おそろ)” の例文
あなたは母様のひざに抱っこされて居た。そとではこがらしおそろしくえ狂うので、地上のありとあらゆる草も木も悲しげに泣き叫んでいる。
少年・春 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
それというのが、時節柄じせつがら暑さのため、おそろしい悪い病が流行はやって、先に通った辻などという村は、から一面に石灰いしばいだらけじゃあるまいか。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
王子はうでんで、いわの上にすわりました。いつまでもじっと我慢がまんしていました。しかし、そのうちに、だんだんおそろしくなってきました。
強い賢い王様の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
たちまち、なにおそろしいことでもきふおもしたかのやうに、かれかしらかゝへるなり、院長ゐんちやうはうへくるりとけて、寐臺ねだいうへよこになつた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
云べき詞もなく名利みやうりの程もおそろしと兩人涙にくれて居たりしに武藏屋長兵衞は委細ゐさい引受ひきうけて世話をなさんといふ彌々いよ/\打喜び我々夫婦の命を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
私達が着くと間もなく、扉船とせんの上部海水注入孔のバルブが開いて、真ッ白に泡立った海水が、おそろしいうなりを立てて船渠ドックの中へ迸出ほんしゅつし始めた。
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
おそろしい都、悲しい都、早熟な人間の居る南洋の何やらじまの子も五つ六つでうなのであらうかと、私は青ざめて立つて居ました。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ボルシッパなる明智の神ナブウの召使めしつかいたもう文字の精霊共のおそろしい力を、イシュディ・ナブよ、君はまだ知らぬとみえるな。
文字禍 (新字新仮名) / 中島敦(著)
恋人の住む町と思へば、の名をいたづら路傍ろばうの他人にもらすのが、心の秘密を探られるやうで、たゞわけもなくおそろしくてならない。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「だれでも、その当座とうざは、戦争せんそうわるいこと、おそろろしいことをにしみてかんじますが、それを、じきわすれてしまうのです。」
夢のような昼と晩 (新字新仮名) / 小川未明(著)
外村へ使つかいなどにゆく犬の奴が意地悪く森のかげなどからいつでも出てくるもうそれがおそろしくてたまらなかった、十五、六歳の頃までも犬を恐れました
竹乃里人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
十四日の一時四十分にとうとうさしものおそろしいマッターホルンの頂上、天にもとどくような頂上へ登り得ておおいに喜んで、それから下山にかかりました。
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そのむすめのお母さんは、すこし眼に険のある美人でしたが、おそろしく早口で捲舌まきじたしゃべるので、なにを言うやら、さっぱりわからず、いつもぼくは面喰めんくらいました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
やがてはいってたのは、これもおそろしいかおをしたおにでした。そしてもうはいってるなりはなをくんくんやりながら
人馬 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
もし反動がおそろしいの、騒動が大きくなるのと姑息こそくな事を云った日にはこの弊風へいふうはいつ矯正きょうせい出来るか知れません。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それらの人は別におそろしいとは思わない。広く解し深く解し、鋭意それによって新しい境地をひらいてゆく人には、なんだか恐しいような尊敬の念が起るのである。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
とバネじかけのように椅子から飛び上ったのは大江山おおえやま捜査課長だった。それほど驚いたのも無理ではなかった。岩というのは、不死身ふじみといわれるおそろしい強盗紳士だ。
地中魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
年々としどしの若葉ともいふ可きあらたの月日、またない月日、待受けぬ月日、意外の月日、すきになる月日、おそろしい月日は歸つて來ても、過ぎた昔のしたしみのある、願はしい
落葉 (旧字旧仮名) / レミ・ドゥ・グルモン(著)
それから、——どうです、よくふものは、おそろしいではありませんか? それから半時はんときもたたないうちに、あの夫婦ふうふはわたしと一しよに、山路やまぢうまけてゐたのです。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
伴「旦那え/\大層うなされていますね、おそろしい声をしてびっくりしました、風邪を引くといけませんよ」
おそろしき一夜いちやつひけた。ひがしそらしらんでて、融々うらゝかなる朝日あさひひかり水平線すいへいせん彼方かなたから、我等われらうへてらしてるのは昨日きのふかはらぬが、かはてたのは二人ふたり境遇みのうへである。
「フランシス」「若い騎士」などとその肩までゆすって呼びかけても、フランシスはおそろしげな夢からさめる様子はなかった。青年たちはそのていたらくにまたどっと高笑いをした。
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
人もさはよか※なりとじて、掻いくくみて臥しぬる後、いと寒き折などに、唯単衣ひとえぎぬばかりにて、生憎あやにくがりて……思ひ臥したるに、奥にも外にも、物うち鳴りなどしておそろしければ
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
化物的神佛ばけものてきしんぶつ實例じつれいは、印度いんど支那しな埃及方面えじぷとはうめんきはめておほい。釋迦しやかすでにおけである。卅二さう其儘そのまゝあらはしたらおそろしい化物ばけもの出來できるにちがひない。印度教いんどけうのシヴアも隨分ずゐぶんおそろしいかみである。
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
文字もんじはやがて耳のわきおそろしき声もてさゝやくぞかし。
軒もる月 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
おしはかるだに、そのさがおそろしときく荒神あらがみ
