なほ)” の例文
予等は旅中りよちうの見聞記を毎月幾回か東京朝日新聞に寄せねばならぬ義務があつた。なほ晶子は雑誌婦人画報などに寄稿する前約ぜんやくがあつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
その代り空の月の色は前よりもなほ白くなつて、休みない往来の人通りの上には、もう気の早い蝙蝠かうもりが二三匹ひらひら舞つてゐました。
杜子春 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そつともとのやうに書物のあひだに収めて、なほもそのへんの一冊々々を何心なにごゝろもなくあさつてくと、今度は思ひがけない一通の手紙に行当ゆきあたつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
けだし冥々めい/\には年月をおかずときけば百年もなほ一日の如くなるべし。(菅公の神灵にるゐする事和漢に多し、さのみはとこゝにもらせり。)
聞て狂氣きやうきの如くかなしみしかども又詮方せんかたも非ざれば無念ながらも甲斐かひなき日をぞ送りける其長庵は心の内の悦び大方ならずなほ種々さま/″\と辯舌を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
斯う云ふ記憶法でありますが、是れなどをなほ研究したならば、教へる方法は今日よりも一層完全に出來得るかと思ふのであります。
仮名遣意見 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
しかなほこれは眞直まつすぐ眞四角ましかくきつたもので、およそかゝかく材木ざいもくようといふには、そまが八にん五日いつかあまりもかゝらねばならぬとく。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
しかはあれ、人もしわれらのふみ一枚ひとひらまた一枚としらべなば、我はありし昔のまゝなりとしるさるゝ紙の今なほあるを見む 一二一—一二三
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
花もなかばは散り過ぎて、二六五鶯の声もやや流るめれど、なほよきかた二六六しるべし侍らんとて、夕食ゆふげいと清くして食はせける。
宿やどじつとしてゐるのは、なほ退屈たいくつであつた。宗助そうすけ匆々そう/\また宿やど浴衣ゆかたてゝ、しぼりの三尺さんじやくとも欄干らんかんけて、興津おきつつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
フランチエスカ夫人は面に微笑を浮べて客に接し給へど、その良心のまことに平なるにあらざるをば、われなほ能くこれを知れり。
上件ハ唯、大兄ばかりニ内〻申上候事なれバ、余の論を以て、樋口真吉及其他の吏〻ニもママ御申聞(なされ)候時ハ、なほ幸の事ニ候。不一
たゞ宿酔しゆくすゐなほ残つて眼の中がむづゝく人もあらば、羅山が詩にした大河の水ほど淡いものだから、かへつて胃熱を洗ふぐらゐのことはあらうか。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
おや/\とおもひながら、なほねんれてつちつてると、把手とつての一のみけて完全くわんぜんなる土瓶どびんであつた。(第三圖イ參照)
なほ又、駄菓子屋の店先に並んだ番重の中から有平糖あるへいたうを盗み取る常習犯であつたことまで数へ立てて、私を、ぬすツと、と言つて触れ廻つた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
わが十年の約は軽々かろがろしく破るべきにあらず、なほ謂無いはれなきは、一人娘をいだしてせしめんとするなり。たはむるるにはあらずや、心狂へるにはあらずや。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
死はいかなる敵をも和睦わぼくさせると言ふではないか。であるのに、死んだ後までもなほその死骸を葬るのを拒むとは、何たる情ない心であらう。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
わたくし默然もくねんとして、なほ其處そこ見詰みつめてると、暫時しばらくしてその不思議ふしぎなる岩陰いわかげから、昨日きのふ一昨日おとゝひいた、てつひゞきおこつてた。
ひと無茶苦茶に後世を呼ぶは、なほ救け舟を呼ぶが如し。身のなかばはや葬られんとするに当りて、せつぱつまりて出づる声なり。
青眼白頭 (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
読んでお夏が「我もむろで育ちし故、母方が悪いの、傾城けいせいの風があるのとて、何処の嫁にも嫌はるゝ、これぞい事幸ひと、なほ女郎の風を似せ」
「歌念仏」を読みて (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
あはれ果敢はかなき塵塚ちりづかうちに運命を持てりとも、きたなきよごれはかふむらじと思へる身の、なほ何所いづこにか悪魔のひそみて、あやなき物をも思はするよ。
軒もる月 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
なほそのおろかなはゝたいしてそゝぎるだらうか? あゝしもさうだとしたならば——? 彼女かのぢよはたゞ子供こどものために無慾むよく無反省むはんせい愛情あいじやうのために
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
日本に居てなほ不足がましく歎息などをしてゐる自分を見出して愧ぢた。冬と云ふのにこの冴えた瑠璃色の空はどうであらう。
註釈与謝野寛全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
実際、父が丑松に対する時は、厳格を通り越して、残酷な位であつた。亡くなつた後までも、なほ丑松は父をおそれたのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
其の様を見るに三尺児といへどなほ弁ずべきを、頑然首を差伸べて来る。古狸たくみに人をたぶらかし、其極終に昼出て児童の獲となること、古今の笑談なり。
