いのち)” の例文
もしK中尉自身も砲弾のために咄嗟とっさいのちを失っていたとすれば、——それは彼にはどう云う死よりも幸福のように思われるのだった。
三つの窓 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
なんだ、またこれをつてかへるほどなら、たれいのちがけにつて、這麼こんなものをこしらへやう。……たぶらかしやあがつたな! 山猫やまねこめ、きつねめ、野狸のだぬきめ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「ばかなくらげやい。だれが自分じぶんぎもっていくやつがあるものか。ぎもられればいのちがなくなるよ。ごめん、ごめん。」
くらげのお使い (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
故いかにといふに、早稻田文學は讀者の沒理想をいのちにして言を立つといへど、所謂沒理想は沒理想にあらずして、沒成心なればなり。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
それさえあるのに、あと三人の武士ぶしも、めいめいきっさきをむけて、ふくろづめに、一寸二寸と、若者のいのちに、くいよってゆくのだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
マーキュ 猫王ねこまたどの、九箇こゝのつあるといふ足下おぬしいのちたッたひとつだけ所望しょもうしたいが、其後そののち擧動次第しこなししだいのこ八箇やッつたゝみじくまいものでもない。
おそろしいをむきだした、茶と白のブチ犬が、アシのあいだをつき進んでくるのを見ますと、それこそいのちのちぢまる思いをしました。
これだけで、人間にんげんが、一ねんじゅうの生活せいかつをするとかんがえると、ひとつの炭俵すみだわらにも、いのちがけのしんけんなものがあるはずでありました。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
これを言出いひいでたるのち、いのちをはり、又これを言出でたるあとは、かしらを胸にれて、あたかも老僧が聖祭せいさいを行ひつゝ絶命する如くならむ。
頌歌 (旧字旧仮名) / ポール・クローデル(著)
たつかみなりのようなものとえた。あれをころしでもしたら、このほういのちはあるまい。おまへたちはよくたつらずにた。ういやつどもぢや」
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
ぎ合はして考へて見ると、人生と云ふ丈夫さうないのちが、知らぬに、ゆるんで、何時いつでも暗闇くらやみき出して行きさうに思はれる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
こんなにむなしくいのちをすてず、どうかこのつぎには、まことのみんなのさいわいのために私のからだをおつかいください。ってったというの。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
たとえば仁義じんぎのために死するとか、国家の責任を双肩そうけんになって立つとか、邦家ほうかのためには一身をかえりみず、知遇ちぐうのためにはいのちおとすとか
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
微醺びくんをおびていることもあった。見本に並べてある絵の中にはその人の自画像もあって、それには「ひょっとこのいのち」と傍書してあった。
落穂拾い (新字新仮名) / 小山清(著)
私の方は、こいつのやくざないのちを助けるために一所懸命にやらねばならん。それからジムには金盥かなだらいをここへ持って来て貰おうね。
火事かじときには防火樹ぼうかじゆとして非常ひじようやくいへかずにみ、ときにはひといのちすらすくはれることがあることもわすれてはなりません。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
何の顏さげて人にいはれん然れば其時ぬるより外に方便てだても無き身なればおそかれ早かれ死ぬ此身とても死ぬなら今日只今長庵方へ押掛ゆきいのち
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「かならず、王子おうじさまを見すてるようなことはいたしませぬ。わたくしのいのちにかけましても、きっと忠義をつくしておつかえもうします。」
いざ願はくは彼の來れるをよみせ、彼往きて自由を求む、そもこのもののいとたふときはそがためにいのちをも惜しまぬもののしるごとし 七〇—七二
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
京にいる間、刺客を恐れてたえずビクビクしていたが、どうしたのか何事もなく、その秋、いのちつつがなく安房へ帰り着いた。
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
物に仏の現れを見ないとか、仏に物のいのちを見ないとかいうのはおかしい。美しい物は仏に活きていることの証拠ではないか。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
然しながら土は依然として土である。歴史は青人草あおひとぐさの上を唯風の如く吹き過ぎた。農のいのちは土の命である。諸君は土を亡ぼすことは出来ない。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
不都合ふつごうやつだ。しかしおとなしく人形をだしたから、いのちだけはたすけてやる。どこへなりといってしまえ。またこれから泥坊どろぼうをするとゆるさんぞ」
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
今日きょうは、兇悪な殺人者のいのちを取るかと思うと、明日あすは、百姓のせがれから六ペンスを奪ったけちな小盗のいのちを取ったりした。
江戸時代には一と口に痲疹はいのちさだめ、疱瘡は容貌きりょう定めといったくらいにこの二疫を小児の健康の関門として恐れていた。
