あや)” の例文
勿論実際は日本一かどうか、そんなことは彼にもあやしかったのである。けれども犬は黍団子と聞くと、たちまち彼の側へ歩み寄った。
桃太郎 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「——そんな所で、今朝からなにを待っているんだね。このごろは、黄巾賊こうきんぞくとかいう悪徒が立ち廻るからな。役人衆にあやしまれるぞよ」
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかるに今日こんにちぱんにこの轉倒てんたふ逆列ぎやくれつもちゐてあやしまぬのは、畢竟ひつきやう歐米文明おうべいぶんめい渡來とらいさい何事なにごと歐米おうべい風習ふうしう模倣もほうすることを理想りさうとした時代じだい
誤まれる姓名の逆列 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
まちひとたちは、みんなそとて、このくろとりをながめました。そして、こんなとりが、どこからんできたのだろうとあやしみました。
あほう鳥の鳴く日 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あいちやんは一ぱうした、一ぱううへと一まいごとしらべてから、その眞中まんなかつてました、どうしたらふたゝられるだらうかとあやしみながら。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
眞正面まつしやうめんに、凹字形あふじけいおほきたてものが、眞白まつしろ大軍艦だいぐんかんのやうに朦朧もうろうとしてあらはれました。とると、あやは、なんと、ツツツときつゝ。
雪霊続記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
経て春琴の体にただならぬ様子が見えることを母親が感づいたのであるまさかとは思ったけれども内々気を付けてみるとどうもあやしい
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
なんゆゑともらねども正太しようたあきれてひすがりそでとゞめてはあやしがるに、美登利みどりかほのみ打赤うちあかめて、なんでもい、とこゑ理由わけあり。
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そこで係官が代りあって係官自身と、帆村、深山理学士、白丘ダリアとを調べてみたが、別にあやしい点は何一つ発見されなかった。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
此日雲飛はちにつた日がたので明方あけがた海岱門かいたいもんまうで見ると、はたして一人のあやしげな男が名石めいせきかついで路傍みちばたに立て居るのを見た。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
何の見る物もなく風情ふぜいもないので、夫人があやしんで質問したところ、ヘルンは耳を指して、『おきなさい。なんぼ楽しいの歌でしょう』
(やっぱりそうだったんだわ。この方はあやしい人じゃなかったのよ。お気のどくに……ずいぶんひどいけがをなさったらしいわ)
そのあやしい、うみうへではよく眩惑ごまかされます、貴下あなた屹度きつと流星りうせいぶのでもたのでせう。』とビールだるのやうなはら突出つきだして
「どうも少しあやしいところがあるんじゃが……まアまアこのくらいならとにかく納まる品物だから」などとのんきに眺めていた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
あやし気な日本語で会釈して、巨大おおきな手で赤い小さな百合形ゆりがたの皿を抱えたが、それでも咽喉のどが乾いていたと見えて美味おいしそうにすすり込んだ。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
盜みし當人のいでざる中は文右衞門の片口かたくちのみにてゆるわけには成り難く尤も百兩の紛失ふんじつは言掛りなしたる久兵衞こそあやしき者なれととく
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
小林君はこんなに、なにもかも、打ち明けてしまって、いったい、どうする気だろうと、あやしまないではいられませんでした。
電人M (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
や、巡査じゅんさ徐々そろそろまどそばとおってった、あやしいぞ、やや、またたれ二人ふたりうちまえ立留たちとどまっている、何故なぜだまっているのだろうか?
