父親てゝおや)” の例文
かへりのおそきをはゝおやあんしてたづねにてくれたをば時機しほうちへはもどつたれど、はゝものいはず父親てゝおや無言むごんに、一人ひとりわたしをばしかものもなく
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
その折左衛門尉は自分が毎朝馬で馬場先を運動する事を話したので、石黒氏は父親てゝおやかれてあさはやくから馬場先に出掛けて往つた。
「あの影はそれを買ひに往く父親てゝおやや母親だらう」と思つたので、ドルフは重荷を卸したやうな気がして、太い息をいた。
ある時は長い間人知れず自らとがめてゐた殺人の罪を持つた男をしてその胸を開かしめた。父親てゝおやの子を生んだ娘は泣いてその汚れた袈裟けさすがつた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
病氣の父親てゝおやに土産にするといふのであつた。最初からその積りで、ちつとも箸をつけなかつたのかもしれない。三田は女中を呼んで勘定を命じた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
やが父親てゝおやむかひにござつた、因果いんぐわあきらめて、べつ不足ふそくはいはなんだが、何分なにぶん小児こどもむすめはなれようといはぬので、医者いしやさひはひ言訳いひわけかた/″\親兄おやあにこゝろもなだめるため
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さア、これで宜しい、私が父親てゝおやなればとくに手打にして命はないのだから、手前の命は亡いものと心得ろ。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
たゝいくれぬかと言れてハイと答へながら押入あけて取出す蒲團は薄き物ながら恩いと厚き父親てゝおやに我身の上より苦勞を掛けだ此上にもおなげきを掛る不孝の勿體もつたいなさと口には言ねど心の中思ひつゞけて蒲團を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
石黒氏は父親てゝおやに催促せられて、今まで下げ詰めだつた頭をもちあげた。見ると馬の上で左衛門尉の二つの眼が蝋燭のやうに光つてゐた。
父親てゝおや先刻さきほどよりうでぐみしてぢてありけるが、あゝ御袋おふくろ無茶むちやことふてはならぬ、しさへはじめていてうしたものかと思案しあんにくれる
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
たい医者殿いしやどののつけやうがなくつて、おとろへをいひてに一にちばしにしたのぢやが三つと、あにのこして、克明こくめい父親てゝおや股引もゝひきひざでずつて、あとさがりに玄関げんくわんから土間どま
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
来年の二月は臨月うみづきだアけれども、子を生んだ暁にゃア伊之さんは赤ん坊の父親てゝおやだから引取って貰わなければならねえのだが、伊之さんも堀切の寮で窮命してえるというから、私も案じられて
千秋ちあきと思へども言はるゝ度にはづかしさの先立なれば果敢々々はか/″\しき回答いらへもなくておもはゆげかゝる所ろへ門の戸開け這入はひり來るは小西屋の一番管伴ばんたう忠兵衞なれば夫と見るより父親てゝおやいとゑまに迎へ上げ忠兵衞どのか能く來ませし今日等は定めし婚姻の日限にちげんきめにお出が有らうと今も今とて娘と二個ふたりうはさ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
だが、父親てゝおやの説明に満足してゐないのはその顔色にも読めた。多くの場合子供は父親てゝおやの説明には満足しないものである。
その父親てゝおやはやくにくなつてか、はあかゝさんが肺結核はいけつかくといふをわづらつてなくなりましてから一週忌しうきぬほどにあとひました、いまりましてもだ五十
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
父親てゝおや医者いしやといふのは、頬骨ほゝぼねのとがつたひげへた、見得坊みえばう傲慢がうまん其癖そのくせでもぢや、勿論もちろん田舎ゐなかには苅入かりいれときよくいねはいると、それからわづらう、脂目やにめ赤目あかめ流行目はやりめおほいから
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
山三郎は十一二の頃物心を知ってから己は二千五百石の一色宮内のたね、世が世なれば鎗一筋の立派な武士、運悪くして町家ちょうか生立おいたったが生涯町家の家は継がん、此の家は父親てゝおやの違う妹のお藤に譲って
石黒氏の父親てゝおやは、いつだつたかわざと相手の目に立つやうにと、変り色の羽織を着て左衛門尉に会ひに往つた事があつた。
母の違ふに父親てゝおやの愛も薄く、これを養子に出して家督あとは妹娘の中にとの相談、十年の昔より耳に挾みて面白からず、今の世に勘當のならぬこそをかしけれ
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
こゝで我れが幸福しやわせといふを考へれば、歸國するに先だちてお作が頓死するといふ樣なことにならば、一人娘のことゆゑ父親てゝおやおどろいて暫時は家督沙汰やめになるべく
