へだて)” の例文
思ひ付お兼にむかひ扨々其方の智慧ちゑの程感心かんしんせり其はたらきにては女房にしても末頼母敷もしく思ふなり夫について爰に一ツの相談あり夫婦の中に隱しへだて
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
私達はすぐにへだてのない仲になった。鳴尾君は私のことを「案山居士」などと云った。山田の中の一本足の案山子かかしのことである。
西隣塾記 (新字新仮名) / 小山清(著)
二人は勝手へのへだての敷居に両手を突いて、『お早エなつす。』を口の中だけに言つて挨拶をすると、お吉は可笑しさにちよつと横向いて笑つたが
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
一 若き時は夫の親類友達下部しもべ等の若男わかきおとこには打解けて物語ものがたり近付ちかづくべからず。男女のへだてかたくすべし。如何なる用あり共、若男に文などかよわすべからず。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
その場へ踏み込みたすけてくりょうと、いきなりへだてふすまを開けて、次の間へ飛込むと、広さも、様子も同じような部屋、また同じような襖がある。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かの橋柱はのち御領主ごりやうしゆ御蔵ごぞうとなりしとぞ。椎谷しひや同国どうこくなれども幾里をへだてたれば其真物しんぶつ不見みず、今に遺憾ゐかんとす。しばらく伝写でんしやを以てこゝにのせつ。
と云って逃げようとするおあさのたぶさを取って、二畳の座敷へ引摺ひきずり込み、へだてふすまてましたが、これから如何いかゞなりましょうか、次回つぎに述べます。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
彼の下にフランチュスコ、ベネデット、アウグスティーノ、及びその他の人々さだめによりてかくへだてて、圓より圓に下りて遂にこの處にいたる 三四—三六
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
影ともはかなへだての関の遠き恋人として余所よそに朽さんより、近き他人の前に己を殺さんぞ、同く受くべき苦痛ならば、その忍び易きに就かんとこひねがへるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
一つには草臥くたびれためでもあるがわづかにちへだてかれにはか年齡としをとつたほどげつそりとやつれたやうな心持こゝろもちつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
亜米利加アメリカから欧羅巴ヨウロツパまで、荒き浮世の波風をしのぎ廻つて、今日コヽに同じ境遇の人達とへだてなく語り合つて居るのです、私の近き血縁を云へばたつた一人の伯母がある
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
入口いりぐちから三間許げんばかへだてて、棒杭ぼうぐひち、鐵條てつでうり、ひとらしめぬやう警戒けいかい依頼いらいされたのだ。
林は全く黄葉きばみ、蔦紅葉つたもみぢは、真紅しんくに染り、霧起る時はかすみへだてて花を見るが如く、日光直射する時は露を帯びたる葉毎に幾千万の真珠碧玉を連らねて全山もゆるかと思はれた。
空知川の岸辺 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
へだてふすまだけは明けてある。片輪車の友禅ゆうぜんすそだけが見える。あとは芭蕉布ばしょうふ唐紙からかみで万事を隠す。幽冥ゆうめいを仕切るふちは黒である。一寸幅に鴨居かもいから敷居しきいまで真直まっすぐに貫いている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
其まゝに大きくして、内のよめにするのが多い。所謂いわゆるつぼみからとる花嫁御はなよめご」である。一家総労働の農家では、主僕の間にへだてがない様に、実の娘と養女の間に格別かくべつ差等さとうはない。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それから五分も経ったかと思うころ、へだてドアがあいて、白髪の老紳士が部屋へあらわれた。
骸骨島の大冒険 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
なんだか、へだて或物あるものてつして、直接ぢかわたしせつしてやうとする様子やうすが、歴々あり/\素振そぶりえる。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
心に物を思えばか、怏々おうおうたる顔の色、ややともすれば太息といきを吐いている折しも、表の格子戸こうしどをガラリト開けて、案内もせず這入はいッて来て、へだての障子の彼方あなたからヌット顔を差出して
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
一方の側は高い/\塀が中庭とのへだてをなし、も一方の側は桃の並木が芝生しばふとの境をなしてゐた。下手しもての方には低い垣があつて、それがひつそりした耕地との唯一の境目であつた。
十間ばかりへだてて、その次のはそれより少し脊が低くて、子供のような歩き方だ。また十間ばかり隔て最後の一人は長く黒髪をあとたれていて女のように思われた。その三人は、始終俯向うつむいていた。
北の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
と、枕頭まくらもとから右横になった仏壇の間とのへだてふすま何時いつものようにいて、また、藍微塵あいみじん衣服きものを着た女が幻燈に映し出されたようにはっきりと現れて、敷居の上あたりに坐って白い手を突きかけた。
藍微塵の衣服 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
へだてなく謂ツて苦笑する。
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
二人は勝手へのへだての敷居に兩手を突いて、『お早エなつす。』を口の中だけに言つて、挨拶をすると、お吉は可笑しさにちよつと横向いて笑つたが
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
かの橋柱はのち御領主ごりやうしゆ御蔵ごぞうとなりしとぞ。椎谷しひや同国どうこくなれども幾里をへだてたれば其真物しんぶつ不見みず、今に遺憾ゐかんとす。しばらく伝写でんしやを以てこゝにのせつ。
隣の小猫はまた小猫で、それ井戸は隣と二軒で使うもんだから、あすこのへだてから入って来ちゃあ、畳でも、板の間でも、ニャアニャア鳴いて歩行あるくわ。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
