名物めいぶつ)” の例文
「みつや、東北地方とうほくちほう物産ぶっさん展覧会てんらんかいがあるのよ。きっとおまえのくにからも、なにか名物めいぶつているでしょう。ちょっとましょうね。」
田舎のお母さん (新字新仮名) / 小川未明(著)
たゞし、そのころは、まだ湯豆府ゆどうふあぢわからなかつた。眞北まきたには、湯豆府ゆどうふ、たのしみなべ、あをやぎなどと名物めいぶつがあり、名所めいしよがある。
湯どうふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
堤の上に名物めいぶつ言問団子ことといだんごを売る店があり、堤の桜の由来を記した高い石碑が立っていたのも、その辺であったと思う。
向島 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
まだかまだかとへいまわりを七まわり、欠伸あくびかずきて、はらふとすれど名物めいぶつ首筋くびすぢひたいぎわしたゝかさゝれ、三五らうよわりきるとき美登利みどり立出たちいでゝいざとふに
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
十年前の此村を識って居る人は、皆が稼ぎ様の猛烈もうれつになったに驚いて居る。政党騒せいとうさわぎと賭博は昔から三多摩の名物めいぶつであった。此頃では、選挙争に人死ひとじにはなくなった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
香料問屋かうれうとひやとか、それ/″\ところ名物めいぶつ商業しやうばいがある中に、ラクダルは怠惰屋なまけやつて居たのである。
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
むすめさんはまたいとつむいで熱心ねつしんはたらいてゐるといふ實際生活じつさいせいかつることが出來でき、また料理屋りようりや茶店ちやみせ各地方かくちほうにあるそのまゝの建築けんちくで、料理りようりもまたその地方ちほう名物めいぶつはせ
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
赤い絹紐であんだすがりの網に包まれて、柳生名物めいぶつの茶壺、耳こけ猿が、ピッタリとその神秘の口を閉ざし、黒く黙々とすわっている……のが、一瞬間、みなの眼に見えた。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それにしても、入り海をとりかこんだ村むらにとって、大昔から何かにつけて目じるしにされてきた名物めいぶつの老松がなんにあったのを、地元のじぶんが気づかずにいたのが恥ずかしかった。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
「これはまた迂濶うかつばん飴売あめうり土平どへいは、近頃ちかごろ江戸えど名物めいぶつでげすぜ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
名物めいぶつくりこはめし——御休處おやすみどころ。』
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ちうつて三百年さんびやくねんといふ古家ふるいへひとつがこれで、もうひとつが三光社前さんくわうしやまへ一棟ひとむねで、いづれも地震ぢしんにびくともしなかつた下六番町しもろくばんちやう名物めいぶつである。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
また、食料品しょくりょうひんっている場所ばしょには、とお西にしくにからも、みなみくにからも名物めいぶつあつまっていました。そして、それにもたか値段ねだんがついていました。
都会はぜいたくだ (新字新仮名) / 小川未明(著)
「あいにくなんにも無くつて………道了だうれうさまのお名物めいぶつだつて、鳥渡ちよつとおつなものだよ。」とはしでわざ/\つまんでやつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
別亭はなれ洒落しやれたるがありて、名物めいぶつまつがありてと父君ちヽぎみ自慢じまんにすがり、わたく年來としごろまヽくらして、此上このうへのおねがひはまうしがたけれど、とてもの其處そこおくらしてはたまはらぬか、甚之助樣じんのすけさま成長おうきうならば
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
八千八谷はつせんやたにながるゝ、圓山川まるやまがはとともに、八千八聲はつせんやこゑとなふる杜鵑ほとゝぎすは、ともに此地このち名物めいぶつである。それも昨夜さくや按摩あんまはなした。其時そのときくち眞似まねたのがこれである。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「おかねや、おまえのくに名物めいぶつには、どんなものがあって?」と、おくさまは、ふりかえって、かれました。
都会はぜいたくだ (新字新仮名) / 小川未明(著)
