いた)” の例文
だが大事にいたらずむことはたしかだ、と金太郎は、そく度を増してゆく自轉車の上で、何の問題を解くときのやうに冷せいすい理した。
坂道 (旧字旧仮名) / 新美南吉(著)
幸い秘境にいたる道順を描いたスケッチ地図が、一枚だけついていたので、それを説明してやると、この方は簡単に承服してしまった。
内儀も気丈な女ながら、ここにいたってこらえかね、人前もはばからず、泣き伏す。亭主は七輪の煙にむせんだ振りをして眼をこする。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
私の眼にはいたる所にナオミのあかい唇が見え、そこらじゅうにある空気と云う空気が、みんなナオミのいぶきであるかと思われました。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ふ、牛切ぎうきりの媽々かゝあをたとへもあらうに、毛嬙飛燕まうしやうひえんすさまじい、僭上せんじやういたりであるが、なにべつ美婦びふめるに遠慮ゑんりよらぬ。其處そこ
鑑定 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
附近は、独国海軍の侵入しんにゅうを喰い止めるために、いたるところに機雷原きらいげんかれてあるので、かなり面倒なコースをとらなければならない。
沈没男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「なあに毒蛾なんか、市中いたところに居るんだ。私の店だけに来たんぢゃないんだ。毒蛾についちゃこっちに何の責任もないんだ。」
毒蛾 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
或る年の三、四月頃、江戸ではかつおの大漁で、いたる処の肴屋さかなやでは鰹の山をしていました。それで何処の台所へもざらに鰹が這入はいる。
薯蕷じねんじやう九州きうしゆう山奥やまおくいたるまで石版画せきばんゑ赤本あかほんざるのなしとはなうごめかして文学ぶんがく功徳くどく無量広大むりやうくわうだいなるを当世男たうせいをとこほとんど門並かどなみなり。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
結局けつきよく麻雀界マアジヤンかいから抹殺まつさつされるにいたつたなどははなは殷鑑ゐんかんとほからざるものとして、その心根こゝろねあはれさ、ぼくへてにくにさへならない。
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
徘徊はいくわいめぐり/\て和歌山わかやまの平野村と云へる所にいたりける此平野村に當山派たうざんは修驗しゆけん感應院かんおうゐんといふ山伏やまぶしありしが此人甚だ世話好せわずきにて嘉傳次を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
未だ報裁をかうむらず、欝包うつはうの際、今年の夏、同じく平貞盛、将門を召すの官符を奉じて常陸国にいたりぬ。つて国内しきりに将門に牒述てふじゆつす。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
官員どもの云う、「金のことだけであるならば」仕儀は同じであったかも知れない。だが、その精神にいたっては、雲と土の差があった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
じつ博士はかせをわざ/\ろうするまでもかつたので、これは古代こだい葬坑さうかうで、横穴よこあな通稱つうしようするもの。調しらべたら全國ぜんこくいたところるかもれぬ。
然るが故に社会百般の現象時として甚だ相容あいいれざるが如きものありといへども一度ひとたびその根柢こんていうかがいたれば必ず一貫せる脈絡の存するあり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
軍艦ぐんかん」の甲板かんぱんでは、後部艦橋こうぶかんけうのほとりより軍艦旗ぐんかんきひるがへ船尾せんびいたるまで、おほくの乘組のりくみは、れつたゞして、わが端艇たんてい歸艦きかんむかへてる。
彼女かのぢよ恐怖きようふは、いままでそこにおもいたらなかつたといふことのために、餘計よけいおほきくかげのばしてくやうであつた。彼女かのぢよあらたなるくゐおぼえた。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
悩ましい日の色は、思い疲れた私の眼や肉体を一層懊悩おうのうせしめた。奈良ならからも吉野よしのからもいたるところから絵葉書などを書いて送っておいた。
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
ところが、そんなことをデカ/\と書いた直ぐ後から、いたる処で党が活動している。それはどう誤魔化ごまかしようにも誤魔化しがきかなかった。
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
しかしだんだん彼らとつきあってみると、実に村夫子そんぷうしの中に高い人格をそなえた人が、いたる所にいるのを見て、心窃こころひそかに喜んでいる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
商買が違うにつれて品物が変化する以外に、何らの複雑なおもむき見出みいだされなかった。それにもかかわらず彼はいたる処に視覚の満足を味わった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
また、いま私の住んでいる市では、いたるところで木をり、丘を崩し、「風致地区」に指定してある海岸を、工場用地として埋め立てている。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼等かれら幾夜いくよをどつて不用ふようしたときには、それが彼等かれらあるいたみちはたほこりまみれながらいたところ抛棄はうきせられて散亂さんらんしてるのをるのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
そうした無関心でいた娘が、隆吉の嫁になって来てから、今日にいたるまでの事を考えると、与平は偶然な運命と云うものを妙なものだと思った。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
それよりは今霎時、きばみがき爪を鍛へ、まづ彼の聴水めを噛み殺し、その上時節のいたるをまって、彼の金眸を打ち取るべし。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
