富士ふじ)” の例文
富士ふじ川の名物、筏舟いかだぶねさおさして、鰍沢かじかざわからくだる筏乗いかだのりのふうをよそおい、矢のように東海へさして逃げたふたりのあやしい男がある。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いままどの右手にえぞ富士ふじが見える。火山だ。頭がひらたい。いた枕木まくらぎでこさえた小さな家がある。熊笹くまざさしげっている。植民地しょくみんちだ。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
諸君しよくんかずや、むかし彌次郎やじらう喜多八きたはちが、さもしいたびに、いまくひし蕎麥そば富士ふじほど山盛やまもりにすこしこゝろ浮島うきしまがはら。やまもりに大根だいこんおろし。
九九九会小記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
古来作る所の雑の句極めてすくなきが中に、過半は富士ふじを詠じたる者なり。しかしてその吟誦すべき者、また富士の句なり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
あの廣々ひろ/″\とした富士ふじ裾野すそのには、普通ふつう登山期とざんきよりもすこおくれてはち九月くがつころには、ことうつくしい秋草あきくさがたくさんきます。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
さうして養蠶やうさんせはしい四ぐわつすゑか五ぐわつはじめまでに、それを悉皆すつかりかねへて、また富士ふじ北影きたかげ燒石やけいしばかりころがつてゐる小村こむらかへつてくのださうである。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
このやま琵琶湖びはことも一夜いちやにして出來できたなどといふのは、科學かがくらなかつたひとのこじつけであらうが、富士ふじわか火山かざんであることには間違まちがひはない。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
おまへもならば、将軍様せうぐんさま御手おてにとまつて、むかしは、富士ふじ巻狩まきがりなぞしたものだが、いまぢやふくろう一所いつしよにこんなところへか※んでるのはつらいだろうの。
学問がくもん智識ちしき富士ふじやまほどツても麺包屋ぱんやには唖銭びた一文いちもん価値ねうちもなければ取ツけヱべヱは中々なか/\もつてのほかなり。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
養家やうか大藤村おほふぢむら中萩原なかはぎはらとて、わたすかぎりは天目山てんもくざん大菩薩峠だいぼさつたうげ山〻やま/\峰〻みね/\かきをつくりて、西南せいなんにそびゆる白妙しろたへ富士ふじは、をしみておもかげをめさねども
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
役者やくしゃくにはな』(出板年次不詳)『絵本舞台扇えほんぶたいおうぎ』(明和七年板色摺三冊)その続編(安永七年板色摺二冊)ならびに『役者やくしゃなつ富士ふじ』(安永九年板墨摺一冊)等なり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「今日は、日本晴れですから、国府津こうづの叔母さんのお家からは、富士ふじさんがとてもよく見られますよ」
香水紳士 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
明治三十六年日蔭町で七円で買った白っぽい綿セルの背広せびろで、北海道にも此れで行き、富士ふじで死にかけた時も此れで上り、パレスチナから露西亜ろしあへも此れで往って
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
未明に鉄舟寺を辞すると、まず竜華寺りゅうげじの日の出の富士ふじあおぎ、三保みほ松原まつばらで海気を吸い、清水駅から汽車で御殿場ごてんばに出て、富士の裾野すそのを山中湖畔こはんまでバスを走らせた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
よつ三升みます目印めじるし門前もんぜんいちすにぞ、のどづゝ往来わうらいかまびすしく、笑ふこゑ富士ふじ筑波つくばにひゞく。
落語の濫觴 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
西は甲武信岳こぶしだけから富士ふじ箱根はこね伊豆いずの連山の上にかかった雲を一つ一つ指摘する事ができた。
春六題 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
あまはら富士ふじ柴山しばやまくれときゆつりなばはずかもあらむ 〔巻十四・三三五五〕 東歌
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
「おい、清、『最上』がすんだら、こんどは航空母艦『翔鶴しょうかく』と潜水艦『富士ふじ』だぞ。この二隻が出来上ったら、米国海軍はお気の毒だが、もう日本に喧嘩けんかを売らない方がいいね。」
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
おはもじながらここもとは、そもじおもうてくびッたけ、からすかぬはあれど、そもじつかれぬ。雪駄せったちゃらちゃら横眼よこめれば、いたさくら芙蓉ふようはなか、さても見事みごと富士ふじびたえ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