「えゝから、れつきりぢやきかねえのがんだから」勘次かんじはおつぎを呶鳴どなりつけた。かれさらふくろ蕎麥粉そばこをけけてしまつてなほぶつ/\してた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
なほ此後こののちもこれにつくさんのれうにせまほしとておのれにそのよしはしかきしてよとこはれぬかゝるかたこゝろふかうものしたまへるを
うもれ木:01 序 (旧字旧仮名) / 田辺竜子(著)
それだからなほ、逢はす事は出来んのだ。女が一旦とつぐ事にきめた家を出るといふのは、これはよく/\なのだ。そこを君も考へてくれんければ困る。
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
ほのほしたをくゞるときは、手拭てぬぐひにて頭部とうぶおほふこと。手拭てぬぐひれてゐればなほよく、座蒲團ざぶとんみづひたしたものはさらによし。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
その中のどれでも差支さしつかへがなく、二つ一緒ならなほいとさへ思つてゐるらしかつたが、桂田氏の電報には思ひがけなく「文部ときめよ」と書いてあつた。
本能的な愛などはなほさら感じ得ませんでした。そして私は自分の腕一本切つて罪となつた人を聞いた事がありません
獄中の女より男に (新字旧仮名) / 原田皐月(著)
彼時に五十一、英気堂々なほ屈する所なき也。而して健康は彼の雄心に伴はず、病は突然彼をして永く黙せしめたり。
頼襄を論ず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
親しましめ、相抱かしめ、一茎の草花、一片の新葉に対するも、なほ彼が其子女に対するが如き懸念と熱心と愛情とを起すに至らしめたるにはあらざるか。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
頼家 いや、なほかさねて主人あるじに所望がある。この娘を予が手許に召仕ひたう存ずるが、奉公さする心はないか。
修禅寺物語 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
かくかれ醫科大學いくわだいがく卒業そつげふして司祭しさいしよくにはかなかつた。さうして醫者いしやとしてつるはじめにおいても、なほ今日こんにちごと別段べつだん宗教家しゆうけうからしいところすくなかつた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
我輩わがはい建築けんちくもつと重要ぢうえうなる一れいすなは住家ぢうかとつこれかんがへてるに「ぢうなほしよくごとし」とかんがある。
建築の本義 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
松さんや他の下男に命じて、栄蔵を探させるだらう。それでもなほ、栄蔵は見つからない。何しろ栄蔵は鰈になつて、その上鰐ざめにはれてしまつたのだから。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
うへなうあま蜂蜜はちみつ旨過うますぎていやらしく、うてようといふにぶる。ぢゃによって、こひほどよう。ほどよいこひながつゞく、はやきにぐるはなほおそきにぐるがごとしぢゃ。
画工はまたあらかじ其心そのこころして、我を伴ひりぬ。先づ蝋燭一つともし、一つをばなほころものかくしの中にたくはへおき、一巻ひとまきいとの端を入口に結びつけ、さて我手を引きて進み入りぬ。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
人夫等岩崖をおほいで唯まゆひそむるあるのみ、心は即ち帰途にくにあればなり、此に於て余等数人奮発ふんぱつ一番、先づ嶮崖けんがい攀登はんとうして其のぼるを得べき事をしめす、人夫等なほがへんぜず
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
... 一国をさゝでは此哥このうたにかなはず、次下に、三輪山の事を綜麻形と書なせし事など相似たるに依ても、なほ上の訓を取るべし」とあり、なお真淵は、「こは荷田大人かだのうしのひめうた也。 ...
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
雪の奇状きじやう奇事きじ大概たいがいは初編にいだせり。なほ軼事てつじあるを以此二編にしるす。すでに初編にのせたるも事のことなるは不舎すてずしてこれろくす。けだし刊本かんほん流伝りうでんひろきものゆゑ、初編をよまざるものためにするのあり。
其の生涯の孤獨といふ考にはこゝろから同情どうじやうしながらも、なほ他に良策りやうさくがあるやうに思はれてならなかツた。少くとも自分だけは、もう些ツとあたたかな、生涯を送りたいやうな氣がしてならなかツた。
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
ことばもあやし、殊に日足もたけぬと見ゆ、雨なほそぼ降りて、けしきも心細し、さのみ行きいそぐべきにもあらず、人里に遠ざかりなばせんかたもあるまじ、なほくはしく尋ね問ひて鬼のこと言はば
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
父母に伴はれてエルサレムよりの帰るさ、弟子を伴ふてユダヤよりの帰途、基督きりすとは如何に其なつかしき、つれなき程なほなつかしき其ふるさとをば眺め玉ひけむ。おゝあれがナザレか、近いかなナザレ。
「そんならなほ悪いよ。そんな態度は享楽主義も初期ぢやないか。」
良友悪友 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
もつとも最初から逃げ出さなきやなほ良いが、そこが凡夫ぼんぷの悲しさだ
なほ行末々ゆくすえずえたがふまじと誓ひて過ぎたまふ。急々如律令きゅうきゅうにょりつりょう敬白けいはく
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
兄はなほ一碗の茶を喫すると、腰を上げてから
曠日 (新字旧仮名) / 佐佐木茂索(著)
と云つたものゝなほ気の毒そうに眺めてゐた
夜汽車 (新字旧仮名) / 尾崎放哉(著)