かざり)” の例文
幕がいた——と、まあ、言うていでありますが、さてただ浅い、ひらったい、くぼみだけで。何んのかざりつけも、道具だてもあるのではござらぬ。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのなぞめいた、甘いような苦いような口元や、その夢の重みを持っているまぶたかざりやが、己に人生というものをどれだけ教えてくれたか。
板敷の間に七八床畳とこだたみを設けて、七九几帳きちやう八〇御厨子みづしかざり八一壁代かべしろの絵なども、皆古代こだいのよき物にて、八二なみの人の住居ならず。
それからしよく供物くもつ恰好かつかうよくして總代等そうだいられてつた注連繩しめなはもみからもみつて末社まつしやかざりをした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
歳暮せいぼ大売出しの楽隊の音、目まぐるしい仁丹じんたんの広告電燈、クリスマスを祝う杉の葉のかざり蜘蛛手くもでに張った万国国旗、飾窓かざりまどの中のサンタ・クロス
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
腕を隠せし花一輪削り二輪削り、自己おのが意匠のかざりを捨て人の天真の美をあらわさんと勤めたる甲斐かいありて、なまじ着せたる花衣ぬがするだけ面白し。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
棺桶の前には牡丹の花のかざりをした牡丹燈がけてあった。彼はぶるぶるとふるえながら、牡丹燈の下のほうに眼を落した。
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
近くのかざり屋の主人はそう言って、「これを何かのかざりにすると儲かるのだ。このまま、これをにかわで煮込むのだ。」
不思議な魚 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
その楽譜がくふは、老人ろうじんの太い書体しょたいで特別にねんをいれて書いてあった。最初さいしょのところには輪や花形はながたかざりがついていた。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
相当経験があるらしく、小銃しょうじゅう短銃ピストルも高価なものをもち、乗馬と二十頭の猟犬りょうけんを連れていた。それで『明日あしたにもロボの首を取ってきてとこの間のかざりり物にする』
セエラはまた鞄の中から、古い夏帽子を見附け出し、かざりの花を引きはがして、テエブルの上に飾りました。
硬き鋪石しきいしはまたアルメオンが、かの不吉なるかざりの價のたふとさをその母にしらしめしさまを示せり 四九—五一
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
かもその大の方は長い脇差を刀にしたので、小の方は鰹節小刀かつおぶしこがたなさやおさめておかざりに挟して居るのだ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
時計盤を吊りあげている青銅のかざり時計がおいてある時計屋のショウ・ウィンドウがあらわれて来た。
二つの庭 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
江戸に正月せし人のはなしに、市中にて見上るばかり松竹をかざりたるもとに、うつくしよそほひたる娘たちいろどりたる羽子板はごいたを持てならび立て羽子をつくさま、いかにも大江戸の春なりとぞ。
蒼ざめた白大理石の爐棚マントルピイスの上のかざりは、きら/\と光る紅玉色こうぎよくしよくのボヘミア硝子ガラスで出來てゐた。そして、窓の間に、大きな鏡は、これらの雪と火の交錯をそのまゝに映した
その正月しやうぐわつのおかざりあつめてむらのはづれまできますと、そのへんにはびつくりするほどおほきないはいし田圃たんぼあひだえました。そこからはもう信濃しなの美濃みの國境くにさかひちかいのです。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
いつも黒い地色のスカートに、襟のあたりに少しばかりレースのかざりをつけた白いシャツ。
吾妻橋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
この奇妙な子供の玩具の小さな風車みたいな、如何にも不味まずそうな煎餅は、普通に食用に供するものではなく、干菓子の中でも一番下等な焼物の一種で、所謂かざり菓子と言う奴だ。
とむらい機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
侍になることはならんと三十両の他に二十両菊に手当をして、頭のかざり身の廻り残らず
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
前に張られた七五三かざりが、縄は見えないで、御幣ごへいの紙だけ白く並んでさがって居るのが見える、社殿の後は木立が低いので空があらわれた、左右の松木立の隙間にあらわれた空の色が面白い
八幡の森 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
中の間なる団欒まどゐ柱側はしらわきに座を占めて、おもげにいただける夜会結やかいむすび淡紫うすむらさきのリボンかざりして、小豆鼠あづきねずみ縮緬ちりめんの羽織を着たるが、人の打騒ぐを興あるやうに涼き目をみはりて、みづからしとやかに引繕ひきつくろへる娘あり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
汝等なんぢらにんよし爭論あらそひもととなって、同胞どうばう鬪諍とうぢょうすで三度みたびおよび、市内しない騷擾さうぜう一方ひとかたならぬによって、たうヹローナの故老共こらうども其身そのみにふさはしき老實らうじつかざり脱棄ぬぎすて、なんねんもちひざりしため
いとしい妹カザリンよ、あなたにこの本を贈ります。この本の外側には黄金のかざりもなく巧みな刺繍ししゅうあやもありませんが、中身はこの広い世界が誇りとするあらゆる金鉱にも増して貴いものです。
ジェイン・グレイ遺文 (新字旧仮名) / 神西清(著)
私の父といふは三つのとしえんから落て片足あやしき風になりたれば人中に立まじるも嫌やとて居職いしよくかざり金物かなものをこしらへましたれど、気位たかくて人愛じんあいのなければ贔負ひいきにしてくれる人もなく
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
