とみ)” の例文
男は、神さまがとみと貧乏とを、大きな目でごらんになって、うまく分配なさるのがわからないものですから、こんな口をきいたのです。
商売運の目出たい笑名は女運にも果報があって、おいようやきたらんとするころとうとう一のとみを突き当てて妙齢の美人を妻とした。
彼に私淑ししゅくする者は、彼のをもって北方の衆に敵し得たとか、南軍のひんをもって北軍のとみに当たった、ぼう戦場においては某将軍を破った
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
その足で彼女は隣家の伏見屋まで頼みに行って、父の気に入りそうな紙の類を分けてもらうことにした。伏見屋には未亡人みぼうじんのおとみがある。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ほんとに藝術をまもるものと大衆との握手あくしゆとみで買ふ人たちだけが不自由する——そんな劇場の一ツや二ツあつてもよい筈だ。ぜひ持ちたい。
むぐらの吐息 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
パチンコとか、とみくじとか、みんな、ばくちみたいなものだからな。わるいことというものは、だれでも、おもしろがって、まねするもんだ。
雲のわくころ (新字新仮名) / 小川未明(著)
洗い髪同様の髪を玄冶店げんやだなのおとみ式にうしろに投げ卸して、その先を三つ組にして輪飾りの七五三のようにしているのがある。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
あゝ未知のとみ肥沃ひよく財寶たからよ、エジディオ沓をぎ、シルヴェストロ沓をぬぎて共に新郎はなむこに從へり、新婦はなよめいたく心にかなひたるによる 八二—八四
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
それはりっぱなきぬ産着うぶぎ想像そうぞうしたところと、目の前の事実とはこのとおりちがっていた。でもそれがなんだ。愛情あいじょうとみよりもはるかにたっとい。
尾州名古屋のとみの小路に御槍組頭くみがしらで七百石をおとり遊ばしていた相良勘解由様さがらかげゆさまを御主人としてつかえていた仲間ちゅうげんの九兵衛です
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「うん、何時いつ迄もさう云ふ世界に住んでゐられゝば結構さ」と云つた。其おもい言葉のあしが、とみに対する一種の呪咀をつてゐる様にきこえた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「新吉原江戸町二丁目丁字屋半藏抱遊女ふみ事丁山 とみ事小夜衣 其方共主人へ右之通り申渡しおき候間心得こゝろえとして聞置きけおく
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「おとみの貞操」と云ふ小説を書いた時、お富は某氏夫人ではないかと尋ねられた人が三人ある。又あの小説の中に村上新三郎むらかみしんざぶらうと云ふ乞食こじきが出て来る。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ある日、神田の仕立屋でカゲとみの箱をしている奴がきた。ちょうど今日は富の日だというので、それから大勢の人を集めて寄加持よりかじをすることになった。
安吾史譚:05 勝夢酔 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
と、書きおとしたが、その漆の花が目にるまでに、石床いしどこの大きなでこでこの岩、おとみ与曾松よそまつの岩というのがあった。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
たりて徳足るとは真理にはあらざるべけれども確実なる経験なり、奢侈しゃしはもちろん不徳なり、我とみたればとておごらざるべし、しかれども滋養ある食物
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
あんまり賑やかで、かえってきまりが悪いと思いながら米友は、その人混みの中へずんずんと入って行くと、その日にこの庭で「とみ」があったものです。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
植物の研究が進むと、ために人間社会を幸福にみちびき人生を厚くする。植物を資源とする工業の勃興ぼっこうは国のとみやし、したがって国民の生活をゆたかにする。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
「何だ失敬な、社会のとみを盗んで一人の腹をやすのだ、の煉瓦の壁の色は、貧民の血を以て塗つたのだ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
或人は五百いおに説いて、東京両国の中村楼を買わせようとした。今千両の金を投じて買って置いたなら、他日鉅万きょまんとみを致すことが出来ようといったのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
權藏ごんざうとみいま一郡第一いちぐんだいゝちとなり、かれつて色々いろ/\公共事業こうきやうじげふおこなはれてるのです。けれど諸君しよくんかれあつたらおそらく意外いぐわいおもはるゝだらうとおもひます。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
そしてそれが朽敗きうはいまたは燒失せうしつすれば、またたゞちにこれを再造さいざうした。が、れどもきぬ自然しぜんとみは、つひ國民こくみんをし、木材以外もくざいいぐわい材料ざいれうもちふるの機會きくわいざらしめた。
日本建築の発達と地震 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
もく辭退じたいすな/\、にはかとみつくらずとも、なんぢこゝろにてしとおもふやうにさへいたせばし」とるところをかたしんじてひとうたがたまはぬは、きみ賢明けんめいなる所以ゆゑんなるべし。
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
全市ぜんしとみへても、我家わがや危害きがいくはへたうない。ぢゃによって、堪忍かんにんしてふりをしてゐやれ。
管仲くわんちうとみ公室こうしつ(三二)し、(三三)反坫はんてんあり。(三四)齊人せいひともつおごるとさず。管仲くわんちうしゆつす。(三五)齊國せいこく其政そのまつりごとしたがつて、つね諸矦しよこうつよかりき。のち餘年よねんにして晏子あんしあり。
うたの中にある「斑鳩いかるが」だの、「とみ小川おがわ」だのというのは、いずれも太子たいしのおまいになっていた大和やまとくに奈良ならちかところで、そのとみ小川おがわながれのえてしまうことはあろうとも
夢殿 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
その時であった! わが日本帝国のとみが世界列強と互角するようになったのは!
