むか)” の例文
むかし来た時とはまるで見当が違う。晩餐ばんさんを済まして、湯にって、へやへ帰って茶を飲んでいると、小女こおんなが来てとこべよかとう。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
むかしより長い戦争には戦場で討死する人よりも病気で死ぬ人が多いとしてあります。病気で死ぬのは犬死いぬじにで何の役に立ちません。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
僕の生国は今日の巌手いわて県、昔の南部藩であるが、国隣りに津軽藩があった。南部と津軽とは、むかしからあたかも犬猫のように仲が悪かった。
教育の目的 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
其黄金機会ツていふやうなことはお金のたんとある人か、さうでなければ、むかしの人か、さうでなければ書物にかいてある、マア日本で正成マサシゲとか
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
凸凹でこぼこや泡のないものを選びたいのです、むかしのものは、ほとんど紙の如く薄いのをもちいています、なかなか味のあるものです。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
いま身分みぶんおもしたところなんとなりまする、さき賣物買物うりものかひものかねさへ出來できたらむかしのやうに可愛かわひがつてもれませう、おもてとほつててもれる
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
吉原へつとめ奉公にやられたとは扨も/\いたはしき事如何にむかしの恩あればとて夫程までに御夫婦が御心盡こゝろづくしをなされしものを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
俺はむかしお万のこぼした油をアめて了つた太郎どんの犬さ。其俺の身の上ばなしが聞きたいと。四つ足の俺に咄して聞かせるやうな履歴があるもんか。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
父親の手紙は、いつも同じようであったが、お島の身のうえについて、立っているらしいろくでもないうわさが、むか気質かたぎ老人としよりを怒らせている事は、その文言もんごんでも受取れた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
むかし洋人はじめて印度インドに航する者あり。王にいいて曰く、臣が国、冬日とうじつあり、水凍結とうけつしてしょうのごとく、鏡のごとく、堅きこと石のごとしと。王おのれいつわるとなしてこれを殺せり。
教門論疑問 (新字新仮名) / 柏原孝章(著)
此方こっち和蘭オランダからむかし輸入したゲベルを持て居ると云うような、日本国中千種万様の兵備では、政府においてイザ事といっても戦争が出来そうにもしない、ソレよりかその金を納むるが
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
見合みあいでございますか……それは矢張やは見合みあいもいたしました。良人おっとほうから実家さとたずねてまいったように記憶きおくしてります。いまむかおなじこと、わたくし両親りょうしんからばれて挨拶あいさつたのでございます。
三四郎は又、野々宮君の先生で、むかし正門内で馬に苦しめられた人のはなしを思ひ出して、或はそれが広田先生ではなからうかと考へ出した。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
白身も黄身も共に半熟にならなければ真誠の半熟といわれんがむかしから温泉で湯煮ゆでるとその半熟が出来る事は人が知っていた。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
おもふに男心をとこごゝろたのみがたさよ周旋とりもちするとしてこととゝのふはうれしけれど優子いうこどのゝこゝろえたり三らうよろこびしとつたたまへとはあまりといへどむかしを
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
むかしは女の顔でも形でもを如何いかにも理想的に描きたがったものだ、西洋ではモナリザの顔が理想的美人だとかいう話しだが、なるほど美しく気高いには違いないが
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
銀行の取引実務とか手形交換の実習とか云ふものならむかしの商法講習所位のものを置けば沢山だ。経済学や法律学なら大学で、教へてゐる、私立の専門学校もある。
青年実業家 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
送る我等なれば最早此上は何共なんとも仕方しかたなしと云けるを三吉ひたひおさへ夫は道理の事ながら我等何程なにほどかせぎても不運にして斯の體と相成ども今一度商賣に取付度何卒なにとぞむかしの好みを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
汽車の通って行く平野のどこを眺めても、むかしの記憶は浮ばなかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
おまへかうして釣度つりたいとつて、モウつりやしますまい、だれ真似まね出来できないことを武ちやんが一人おしなのだわ、むかしから、子供の鼻を食べようとしたさかなの話しはない様だ、聞いたことがないから
鼻で鱒を釣つた話(実事) (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
「食べたり食べなかったりよ。わざわざ買うのは億劫おっくうだし、そうかってうちに何かあっても、むかしのようにおいしくないのね、もう」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
無論むろん千葉ちばさんのはうからさとあるに、おやあの無骨ぶこつさんがとてわらすに、奧樣おくさま苦笑にがわらひして可憐かわいさうに失敗しくじりむかばなしをさぐしたのかとおつしやれば
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
遅くなんねいようにわしが早く早くとてたから疾っくのむかし家を出たのに、迎いさあ行かねいであの子と狂っているだもの。今あんちゅうた。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
かはして別かれしにあらずや然るに此間このあひだも六兩三分と言金子を譯なく合力がふりよくし間もなく其形にて又々まゐらるゝ事餘りなる仕方なりむかしとは違ひ今は眞面目まじめに日々の利潤りじゆんを以て其日を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
むかしの旦那だと思って、あんまり見えをするなよ」
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
あるいは例の消極的修養に必要な道具かも知れない。むかし或る学者が何とかいう智識をうたら、和尚おしょう両肌を抜いでかわらしておられた。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
