可笑をかし)” の例文
可笑をかしなお話をいたしましたが、策伝さくでんの話より、一そう御意ぎよいかなひ、其後そののち数度たび/\御前ごぜんされて新左衛門しんざゑもんが、種々しゆ/″\滑稽雑談こつけいざつだんえんじたといふ。
落語の濫觴 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
『馬鹿なことを言ひたまへ。』と丑松は反返そりかへつて笑つた。笑ふには笑つたが、然しそれは可笑をかしくて笑つたやうにも聞えなかつたのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「何もお前、泣くことは無いぢやないか。可笑をかしな人だよ、だからお前の言ふことは解つてゐるから、内へ帰つて、善く話をした上で……」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
わたくしもらふと云つたかたなの。ほゝゝ可笑をかしいでせう。美禰子さんの御兄おあにいさんの御友達よ。わたくしちかうちに又あにと一所にうちを持ちますの。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それから、武の顔を見ると、鱒の歯にあてられて、少し血が出て居り升た。母は可愛さうだと思ひながらも可笑をかしくつてたまらず
鼻で鱒を釣つた話(実事) (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
われにぎつて、さうまなこあきらかにさいを、多勢たぜい暗中あんちゆう摸索もさくして、ちやうか、はんか、せいか、か、と喧々がや/\さわてるほど可笑をかしことい。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
恐ろしく肥つた、体重めかたが四十貫の上もあらうといふ大男で、こんな図体で、罪のない物真似をするのが可笑をかしいといつて観客けんぶつに大持てである。
その矢の根五郎吉が命にかけて隱し了せた二千兩の金を、弟分の彦徳の源太が、五郎吉を縛つた俺やお前にくれるといふのは可笑をかしいぢやないか
さう云や、先だつても、飛んだ可笑をかしなことを云つてゐさしたつけよ。だしぬけに、『死なば今だ。』つて云はつしやるんだ。
野の哄笑 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
慰めにも為りてやりたしと、人知らば可笑をかしかるべきうぬぼれも手伝ひて、おぬひの事といへば我が事のように喜びもしいかりもして過ぎ来つるを
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あいちやんはなにからなにまで可笑をかしくてたまりませんでした、がみんそろひもそろつて眞面目まじめくさつてるので、眞逆まさか自分じぶんひとわらわけにもきませんでした。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
江部乙えべおつ駅を過ぎて間もなく、汽車は鉄橋にかゝつた。川もないのに鉄橋とは可笑をかしいと思つて、窓をあけると、傍人は「石狩川です」と教へて呉れた。
雪中行:小樽より釧路まで (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
毎日々々まいにち/\面白おもしろ可笑をかしあそんでうちあることその老爺をやぢさんこしらへてれた菱形ひしがた紙鳶たこ甲板かんぱんばさんとて、しきりさはいでつたが、丁度ちやうど其時そのとき船橋せんけううへ
中間ちうげん七助と云ふ者先刻せんこくより此樣子を見てこゝろ可笑をかしく走り出で主人をとゞ先々まづ/\御待下おんまちくださるべし只今彼方にて承まはりしが御立腹ごりつぷく御道理ごもつともなり然しながら女を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「それにしても、考へると、可笑をかしくつてなんねえだよ。あのでかい睾丸を拘へてよ、それで姫ツ子を自由にようつて言んだから、こいつは中々骨が折れるあ!」
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
源太は却つてしんから可笑をかしく思ふとも知らずにお傳はすいと明くれば、のろりと入り来る客は色ある新造どころか香も艶もなき無骨男、ぼう/\頭髪あたまのごり/\腮髯ひげ
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
飮み大グズとなりて此座可笑をかしからず泊りを先の宿しゆくにして飮み直すべしといふ途方もなき事を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
さきの夕「アルジエンチナ」座にて興行したる可笑をかし假粧舞フエスチノの事、詩女ムウザの導者たるアポルロン、古代の力士、圓鐵板ヂスコス投ぐる男の像等にせたる假面の事など、次をひて談柄となりぬ。
... 愛するつてことは私の心が許しませぬから——チヤンチヤラ可笑をかしくて」言ひつゝ剛造を横目ににらみつ「是れと云ふもみん我夫あなたが、実母おやの無い児/\つて甘やかしてヤレ松島さんは少し年を ...
