坊主ばうず)” の例文
たかく、あしんで、ぬまきしはなれると、足代あじろ突立つゝたつて見送みおくつた坊主ばうずかげは、背後うしろから蔽覆おつかぶさるごとく、おほひなるかたちつてえた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「ふん、坊主ばうずか」とつてりよしばらかんがへたが、「かくつてるから、こゝへとほせ」とけた。そして女房にようばうおくませた。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
カントの超絶てうぜつ哲学てつがく余姚よよう良知説りやうちせつだいすなはだいなりといへども臍栗へそくりぜに牽摺ひきずすのじゆつはるかに生臭なまぐさ坊主ばうず南無なむ阿弥陀仏あみだぶつおよばず。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
坊主ばうずめうな事をふて、人の見てまいでは物がはれないなんて、全体ぜんたいアノ坊主ばうず大変たいへんけちかねためやつだとふ事を聞いてるが
黄金餅 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
見るより大いに悦び小杉こすぎの伯父樣此坊主ばうず勾引かどはかしますアレ/\伯父樣々々をぢさま/\と云れて九助は何ぢやと立止たちとゞまるを旅僧は是を見と等く是はたまらぬと其儘後を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ゑんじゆこれに次ぐ。その代り葉の落ち尽す事早きものは、百日紅さるすべり第一なり。桜や槐のこずゑにはまだまばら残葉ざんえふがあつても、百日紅ばかりは坊主ばうずになつてゐる。
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
覺束おぼつかないつきに風車かざぐるまてゝせたり、りつゞみなどをつておせなされ、一家いつかうちわれなぐさめるは坊主ばうず一人ひとりだぞとあのいろくろいおかほをおあそばすと
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
其上そのうへすこしのひまぬすんですわりでもすると、うしろから意地いぢわる邪魔じやまをされる、毒吐どくづかれる、あたまてにはなん因果いんぐわ坊主ばうずになつたかとくやことおほかつたとつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「てつきり納所なつしよ坊主ばうず仕鱈しだらに相違ない。お上人様のお目に懸けなくつちや。」
月代さかやきらせるのにあたまうごかして仕樣しやうがないとはいてゐたが、醫者いしや坊主ばうずあたま草紙さうしにして、近習きんじゆ剃刀かみそり稽古けいこをするとは面白おもしろい。大名だいみやうあたまきずけては、生命いのちがないかもれないからな。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
坊主ばうずくずれとか言ふ噂で、手もよく書き四角な字も讀み、外の仕事をしても人に優れたことの出來る人間でしたが、中年から金を溜めることに執着し、義理も人情も捨て、無慈悲、非道と言はれ乍らも
最初に橋を渡つて来た人影は黒いあさ僧衣ころもを着た坊主ばうずであつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
坊主ばうずひたひへびる。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
はなまるい、ひたひひろい、くちおほきい、……かほを、しかいやいろえたので、暗夜やみました。……坊主ばうず狐火きつねびだ、とつたんです。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
けれども、つらつら考へて見れば、何も女が屁をしたからと云つて、坊主ばうずにまでなるには当りさうもない。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ち其の人體にんていで考へれば醫師と云るは町内の元益坊主ばうずきはまつたりと云は面體めんていのみならずくろ羽二重に桔梗の紋は掛替かけがへのなき一丁渠奴きやつ小西屋のみせへ行き隣の女に惡名を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「あ。なほりました。」實際じつさいりよはこれまで頭痛づつうがする、頭痛づつうがするとにしてゐて、どうしてもなほらせずにゐた頭痛づつうを、坊主ばうずみづられて、がしてしまつたのである。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
煽動あふり横顔よこがほはらはれたやうにおもつて、蹌踉よろ/\としたが、おもふに幻覚げんかくからめた疲労ひろうであらう、坊主ばうず故意こいうしたものではいらしい。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
