躊躇ちうちよ)” の例文
「いえ信念しんねんさへあればだれでもさとれます」と宜道ぎだう躊躇ちうちよもなくこたへた。「法華ほつけかたまりが夢中むちゆう太鼓たいこたゝやうつて御覽ごらんなさい。 ...
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
伊勢屋新兵衞の顏には、一しゆん躊躇ちうちよの色が浮びましたが、思ひ定めた樣子でくわんの側に近づくと、暫く物も言はずに突つ立つて居りました。
盲人たちは信じかねて、躊躇ちうちよしながら、それでもそつと手を差出しました。そのてのひらへ、エミリアンは金貨を一枚づつのせてやりました。
エミリアンの旅 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
いまじつ非常ひじやう塲合ばあひである、非常ひじやう塲合ばあひには非常ひじやう决心けつしんえうするので、躊躇ちうちよしてれば、吾等われら一同いちどうはみす/\ひとこの山中さんちう
もうそら何處どこにかいきほひをひそめて躊躇ちうちよしてはずはる先立さきだつて一取返とりかへさうとするものゝごとさわいで/\またさわぐのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
おやないだが、成長せいてうしたらアノとほりの獰惡振だうあくぶりを相續さうぞくするにちがひない、環境かんけうつみだいつそうちつてやらうかとおもつて、また躊躇ちうちよした。
ねこ (旧字旧仮名) / 北村兼子(著)
然れどもし夫れ、彼にありて極めて高潔、極めて荘重なる事業と認むべき者あらば、吾人は邦と邦との隔離を遺忘するに躊躇ちうちよせざるなり。
一種の攘夷思想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
彼女は一度引き合はされると、もう兄の部屋に何の躊躇ちうちよもなく入つて来て、まだ知り合ひになつて日の浅い和作に宿題の手助けを頼んだりした。
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
容易ならぬことの一語に、危殆きたいの念愈々いよ/\高まれる大和は、躊躇ちうちよする梅子の様子に、必定ひつぢやう何等の秘密あらんと覚りつ、篠田を一瞥いちべつして起たんとす
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
(上のかたより權三はぶら/\出で來り、この體をみて少し躊躇ちうちよし、やがて拔足をして家のうしろを廻り、下のかたの柳の下に立つて聽いてゐる。)
権三と助十 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
彼はつるべを落す手を躊躇ちうちよせずには居られない。それをのぞき込んで居るうちに、彼の気分は井戸水のやうに落着いた。
だから露西亜の俘虜は何時でも借金だらけで「霊魂たましひ」が抵当かたになるものなら、書入れに少しの躊躇ちうちよもしないが
教会内けふくわいない偽善者ぎぜんしや潜伏せんぷくし居るを知りながらその破壊はくわいおそれて之を排除はいぢよし得ざるものなり、教会けうくわい独立どくりつとなへながら世の賛同さんどうを得ざるが故に躊躇ちうちよ遁逃とんとうするものなり
時事雑評二三 (新字旧仮名) / 内村鑑三(著)
二人ふたりは、くがごと他界たかいであるのをしんずるとともに、双六すごろくかけいやうへにも、意味いみふかいものにつたことよろこんだ……勿論もちろんたに分入わけいるにいて躊躇ちうちよたり
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
花の咲く時分になつてから、陽気が又後戻りして来て、咲きさうにしてゐた花を暫し躊躇ちうちよさせてゐたが、一両日の生温なまぬるい暖かさで、それが一時に咲きそろつた。
花が咲く (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
人の世の言葉や、思想は、の神秘的、具象的事相の万一をだに彷彿はうふつせしめがたき概あるにあらずや。吾れれを思うて、幾たびか躊躇ちうちよし、幾たびか沮喪そさうせり。
予が見神の実験 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
何うしようかと躊躇ちうちよはしたんだが、だん/\と事情が迫つては来る、一応——三四日しておせいはまた下宿に逃げて来たのだ——で彼女の言ひ分も確めたいと思ひ
椎の若葉 (新字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
あたかも渓流の大海だいかいに向つて流れ出づるが如く、日夜都会に向つて身を投ずるのを躊躇ちうちよしないのであつた。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
人肉をくらうて腹鼓然こぜんたらば、汝の父母妻子を始め、隣人を愛するに躊躇ちうちよすることなかれ。そののちに尚余力あらば、風景を愛し、芸術を愛し、万般の学問を愛すべし。
然し、蓮太郎は篤志な知己として丑松のことを考へて居るばかり、同じ素性の青年とは夢にも思はなかつた。丑松もまた、其秘密ばかりは言ふことを躊躇ちうちよして居る。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
われに示すにハルトマンが審美學のうちにて我が假借し來れる部分を打ちこはすに足るべき無理想の審美學を以てせよ。われは頃刻も躊躇ちうちよせずして無理想派にくみすべし。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
ものべたくなつたときには、何時いつ躊躇ちうちよしながら咳拂せきばらひして、さうして下女げぢよに、ちやでもみたいものだとか、めしにしたいものだとかふのがつねである、其故それゆゑ會計係くわいけいがゝりむかつても
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
先生のみか世人よのひとおどろかすもやすかるべしと、門外もんぐわい躊躇ちうちよしてつひにらず、みちひきかへて百花園くわゑんへとおもむきぬ、しん梅屋敷うめやしき花園くわゑんは梅のさかりなり、御大祭日ごたいさいびなれば群集ぐんしふ其筈そのはずことながら
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
いよ/\ラマ塔の入口に来ると、さすがに勇気のある姫もちよつと躊躇ちうちよしました。
ラマ塔の秘密 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
返事も滅多に出さなかつたので、近頃妹の音信たよりもずゐぶん遠退いてゐた。圭一郎は今も衝動的に腫物はれものに觸るやうな氣持に襲はれて開封ひらくことを躊躇ちうちよしたが、と言つて見ないではすまされない。
業苦 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