きくのおりき土方どかた手傳てつだひを情夫まぶつなどゝ考違かんちがへをされてもならない、それむかしのゆめがたりさ、なんいまわすれて仕舞しまつげんとも七ともおもされぬ
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
牛乳を沢山飲ませなければならんという場合にむかし風の老人は牛乳なんぞ見るのもイヤだという人があります。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
赤松の間に二三段のこうを綴った紅葉こうようむかしの夢のごとく散ってつくばいに近く代る代る花弁はなびらをこぼした紅白こうはく山茶花さざんかも残りなく落ち尽した。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
はぬ浮世うきよ樣々さま/″\には如何いかなることやひそむらん、いまむかしのなみだたねこひならぬ懺悔物ざんげものがたり、くもかなしきうへあり、はるふけてにしむかぜ
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
長崎辺ではむかしから豚の生肉に毒があるといって決してぐ煮たものは食べない。西洋料理でも大概一度湯煮ゆでてから使う。豚の生肉には例の寄生虫が沢山いる。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
むかし「影参差しんし松三本の月夜かな」とうたったのは、あるいはこの松の事ではなかったろうかと考えつつ、私はまた家に帰った。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あきれたものだのとわらつておまへなどは其我そのわがまゝがとほるから豪勢ごうせいさ、此身このみになつては仕方しかたがないと團扇うちはつて足元あしもとをあふぎながら、むかしははなよのひなし可笑をかしく
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
腐りかかって匂いの付いたバターをむかし風の婦人に食べさせてりさせたり、臭いヘットで揚げたものを出したりすると西洋料理は一度で降参だという人が出来ます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
三本の松はいまだに恰好かっこうで残っているかしらん。鉄灯籠はもう壊れたに相違ない。春の草は、むかし、しゃがんだ人を覚えているだろうか。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
むかしのとほりでなくとも田中屋たなかや看板かんばんをかけるとたのしみにしてるよ、他處よそひと祖母おばあさんをけちだとふけれど、れのため儉約つましくしてれるのだからどくでならない
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
むかしから猪に毒のある事は知っていたので日本料理でも猪へは毒消しというものを何か加えます。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「何だって構やしません。むかしヴェニスを支配した人間の名ですよ。何代つづいたものですかね。その御殿が今でもヴェニスに残ってるんです」
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なかひろうなれば次第しだい御器量ごきりようましたまふ、今宵こよひ小梅こうめが三あはせて勸進帳くわんじんちやうの一くさり、悋氣りんきではけれどれほどの御修業ごしゆげうつみしもらで、何時いつむかしの貴郎あなたとおもひ
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
むかふうの台所へって御覧なさい、古びた青銅鍋からかねなべだの粗製そせい琺瑯鍋ほうろうなべだのあるいはあかがねの鍋だの真鍮鍋しんちゅうなべなんぞを使っていますが西洋は大概国法を以てあんな鍋の使用を厳禁しています。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
彼は例刻の五時がとうのむかしに過ぎたのに、妙な酔興すいきょうを起して、やはり同じ所にぶらついていた自分を仕合せだと思った。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
つみあらそひしむかしはなんりし野河のがはきしきくはな手折たをるとてなが一筋ひとすじかちわたりしたまときわれはるかに歳下とししたのコマシヤクレにもきみさまのたもとぬれるとて袖襻そでだすきかけてまゐらせしを
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
肝臓肥大は鶏に最も多いものでその肉を食べるのに差支さしつかえはありませんけれどもあの肝臓を食べると害になります。しかるにむかふう食物通くいものつう鶏肝けいかんといって大層肝臓の料理をよろこんだものです。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
母は約束だから迷惑しても構わない、また迷惑するはずがないと主張して、むかし田口が父の世話になったり厄介やっかいになったりした例を数え挙げた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今夜こんやれるとはゆめやうな、ほんにこゝろとゞいたのであらう、自宅うちうまものはいくらもべやうけれどおやのこしらいたはまた別物べつもの奧樣氣おくさまぎとりすてゝ今夜こんやむかしのおせきになつて
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
むかしある人当時有名な禅師に向って、どうしたら悟れましょうと聞いたら、猫が鼠をねらうようにさしゃれと答えたそうだ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
燈火ともしびもと書物しよもつらき、ひざいだきてせ、これは何時何時いつ/\むか何處どこくにに、甚樣じんさまのやうなつよひとありて、其時代そのときみかどそむきしぞくち、大功たいこうをなして此畫このゑ引上ひきあげところ
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
むかし鎌倉の宗演和尚に参して父母未生以前ふもみしょういぜん本来の面目はなんだと聞かれてがんと参ったぎりまだ本来の面目に御目おめかかった事のない門外漢である。
高浜虚子著『鶏頭』序 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それも其筈そのはずむかしをくれば系圖けいづまきのことながけれど、徳川とくがはながすゑつかたなみまだたぬ江戸時代えどじだいに、御用ごようそば取次とりつぎ長銘ながめいうつて、せきを八まん上坐じやうざめし青柳右京あをやぎうきやう三世さんぜまご
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
近江おうみの空を深く色どるこの森の、動かねば、そのかみの幹と、その上の枝が、幾重いくえ幾里につらなりて、むかしながらのみどりを年ごとに黒く畳むと見える。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)