)” の例文
親方は、一足はなれて、ほんとうにわたしの言ったとおりであるか、ためしてみようとした。かれは両手をさしべてへいにさわった。
横笛今は心を定め、ほとほととかどを音づるれども答なし。玉をべたらん如き纖腕しびるゝばかりに打敲うちたゝけども應ぜんはひも見えず。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
「但馬に救いを求めたらしいですな。僕はちっとも知らなかったが、倉橋君は彼のかみさんにも触手をばしていたんだそうですな」
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
むかし来た時とはまるで見当が違う。晩餐ばんさんを済まして、湯にって、へやへ帰って茶を飲んでいると、小女こおんなが来てとこべよかとう。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なにとして今日けふはとうなじばすこゝろおなおもてのおたか路次口ろじぐちかへりみつ家内かないのぞきつよしさまはどうでもお留守るすらしく御相談ごさうだんすることやまほどあるを
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それはまるつかまへほうびて四角しかくになつたかたちで、ちょっとむかしくちひろつぼせて、よこからたようなかたちをしてゐるものであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
しかし、時計屋とけいやなおしにやると、あとでほかに時計とけいがないので不自由ふじゆうなものですから、一にち、一にちびてしまうのでありました。
時計とよっちゃん (新字新仮名) / 小川未明(著)
りに幾分痩せたとすれば、僕の前途——未だ確定しない前途に對する心配の爲めです——僕の出發が、絶えずばされて行く爲めです。
いかにもはれるとほりで、その頭痛づつうのために出立しゆつたつばさうかとおもつてゐますが、どうしてなほしてくれられるつもりか。なに藥方やくはうでも御存ごぞんじか。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
二三本の赤い芥子けしの花を見せてやったさ、小供の心はすぐその花へ来た、小供は手をべてろうとしたが執れない、そこで
雨夜草紙 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
『まあよかった……。』そのときわたくしはそうおもいました。いよいよとなると、矢張やはりまだおくれがして、すこしでも時刻じこくばしたいのでした。
馬鹿ばかつてばかし所爲せゐからばかしびつちやつて、そんだがとれねえはうでもあんめえが、夏蕎麥なつそばとれるやうぢや世柄よがらよくねえつちから
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
寒中のは殊にすなほに挙るですが、此の位になると、さう無雑作にからだを見せず、矢張鯉などの様に、暫くは水底でこつ/\してるです。
元日の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
そしてたうたう手拭てぬぐひのひとあしこつちまでつて、あらんかぎりくびばしてふんふんいでゐましたが、にはかにはねあがつてげてきました。
鹿踊りのはじまり (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
緑の隧道トンネルの遥か彼方に大斜面スロープが延びていたがすなわち富士の山骨であって、大森林、大谿谷、谷川、飛瀑を孕みながら空へ空へとしている。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
要するに、予の半生はんせい将死しょうしの気力をし、ややこころよくその光陰こういんを送り、今なお残喘ざんぜんべ得たるは、しんに先生のたまものというべし。
戸倉老人は、かん高い声で叫ぶと、手をばそうとした。しかし手足は、椅子車に厳重にしばりつけられてあって、手を延ばすどころではない。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
今の真宗坊主が毛を少しばして当前あたりまえの断髪の真似をするようなけで、内実の医者坊主が半髪になって刀をして威張いばるのを嬉しがって居る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
一般には、とかく悪い意味に用うるも、文字より考えれば必ずしも悪い意味のみでなく、びひろがりしげる意味である。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「はつ‥‥」と、田中たなかはあわてて路上ろじやう腹這はらばひになつてばした。が、はなかなかとどかなかつた。手先てさき銃身じうしんとが何度なんど空間くうかん交錯かうさくつた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
あゝ、不吉ふきつうへにも不吉ふきつ賓人まれびとよ、わたくしこゝろ千分せんぶんいちでもおさつしになつたら、どうか奧樣おくさま日出雄樣ひでをさまたすけるとおもつて、今夜こんや御出帆ごしゆつぱんをおください。
ファットマンは、その長い強い鼻をぐいとべて、新吉のからだをふわりとちゅうで受け止めてしまったのです。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
しかし今前足を見ると、いや、——前足ばかりではありません。胸も、腹も、後足あとあしも、すらりと上品にびた尻尾しっぽも、みんな鍋底なべそこのようにまっ黒なのです。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
何分なにぶんをとこづくであつてれば、差當さしあた懷中ふところ都合つがふわるいから、ばしてくれろともへなからうではないか。
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それじきは、いろし、ちからをつけ、いのちぶ。ころもは、さむさをふせぎ、あつさえ、はぢをかくす。人にものをする人は、人のいろをまし、ちからをそへ、いのちぐなり。
ただ平安朝時代の貴族の廣いやかたのやうで、裏には古い塚の傍にこれはまた清らかな水を滿々と湛へた泉があつた。雜草はせいびて枯葉の中から生え上つてゐた。
草の中 (旧字旧仮名) / 横光利一(著)