松波荘九郎まつなみさうくらうといふ者、武者修行として、稀〻、蜂須賀邑に到、日暮れ宿を求むるも応ずるものなし、小六正和、その居宅の檐下のきした躊躇ちうちよせるを怪しみて故を問ひ、艱難相救ふは、武士の常情なり
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「待ちねえ……。」と嘉吉は此所で一寸躊躇ちうちよして考へ込む風をした。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
躊躇ちうちよして、見切場みきりば
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
八五郎が馬のやうに丈夫なことは、平次も知り拔いて居りますが、もう戌刻いつゝ過ぎの時刻を考へて、平次も少し躊躇ちうちよしたやうです。
たれおも怪我人けがにんはこばれたのだと勘次かんじぐにさとつてさうしてなんだか悚然ぞつとした。かれ業々げふ/\しい自分じぶん扮裝いでたちぢて躊躇ちうちよしつゝ案内あんないうた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
渠はすべてのものを蔑視したるなるべし、浄海も渠を怖れしめず、政権も渠を懸念せしめず、己れの本心も渠を躊躇ちうちよせしむるところなく、激発暴進
心機妙変を論ず (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
だがわたしはこの御返答には躊躇ちうちよしたのだ。娘は現に神経衰弱を起してゐる。これは親の手許てもとなほさねばならない。
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
其時まで、丑松は細君に話したいと思ふことがあつて、其を言ふ機会も無く躊躇ちうちよして居たのであるが、斯うして酒が始つて見ると、何時いつ是地主が帰つて行くか解らない。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
左舷さげん當番たうばん水夫すゐふおにじやか、つてらぬかほそのこゝろわからぬが、いま瞬間しゆんかん躊躇ちうちよすべき塲合ばあいでないとかんがへたので、わたくし一散いつさんはしつて、船橋せんけう下部したなる船長室せんちやうしつドーアたゝいた。
「それは可いんですけれど、何だか悪いですわね。」たえ子は躊躇ちうちよ気味で自嘲的に言つた。
復讐 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
若い者はわたくしの店に入るのを見て、「入らつしやい」の聲を發することを躊躇ちうちよした。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
左様さうであつたとのことですナ」と篠田は首肯うなづき「しからば君、少しもはばかる所は無い、すみやか彼女かれを濁流より救ひ出だして、其愛情を全うするがいと、忠告致しました、所が彼は躊躇ちうちよして、 ...
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
或は、どう答へても、結局、莫迦ばかにされさうな気さへする。彼は躊躇ちうちよした。
芋粥 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
一緒に行くことを躊躇ちうちよしましたが、道案内が、か弱い女のことですから、何でもなからうと安心してその女について海岸まで参りますと、そこには別に一疋のもつと大きな竜の駒がをりまして
竜宮の犬 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
わたしがものをいて、返事へんじ躊躇ちうちよをなすつたのは此時このときばかりで、また、それはいぬしゝだとか、おほかみだとか、きつねだとか、頬白ほゝじろだとか、山雀やまがらだとか、鮟鱇あんかうだとかさばだとか、うぢだとか、毛虫けむしだとか、くさだとか
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
小六ころくちやすこ躊躇ちうちよしてゐたが、あにからまた二聲ふたこゑほどつゞけざまにおほきなこゑけられたので、やむひく返事へんじをして、ふすまからかほした。其顏そのかほ酒氣しゆきのまだめないあかいろふちびてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
しばらく入口で躊躇ちうちよした末、八五郎にうながされて、大輪の白百合のやうな感じのする若い娘が、一陣の薫風くんぷうと共に入つて來ました。
不審ふしんおもつて躊躇ちうちよしてると突然とつぜんまへ對岸たいがん松林まつばやし陰翳かげからしろひかつてみづうへへさきふねあらはれた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
醉漢すいかんありて酒毒しゆどくため神經しんけい錯亂さくらんせられ、これがため自殺じさつするにいたりたることあるときは、彼は酒故に自殺したりとふを躊躇ちうちよせざるべし、酒は即ち自殺の原因なり。
「罪と罰」の殺人罪 (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
主人は何だか話がわかつたやうな気がした。彼は、二人きりで話し合つてゐる恋人同士の邪魔をしたかのやうに躊躇ちうちよした。自分の異分子な事を感じた。引返さうと考へた。
姉弟と新聞配達 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
無論むろん躊躇ちうちよする必要ひつえうはない、海底戰鬪艇かいていせんとうていも、今日けふから十日目かめ紀元節きげんせつ當日たうじつには、試運轉式しうんてんしきおこなひ、其後そのゝち一週間いつしゆうかん以内いないには、すべての凖備じゆんびをはつて、本島ほんとう出發しゆつぱつする豫定よていだから
「上つても可いんですか。」彼女はちよつと気がひけたやうに入口で躊躇ちうちよしてゐた。
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
博士は其時笑つて、そんなら其久松ひさまつを連れてよめに来ればいと云つた事もある。併し事実問題になると、博士は躊躇ちうちよすることを免れない。博士は自ら解して、かう云つてゐる。なに。
魔睡 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
丑松は何か思出したやうに慄へて、話さうか、話すまいか、と暫時しばらく躊躇ちうちよする様子にも見えたが、あまり二人が熱心に自分の顔を熟視みまもるので、つい/\打明けずには居られなく成つて来た。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
いさゝ躊躇ちうちよせる梅子は、思ひ返へしてホヽと打ち笑み
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)