僕等は回向院ゑかうゐんの表門を出、これもバラツクになつた坊主ばうず軍鶏しやもを見ながら、ひとの橋へ歩いて行つた。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
見られ大岡殿イヤハヤ意氣地いくぢのなき坊主ばうずとくより知れてある事をおのれかくしだてをする大馬鹿おほばかめコリヤ其大帳そのだいちやうを是へと申さるゝ時目安方ハツと差出さしいだすをとりて見らるれば享保元年の帳に
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
いま乞食坊主こじきばうずたのになつたのは、なんとなくえらさうにえる坊主ばうず態度たいどしんおこしたのと、みず一ぱいでするまじなひなら間違まちがつたところ危險きけんこともあるまいとおもつたのとのためである。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
くちつめたいものがはひつて、寢臺ねだいうへるのがわかりましたつけ……坊主ばうずきふかねらしたのは、ちやうど、釣臺つりだい病院びやうゐんもんはひときだつたさうです。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
人生においても同じ事である。五欲の克服のみに骨を折つた坊主ばうずは、偉い坊主になつた事を聞かない。偉い坊主になつたものは、常に五欲を克服すべき、他の熱情をいだき得た坊主である。
澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
しかしかうして、おの/\のはらつめた次第しだいさむつたところへ、ぶつきり大掴おほづかみ坊主ばうずしやも、相撲すまふつてもはらがくちくるのを、かつようと腹案ふくあん
九九九会小記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しかし或夏の夜明けにこの河岸かしへ出かけてみると、いつも多い釣師の連中は一人ひとりもそこに来てゐなかつた。その代りに杭のあひだには坊主ばうず頭の土左衛門どざゑもん一人ひとり俯向うつむけに浪に揺すられてゐた。……
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
あんまりですから、主人あるじ引返ひつかへさうとしたときです……藥賣くすりうり坊主ばうずは、のない提灯ちやうちん高々たか/″\げて、しひ梢越こずゑごしに、大屋根おほやねでもるらしく、仰向あをむいて
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
してるとおまへさんがたのおど/\するのは、こゝろ覺束おぼつかないところがあるからで、つみつくつたものえる。懺悔ざんげさつしやい、發心ほつしんして坊主ばうずにでもならつしやい。
旅僧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
おい、それだつても無銭たゞぢやあ不可いけねえよはゞかりながら神方万金丹しんぱうまんきんたん、一てふびやくだ、しくばひな、坊主ばうず報捨はうしやをするやうなつみつくらねえ、それともうだおまへいふことをくか
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
無地むぢ行衣ぎやうえたやうなものに、ねずみ腰衣こしごろもで、ずんぐり横肥よこぶとりに、ぶよ/\とかはがたるんで、水氣すゐきのありさうな、あをかほのむくんだ坊主ばうずが、……あの、たんですつて——そして
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
おつなことをいふやうだがなにかねなかをんな出来できねえと相場さうばきまつて、すつぺら坊主ばうずになつても矢張やツぱ生命いのちしいのかね、不思議ふしぎぢやあねえか、あらそはれねもんだ、ねえさんねえ
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
坊主ばうずねえか、無住むぢうだな。ひど荒果あれはてたもんぢやねえか。蜘蛛くもやつめも、殿樣とのさまはうには遠慮ゑんりよしたとえて、御家來ごけらいかほしんにふけやがつた。なあ、これ、御家來ごけらいへば此方人等こちとらだ。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
幼君えうくん心地こゝちよくばそれ煙草たばこなとうてせよ。それ/\」と、坊主ばうずをして煙草盆たばこぼんつかはしたまふに、をとこすこしく狼狽うろたへ、「こはそも、それかせたまへ」とあわただしくでむとすれば
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
けがらはしいよくのあればこそうなつたうへ蹰躇ちゆうちよをするわ、そのかほこゑけば、渠等かれら夫婦ふうふ同衾ひとつねするのにまくらならべて差支さしつかへぬ、それでもあせになつて修行しゆぎやうをして、坊主ばうずてるよりは余程よほどましぢやと
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)