ぼん)” の例文
土地とちにて、いなだは生魚なまうをにあらず、ぶりひらきたるものなり。夏中なつぢういゝ下物さかなぼん贈答ぞうたふもちふること東京とうきやうけるお歳暮せいぼさけごとし。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
女房にょうぼうは、にこにことして、なにかぼんにのせて、あちらへはこんでいました。こちらには、びっこのむすめが、さびしそうにしてっている。
赤いガラスの宮殿 (新字新仮名) / 小川未明(著)
秋の野になくてかなわぬすすきと女郎花おみなえしは、うらぼんのお精霊しょうりょうに捧げられるために生れて来たように、涙もろくひょろりと立っている。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
これに反して田舎いなかでは、正月とぼんは申すに及ばず、大小の祭礼や休みの日には、カハリモノと称して通例でない食物を給与せられる。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ふとけやきぼんが原氏の目にとまつた。それは田舎の村長などの好きさうな鯛の恰好をしたもので二円三十銭といふ札が付いてゐた。
鳴神なるかみおどろおどろしく、はためき渡りたるその刹那せつなに、初声うぶこえあがりて、さしもぼんくつがえさんばかりの大雨もたちまちにしてあがりぬ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
ぼんの十六日のつぎの夜なので剣舞の太鼓たいこでもたたいたじいさんらなのかそれともさっきのこのうちの主人しゅじんなのかどっちともわからなかった。
泉ある家 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「こっちは、丸窓まるまどといたしましょう。少々むつかしいな。手塩皿てじおざらもってきて大吉、型をとるから。それとおぼんもな。わた出すから」
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
「いえ、よござんす。黒麥酒くろビールを一杯とプディングを少し、おぼんにのせといて下さい。さうすれば私が上へ持つて行きますから。」
あきぼんには赤痢せきりさわぎもしづんであたらしいほとけかずえてた。墓地ぼちにはげたあかつちちひさなつかいくつも疎末そまつ棺臺くわんだいせてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
本堂ほんだうはうではきやうこゑかねおともしてゐる。道子みちこ今年ことしもいつかぼんの十三にちになつたのだとはじめてがついたときである。
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
まるで、シャンパンでも抜くような騒ぎで、私の制止も聞かず階下に降りて行き、すぐその一本、栓を抜いたやつをおぼんに載せて持って来た。
やんぬる哉 (新字新仮名) / 太宰治(著)
僕のうちの番頭——あの禿はげあたまの万兵衛が変な顔をして、今夜はぼんの十五日だから海へ出るのはお止しなさいと言うのだ。
海亀 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
老女は紅茶のぼんもたげながら、子供を慰めるようにこう云った。それを聞くと房子のほおには、始めて微笑らしい影がさした。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
お正月だのおぼんだの、またはいろんなおまつりのおりに、町のにぎやかな広場に小屋こやがけをして、さまざまの人形を使いました。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
それはちょうど、ぼん精霊迎しょうりょうむかえのような行事であった。長年行商をして、諸国を歩いていたKが、某時あるとき私に此の話をした。私は好奇心を動かして
風呂供養の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
やがてあたりは真暗まっくらになり、ぼんをひっくりかえしたような豪雨となった。それにまじって、どろんどろんと地軸もさけんばかりに雷鳴はとどろく。
幽霊船の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
やや左手の眼の前に落ちかかる日輪はただれたような日中のごみを風にはらわれ、ただ肉桃色にくももいろぼんのように空虚に丸い。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そこへ、機械人間が、おぼんにのせた熱い紅茶をはこんで来て、机の上においた。司令官は紅茶の茶碗をとりあげながら
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
おかみさんはうしろ姿すがたどくづきながら、ちょっと考えて、勘定書かんじょうがきをひょいとぼんの上にのせ、きゃくのへやにはいっていった。
誠太郎は、代助のすはる大きな椅子いすこしけて、洋卓テーブルまへで、アラスカ探検たんけん記を読んでゐた。洋卓テーブルうへには、蕎麦饅そばまん頭と茶ぼんが一所に乗つてゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ぼんのやうな顏を緊張さして、果しまなこで詰め寄るのを見ると、義理にも幽靈がないなどとは言はれさうもありません。
石榴の葉が、ツンツン豆の葉のように光って、山の上にぼんのような朱い月が出ている。肌の上を何かついと走った。
風琴と魚の町 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
他の土産物のように遊びがないので、本当に役立ってくれます。日光土産にはぼんがあって、その上に日光山のびょうだとか眠猫ねむりねこなどを彫った物を売ります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
またこれらのはかからたくさん漆器しつきさかづきぼんはこなどがましたが、その漆器しつきには、これをつくつたとき年號ねんごうつくつた人達ひとたちこまかくりつけてあります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
成程なるほどうでございますかね、それから正月しやうぐわつぼんの十六にちふたくとふ、地獄ぢごくの大きなかまうしました。
明治の地獄 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
