くせ)” の例文
「猿のくせにお城に居るなんて生意気だ。これから攻め寄せてお城を取って、手向いをする奴は片っ端から喰ってしまおうではないか」
猿小僧 (新字新仮名) / 夢野久作萠円山人(著)
その頃、崖邸のおじょうさんと呼ばれていた真佐子は、あまり目立たない少女だった。無口で俯向うつむがちで、くせにはよく片唇かたくちびるんでいた。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それから鉄砲打ちが何か云ったら、『なんだ、かしわの木の皮もまぜておいたくせに、一俵二テールだなんて、あんまり無法なことを云うな。』
毒もみのすきな署長さん (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
うしろから吹きつける風にあおられて身体ぐるみちゅうに浮いたまま、二三歩前へよろけてから、やっとみとどまるくせがついてしまった。
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
叩くとき、それ/″\のくせがあるものだ、三つづつ叩く人と、二つづつ叩く人と、四つづつ叩く人と、二つと三つかはる/″\叩く人と
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
二人の相撲すもうは力を入れ、むきになっているくせに、時々いかにもこそばゆいという風に身悶みもだえしてキャッキャッと笑い興じていました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
だまれ! をひくせ伯父樣をぢさまめかけねらふ。愈々いよ/\もつ不埒ふらちやつだ。なめくぢをせんじてまして、追放おつぱなさうとおもうたが、いてはゆるさぬわ。
麦搗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あるひは娘共むすめども仰向あふむけてゐる時分じぶんに、うへから無上むしゃう壓迫おさへつけて、つい忍耐がまんするくせけ、なんなく強者つはものにしてのくるも彼奴きゃつわざ乃至ないしは……
せんこくから見物けんぶつのなかで、おれのことを小僧こぞう小僧こぞうといっているようだが、大人おとなくせにガアガアいうほうが、よッぽどみッともないや。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おほかぶさつてるまゆ山羊やぎのやうで、あかはな佛頂面ぶつちやうづらたかくはないがせて節塊立ふしくれだつて、何處どこにかう一くせありさうなをとこ
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
どうにも仕方しかたがありませんでした。それでみな相談そうだんして、そのくせむまでしばらくのあいだ、王子を広いにわじこめることになりました。
強い賢い王様の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
やつ身體からだいたくせ親父おやぢらすまいとしてはたらいてた、れをたられはくちけなかつた、をとこくてへのは可笑をかしいではいか
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
むかしからくせがついているせいか炬燵こたつや湯たんぽばかりではたよりないといいますとそんなえんりょをしてくれないでもようござります
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
深山木幸吉のいやなくせの思わせぶりに、いい気になってひきずられている様子を見て、きっとじれったく思っていらっしゃることでしょう。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「ええ、馬鹿ばかつくせえ。なんとでもなるやうになれだ」と、途中とちうで、あらうことかあるまいことかをんなくせに、酒屋さかやへそのあしではいりました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
二返行つても、三返行つても、三千代はたゞ御茶をつてる丈であつた。其くせ狭いうちだから、となりへやにゐるより外はなかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
本当に、本当に、チビのくせに、根だけは一人前に張っているのね。高邁な瞑想だなんて、とんでもない奴さ。知らん振りしてやりましょう。
失敗園 (新字新仮名) / 太宰治(著)
片足でケンケンしているような危なッかしさに、自分自身に腹たてながら、そのくせ、昨日たてたプランも今日は跡方あとかたもなく見失ってしまう。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
そのくせ桜は痩せ枯れた枝に、乏しい花しかつけていなかった。私はこの時両先生が、何故こんなに大喜びをするのか、内心妙に思っていた。
上海游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
まだくせまないかと一はらたててもたりあきれもしたりしたが、しか何處どこといつて庇護かばつてくれるものがいのでうしてるのだと
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
此奴こやつ、たびたびらんところに現れるくせがある。以後そのようなことのないように、ここでこの世から吹ッ消してしまうからそう思え!」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
だが、無ろんたがひけうひそかに「なアにおれの方が……」とおもつてゐる事は、それが將棋せうきをたしなむ者のくせで御多分にれざる所。
其時そのとき日本帝國にほんていこく』から何程なにほど利益りえき保護ほごとをけてゐるのかとはれたら、返事へんじには當惑たうわくするほどのミジメな貧乏生活びんばふせいくわつおくつてゐたくせに。
そのくせ、電動推進機には、いつも全速力がかかっていた。夜間になると、時々ポカリと水面に浮かんだが、それも極く短時間に限られていた。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
支那シナ聯句れんくはもとよりのこと、俳諧でも談林派の時代までは、これをただ言葉の続きがらのように、考えるくせが止まなかった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
