瞬間しゆんかん)” の例文
おつぎがいそがしくどさりとうすおとしたふかしからぼうつとしろ蒸氣ゆげつた。蒸氣ゆげなかつきが一瞬間しゆんかんしかめてすぐにつやゝかな姿すがたつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
そのちゝと子の心と心とが歔欷きよきの中にぴつたり抱き合ふ瞬間しゆんかん作者さくしやの筆には、恐ろしい程眞實しんじつあい發露はつろするどゑがき出してゐるではありませんか。
三作家に就ての感想 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
『それ發射はつしや!。』とわたくしさけ瞬間しゆんかん日出雄少年ひでをせうねんすかさず三發さんぱつまで小銃せうじう發射はつしやしたが、猛狒ゴリラ平氣へいきだ。武村兵曹たけむらへいそうおほいいかつて
その瞬間しゆんかん、思はず幽霊ぢやないか! と思つて、仰天の叫び声を挙げた程だつたが、あれは実際生きた人間そのまゝの風情だ——婦人連の面あてに
夜の奇蹟 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
同時に非常な疲労つかれを感じた。制帽せいぼうかぶつたひたひのみならず汗ははかまをはいた帯のまはりまでしみ出してゐた。しかしもう一瞬間しゆんかんとても休む気にはならない。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
もなく、K夫人ふじんあひだうすまけて吃驚びつくりした。瞬間しゆんかん自殺じさつかと狼狽らうばいしたほど彼女かのぢよ多量たりやう咯血かくけつなかにのめつてゐた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
べうすなりふ幾億萬年いくおくまんねんのちには、大陸たいりくひたつくさうとするところみづで、いまも、瞬間しゆんかんのちも、咄嗟とつさのさきも、まさしかなすべくはたらいてるのであるが
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
口をあけかかつた瞬間しゆんかん、平次の冷たい眼にであふと、急にどなる元気がなくなつて、「もういいからあつちへ行け。」と相手に不機嫌ふきげんさうにいふのでありました。
鳥右ヱ門諸国をめぐる (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
とつてかへしてたすさうとするうち主要動しゆようどうのために家屋かおく崩壞ほうかいはじめたので、東湖とうこ突差とつさ母堂ぼどう屋外おくがいはうした瞬間しゆんかん家屋かおくまつた先生せんせい壓伏あつぷくしてしまつたが
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
ちらりと、——えたとおも瞬間しゆんかんには、もうえなくなつたのですが、ひとつにはそのためもあつたのでせう、わたしにはあのをんなかほが、女菩薩によぼさつのやうにえたのです。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
昔から釘附くぎつけに為てあると計り思つて居た内陣と本堂との区劃しきりの戸を開けると云ふ事は、すくなからず小供の好奇かうきの心を躍らせたが、愈々いよ/\左から三枚目の戸に手を掛ける瞬間しゆんかん
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
熊野くまのやまめぐりをしたときうたですが、おきとほはなれてうかんでゐるとりのようなふね、それがいま、そこにをつたかとおもふと、瞬間しゆんかんおよばないとほいところにかけつてつてゐることよ。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
それをきみきながら一瞬間しゆんかんきみぼくのことをおもつてくれた記録きろくがあるやうで、ぼくにはそれがへんにうれしい。ハガキだからけふはこれだけ。そのうちきみててもつとながかうよ。
「三つの宝」序に代へて (旧字旧仮名) / 佐藤春夫(著)
さうして其考そのかんがへはたゞ瞬間しゆんかんにしてえた。昨日きのふんだ書中しよちゆううつくしい鹿しかむれが、自分じぶんそばとほつてつたやうにかれにはえた。此度こんど農婦ひやくしやうをんな書留かきとめ郵便いうびんつて、れを自分じぶん突出つきだした。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
乾燥かんさうした藁束わらたば周圍しうゐねぶつて、さらそのほのほ薄闇うすぐらいへうちからのがれようとして屋根裏やねうらうた。それが迅速じんそくちから瞬間しゆんかん活動くわつどうであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
何分なんぷんつた。突然とつぜん一人ひとり兵士へいしわたしからだひだりからたふれかかつた。わたしははつとしてひらいた。その瞬間しゆんかんわたしひだりほほなにかにやとほどげられた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
左舷さげん當番たうばん水夫すゐふおにじやか、つてらぬかほそのこゝろわからぬが、いま瞬間しゆんかん躊躇ちうちよすべき塲合ばあいでないとかんがへたので、わたくし一散いつさんはしつて、船橋せんけう下部したなる船長室せんちやうしつドーアたゝいた。
それが汽車きしやとほるのをあふながら、一せいげるがはやいか、いたいけなのどたからせて、なんとも意味いみわからない喊聲かんせいを一しやう懸命けんめいほとばしらせた。するとその瞬間しゆんかんである。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
れた樹木じゆもくかわいた石垣いしがきよごれた瓦屋根かはらやね、目にるものはこと/″\せた寒い色をしてるので、芝居しばゐを出てから一瞬間しゆんかんとても消失きえうせない清心せいしん十六夜いざよひ華美はでやかな姿すがた記憶きおく
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
しづかな、おだやかな日中ひなかしよして、猶且なほか暴風ばうふうまれ、らるゝ、瞬間しゆんかんおもむきあり。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
かれたゞなみだがこみあげてもなくかなしくさうしてしみ/″\とつゞけた。勘次かんじはそれをいた瞬間しゆんかんかた唐鍬たうぐはころがしてぶつりとつちつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
が、この出來事できごとわたし眠氣ねむけ瞬間しゆんかんましてしまつた。やみなか見透みすかすと、人家じんか燈灯ともしびはもうえなくなつてゐた。Fまち夢中むちうとほぎてしまつたのだつた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
『おー。矢張やつぱり左樣さうだつた! あの巡洋艦じゆんやうかんのガーフのはたは、帝國ていこく軍艦旗ぐんかんきであつた※。』と、かれは、いましも、輕氣球けいきゝゆうから墮落ついらく瞬間しゆんかんに、ちらりとみとめたおな模樣もやう海軍旗かいぐんき
講和問題かうわもんだい新婦しんぷ新郎しんらう涜職事件とくしよくじけん死亡廣告しばうくわうこく——わたくし隧道トンネルへはひつた一瞬間しゆんかん汽車きしやはしつてゐる方向はうかうぎやくになつたやうな錯覺さくかくかんじながら、それらの索漠さくばくとした記事きじから記事きじほとんど
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
長吉ちやうきちは「まだ」と答へるのが瞬間しゆんかん男のはぢであるやうな気がして黙つた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
飛乘とびの瞬間しゆんかんかほは、あへくち海鼠なまこふくんだやうであつた。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「おい、ちやああぶないぞ‥‥」と、わたし度毎たびごとにハラハラしてかれ脊中せなかたたけた。が、瞬間しゆんかんにひよいといて足元あしもとかためるだけで、またぐにひよろつきすのであつた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
下人は、それらの屍骸の腐爛ふらんした臭氣に思はず、はなを掩つた。しかし、その手は、次の瞬間しゆんかんには、もう鼻を掩ふ事を忘れてゐた。或る強い感情かんじやうが、殆悉この男の嗅覺を奪つてしまつたからである。
羅生門 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
こんなことまをげると、きつとわたしはあなたがたより殘酷ざんこく人間にんげんえるでせう。しかしそれはあなたがたが、あのをんなかほないからです。ことにその一瞬間しゆんかんの、えるやうなひとみないからです。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)