と、主人は茶を入れてくれたりして、ぼんに盛ったかきの実に、灰の這入はいっていないからの火入れをえて出した。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
東京に出て相応そうおうに暮らして行く者もあるが、春秋の彼岸やぼんに墓参に来る人の数は少なく、余の直ぐ隣の墓地でも最早もう無縁むえんになった墓が少からずあるのを見ると
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
くんで差出すぼん手薄てうす貧家ひんか容體ありさま其の内に九助は草鞋わらぢひもときあしを洗ひて上にあがり先お里へも夫々それ/″\挨拶あいさつして久々ひさ/″\つもる話しをなす中にやがてお里が給仕きふじにて麥飯むぎめし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
塩市しおいち馬市うまいちぼん草市くさいちが一しょくたにやってきたように、夜になると、御岳みたけふもとの宿しゅく提灯ちょうちんすずなり、なにがなにやら、くろい人の雑沓ざっとうとまッであった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
親子おやこ三人くちおも滿足まんぞくにはまれぬなかさけへとはくおまへ無茶助むちやすけになりなさんした、おぼんだといふに昨日きのふらも小僧こぞうには白玉しらたま一つこしらへてもべさせず
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
雷鳴がおさまるとともに風がおこり、しだいに猛威もういを加え、あまつさえぼんをくつがえす豪雨ごううとなった。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
今に記憶してる事を申せば、幼少の頃、月代さかいきるとき、頭のぼんくぼを剃ると痛いから嫌がる。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
のんださけ勘定かんじやうからですよ。去年きよねんぼんに一どおまへにおごつたことがあるから、けふのははらへと、あののんだくれ のわしやつふんです。するとあんたのはうはうですわねえ。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
ほおずきも、おぼんの来るころにはまだ青くていましたが、いい色がつくようになりました。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
前にも僕は子供時代の感情を自白じはくして恥をさらしたが、子供のときから顔のみにくいことをつねに笑われ、顔がおぼんのようだとか、鼻が低いとか、色が黒いとか、眼ばかり大きいとか
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
海とかわとの神々にことごとくお供えをたてまつり、それから私たち三人の神の御魂みたまを船のうえにまつったうえ、まきのはいひさごに入れ、またはしぼんとをたくさんこしらえてそれらのものを
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
玄関では細君さいくんがでて、ねんごろに主人の不在ふざいなことをいうて、たばこぼんなどをだした。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
かくてはその災害さいがいを待つにおなじくして本意ほんいに非ざれば、今より毎年寸志すんしまでの菲品ひひんていすべしとて、その後はぼんくれ衣物いぶつ金幣きんへい、或は予が特に嗜好しこうするところの数種をえておくられたり。
四角に削った木地を塗物屋ぬりものやへ持って行ってまるぼんに仕上ろと言ってもとても出来ない。しかるに世人は自分の家庭で子供を四角に育てておいて学校がナゼ円くしてくれないと不平を言う。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
といって、ごちそうをおぼんにのせてしてくれました。ごちそうはたいへんうまかったし、あるじの様子ようすかお似合にあわず親切しんせつらしいので、三にんはすっかり安心あんしんして、べたりんだりしていました。
人馬 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
むかしむかし、町といなかに、大きなやしきをかまえて、金のぼんと銀のおさらをもって、きれいなおかざりとぬいはくのある、いす、つくえと、それに、総金そうきんぬりの馬車までももっている男がありました。
青ひげ (新字新仮名) / シャルル・ペロー(著)
悪口を云われる方では辛抱して罵詈ばりの嵐を受け流しているのを、後に立っている年寄の男が指でぼんくぼを突っついてお辞儀をさせる、取巻いて見物している群集は面白がってげらげら笑いはやし立てる
映画雑感(Ⅵ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ぼん正月でなくても帰って来られますの?」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ぼんや正月にゃくるだらあずにな」
小さい太郎の悲しみ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
今夜こんやはおぼん十六日じふろくんち
とんぼの眼玉 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ある年のぼんの祭に
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「さあ、さあ、たくさんありますから、みんなめしあがってください。」と夜警やけい人々ひとびとはいって、ぼんってきてしました。
子供と馬の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
其處そこ風呂敷ふろしきひぢなりに引挾ひつぱさんだ、いろ淺黒あさぐろい、はりのある、きりゝとしたかほの、びん引緊ひきしめて、おたばこぼんはまためづらしい。……
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
『ちんちんちどり』、だことの、『ちょっきんちょっきんちょっきんな』、だことの、まるでぼんおどりの歌みたよなやおい歌ばっかりでないか
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)