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
女形おやまといえば、中村なかむらとみろうをはじめ、芳沢よしざわあやめにしろ、中村なかむら喜代きよろうにしろ、または中村粂太郎なかむらくめたろうにしろ、中村松江なかむらしょうこうにしろ、十にんいれば十にんがいずれもそろって上方下かみがたくだりの人達ひとたちであるなか
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
伊太利イタリーくに子ープルスかうで、はからずもむかし學友がくいういま海外かいぐわい貿易商會ぼうえきしやうくわい主人しゆじんとして、巨萬きよまんとみかさねて濱島武文はまじまたけぶみ邂逅めぐりあひ、其處そこで、かれつまなる春枝夫人はるえふじんその愛兒あいじ日出雄少年ひでをせうねんとに對面たいめんなし
ひとり青木氏の如きは、天性慈善の心にとみたるにや、別に学識ありとも見えざりしにかかわらず、かかる悲惨の境涯を見るに忍びずして、常に早くこの職を退しりぞきたしと語りたりしが妾の出獄後
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
大野おおのまちからくるまをひいて油売あぶらうり、半田はんだまちから大野おおのまちとお飛脚屋ひきゃくやむらから半田はんだまちへでかけてゆく羅宇屋らうやとみさん、そのほか沢山たくさん荷馬車曳にばしゃひき、牛車曳ぎゅうしゃひき、人力曳じんりきひき、遍路へんろさん、乞食こじき
牛をつないだ椿の木 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
たった一人年寄子としよりごでおとみと云う娘がございましたがごく別嬪べっぴんでございます、年は十八に相成りますが、誠に世間でも評判のい娘で、少し赤ら顔のたちだが、二重瞼ふたえまぶたで鼻筋の通った、口元の可愛らしい
「お前は、増屋ますやの養子徳之助とくのすけ、——こっちはおとみというんだってね」
貧しさと、王侯のとみとを得たと感ずるでしょう。
くもたるとみなにせんあはれ
命の鍛錬 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
きらめくとみのうた
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
陛下へいかは、このくにも、とみも、幸福こうふくも、おようではございませんのですか。」と、最後さいごに、魔法使まほうつかいはおうさまにうかがいました。
北海の白鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「おとみさん(子供らの母さん)もずいぶん人がいい、あんなことを書かれて、黙っている細君があるものか。」
分配 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
千三屋せんみつやが、骨董こっとうの仲買から御祈祷師、こんどはとみの当り屋とまで手を延ばしたが、相当成功するところが妙だ。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
だからとみが三千代に対する責任の一つと考へたのみで、それよりほかに明らかな観念は丸で持つてゐなかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
申入るゝ者多かりしが今度このたび同宿どうしゆく杉戸屋すぎとやとみ右衞門が媒人なかうどにて關宿せきやどざい坂戸村さかとむらの名主是も分限ぶんげんの聞えある柏木庄左衞門かしはぎしやうざゑもんせがれ庄之助に配偶めあはせんとてすで約束やくそくとゝの双方さうはう結納ゆひなふ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
兩國といへばにぎわしきところと聞ゆれどこゝ二洲橋畔けうはんのやゝ上手かみて御藏みくら橋近く、一代のとみひろき庭廣き家々もみちこほるゝ富人ふうじんの構えと、昔のおもかげ殘る武家の邸つゞきとの片側町かたかはまち
うづみ火 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
洛陽伽藍記らくやうがらんきふ。帝業ていげふくるや、四海しかいこゝに靜謐せいひつにして、王侯わうこう公主こうしゆ外戚ぐわいせきとみすで山河さんがつくしてたがひ華奢くわしや驕榮けうえいあらそひ、ゑんをさたくつくる。豐室ほうしつ洞門どうもん連房れんばう飛閣ひかく
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
富は神聖なり故に神聖なる人のみこれを使用し得るなり、我貧して「人不惟以餅生ひとはただべいをもっていきず」を知れり、もしとみ我に来るあれば我は富を以て得る能わざる宝を得んためにこれを使用すべし
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
しかるに常識的に考えるときは、そんな根本的の思想は到底行わるべくもない。また不正なる方法によってとみす者ありとしても、不正と富とは必ずしも連帯れんたいするものではない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ここは二条とみノ小路の旧皇居より一ばいまたお手狭である。正成が南庭なんてい寝殿しんでんをそこに仰いだとき、はや後醍醐は彼をみそなわして、この日特に、御簾みすを高くあげさせておいでになった。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私たちには、決して、船主になったり船長になって、とみや、権利を、得ようという考えなんぞはないのです。私たちは、普通の労働者として、普通の人間としての、生活を要求するのです。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
いま數年すうねんむかしきみ御記臆ごきをくですか、滊船きせん甲板かんぱんで、わたくし奇妙きめうなるぎんじ、また、歐洲をうしう列國れつこく海軍力かいぐんりよく増加ぞうかと、我國わがくに現况げんけうとを比較ひかくして、とみより、機械學きかいがく進歩上しんぽじやうより、我國わがくに今日こんにちごと
此二人の少女は共に東京電話交換局とうきょうでんわこうくわんきょくの交換手であって、主人の少女は江藤えとうひでという、客の少女は田川たがわとみといい、交換手としては両人ふたりとも老練の方であるがお秀は局を勤めるようになった以来
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
そうしてかの女もわたしをしんじきって、あたかもむちをふるって馬を追うような身ぶりをした。かの女もまたわたしと同様に、わたしのとみとわたしの馬や馬車を目にうかべることができるのであった。