ごし)” の例文
十一二のあみさげで、そでの長いのが、あとについて、七八ツのが森の下へ、うさぎと色鳥ひらりと入った。葭簀ごしに、老人はこれを透かして
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しばし有りてをんなどもの口々に呼邀よびむかふる声して、入来いりきし客の、障子ごしなる隣室に案内されたる気勢けはひに、貫一はその男女なんによの二人づれなるを知れり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
男は其処そこへ来るごとに直立して、硝子扉ごしの私達を見上げ莞爾かんじとしては挙手きょしゅの礼をしました。私達もだまって素直に礼を返してやりました。
病房にたわむ花 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
おもむろにもたげて鉄縁の近眼鏡めがねごしに打ちながめつ「あア、老女おばさんですか、大層早いですなア——先生は後圃うらで御運動でせウ、何か御用ですか」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
う見ても一個の書生なれどここに詰居る所を見れば此頃谷間田の下役に拝命せし者なる可し此男テーブルごしに谷間田の顔を
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
「大事なことだ、隱しだてをせずに、打ちあけてくれ。お前には三十五年ごしの恩人と言つて宜い女隱居の敵ぢやないか」
その結果、彼はついに肥った連中の仲間へ入ったが、そこには、既に彼の見知りごしの人物が、殆んど全部そろっていた。
○駒形の駒形堂を右に見、駒形の渡船場を過ぎ、左には長屋ごしに番場の多田の薬師の樹立こだちを望みて下ること少許しばしすれば
水の東京 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
自分達の出立しゆつたつする時夫人は涙を目にいつぱいためて自動車の窓ごしに手を執られた。自分は此後こののち英国をおもひ出す度にこの夫人の顔が目に浮ぶであらう。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
こっちの窓一パイに乱れかかっているエニシダの枝ごしに、白いドローンウォークの花模様が、青紫色の光明を反射さしているのがトテモまぶしくて美しかった。
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼女と見知りごしの津田は、次の患者の名を呼んで再び診察所の方へ引き返そうとする彼女を呼び留めた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一番に入って往った妻女と見知りごしの男が云った。と、妻女は立ち停って、その顔を月にすかして見た。
女賊記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
名代に遣せしのみと申立けるに越前殿とのさらば菊が姑女しうとを締殺せしと申事まをすことは何ぞ證據にてもある哉と糺問たづねられしに彌吉夫婦は言葉をそろへ外に證據とては御座なく候へども三年ごしわづらひ居候者が自身に首を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
で、何のことは無い、ガラスごしに花を見るやうな心地で、毎日お房を眼前にえて置きながら悶々してゐた。彼は此の齒痒いやうな惱のために何程惱まされたか知れぬ。併し案じるよりもむが易い。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
何処どこやしきの垣根ごしに、それもたまに見るばかりで、我ら東京に住むものは、通りがかりにこの金衣きんい娘々じょうじょうを見る事は珍しいと言ってもい。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
見る人ありとも心付かぬのであろう、桑のごしに紅いや青い色をちらつかせながら余念も無しに葉を摘むと見えて、しばしはしずかであったが、また前の二人ふたりとはちがった声で
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その硝子戸ごしに岩だか土堤どてだかの片影を、近く頭の上に見上げた彼は、全身を温泉けながら、いかに浴槽よくそうの位置が、大地の平面以下に切り下げられているかを発見した。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
間もなく吾に帰ってみると、正木博士は、そうした私の顔を鼻眼鏡ごしにニヤリと眺めながら頭のうしろに両手をまわしてりかえっていた。私の質問を待っているかのように……。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
あざむおほせんとする程の大膽不敵だいたんふてきなれば間もなく見樣見眞似みやうみまねにて風藥かぜぐすりの葛根湯位は易々やす/\調合てうがふする樣に成ける程に武田長生院も下男げなんにもめづらしきやつなれどさて心のゆるせぬ勤め振と流石さすがに老醫常々親戚しんせきの者へ語られしとぞ作藏のわづか三年ごしの奉公中にの道を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
きしづたひに、いはんで後戻あともどりをて、はし取着とつゝき宿やどかへつた、——これ前刻さつきわたつて、むかごしで、山路やまみちはうへ、あのばあさんのみせはしだつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「おい、佐伯さえきのうちは中六番町なかろくばんちょう何番地だったかね」と襖ごしに細君に聞いた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
那地あち此地こちたづね居しが此所で御目に懸らうとは夢にも存ぜずと云時勝手かつてにて御花さん/\とよぶこゑの聞ゆるにぞ然らば後にと云捨て御花はやがて立去けりかくて忠八は三年ごしたづわびたるお花にはからずも今宵こよひめぐり逢たることなれば一時にかねてののぞみ足ぬと湯もそこ/\にして上り夕飯ゆふはん仕舞しまひお花の知せを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
もっともことのついでに貴方のお噂がござりませんと、三年ごし便たよりは遊ばさず、どこに隠れておいでなさりますか、分りませんのでござりました。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
どうせ戻り腕車はねえんだで、悪くすると、お客をのせて山ごしを、えッちら、おッちら、こちとらが分際で、一晩湯治のような寸法になりそうだ。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
黄に薄藍うすあいの影がさす、藍田らんでんの珠玉とか、やわらかく刻んで、ほんのりとあたたかいように見えます、障子ごしに日が薄くすんです。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なにしろ、杉野すぎのいへで、早午飯はやひる二人ふたり牛肉ぎうなべをつゝいてると、ふすまごしに(お相伴しやうばん)といふこゑがしたとおもひな。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
