不審ふしん)” の例文
どうして、こんなところにきたろうと不審ふしんおもいながら、よくていますと、子供こどもらは、たいへんにこのいぬをかわいがっていました。
少年の日の悲哀 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あけしに驚きさす旅宿屋やどやの主人だけよひことわりもなき客のきふに出立せしはいかにも不審ふしんなりとて彼の座敷をあらためしにかはる事もなければとなり座敷を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
學生がくせい平日いつもよりはかず不足ふそくであつた。不審ふしんことには、自分じぶんより三四さんよまへかへつてゐるべきはず安井やすゐかほさへ何處どこにもえなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
若者はこの老人をみるのは今日きょうがはじめであったので、老人が自分の毎日ここにやってくることを知っているのに不審ふしんをいだいた。
おしどり (新字新仮名) / 新美南吉(著)
とにかくこんなわけだから、翌日隆夫が三木家をたずねたとき、とんちんかんのことばかりいい、家人から不審ふしんをかけられたのだ。
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
顏中かほぢゅうのどこも/\釣合つりあひれて、何一なにひと不足ふそくはないが、まん一にも、呑込のみこめぬ不審ふしんがあったら、傍註わきちゅうほどにもの眼附めつきや。
なるほど、戸がいて、ルピック夫人が、片手ににんじんのための笊を持ち、踏段を一段おりた。が、彼女は、不審ふしんげに、立ち止まる。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
勘次かんじは一にち仕事しごとへてかへつてては目敏めざと卯平うへい茶碗ちやわん不審ふしんおもつてをけふたをとつてた。つひかれ卯平うへいふくろ發見はつけんした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
が、そのあいだに朋輩は吉助の挙動に何となく不審ふしんな所のあるのをぎつけた。そこで彼等は好奇心に駆られて、注意深く彼を監視し始めた。
じゅりあの・吉助 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あのとき愚老ぐらう不審ふしんおもひました。岸和田藩きしわだはんのお武士さむらひ夜分やぶん内々ない/\えまして、主人しゆじん美濃守みののかみ急病きふびやうなやんでゐるによつててくれとのおはなし
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
が、平次が搜してゐた、先代伊勢屋忠右衞門の遺言状は何處にも見えず、彌八を始め奉公人達の荷物の中にも、何んの不審ふしんもありません。
そんな金がどこからはいるのか、自分の仕送りは宿の払いに精一杯で、煙草代たばこだいにも困るだろうと済まぬ気がしていたのにと不審ふしんに思った。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
さのみひまをとるべき用にもあらざりければ、家内不審ふしんにおもひせがれ家僕かぼくをつれて其家にいたりちゝが事をたづねしに、こゝへはきたらずといふ。
これが不審ふしんといえば、不審だったが、ナブ・アヘ・エリバは、それも文字の霊の媚薬びやくのごとき奸猾かんかつ魔力まりょくのせいと見做した。
文字禍 (新字新仮名) / 中島敦(著)
ぼく子供心こどもごころにも此樣子このやうす不審ふしんおもつたといふは、其男そのをとこ衣服みなりから風采ふうさいから擧動きよどうまでが、一見いつけん百姓ひやくしやうです、純然じゆんぜんたる水呑百姓みづのみひやくしやうといふ體裁ていさいです
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
「おかしいも不審ふしんもありませんや。そら。」その男は立って、網棚から包みをおろして、手ばやくくるくると解きました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「いや、それはどうも。……なにぶん式場ではじっくり話すというわけにはまいりませんので。で、どういう点にご不審ふしんがおありでしょうか。」
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
しかし、その後の様子は、不審ふしん怪訝けげんなぞというよりも、何か潜在している——恐怖めいた意識にそそられているようだった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
どうして自分があらかじめ、もっとずっと前に察しがつかなかったものかと、それを不審ふしんに思うでもなかった。父をうらめしいとさえ思わなかった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
不審ふしんさうに彼らが小さな主人公の顏を見かへりながら、張合もなく何時までも翻筋斗とんぼがへりをしてゐた事を思ひ出す。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
造麻呂 (ふと、編む手を止めて、不審ふしんそうに)おや? 何じゃ? 裏の納屋なやの方で妙な音がしなかったかな?