元来がんらいわたくしなみだもろいおんないまでもくせがとまりませぬが、しかしあのときほどわたくしがつづけざまにいたこともなかったようにおぼえてります。
「はやく、右手みぎてくせをつけなければ。」と、ごはんのときに、とりわけやかましくいわれました。すると、おとうさんが
左ぎっちょの正ちゃん (新字新仮名) / 小川未明(著)
そうか、やはり五番がいいかねと、五番の馬がスタートでひどく出遅れるくせがあるのを忘れて、それを買ってしまうのだ。
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
むしろ「鯨のいた汐が雨となつた」と言ひはなす方よろしかるべく候。この人往々この種の句をはさんで雄壮なる歌をだいなしにするくせ有之候。
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
日本につぽん古代こだい人々ひと/″\は、かういふふうに、一首いつしゆうたについても、なにかみこゝろあるひは、さとしがふくまれてゐるのだ、といふかんがくせつてゐました。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
クリストフはいつもよるよく眠れないで、夜の間に昼間ひるま出来事できごとを思いかえしてみるくせがあって、そんな時に、小父おじはたいへん親切しんせつな人だと考え
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
校長先生始め先生方に嚴格な監視かんしをしていたゞき、就中、この子の一番惡いくせうそをつくことを防いでいたゞけますなら、私は嬉しいんですが。
百姓の鼻たれっ児の子守だったくせにさ。だが行きたくなきゃ無理にお願いしないよ。お前が行かなくったってこっちはちっとも困りゃしないよ。
と病中の無聊ぶりょうにかかる研究心を起せしと見ゆ。中川は何事にも一応の理窟りくつを組立つるくせあり「イヤ、食合せの禁忌きんきという事は必ずあるべき事だ。 ...
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
とうさんの幼少ちひさ時分じぶんには、おあしといふものをたせられませんでしたから、それがくせになつて、おあし子供こどもつものでないとおもつてましたし
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
そうすりゃあいつは、ぼくがこんなにみっともないくせして自分達じぶんたちそばるなんて失敬しっけいだってぼくころすにちがいない。だけど、そのほうがいいんだ。
見るに一くせあるべき顏形かほかたちなれば如何にもして此者と立ち別れんと漸々やう/\野尻宿迄來り近江屋與惣次よそうじと言ふ旅籠屋へとまりける
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そのくせ、どの道の上でも、私の見たことのない新しい別荘のかげに、一むれの灌木が、私の忘れていた少年時の一部分のように、私を待ちせていた。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
これもそのはずであって、むかしは堅苦かたくるしき文字をりて、聖人せいじんにも凡人ぼんじんにも共通なる考えを言い現すくせがあった。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
そのくせ、表の往来はふだんの通りににぎやかいんですが、誰もこゝの店へ這入つて来るものが無い、みんな素通りです。
赤い杭 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
その最もはなはだしい時に、自分は悪いくせで、女だてらに、少しガサツなところの有る性分しょうぶんか知らぬが、ツイあらい物言いもするが、夫はいよいよおこるとなると
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そうして、しまったと云いながら、(そのくせ森君はニヤニヤ笑っていた)急いで下に降りて縁の下に潜り込んだ。
贋紙幣事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
だん/\その忘れるくせめ直して、心を落着け、恐れ多いことですが、べてただしき御心のまゝに治めていらつしやる御神みかみの見まへと思つて万事する様にしたら
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
見かけだけは肥って居るので、他人からは非常に頑健に思われながら、そのくせ内臓と云う内臓が人並以下に脆弱ぜいじゃくであることは、自分自身が一番よく知って居た。
マスク (新字新仮名) / 菊池寛(著)
中屋なかやまっつあんなどはどうだらうといへば、兼吉はさびしくほほと笑ひ、あんまり未練がなさ過ぎるか知れませねど、腹にあるだけ言つてしまひたいのは私のくせ
そめちがへ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「子供のくせして、変に気を廻すもんじゃないわよ。伸ちやんを幸福にして上げたいと思うからこそ、わたし、こうして徹夜までして働いているんじゃないの?」
秘密の風景画 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
シューラはいつも不機嫌ふきげんな時によくするくせで、ちょっと顔をしかめながら、さもしゃくだというような調子ちょうし
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
『いえ、あなたは、わたしといふをんなが、あなたの足手纒あしてまとひになる厄介やくかいをんなだとおもつて、そのくせいままで……』
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
そのくせ今の貴様とか何とかう上士族の子弟と学校にいって、読書会読かいどくと云うような事になれば、何時いつでも此方こっちが勝つ。学問ばかりでない、腕力でも負けはしない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
あるひみぎのような積極的動作せききよくてきどうさかはりに、噴氣ふんきあるひ噴煙ふんえん突然とつぜんやむような消極的しようきよくてき前徴ぜんちようしめすものもあり、また氣壓きあつ變動へんどうとく低壓ていあつさいおこくせのあるものもあるから
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)