すなわちその権理通義とは、人々そのいのちを重んじ、その身代所持のものを守り、その面目名誉を大切にするの大義なり。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
主人しゅじんのためにはいのちをすてて主人の危険きけんすくう犬がよくありますが、しろ公もまたそういう忠実ちゅうじつな犬にちがいありません。
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
彼は自分の読んだ書物の中で、そのような臍は恐るべきいのちとりだと医者がいっていたということを、巧妙な嘘を混じえて姉にいいきかしておどかした。
御身 (新字新仮名) / 横光利一(著)
おもんみれば誰が保ちけん東父西母がいのち、誰がめたりし不老不死の藥、電光の裏に假の生を寄せて、妄念の間に露の命を苦しむ、おろかなりし我身なりけり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
三五半世はんせいいのちをもて必ず報いたてまつらん。左門いふ。三六見る所を忍びざるは、人たるものの心なるべければ、三七厚き詞ををさむるに故なし。
おびもせざる女片手かたて小児せうに背負せおひ提灯ちやうちんさげ高処たかきところにげのぼるは、ちかければそこらあらはに見ゆ、いのちとつりがへなればなにをもはづかしとはおもふべからず。
さりながら先祖せんぞたいいへたいするかう二人ふたりいのちなりてゝはえあるぞとおもへば何處いづくのこ未練みれんもなしいざ身支度みじたく
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それじきは、いろし、ちからをつけ、いのちぶ。ころもは、さむさをふせぎ、あつさえ、はぢをかくす。人にものをする人は、人のいろをまし、ちからをそへ、いのちぐなり。
な巧みそ歌に遊ぶと、早や選りそことのをかしと。心にぞはじめて満ちて、匂ひるそのほかならし。遊びつつたや忘れよ、そのいのちいのちとをせよ、穂積ほづみきよし
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
古来の紀行や和歌で有名で就中なかんずくかの西行法師さいぎょうほうしの『として又越ゆべしと思ひきや、いのちなりけり小夜の中山』
小夜の中山夜啼石 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
しかるに、あのかはけつしてあさくはなかつた。ながれもおもひのほかはやかつた。次第しだいつてはいのちうばはれんともかぎらなかつた。その危急ききふさい中根なかねはどうことをしたか。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
『さあ、うなつたらにがことでないぞ。』と最早もはやはらむなしいことも、いのち危險あぶないことも、悉皆すつかりわすれてしまつた。
蓮様れんさまの寮で柳生源三郎が剣豪峰丹波みねたんば一党にとりかこまれ、くらやみの中にいのちと頼む白刃はくじん真綿まわたでからめられた「源三郎の危機きき」から稿こうをつづけるべきですが
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
たとい貞世と自分とが幸いに生き残ったとしても、貞世はきっと永劫えいごう自分をいのちかたきうらむに違いない。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
資本もとでの二りやうぐれえでこんで餓鬼奴等がきめらまでにや四五にんいのちつないでくのにやあけ手拭てねげでもかぶつてるやう放心うつかりした料簡れうけんぢやらんねえかんな」かれぢいさんのあたま
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
生命、いのちあるもの、最も力あるもの——人はそれを持っていながら往々忘れていることがあるね。
「それほどのものを手ばなすことはありませんよ。なあに、こんな脅迫状なんか黙殺してもかまわないのです。お嬢さんのいのちにかかわるようなことは断じてありません」
黒蜥蜴 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あなたが腹を立てゝゐる最中に、神さまがいのちつておしまひになるかも知れないぢやないの。そしたら、地獄のほかの、何處へ行くと思つて? ベシー、いらつしやい。
地震ぢしんつていのちうしなふことをなんともおもつてゐないのかもれないなどといふ結論けつろんくだされないともかぎあるまい。實際じつさいこれは歐米人おうべいじん多數たすう日本につぽん地震ぢしんたいする觀念かんねんである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
余の全心全力をなげうち余のいのちを捨てても彼を救わんとする誠心まごころをも省みず、無慙むざんにも無慈悲にも余の生命いのちより貴きものを余の手よりモギ取り去りし時始めて予察よさつするを得たり。
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
それがだめだとなると、自分はまったくもう、どうしていいかわからなくなってしまった。自分のいのちがあぶないばかりでなく、車掌しゃしょうとして重大じゅうだい任務にんむをはたすことができない。
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)
「かはらむと祈るいのちはをしからで別ると思はむほどぞ悲しき」と三首の歌を記したなどは
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
浜村屋はまむらやは、おせんのところへなんざ、いのちけてたのんだって、かよっちゃくれませんや」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「ふん、飛んだこった。さんざ辛い目をした挙句に、ちっとやそっと逢えたところでくそ面白くもねえじゃないか! 自分のいのちを呪うのが本当だ、逢曳どころの騒ぎじゃねえぜ。」
思ひがけなき雪の夜に御封ごふう祖師そし利益りやくにて、不思議といのちたすかりしは、妙法蓮華経めうほふれんげきやうの七字より、一おとかまふちる水より鉄砲てつぱうの肩をこすつてドツサリと、岩間いはまひゞ強薬つよぐすり