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
「決して不審ふしんな者ではございませぬ。主人の使いに、折ふしのご通行を、今朝からお待ちうけしていたもの。どうか、主人のこの一書を、お取次ねがいまする」
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
父は、一寸ちょっと不審ふしんそうに首を傾けた。警視総監と云ったような言葉丈でも、瑠璃子には妙に不安の種だった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
不審ふしんにたえない栄三郎が、さまざまに思い惑って、ちらとそばのやみに眼をくばると、ふしぎ! にも落ち残った葉を雨にたれた木立ちのかげに、同じ装束しょうぞくの四
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あんなに執拗しつこかつた憂鬱が、そんなものの一顆で紛らされる——或ひは不審ふしんなことが、逆説的ぎやくせつてきな本當であつた。それにしても心といふ奴は何といふ不可思議な奴だらう。
檸檬 (旧字旧仮名) / 梶井基次郎(著)
家のひとたちのあてがうものをこころよくみして、なんのこともなく昨夜さくやまでごしてきたところ、けさは何時なんじになっても起きないから、はじめて不審ふしんをおこし
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
おもへども、れぬ不審ふしんうたがひのくもりて、たゞ一トさほ箪笥たんす引出ひきだしより、柳行李やなぎこりそこはかと調しらべて、もし其跡そのあとゆるかとぐるに、ちり一はしの置塲おきばかわらず
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
うしたところることもあるまいから、よくよくをつけて天狗界てんぐかい状況ようすをさぐり、また不審ふしんてんがあったら遠慮えんりょなく天狗てんぐ頭目かしらたずねてくがよいであろう……。
どういふわけ梅廼屋うめのや塔婆たふばげたか、不審ふしんに思ひながら、矢立やたて紙入かみいれ鼻紙はながみ取出とりだして、戒名かいみやう俗名ぞくみやうみなうつしましたが、年号月日ねんがうぐわつぴ判然はつきりわかりませぬから、てら玄関げんくわんかゝつて
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
道翹だうげう不審ふしんらしくりよかほた。「御存ごぞんじでございます。先刻せんこくあちらのくりやで、寒山かんざんまをすものとあたつてをりましたから、御用ごようがおありなさるなら、せませうか。」
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
それと同時に、私はその友人の背後に、若い女たちが二三人、まだ不審ふしんそうにやみかしながらこちらを見つめているのに気がついた。それはその友人の若い妻君や妹たちであった。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
ではさっきから何処どこにもぐっていたのかと不審ふしんになり、それとなくたずねようとした刹那せつな、ぼくは彼の懐中かいちゅうにねじこまれている本が前田河広一郎まいだこうひろいちろうの≪三等船客≫なのを見て、ハッとして
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
ファットマンは不審ふしんそうに鼻を巻き上げて、新吉を背中せなかへのっけてやりました。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
あんなに沢山たくさんある貝が食べられないものかと子供の時によく考えたことだが、それがフランスへ行って、始めて子供の時の不審ふしんを解決することが出来た。烏貝はフランス語でムールと云う。
異国食餌抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
するとたちまあいちやんはめう心地きもちがしてたので、うしたことかとはなは不審ふしんおもつてますと、たもや段々だん/\おほきくなりはじめました、あいちやんは最初さいしよあがつて法廷ほふていやうとしましたが
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
いづれもこゝろこゝろならねば、長途ちやうとらうやすむるひまなく、いそ樣子やうすうかゞたてまつるに何事なにごともおほせだされず、ゆる/\休息きうそくいたせとあるに、皆々みな/\不審ふしんへざりけり。中二日なかふつかきて一同いちどう召出めしいださる。
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
側面そくめん卓上たくじやうにあつて、この有樣ありさまみとめたる松島海軍大佐まつしまかいぐんたいさ不審ふしんまゆ
苦桃太郎にがもゝたらう不審ふしんおこし、我等われら神通力じんつうりきもつてかく飛行ひぎやうしなが
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
んで、そんな不審ふしんそうなかおをするんだ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ジェンナーは不審ふしんに思いました。
ジェンナー伝 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
おばあさんは不審ふしんさうなかほをして
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
不審ふしんなのは女の素姓です。
「じゃあ、説明をしましょう。しかしその前に一つ、非常に不審ふしんなことがあるんだが、あなたにたずねて答えてくれますかね」
豆潜水艇の行方 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そう、いったのは、やさしいおんなこえでした。おじいさんは、ますます、不審ふしんおもい、ほそめにけて、そとをのぞきました。
とうげの茶屋 (新字新仮名) / 小川未明(著)
加えようと云うのじゃありません。ただ、あなたがこんな所に、泣いているのが不審ふしんでしたから、どうしたのかと思って、舟を止めたのです。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「おかしいも不審ふしんもありませんや。そら」その男は立って、網棚あみだなからつつみをおろして、手ばやくくるくるときました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
つぶすばかりにて誰云となく大評判だいひやうばんとなり紅屋は不審ふしんはれかくもと大和屋三郎兵衞方へいたり前の段を物語り後難こうなんおそろしければ何に致せ表札と幕を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
不審ふしんおもつて躊躇ちうちよしてると突然とつぜんまへ對岸たいがん松林まつばやし陰翳かげからしろひかつてみづうへへさきふねあらはれた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
あんなに奇麗なものが、どうして、こう一晩のうちに、枯れるだろうと、その時は不審ふしんの念にえなかった。今思うとその時分の方がよほど出世間的しゅっせけんてきである。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
席を立って、階下したかわやへ行った田中貞四郎が、いつ迄経っても見えないので、お互に、警戒の念をいだき合っている人々の眼が、すぐ、その空席へ不審ふしんを抱いて
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)