夏はすだれ、冬はふすまを隔てた、ものごしは、人を思うには一段、ゆかしく懐しい。……聞覚えた以上であるが、それだけに、思掛けなさも、余りに激しい。——
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と不意に鼻のさきで声がしました。いや、その、ものごし婀娜あだに砕けたのよりか、こっちは腰を抜かないばかり。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はたそれ途中一土手田畝道たんぼみちへかかって、青田ごしに富士の山に対した景色は、慈善市バザアへ出掛ける貴女レディとよりは、浅間の社へ御代参の御守殿という風があった。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その男を訪ねるに仔細しさいはないが、訪ねてくのに、十年ごしの思出がある、……まあ、もう少しして置こう。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……その頃には、七尾から山ごしで。輪島からは海の上を、追立てられ、漕流こぎながされて、出稼ぎの売色つとめに出る事。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それからうちの漬物はさっぱり気が無いの、土用ごしの沢庵、至って塩の辛きやつで黙らそうとはおしが強い。早速当座漬をこせえて醤油おしたじ亀甲万きっこうまんに改良することさ。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かれ立停たちどまつて、つゆは、しとゞきながらみづれたかはらごとき、ごつ/\といしならべたのが、引傾ひつかしいであぶなツかしい大屋根おほやねを、すぎごしみねしたにひとりながめて
月夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
三年ごしだよ、手紙一本があてなんだ。大事な落しものを捜すような気がするからね、どこかにあるには違いないが、居るか居ないか、逢えるかどうか分りやしない。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なにをかこゝろむる、とあやしんで、おこみぎはつて、枯蘆かれあしくきごしに、ほりおもてみつめた雪枝ゆきえは、浮脂きらうへに、あきらかに自他じた優劣いうれつきぎけられたのを悟得さとりえて、おもはず……
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
仰向あおむけに、空をる、と仕掛けがあったか、頭の上のその板塀ごし、幕の内かくぐらして、両方を竹で張った、真黒まっくろな布の一張ひとはりむしろの上へ、ふわりと投げてさっと拡げた。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あれ、また来たぜ、按摩の笛が、北の方の辻から聞える。……ヤ、そんなにまだ夜は更けまいのに、屋根ごしの町一つ、こう……田圃たんぼあぜかとも思う処でも吹いていら。」
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
『まだ御寐およりませんかな。』とひ/\四五段しごだんのぼつた、中途ちゆうと上下うへした欄干てすりごしかほはせた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
うたなるかな。ふるのきにおとづれた。なにすわつてても、苗屋なへやかさえるのだが、そこは凡夫ぼんぷだ、おしろいといたばかりで、やれすだれごしのりだしてたのであるが、つゞいて
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さりとも、人は、とあらためて、清水の茶屋を、松の葉ごし差窺さしうかがうと、赤ちゃけた、ばさらな銀杏返いちょうがえしをぐたりと横に、かまちから縁台へ落掛おちかかるように浴衣の肩を見せて、障子の陰に女が転がる。
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
表入口を、松原ごしの南の町並に受けて、小高く、ここに能楽堂がある。八郎はおさない時、よく出入をして知っているので、その六方石を私に教えようとして、はじかれたように指を引いた。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
事実、空間に大きく燃えたが、雨落に近づいたのは、巻莨まきたばこで、半被股引はっぴももひき真黒まっくろ車夫わかいしゅが、鼻息を荒く、おでんの盛込もりこみを一皿、銚子ちょうしを二本に硝子盃コップを添えた、赤塗の兀盆はげぼんを突上げ加減に欄干ごし
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのことは聞いたけれど、むすめの身にもなって御覧、あんな田舎へ推込おしこまれて、一年ごし外出そとでも出来ず、折があったらお前に逢いたい一心で、細々命をつないでいるもの、顔も見せないで行かれちゃあ
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その郵便局の天幕のうちに、この湯女ゆな別嬪べっぴんが、生命いのちがけ二年ごしに思い詰めている技手の先生……ともう一人は、上州高崎の大資産家おおかねもちの若旦那で、この高島田のお嬢さんの婿さんと、その二人が
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
高く競売屋せりうりやが居る、古いが、黒くがっしりした屋根ごし其方そなたの空、一点の雲もなく、えた水色のくまなき中に、浅葱あさぎや、かばや、朱や、青や、色づきめた銀杏のこずえに、風のそよぐ、とながめたのは
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「御前いらっしゃいまし。」と敷居ごしに一礼する二十四五の好男子、伯爵いたかれを愛して才子々々と召たまう。実の名は時次郎といえり。深川家とは親類交際つきあい、しばしば出入して家人のごとし。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
酒で崩して、賭博ばくちを積み、いかさまの目ばかりった、おのの名の旅双六たびすごろく、花の東都あずま夜遁よにげして、神奈川宿のはずれから、早や旅銭なしの食いつめもの、旅から旅をうろつくこと既にして三年ごし
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今は物思いに沈んで、一秒いっセコンドの間に、婆が長物語りを三たび四たび、つむじ風のごとくく、さっと繰返して、うっかりしていた判事は、心着けられて、フト身に沁むかたを、欄干ごし打見遣うちみやった。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これよりさき、境はふと、もののかしらを葉ごしに見た時、形から、名から、牛の首……と胸に浮ぶと、この栗殻くりからとは方角の反対な、加賀と越前えちぜん国境くにざかいに、同じ名の牛首がある——その山も二三度越えたが
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あたかもその影を追うごとく、障子を開けて硝子戸がらすどごしうみのぞいた。
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)