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
徳三郎の父親てゝおや、三代目璃寛は、鏡山のお初が得意だつたので、今度徳三郎の襲名興行にも鏡山を出す事になるかも知れないが、その三代目璃寛のお初については哀れな逸話が残つてゐる。
馬鹿野郎ばかやらうよばはりは太吉たきちをかこつけにれへのあてこすり、むかつて父親てゝおや讒訴ざんそをいふ女房にようぼう氣質かたぎれがおしへた、おりきをになら手前てまへ魔王まわう商買人しようばいにんのだましはれてれど
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
むかし/\、ずつとの往時むかし、かう言つて自分の父親てゝおやたづねた子供があつた。
いやうも團子だんごべさせること出來できぬとて一日いちにち大立腹おほりつぷくであつた、大分だいぶ熱心ねつしん調製こしらへたものとえるから十ぶんべて安心あんしんさせてつてれ、餘程よほどうまからうぞと父親てゝおや滑稽おどけれるに
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
にあるころ唐棧とうざんぞろひに小氣こきいたまへだれがけ、お世辭せじ上手じようず愛敬あいけうもありて、としかぬやうにもい、父親てゝおやときよりはかへつてみせにぎやかなと評判ひやうばんされた利口りこうらしいひと
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
十歳とをばかりのころまでは相應さうおう惡戯いたづらもつよく、をんなにしてはと母親はゝおや眉根まゆねせさして、ほころびの小言こごとも十ぶんきしものなり、いまはゝ父親てゝおや上役うわやくなりしひとかくづまとやらおめかけとやら
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
石之助いしのすけとて山村やまむら總領そうりやう息子むすこはゝちがふに父親てゝおやあいうすく、これを養子やうしいだして家督あと妹娘いもとむすめなかにとの相談さうだん、十ねんむかしよりみゝはさみて面白おもしろからず、いま勘當かんだうのならぬこそをかしけれ
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
おもひのまゝにあそびてはゝきをと父親てゝおやことわすれて、十五のはるより不了簡ふりようけんをはじめぬ、男振をとこぶりにがみありて利發りはつらしきまなざし、いろくろけれど樣子ふうとて四隣あたりむすめどもが風説うわさきこえけれど
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ざれたる婢女をんな輕口かるくちおとしばなしして、おとき御褒賞ごほうびなにや、ひとものたまこと幼少ちいさいよりの蕩樂だうらくにて、これを父親てゝおや二もなくがりし、一トくちはゞ機嫌きげんかちのたちなりや
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
七歳なゝつのとしに父親てゝおや得意塲とくいば藏普請くらぶしんに、足塲あしばのぼりてなかぬりの泥鏝こてちながら、したなるやつこものいひつけんと振向ふりむ途端とたんこよみくろぼしの佛滅ぶつめつとでもありしか、年來ねんらいれたる足塲あしばをあやまりて
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
なに此樣こん身分みぶんうらやましいことか、こゝでれが幸福しやわせといふをかんがへれば、歸國きこくするにさきだちておさく頓死とんしするといふやうなことにならば、一人娘ひとりむすめのことゆゑ父親てゝおやおどろいて暫時しばし家督沙汰かとくざたやめになるべく
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
すぐしにするとはなんこと新田につたこそ運平うんぺいこそ大惡人だいあくにん骨頂こつちやうなれむすめばかりはよもやとおもへどそれもこれもこゝろまよひか姿すがたこそことばこそやさしけれうりつるらぬ茄子なすび父親てゝおやおなこゝろになつていま我身わがみ愛想あいそきて
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
取次とりつはゝことばたず儀右衞門ぎゑもん冷笑あざわらつてかんともせずさりとは口賢くちがしこくさま/″\のことがいへたものかな父親てゝおや薫陶しこまれては其筈そのはずことながらもう其手そのてりはせぬぞよ餘計よけいくち風引かぜひかさんよりはや歸宅きたくくさるゝがさゝうなものまことおもひてくものは
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
此家このやうち一人ひとりもなし老婆ばあさまも眉毛まゆげよまれるなと憎々にく/\しくはなつて見返みかへりもせずそれは御尤ごもつとも御立腹ごりつぷくながられまでのことつゆばかりもわたくしりてのことはなしおにくしみはさることなれど申譯まをしわけ一通ひととほりおあそばしてむかしとほりに思召おぼしめしてよと詫入わびいことばきもへずなんといふぞ父親てゝおやつみれは
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)