心掛候に付きへだて候へども伊豆守御役宅に於て天一坊樣御面部をひそかに拜し奉りしに御目とほゝの間に凶相きようさうあり存外ぞんぐわいなるたくみあるの相にて又眼中がんちう赤筋あかすぢあつひとみ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
またこなたには、天の淑女の榮光の座とその下の諸〻の座とがかく大いなるへだてとなるごとく 二八—三〇
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
と云い捨て、桑の煙草盆を持って立上り、へだてふすまを開けて素気そっけなく出てきます春見の姿を見送って、重二郎は思わず声を出して、ワッとばかりに泣き倒れまして
彼のへだて無く身近にるるを可忌うとましと思へば、貫一はわざと寐返ねがへりて、椅子を置きたるかたに向直り
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
其代そのかはりに奧壁おくかべから一しやくずんへたてて、一れついしならべてあり、それから三じやくへだてて、まただいれついしならべてある。其間そのあひだに、人骨じんこつ腐蝕ふしよくしたのが二三たいどろごどくなつてよこたはつてる。鐵鏃てつぞくがある。
相愛あいあいしていなければ、文三に親しんでから、お勢が言葉遣いを改め起居動作たちいふるまいを変え、蓮葉はすはめて優にやさしく女性にょしょうらしく成るはずもなし、又今年の夏一夕いっせきの情話に、我からへだての関を取除とりの
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
兄妹はへだてなき眼と眼を見合せた。そうして同時に笑った。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まさ驪山りさんつて陛下へいか相抱あひいだくべき豊肥妖艶ほうひえうえんひとそのをとこたいする取廻とりまはしのやさしさ、へだてなさ、親切しんせつさに、人事ひとごとながらうれしくて、おもはずなみだながれたのぢや。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
水中すゐちゆうよりあをき火閃々ひら/\ともえあがりければ、こは亡者まうじや陰火いんくわならんと目をとぢてかねうちならし、しばらく念仏して目をひらきしに、橋の上二けんばかりへだて
見しがたしかに三五郎奴成らんと三人ひとしく此方の土手どてかけよりて見れば二三町へだてて西の村をさし迯行にげゆく者あり掃部は彌々彼奴あいつに相違無し是々これ/\藤兵衞飛脚ひきやくを立てうちへ此ことを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
という声を聞き附け、奥より角右衞門が出てまいり、物をも云わず御新造の手を取って奥へ引入れ、縁側のへだての障子をパッタリと閉切たてきってしまいましたから、多助は呆然として
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「魔よけだと申しますから、かたがた。……では蚊帳の中を一つ。……あとではへだてふすまを入れますつもりです。」
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二里あまりへだてたる村より十九歳のよめをむかへしに、容姿すがたにくからず生質うまれつき柔従やはらかにて、糸織いとはたわざにも怜利かしこければしうとしうとめ可愛かあいがり、夫婦ふうふの中もむつまし家内かない可祝めでたく春をむかへ
馬の上に乗って斯う応対致すに、立派なお身柄でも草原くさはらへ下りて、大地へ頭を摺附けて其の如くお詫なさるが、そこが善と悪とのへだてで、貴方が今にも御改心なされば山三郎土下座を致して
へだての襖は裏表、両方の肩でされて、すらすらと三寸ばかり、暗き柳と、曇れる花、さみしく顔を見合せた、トタンに跫音あしおと、続いて跫音、夫人は退いて小さなしわぶき
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
へだてふすまを明けて這入った人の扮装なりはじゃがらっぽいしまの小袖にて、まア其の頃は御召縮緬おめしちりめんが相場で、頭髪あたまは達磨返しに、一寸した玉の附いたかんざし散斑ばらふのきれたくしを横の方へよけて揷しており
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その男に対する取廻しの優しさ、へだてなさ、深切しんせつさに、人事ひとごとながらうれしくて、思わず涙が流れたのじゃ。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お次のへだてを開けて両手をつか
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
可恐おそろしいうなりじゃな。」とつぶやいて、一間口けんぐちへだての障子の中へ、腰を曲げて天窓あたまから入ると
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と云いながらへだてふすまを明け
小さな帳場格子の内からと浴衣のなりで立つとひとしく、取着とッつき箪笥たんすのほのめく次の間のへだて葭簀よしず蓮葉はすはにすらりと引開けて、ずっと入ると暗くて涼しそうな中へ、姿は消えたが
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ぴつたりめたふすままい……臺所だいどころつゞくだゞつぴろ板敷いたじきとのへだてる……出入口ではひりぐちひらきがあつて、むしや/\といはらんゑがいたが、年數ねんすうさんするにへず、で深山みやまいろくすぼつた、引手ひきてわき
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
裏の木戸口をへだてにて、庭続の隣家の殿、かつて政事をも預りしが行年ここに五十六、我おいたりとかんけて幕のうちひそみたまえど、時々黒頭巾出没して、国五郎という身で人形を使わせらる。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ぴったり閉めた襖一枚……台所へ続くだだっ広い板敷とのへだてになる……出入口ではいりぐちひらきがあって、むしゃむしゃといわの根に蘭を描いたが、年数さんするにえず、で深山みやまの色にくすぼった、引手ひきてわき
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひとり婚礼に至りては、儀式上、文字上もんじじやう、別に何等の愛ありて存するにあらず。たゞ男女相会して、粛然とさかづきめぐらすに過ぎず。人のいまだ結婚せざるや、愛は自由なり。ことわざに曰く「恋に上下のへだてなし」と。
愛と婚姻 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)