名物めいぶつ一つかげをして二はな紺屋こうや乙娘おとむすめいま千束町せんぞくまちしんつた御神燈ごじんとうほのめかして、小吉こきちばるゝ公園こうえん尤物まれもの根生ねをひはおな此處こゝ土成つちなりし、あけくれのうはさにも御出世ごしゆつせといふはをんなかぎりて
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
名物めいぶつかねく、——まへにも一度いちど神田かんだ叔父をぢと、天王寺てんわうじを、とき相坂あひざかはうからて、今戸いまどあたり𢌞まは途中とちうを、こゝでやすんだことがある。が、う七八ねんにもなつた。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いまでも、そのまち名物めいぶつは、かわ金色こんじきうおがしぜんにたくさんんでいるということであります。
金の魚 (新字新仮名) / 小川未明(著)
れい公園こうゑんのぼさか尻垂坂しりたれざかどうしたこと? 母衣町ほろまちは、十二階邊じふにかいへん意味いみかよひしがいましからざるなり。——六斗林ろくとばやしたけのこ名物めいぶつ目黒めぐろ秋刀魚さんまにあらず、實際じつさいたけのこなり。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
いつしか、兵蔵へいぞうのことはわすれられて、だれもいわなくなったけれど、かれいた、菓子屋かしや看板かんばんはそのながく、ものをいわない人間にんげんのごとく、きていて、まち名物めいぶつとなっていました。
生きている看板 (新字新仮名) / 小川未明(著)
なにしろ、中京ちうきやう殖産工業しよくさんこうげふから、名所めいしよ名物めいぶつ花柳界くわりうかい一般いつぱん芝居しばゐ寄席よせ興行こうぎやうものの状態じやうたい視察しさつ
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
おかねは、なんだろう? とおもいました。小学校しょうがっこうにいる時分じぶん地理ちり時間じかんに、自分じぶんくに名産めいさんをいろいろおしえられましたが、この東京とうきょうにまでされているような名物めいぶつらなかったのでした。
都会はぜいたくだ (新字新仮名) / 小川未明(著)
田越たごえ蘆間あしまほしそら池田いけださと小雨こさめほたる、いづれも名所めいしよかぞへなん。さかな小鰺こあぢもつとし、野郎やらうくちよりをかしいが、南瓜かぼちやあぢ拔群ばつぐんなり近頃ちかごろ土地とち名物めいぶつ浪子饅頭なみこまんぢうふものあり。
松翠深く蒼浪遥けき逗子より (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ヒガネとむ、西風にしかぜさむきがたう熱海あたみ名物めいぶつなりとか。三島街道みしまかいだう十國峠じつこくたうげあり、今日こんにちかぜ氣候きこう温暖をんだん三度さんどくもごと湯氣ゆげいてづるじつ壯觀さうくわん御座候ござさふらふ後便こうびん萬縷ばんる敬具けいぐ
熱海の春 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かつらならではとゆるまでにゆひなしたる圓髷まるまげに、珊瑚さんご六分玉ろくぶだまのうしろざしをてんじた、冷艷れいえんたぐふべきなきと、こゝの名物めいぶつだとく、ちひさなとこぶしを、あをく、銀色ぎんしよくかひのまゝかさねた鹽蒸しほむしさかな
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
またいつもかげかたちふやうな小笠原氏をがさはらしのゐなかつたのは、土地とち名物めいぶつとて、蕎麦切そばきり夕餉ゆふげ振舞ふるまひに、その用意ようい出向でむいたので、今頃いまごろは、して麺棒めんぼううでまくりをしてゐやうもれない。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
山内やまのうち里見氏さとみし本姓ほんせい)からましたが、とふのを、わたし自分じぶん取次とりついで、はゝあ、れだな、白樺しらかば支那鞄しなかばん間違まちがへたとふ、名物めいぶつとつさんは、とうなづかれたのが、コツプに油紙あぶらがみふたをしたのに
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
名物めいぶつ切干大根きりぼしだいこんあまいにほひをなつかしんで、手製てせいののりまきしか稚氣ちきあいすべきことは、あの渦卷うづまき頬張ほゝばつたところは、飮友達のみともだちわらはばわらへ、なくなつたおやどもには褒美はうびあづからうといふ
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
やがて、とろ/\の目許めもとを、横合よこあひから萌黄もえぎいろが、蒼空あをぞらそれよりく、ちらりとさへぎつたのがある。けだ古樹ふるき額形がくがた看板かんばんきざんだ文字もじいろで、みせのぞくと煮山椒にざんせうる、これも土地とち名物めいぶつである。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)