺達おれたちころひをさせるか、だれして俺達おれたちのためにたたかひ、なに俺達おれたち解放かいほうするかを
だれもお礼をいうのをわすれるほどそれにれきっていた。彼のほうでは、贈物おくりものをすることがうれしくて、それだけでもう満足まんぞくしてるらしかった。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
そのうち不図ふとだれかに自分じぶんばれたようにかんじてひらきましたが、四辺あたり見渡みわたすかぎり真暗闇まっくらやみなになにやらさっぱりわからないのでした。
「そんなに心配しんぱいしないでもいいんですよ。わたしいようにしてあげるから——だれでもあることなんだから——今日きょう学校がっこうをおやすみなさいね。」
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
『ほんとに、さうでしたねえ』とだれ合槌あひづちうつれた、とおもふと大違おほちがひ眞中まんなか義母おつかさんいましもしたむい蒲鉾かまぼこいでらるゝところであつた。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
滑稽こつけいなのは、日本にほん麻雀道マージヤンだうのメツカのしようある鎌倉かまくらではだれでもおくさんが懷姙くわいにんすると、その檀那樣だんなさまがきつと大當おほあたりをするとふ。
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
かえって、無能者のしるしかも知れぬ。ああ、だれかはっきり、僕を規定してくれまいか。馬鹿か利巧か、うそつきか。天使か、悪魔か、俗物か。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
けさもまづしい病詩人びやうしじんがほれぼれとそれをきいてゐました。ほかのものの跫音あしをとがすると、ぴつたりむので、だれもそれをいたものはありません。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
ジョージ一世御感のあまり、近くに伺候するキルマンセッグ男爵だんしゃくを呼んで、「あれはだれが作り、誰が指揮しているのじゃ」
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
だれ自分じぶんところたのではいか、自分じぶんたづねてゐるのではいかとおもつて、かほにはふべからざる不安ふあんいろあらはれる。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
だれがあんな自我の無い手合いと一しょになるものか、自分にはあんな中途半端ちゅうとはんぱな交際振りは出来ない。征服せいふく征服かだ。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
乳呑み児の妹をどうやしなったかはだれも知らないが、赤児は丈夫そうに育っていた。——お繁はどこにいるかわからない。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
だれも私ほど坊ちゃんを知ってる者はありませんよ。私ゃね、これで坊ちゃんに大変御贔屓ごひいきになってるんでさあ。どりゃひとつ夜明よあけうたを歌おう」
(新字新仮名) / 竹久夢二(著)
しやくにさわるけれど、だれ仲間なかまさそつてやらう。仲間なかまぶなららくなもんだ、なに饒舌しやべつてるうちにはくだらうし。』
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
徒勞むだだよおめえ、だれがいふことだつて苦勞くらうはねえんだから」ばあさんたがひ勝手かつてなことをがや/\とかたつゞけた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「マリちゃん!」とおかあさんがった。「おまえなんでそんなことをしたの! まア、いいから、だまって、だれにもれないようにしておいでなさいよ。 ...
その母の眼にうつったお菊の顔は、細おもてのやや寂しいのをきずにして、色のすぐれて白い、まゆの優しい、だれが見ても卑しくない美しい女であった。
番町皿屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
食糧かしげだれの与ふらん、ボウダの国のひとやには、日々に一度の食事さへ、片手にぎりの焼麦粉こがしより、得られぬためし受けむにはうゑこごえに果てやせん
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
彼女はだれも知らない夜歩きが、こういう遠くの一つ家から見まもられていることに、はにかみと不思議さとを感じた。
玉章 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
その日は、陸軍の大演習で朝から晩まで飛行機が、とんぼのように空を飛びまわっていましたので、だれでもお家にじっとしていられないような日でした。
やんちゃオートバイ (新字新仮名) / 木内高音(著)
なよたけ 飛んで行け! 飛んで行け! 微風そよかぜに乗って飛んで行け!……だれも知らないしあわせな所へ飛んで行って、綺麗なお花を一杯咲かせておくれ!
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
しばらくはだれも物を言わない。日暮里にっぽりの停車を過ぎた頃、始めて物を言い出したのは、くろうとらしい女連おんなづれであった。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
とつぜんでへんですが、ぼくは女房をさがしてるんですが(といってもまだだれにもいったことはないんですが)
妻の座 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
だれでも實際じつさいあたつて一々いち/\營養えいやう如何いかん吟味ぎんみしてものはない、だい一にあぢ目的もくてきとしてふのである。
建築の本義 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
「善さんもお客だッて。だれがお客でないと言ッたんだよ。当然あたりまえなことをお言いでない」と、吉里は障子を開けて室内うちに入ッて、後をぴッしゃり手荒く閉めた。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
だれがなんといっても、ジャンセエニュ先生せんせい学校がっこうは、世界中せかいじゅうにある女の子の学校がっこうのうちで一番いい学校がっこうです。
母の話 (新字新仮名) / アナトール・フランス(著)