村にはいたところに宿をする家がまっていた。そこへ青年らが夜になると寄り集まって、長短色々の歌をうたわせて聴いた。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
まちではもういたところ、この死骸しがいのことと、下手人げしゅにんうわさばかり、イワン、デミトリチは自分じぶんころしたとおもわれはせぬかと、またしてもではなく
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
尾鰭をひれを付けて人は物を言ふのが常、まして種牛の為に傷けられたといふ事実は、些少すくなからず好奇ものずきな手合の心を驚かして、いたる処に茶話の種となる。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
単なるバラバラの線に、一定の音と一定の意味とを有たせるものは、何か? ここまで思いいたった時、老博士は躊躇ちゅうちょなく、文字の霊の存在を認めた。
文字禍 (新字新仮名) / 中島敦(著)
ほぼ一様な域にいたるものかも知れないが、芸術の材料とその技法の差によって、その芸術が発散する処の表情には歴然とした差別があるものである。
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
貞固さだかたは謹んでいていた。そして抽斎が「子曰しのたまわく噫斗筲之人ああとしょうのひと何足算也なんぞかぞうるにたらん」に説きいたったとき、貞固の目はかがやいた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ぼくは、中学一年にはいって間もないころ、しみじみと人間の運命というものの不思議さに思いいたったことがあった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
大自然そのもののうちにこそ、道徳の源泉はある。その川の流れをいたるところに見張るのが人間の役目ではないか。
『グリム童話集』序 (新字新仮名) / 金田鬼一(著)
山海經さんかいけうてもきはめて荒唐無稽くわうたうむけいなものがおほい。小説せうせつでは西遊記さいいうきなどにも、いたところ痛烈つうれつなる化物思想ばけものしさう横溢わうえつしてる。
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
人間は虚栄によって生きるということこそ、彼の生活にとって智慧ちえが必要であることを示すものである。人生の智慧はすべて虚無にいたらなければならぬ。
人生論ノート (新字新仮名) / 三木清(著)
この冬季とうき寒威かんゐじつはげしく、河水かすゐごときはその表面へうめん氷結へうけつしてあつ尺餘しやくよいたり、人馬じんばともそのうへ自由じいうあゆ
命の鍛錬 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
うせ追つかない世帯だと思ふと、持つて帰る気もしなかつたが、遊び気分は何といつても悪くなかつた。金離れのいい彼はいたるところ気受けが好かつた。
のらもの (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
今日こんにちでは日本全國につぽんぜんこくいたところきた樺太からふと北海道ほつかいどうから本州全體ほんしゆうぜんたい四國しこく九州きゆうしゆう西にし朝鮮ちようせんみなみ臺灣たいわんまで、どこでも石器時代せつきじだい遺蹟いせき發見はつけんされぬところはありません。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
独逸ドイツ日記」というのに、「家書いたる」ということが、月に二、三回はきっと見えます。それが滞独中ずっと続いています。日記もよく附けていられました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
いたるところに隙間すきまが出来、建具も畳も散乱した家は、柱としきいばかりがはっきりと現れ、しばし奇異な沈黙をつづけていた。これがこの家の最後の姿らしかった。
夏の花 (新字新仮名) / 原民喜(著)
地気上騰のぼること多ければてん灰色ねずみいろをなして雪ならんとす。くもりたるくも冷際れいさいいたまづ雨となる。此時冷際の寒気雨をこほらすべきちからたらざるゆゑ花粉くわふんしてくだす、これゆき也。
而してその極、全然行為的直観的なるもの、身体的なるものを越えたものにいたると考えられるでもあろう。
絶対矛盾的自己同一 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
そうしたら受ける身も授ける身も今までのようにひややかになっていないで、いたる処生きた人間に逢われよう。
何方どつちにしても利益とくはないでせう』とあいちやんがひました、自分じぶん知慧嚢ちゑぶくろ幾分いくぶんしめ機會きくわいいたつたのを大變たいへんよろこばしくおもつて、『まァ、かんがへても御覽ごらんなさい、 ...
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
双剣一に収まって和平を楽しむのいまだいたらざるあかしであろうが、前門に雲舞いくだって後門こうもんりゅうを脱す。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ところで、いまそれを翻訳いたしますと、彼岸にいたる、すなわち「到彼岸」という意味になるのです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
例えば走者第一基にあり、これより第二基にいたらんとするには投者ピッチャーが球を取て本基(の打者ストライカー)に向って投ずるその瞬間しゅんかんを待ち合せ球手を離るると見る時走り出すなり。
ベースボール (新字新仮名) / 正岡子規(著)
何かの職業について、一つところ住居すまひを定めてる者もありますが、多くは、各地をわたり歩いてる流浪の者です。それで、数は少いけれど、いたるところに見かけられます。
エミリアンの旅 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
とはいえ一方の直義ただよし軍も大きな扇開せんかいの形を見せつつその一端はもう湊川の下流しもにまでいたっている。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その人たちが死にいたったみちを後もどりして、肺病、風邪、衰弱、疲労、気鬱と推移をたどってゆけば、ついには最初の、失恋という徴候にゆきつけるということである。
傷心 (新字新仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)