老母あはれみて四四をさなき心をけ給はんや。左門よろこびにへず。母なる者常に我が孤独をうれふ。まことあることばを告げなば、よはひびなんにと、ともなひて家に帰る。
祭文語りからし上げて、両国の小屋持になった長次、今では親分とか親方とか言われて居りますが、根が根で、金の事となるとツイ悪党の地が出てしまいます。
今晩、東光院さんで淨瑠璃じやうるりがござりまんがな、んなら聽きにおでやしたら。……其のにおとこべときます。……素人しろうとはんだすけど、上手じやうずやちう評判だツせ。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
しかしユリの想像語原では、ユリのくきが高くびて重たげに花が咲き、それに風が当たるとその花がれるから、それでユリというのだ、といっていることがある。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
腰がびないほどうずいたけれ共、お金の思わくを察して、堪えて水仕事まで仕て居たけれ共、しまいには、眼の裏が燃える様に熱くて、手足はすくみ、頭の頂上てっぺんから
栄蔵の死 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「しかしじゃの道はへびです。忽ち看破かんぱされてしまって、っ引きならないところを取っ捉まりました」
冠婚葬祭博士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
つくづくと首し見れば、こちごちの濃霧こぎりのなびき、渓の森、端山の小襞こひだ黒ぐろとまだぶかきに、びようびようと猛ける遠吠、をりからの暁闇あかつきやみを続け射つ速弾はやだまの音。
なんでもここんところでもう一押しグンとして一儲けせんならんと申して、その秋はことに仕入れの方も踏ん張りますつもりで出掛けてまいったのでございました。
蒲団 (新字新仮名) / 橘外男(著)
其所そこで、入口いりくちると、其所そこ横幅よこはゞが九しやくすんある。それから突當つきあたりの奧壁おくかべまで一ぢやうしやくながさがある。奧壁おくかべところ横幅よこはゞは、入口いりくちよりすこしくびて一ぢやうしやくすんある。
そこに、けむったい主人夫婦の帰った後の、解放されたびやかな心持が、もくもく湧返わきかえって来た。
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
すなわちかれの快楽というのは電車の中の美しい姿と、美文新体詩を作ることで、社にいる間は、用事さえないと、原稿紙をべて、一生懸命に美しい文を書いている。
少女病 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
此処までしてしまつたのだが、かうなることゝ分つてゐたら外套を着て来ればよかつたのに、厚司あつしの下に毛糸のシヤツを着込んだだけでは、流石に寒さが身に沁みる。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そのくりむしかられたいとけて、ばしますと、木小屋きごやまへぢいやのからむかふのふるいけわき友伯父ともをぢさんのとゞくほどのながさがありました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
『百ねんてさうもかんでせうが、二十ねん其邊そこらびますよ。』ハヾトフはなぐさがほ。『なんんでもりませんさ、なあ同僚どうれう悲觀ひくわんももう大抵たいていになさるがいですぞ。』
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
長い間び延びになっていたのが、この一月程、何の変事も起らず、流石の悪魔も退散したかと思われる程無事な日が続いたので、ようやく約束を果す運びになったのである。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「でも皆さんがこゝろよくして下さいますから、一寸も気が置けませんで、んびりして用事でもして居りますのでございますよ。たゞ何かに鈍な私でございますから……」
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
しのぎを削つて、追ひつ追はれつ、入り乱れてゐる、電車線の一端が夕日に光つて、火にめられたやうに赤くなりながら、ずん/\森の中までしかゝつて来た、戸部線の電車が
亡びゆく森 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
それがふくれ上がりび広がり、やがて空一面まっ黒になって、ざあーっと大粒おおつぶの雨が降り出し、ごろごろと雷が鳴り始めた時、長者は庭のすみのあずまやの中に出ていきました。
雷神の珠 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
言いべのできるものは言い延べてしまった、月と月との間ぎわ少しのあいだのことだ。
去年 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「はてな……時分が時分だから、大抵はこの宿しゅくで納まるのに、あの侍たちは、まだ東へ了簡りょうけんと見える、イヤに急ぎ足で、あわてているが、ははあ、これもお差控さしひかれんだな……」
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
といって、むすめのふたおやは「よもや」をたのみにして、半時はんとき、一時間じかんばしていました。
しっぺい太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
婆やはふとった身体をもみまくられた。手の甲をはげしくこする釘のようなものを感じた。「あ痛いまあ」といって片手で痛みを押えながらも、び上って西山さんを見ようとした。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
少し間のびた顏をしてゐる者があツたら、突倒つきたふす、踏踣ふみのめす、噛付かみつく、かツぱらふ、うなる、わめく、慘たんたる惡戰あくせんだ。だからあせあかとが到處いたるところ充滿いつぱいになツてゐて、東京には塵埃ごみが多い。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
孜々ししとして東京市の風景を毀損きそんする事に勉めているが、幸にも雑草なるものあって焼野の如く木一本もない閑地にも緑柔き毛氈もうせんべ、月の光あってその上に露のたま刺繍ぬいとりをする。