くに兄姫えびめたけすがた、富士ふじこそへれ
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
一 真白ましろ富士ふじ みどりしま
七里ヶ浜の哀歌 (新字新仮名) / 三角錫子(著)
梵天宮ぼんてんきういたたまひし富士ふじみね
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
富士ふじ白雪しらゆきかんむり
全都覚醒賦 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
恵林寺えりんじほのおのなかからのがれたときいて、とおくは、飛騨ひだ信濃しなのの山中から、この富士ふじ裾野すそのたいまで、足にかけてさがしぬいていたのだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(あの松原の砂路すなじから、小松橋こまつばしを渡ると、急にむこうが遠目金とおめがねめたようにまるい海になって富士ふじの山が見えますね、)
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
富士ふじかぎらず、ほかの高山こうざんのぼるときでも、いまはなししたような森林植物帶しんりんしよくぶつたいをつぎ/\にきはめることが出來できます。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
もし往航おうこうならば左舷さげん彼方かなたにエトナがたか屹立きつりつしてゐるのをるべく、六七合目以上ろくしちごうめいじよう無疵むきづ圓錐形えんすいけいをしてゐるので富士ふじおもすくらゐであるが
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
あらがみ束髮そくはつ薔薇ばらはなかざりもなき湯上ゆあがりの單衣ゆかたでたち、素顏すがほうつくしきなつ富士ふじひたひつきのこりて、をぎ秋風あきかぜふけどほたるねきし塗柄ぬりゑ團扇うちは面影おもかげはなれぬ貴公子きこうしあり
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
津軽海峡つがるかいきょう、トラピスト、函館はこだて五稜郭ごりょうかく、えぞ富士ふじ白樺しらかば小樽おたる、札幌の大学、麦酒ビール会社、博物館はくぶつかん、デンマーク人の農場のうじょう苫小牧とまこまい白老しらおいのアイヌ部落ぶらく室蘭むろらん、ああぼくかぞえただけでむねおどる。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
去年の夏の休には富士ふじ山頂さんちょうから画はがきをよこしたりした。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
富士ふじへは六回登ったことがあると話しました。
先生への通信 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ねえ親方、こういうところを見ると、やっぱり富士ふじ裾野すそのあたりで、テンカンテンカンとやじりをたたいているのが一ばん安泰あんたいですね
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
富士ふじのぼるには、普通ふつう吉田口よしだぐち御殿場口ごてんばぐち大宮口おほみやぐちみつつの登山道とざんみちがありますが、森林帶しんりんたいながらのぼるには吉田口よしだぐちか、大宮口おほみやぐちえらんだほうがいゝとおもひます。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
ふるくは貞觀年間じようかんねんかんちかくは寶永四年ほうえいよねんにも噴火ふんかして、火口かこう下手しもて堆積たいせきした噴出物ふんしゆつぶつ寶永山ほうえいざん形作かたちづくつた。すなは成長期せいちようきにあつた少女時代しようじよじだい富士ふじ一人ひとり子持こもちになつたわけである。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
三十日さんじふにち相州さうしう酒匂さかは松濤園しようたうゑん一泊いつぱく間近まぢか富士ふじのぞ松原まつばらする夕波ゆふなみおもむきし。
熱海の春 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あやしさよとばかさとし燈下とうかうでみしが、ひろひきしは白絹しろぎぬ手巾はんけちにて、西行さいぎやう富士ふじけむりのうたつくろはねどもふでのあとごとにきたり、いよいよさとりめかしきをんな不思議ふしぎおもへば不思議ふしぎかぎりなく
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
臺所だいどころより富士ふじゆ。つゆ木槿むくげほのあかう、茅屋かややのあちこちくろなかに、狐火きつねびかとばかりともしびいろしづみて、池子いけごふもときぬたをりから、いもがりくらん遠畦とほあぜ在郷唄ざいがううたぼんぎてよりあはれささらにまされり。
逗子だより (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
富士ふじ
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蘇鐵そてつなか富士ふじよう。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)