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
たちまち、なにおそろしいことでもきゅうおもしたかのように、かれかしらかかえるなり、院長いんちょうほうへくるりとけて、寐台ねだいうえよこになった。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
なくなつた一葉女史いちえふぢよしが、たけくらべといふほんに、狂氣街道きちがひかいだうといつたのはこれからさきださうだ、うつかりするな、おそろしいよ、とかた北八きたはち警戒けいかいす。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それのみならず今日けふまたおよそ世の中でなによりもきらひななによりもおそろしい機械体操のある事を思ひ出したからである。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
僞るはおそろしいゆゑ正直に申上ます必らずうらんで下さるなと云ふに久兵衞最早もはや仕方しかたなしとは思へ共猶強情をはつて居るを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
この学校がいけなければすぐどっかへ覚悟かくごでいたから、たぬきも赤シャツも、ちっともおそろしくはなかった。まして教場の小僧こぞう共なんかには愛嬌あいきょうもお世辞も使う気になれなかった。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ほら、きた!」と、みんなはおそろしさ半分はんぶん、おもしろさ半分はんぶんに、おどりあがりました。
つじうら売りのおばあさん (新字新仮名) / 小川未明(著)
小説を自分で作ることをしないがために小説をおそろしいものと思っておる、また、和歌を作らないために和歌を恐しいものと思って居る、絵画を自ら描かないために絵画を恐しいものと思って居る
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
こうした幸福の持続が、あんまりおそろしく、身体をひるがえし、バック台の方へげて行き、こっとん、こっとん、微笑びしょうのうちに、二三回ひいてから、また、手摺まで走って行ってはあなたに手をあげ
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
そしておどろくべき熟練をもって、胸の肉、臀部でんぶの肉、脚の肉、腕の肉と截り分け、運搬車に載せると、ライオンだの虎だの檻の前へ直行して、園長の肉を投げ込んでやる。……いや、おそろしいことである。
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
がたおそろしさはいなづまごとこころうちひらめわたって、二十有余年ゆうよねんあいだ、どうして自分じぶんはこれをらざりしか、らんとはせざりしか。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
やあきたねどぶだ。おそろしい石灰いしばひだ。ひどみちだ。三階さんがいがあるぜ、浴衣ゆかたばかしの土用干どようぼしか、夜具やぐうら眞赤まつかな、なん棧橋さんばし突立つツたつてら。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
耳元みゝもと近くからおそろしいきいろい声が、「かはるよ———ウ」とさけび出した。見物人が出口のはうへとなだれを打つてりかける。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
足早あしばやに立去しはおそろしくもまたたくみなるくはだてなり稍五ツ時頃に獵師れふしの傳九郎といふが見付みつけ取散せし笈摺おひずる并に菅笠すげがさ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
船頭はゆっくりゆっくりいでいるが熟練はおそろしいもので、見返みかえると、浜が小さく見えるくらいもう出ている。高柏寺こうはくじの五重のとうが森の上へけ出して針のようにとんがってる。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
アンは、なにを思いだしたか、おそろしそうに、体をすくめた。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
がたおそろしさはいなづまごとこゝろうちひらめわたつて、二十有餘年いうよねんあひだ奈何どうして自分じぶんこれらざりしか、らんとはざりしか。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
たゞ金石間近かないはまぢかになつたとき甲板かんぱんはうなにらんおそろしいおとがして、みんなが、きやツ!とさけんだときばかり、すこ顏色かほいろへたぢや。
旅僧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
自分は星斗せいとにぎはしき空をば遠く仰ぎながら、心のうちには今日よりして四十幾日、長い/\船路ふなぢの果によこたはるおそろしい島嶼しまの事を思浮おもひうかべた。自分はどうしてむざ/\巴里パリーを去ることが出来たのであらう。
黄昏の地中海 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
14 おそろしい日
火星兵団 (新字新仮名) / 海野十三(著)
おそろしく鐵拐てつか怒鳴どなつて、フトわたし向合むきあつて、……かほて……雙方さうはう莞爾につこりした。同好どうかうよ、と前方さきおもへば、知己ちきなるかな、とひたかつた。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
なんとかおもふだらうとおそろしいやうなもして、つたり、たり、またつたり、あるいたり、やうやく半時間はんじかん、一時間計じかんばかりすわつてゐてたが、かなしいほど退屈たいくつになつて
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
おそろしき椿事ちんじ
鬼仏洞事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
原口はらぐちたき、いはれあり、さんぬる八日やうか大雨たいう暗夜あんや、十ぎて春鴻子しゆんこうしきたる、くるまよりづるに、かほいろいたましくひたりて、みちなる大瀧おほたきおそろしかりきと。
逗子だより (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
なんとかおもうだろうとおそろしいようなもして、ったり、いたり、またったり、あるいたり、ようやく半時間はんじかん、一時間じかんばかりもすわっていてたが、かなしいほど退屈たいくつになって
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)