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
真闇まつくらな向ふの路次口に転がり落ちて逃げてゆく猫の滑稽な動作を想像した、而して急に勝ち誇つた感情の弛緩とさもしい皮肉な冷笑とが多少の可笑をかしみをさへ交へて私の心に突き上げてきた。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
手に取れぬだけ、皆様が、思ひ切つての悪口を、主人の口から聞いた時、それ見た事かと、可笑をかしさを、わざとこちから誉め返し、誉めた口からいはせたは、浮気男によい懲らしめでござんする。
移民学園 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
氷にをかけたるは江戸の目には見もなれ可笑をかしければ、京水と相目あひもくしてわらひをしのびつゝ、是はあたひをとらすべし、今ひとさらづゝ豆の粉をかけざるをとて、両掛りやうがけ用意よういしたる沙糖さたうをかけたる削氷けづりひ
貫一は知らざる如く、彼方あなたを向きて答へず。仔細しさいこそあれとは覚ゆれど、例のこの人の無愛想よ、と満枝はよそに見つつもあはれ可笑をかしかりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
も一つ可笑をかしはなしがある。鳥屋とりやのおきやくかへときに、むすめが、「こんだいつ被入いらつしやるの。」とふと、女房かみさんまたうツかり、「おちかうち——」とおくす。
廓そだち (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
わたししや地球ちきうつらぬいて一直線ちよくせんちてくのぢやないかしら!さかさになつてあるいてる人間にんげんなかつたらどんなに可笑をかしいでせう!オー可厭いやなこと
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
『ハイ。そでごあんすどもなす、先生樣、兄弟何方も一年生だら、可笑をかしごあんすべアすか?』と、老女は鐵漿おはぐろの落ちた齒を見せて、テレ隱しに追從笑ひをした。
足跡 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
エー若春わかはるの事で、かへつて可笑をかしみの落話おとしばなしはういと心得こゝろえまして一せきうかゞひますが、わたくしは誠に開化かいくわの事にうとく、旧弊きゆうへいの事ばかりつてりますと、学校がつかう教員けうゐんさんがおでで
西洋の丁稚 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
胸の恨を棄てなんことは忍ぶべからず、平等の見は我が敵なり、差別の観は朕が宗なり、仏陀は智なり朕は情なり、智水千頃の池を湛へば情火万丈のほのほを拳げん、抜苦与楽ばつくよらくの法可笑をかし
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
深く思ひ初主人の妹とは知ながら折々可笑をかし想振そぶりなどして袖たもとひきけれども此吾助元來みにくき男にて勿々なか/\お花が相手になるべき器量きりやうならず殊に若黨なれば尚更請引うけひく樣もなければ只一人むね
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
『明後日引越すのは其様そんな可笑をかしいでせうか。』丑松の眼は急に輝いたのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ひとらば可笑をかしかるべきうぬぼれも手傳てつだひて、おぬひのことといへばことのようによろこびもしいかりもしてつるを、すてゝいま故郷こきようにかへらばのこれるこゝろぼそさいかばかりなるべき
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「もう、そろ/\ほたるる時分ですな」と云つた。代助は可笑をかしかほをして
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
真白な面を緊張ひきしめてくるくるともんどりうつ凄さ、可笑をかしさ、又その心細さ、くるくるとおどけ廻つて居る内に生真面目きまじめな心が益落ちついて、凄まじい昼間の恐怖が腋の下から、咽喉から、臍から
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
わざと知らせて馬鹿ばかがらせてよろこばせれば、大面先生おほづらせんせい横平よこひらたく、其面そのつらまはし、菊塢きくう可笑をかしやつだ、今度の会は彼処あすこもよほしてやらうと有難ありがたくない御託宣ごたくせん、これが諸方しよはう引札ひきふだとなり、聞人達もんじんたち引付ひきつけ
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
氷にをかけたるは江戸の目には見もなれ可笑をかしければ、京水と相目あひもくしてわらひをしのびつゝ、是はあたひをとらすべし、今ひとさらづゝ豆の粉をかけざるをとて、両掛りやうがけ用意よういしたる沙糖さたうをかけたる削氷けづりひ
げて可笑をかしさを無理むりこらえて
行けよと命ぜられたるとなんぞ択ばん、これ有るかな、紅茶と栗と、と貫一はそのあまりに安く売られたるがひと可笑をかしかりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
かささゝへて、ほしざをにかけたまゝ、ふら/\とちうおよいだ。……このなかでも可笑をかしことがある。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
が、これには自分ながら直ぐ可笑をかしくなつて了つて、又しても「左の袂、左の袂」を思ひ出す。……
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
アノおくのね、真卓先生しんたくせんせいとこからもらつたんだよ。亭「うむ、アノお医者いしやか、可笑をかしいな。 ...
八百屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
さて道々長兵衞八五郎は後藤に向ひ彼の久兵衞と云ふ奴は先生を見ると大いにきもつぶせし樣子にて無闇むやみに手を合せて御慈悲々々おじひ/\あやまりたる可笑をかしさよ尤も先生の勢がすさまじいゆゑ誰も先生の顏を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
殘して滊車はつれなくいでにけりこゝが風流だ此の失策が妙だとみづから慰むるは朝寐せし一人にて風流ごかしになだめられ滊車に乘おくれるが何が風流ぞと怒つたところで可笑をかしくもなければ我も苦笑ひして此方こなた
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
あし贈物おくりものをするなんて餘程よツぽど可笑をかしいわ!宛名あてなんなにへんでせう!
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
と無骨な礼を為たるも可笑をかし
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
なにごとの可笑をかしさぞ。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
こひともおもふが、ちつこい。どぜうでは可笑をかしかんべい。ふなひとこさへてせつせえ。ざつかたちえ。うろこ縦横たてよこすぢくだ、……わしおなじにらかすで、くらべてるだね。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
可哀相なは慎次で、四五枚の札も守り切れず、イザとなると可笑をかしい身振をして狼狽まごつく。それを面白がつたのはあによめの清子と静子であるが、其狼狽方まごつきかた故意わざとらしくも見えた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
学生時代がくせいじだい石橋いしばしふ者は実に顔が広かつたし、かつぜん学習院がくしうゐんた事があるので、く売りました、第一だいいちかたちふものが余程よほど可笑をかしい、石橋いしばし鼻目鏡はなめがねけて今こそ流行はやるけれど
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
など考ふるに眼はさえて今宵は草臥くたびれに紀行も書ざりしが明日あすの泊りは早くして必らず二日分したゝむべし四人別々に書く紀行拙者も貴公も同案にては可笑をかしからずハテうまく書きたいもの何ぞ名案名趣向名句もせめて一二句はあれかうして是もまたカウ/\グウ/\いびきの音さてよく人はねぶらるゝよ障子を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
第一だいいちをんなどもが寄着よりつかない。おてうしが一二本いちにほん遠見とほみ傍示ばうじぐひのごと押立おつたつて、廣間ひろまはガランとしてごとし。まつになつた柳川やながはが、なるお羽織はおり……これが可笑をかしい。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)