さうすると、だん/\に金の鍵のことも玉のかざりの着物のこともみんなわすれてしまひました。そしてお母さまが美しい着物を着て、美しい人になつてゐるのが、うれしくてたまりませんでした。
星の女 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
どうせ思想にとらわれて活機の分らぬ人のる事だから、おかざりの思想を一枚めくれば、下からいつも此様こん愛想あいその尽きた物が出て来るに不思議はないが、此方こっち此方こっちだ、其様そんな事は少しも見えない。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
顔が無いので、服装ふくそうと持物とによって見分ける外はないのだが、革帯の目印とまさかりかざりとによってまぎれもない弟の屍体をたずね出した時、シャクはしばらくぼうっとしたままそのみじめな姿をながめていた。
狐憑 (新字新仮名) / 中島敦(著)
かざり電気の灯火つねよりも倍したる明るさをもて海のくらがりを破るありさまは、余りなる人の子よと竜神わたつみいからずやなど思ひ申しさふらふ。初めの程のピヤニストのすぐれたれば声曲家せいきよくかは皆いろなく見え申しさふらふ
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
粗末なる彫刻にて、衣裳頭いしょうかしらかざりのありさまも不分明なり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
御自分と后方きさきがたとの身をおかざりなさいましょう。
身のかざり、ふさはじそれも、つひの日の
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
これいたゞきかざりなり
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
とこにも座敷ざしきにもかざりといつてはいが、柱立はしらだち見事みごとな、たゝみかたい、おほいなる、自在鍵じざいかぎこひうろこ黄金造こがねづくりであるかとおもはるるつやつた
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
顔ははっきり見えなかったが、つかりゅうかざりのある高麗剣こまつるぎいている事は、その竜の首が朦朧もうろう金色こんじきに光っているせいか、一目にもすぐに見分けられた。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
餘所よそ一寸ちよつとたびおほきな菅笠すげがさがぐるりとうごく。菅笠すげがさけるのみではなくをんなためには風情ふぜいあるかざりである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「えらいことになった、どうしたら好いだろう、それにあの女のれて来る婢女じょちゅうも、わら人形だ、牡丹のかざりの燈籠もやっぱりあったんだ、どうしたら好いだろう」
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
江戸に正月せし人のはなしに、市中にて見上るばかり松竹をかざりたるもとに、うつくしよそほひたる娘たちいろどりたる羽子板はごいたを持てならび立て羽子をつくさま、いかにも大江戸の春なりとぞ。
いつもくろ地色ぢいろのスカートに、えりのあたりにすこしばかりレースのかざりをつけたしろいシヤツ。
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
髪を台湾銀杏たいわんいちようといふに結びて、かざりとてはわざと本甲蒔絵ほんこうまきゑくしのみをしたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
わたしちゝといふは三つのとしゑんからおち片足かたあしあやしきふうになりたれば人中ひとなかたちまじるもやとて居職いしよくかざり金物かなものをこしらへましたれど、氣位きぐらいたかくて人愛じんあいのなければ贔負ひいきにしてくれるひともなく
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
喬介が笑いながら私の前へ差し出したのは、飛びッきり上等のかざりが付いた鋭利な一丁のジャックナイフだ。鉄屑の油や細かい粉で散々によごれているが、刃先の方には血痕らしい赤錆が浮いている。
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
そなたこひ盟約ちかひ内容なかみ空誓文からぜいもん、なりゃこそ養育はごくまうとちかうたこひをもころしてのけうとやるのぢゃ、そなた分別ふんべつ姿すがたこひかざりぢゃが、本體ほんたいうないので不具かたはとなり、おろかそつ藥筐くすりいれ火藥くわやくのやうに
あなた方をおかざり申す、このケレスの賜は
神樂囃子かぐらばやし踊屋臺をどりやたい町々まち/\山車だしかざり、つくりもの、人形にんぎやう、いけばな造花ざうくわは、さくら牡丹ぼたんふぢ、つゝじ。いけばなは、あやめ、姫百合ひめゆり青楓あをかへで
祭のこと (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そして三こうがすぎて観燈の人も稀にしか通らないようになった時、稚児髷ちごまげのような髪にした女のに、かしらに二つの牡丹の花のかざりをした燈籠とうろうを持たして怪しい女が出て来たが
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それで歳男としをとこやくかざり勘次かんじにさせた。すゝつたたなあたらしいわらえび活々いき/\としてえた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
私はふと限りもない空のした雄大なる平原の面に唯だ一人永遠の夜明けを待ちつつ野宿しているような気がして、とざしたまぶたを開いて見ると、今にも落ちて来そうな低い天井と、色もかざりもない壁とふすまとが
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そこであのかざりにあまり祝福なんぞが
風俗ふうぞく派手はででない、をんなこのみ濃厚のうこうではない、かみかざりあかいものはすくなく、みなこゝろするともなく、風土ふうどふくしてるのであらう。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)