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
与八が大きな声で叫ぶと、その声は外なるあやしの男よりも、家の中の大一座を驚かして、障子を蹴開けひらいて廊下へ走り出でます。
むかし英国の学者ジョンソンは愛国心ほどあやしげな心はない。いかなる悪党も愛国なる言葉を用うれば、犯罪をなすことができるといった。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ゆゑ日本國中につぽんこくちう人民じんみん此改暦このかいれきあやしひとかなら無學文盲むがくもんまう馬鹿者ばかものなり。これをあやしまざるものかなら平生へいぜい學問がくもん心掛こゝろがけある知者ちしやなり。
改暦弁 (旧字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
けれども、本質的にその目的は成就されているか、はなはあやしい。従来大民族を擁する大国で、これが成功したことはない。
わらの上のわかい農夫はぎょっとしました。そしていそいで自分の腕時計うでどけい調しらべて、それからまるで食い込むようにむこうのあやしい時計を見つめました。
耕耘部の時計 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
昔時むかしはそれでも雁坂越とって、たまにはその山を越して武蔵へ通った人もあるので、今でもあやしい地図に道路みちがあるように書いてあるのもある。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
姉の順礼 (程よき所に立留り、もの怪しむ気はひ。)何やらあやしい音がするがのう。この近くに海でもあるかいのう。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
幸に語学の方はあやしいにせよ、どうかこうかお茶をにごして行かれるから、その日その日はまあ無事に済んでいましたが、腹の中は常に空虚くうきょでした。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それは、誰もが一向にあやしもうとしない事柄ことがらだ。じゃが栄えて正がしいたげられるという・ありきたりの事実についてである。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
もしもわしがそれを見たことがあったにしても、ずっとずっと前のことだし、それに、本当のことをいうと、実際に見たのかどうかもあやしいんです。
「そんなもんでせうか……医学校時代あの人とあんた少しあやしかつたんぢやない? ちよつとそんな噂があつたやうに思ふわね、はつはつはつはつ。」
念仏の家 (新字旧仮名) / 小寺菊子(著)
その時王給諌はまた王侍御の家にあやしい人がいるとうったえた。法司の役人は王侍御の家の奴婢を呼び出して厳重に詮議をしたがそれにも異状がなかった。
小翠 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
あやながら端渓たんけいで、よく洗ってあるのもたしなみですが、墨は親指おやゆびほどではあるが唐墨のかけらに違いなく、筆も一本一本よく洗って拭いてあります。
でも私はまだ別にあやしみもしないで、きっとお芝居にでもつれてってくれるんだろうぐらいに思っていました。……
「ふふふ、あやしいもんだわ。始終しじふそんな道具立だうぐだてばかりなすたつて、お仕事しごとはうはちつともはこばないぢやないの」
画家とセリセリス (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
彼はほつと一息つくと共に、色々の今夜の不思議が彼の魂を脅かした。かれは里の人々のかどをたゝいて、あやしい女と怪しい赤児の啼声について報告した。
小夜の中山夜啼石 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
そしてあやしい鑛山くわうざんやら物にならぬ會社やら、さては株や米にまで手を出したが、何れも失敗で、折角のあつぜにをパツ/\とき出すやうな結果となつた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
主人あやしみ人をして是をとらへしめしに、全身ぜんしんからすにして白く、くちばしまなこあしは赤きからすひななり、人々としてあつまる。
あやしと見返れば、更に怪し! 芳芬ほうふん鼻をちて、一朶いちだ白百合しろゆりおほい人面じんめんごときが、満開のはなびらを垂れて肩にかかれり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
春の野に迷ひ出でたはつい昨日きのふ旭日あさひにうつる菜の花に、うかるゝともなく迷ふともなく、廣野ひろのまく今日けふまでは。思へば今日けふまではあやしく過ぎにけり。
北村透谷詩集 (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
道子みちこはアパートに出入でいりする仕出屋しだしやばあさんのすゝめるがまゝ、戦後せんご浅草あさくさ上野辺うへのへん裏町うらまち散在さんざいしてゐるあや旅館りよくわん料理屋れうりや出入でいりしておきやくりはじめた。
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
これは一にちはやくこのあやしいものを退治たいじして、天子てんしさまのおなやみをしずめてあげなければならないというので、お公卿くげさまたちがみんなって相談そうだんをしました。
(新字新仮名) / 楠山正雄(著)
北海道現存の竪穴中には長徑十間に達するもの無きに非ず、二十歩三十歩等の數あへあやしむに足らざるなり。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
「はッはッは、この黒門町をあやしまれるなら、どうぞおはいりなすって、本人を御らんなすって下さいまし」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
其後そののちをつとみづか(六二)抑損よくそんす、晏子あんしあやしんでこれふ。ぎよじつもつこたふ。晏子あんしすすめてもつ大夫たいふせり。
それに門人中の老輩らうはい数人と、塾生の一半とが、次第に我々と疎遠になつて、何か我々の知らぬ事を知つてをるらしい素振そぶりをする。それをあやしいとはおれも思つた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
妾の容子ようすの常になくつつましげなるに、顔色さえしかりしを、したしめる女囚にあやしまれて、しばしば問われて、秘めおくによしなく、ついに事云々しかじかと告げけるに
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
朝っから芝居へ出かけてあの空気の腐敗した中に一日辛抱してあやな弁当を食べて高い代価を払って平気でいます。西洋には日中開場する芝居はありません。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
はて何だろうと暗いから、すかして見ると、お手飼の白班しろぶちの犬がもがいて居ります。あやしの侍がしばらく視てる。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
世には斯かる氣高けだかき美しき女子をなごも有るもの哉と心ひそかに駭きしが、雲をとゞめ雲を𢌞めぐらたへなる舞の手振てぶりを見もて行くうち、むねあやしう轟き、心何となく安からざる如く
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
手紙の文句を読んでゐるうちに、瑠璃子夫人のあやしきまでに、美しい記憶が、殺されそこなつた蛇か何かのやうに、また信一郎の頭の中に、ムク/\と動いて来た。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
それはともかく、少しあやしげだがあなたの返辭に對して、言葉の内容と同樣にその云ひつぷりに對しても、心ではあなたと握手しますよ。卒直で誠實な云ひ方だ。