“斯(かゝ)” の例文
生田は二人の入来るを見て別に驚く様子も無く立来りて丁寧に「何の御用でお出に成りました」と問う、目科は斯(かゝ)る事に慣れし丈(だ)け
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
半次郎(はんじらう)が雨の夜(よ)の怪談(くわいだん)に始めてお糸(いと)の手を取つたのも矢張(やはり)斯(かゝ)る家の一間(ひとま)であつたらう。長吉(ちやうきち)は何(なん)とも云(い)へぬ恍惚(くわうこつ)と悲哀(ひあい)とを感じた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
捨るぞや強面(つれなき)親(おや)と怨(うらみ)なせぞ只(たゞ)此上は善人(よきひと)に拾ひ上られ成長せば其人樣を父母と思ひて孝行(かうかう)盡(つく)すべしと暫時(しばし)涙に昏(くれ)たりしが斯(かゝ)る姿を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
而(しか)して斯(かゝ)る気運を喚起せしめたるもの種々あるべしと雖(いへども)、トルストイ伯の出現こそ、露文学の為に万丈の光焔を放つものなれ。
トルストイ伯 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
都(すべ)て人(ひと)たる者(もの)は常(つね)に物事(ものごと)に心(こゝろ)を留(とゞ)め、世(よ)に新(あた)らしき事(こと)の起(おこ)ることあらば、何故(なにゆゑ)ありて斯(かゝ)る事(こと)の出來(でき)しやと、よく其本(そのもと)を詮索(せんさく)せざるべからず。
改暦弁 (旧字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
今(いま)から數分(すうふん)以前(いぜん)にかの船(ふね)が本船(ほんせん)右舷(うげん)後方(こうほう)の海上(かいじやう)に於(おい)て不思議(ふしぎ)にも難破信號(なんぱしんがう)を揚(あ)げた事(こと)とで考(かんが)へ合(あは)せると斯(かゝ)る配慮(しんぱい)の起(おこ)るのも無理(むり)はあるまい。
ゆるし給(たま)へ我(わ)れはいかばかり憎(にく)きものに思召(おぼしめ)されて物知(ものし)らぬ女子(をなご)とさげすみ給(たま)ふも厭(いと)はじ、我(わ)れは斯(かゝ)る果敢(はか)なき運(うん)を持(も)ちて此世(このよ)に生(うま)れたるなれば
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
かれかくして國を得ず、罪と恥をえむ、これらは彼が斯(かゝ)る禍ひを輕んずるにより、彼にとりていよ/\重し 七六—七八
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
お瀧どのが一体逃去ったる義で御座り奉つり候(そろ)、茂之助さんが大金を出(いだ)して身請に及び、斯(かゝ)る処の一軒の家まで求め
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
されど余は此事に就きて極々の素人なれば君が果してマクレオッドやらバスチヤやらそんな事は存ぜぬなり。斯(かゝ)る詳細の系統は専門家たる君の命に従はん。
明治文学史 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
斯(かゝ)る風聞(ふうぶん)聞(きこ)えなば、一家中(いつかちう)は謂(い)ふに及(およ)ばず、領分内(りやうぶんない)の百姓(ひやくしやう)まで皆(みな)汝(なんぢ)に鑑(かんが)みて、飼鳥(かひどり)の遊戲(あそび)自然(しぜん)止(や)むべし。
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
ヨセフの坑とは例の附会なるべきも、ドタンは昔より斯(かゝ)る泉の為に羊を牧すべき地なりしならん。
妾(せふ)を斯(かゝ)る悲境に沈ましめ、殊に胎児にまで世の謗(そし)りを受(うけ)しむるを慮(おもんばか)らずとは、是れをしも親の情といふべきかと、会合の都度(つど)切(せつ)に言聞(いひきこ)えけるに、彼も流石(さすが)に憂慮の体(てい)にて
母となる (新字旧仮名) / 福田英子(著)
振つて追立るなれば其の危うさは目もくるめき心も消(きゆ)るばかりなりあはれ斯(かゝ)る景色(けいしよく)再びとは來られねば心のどかに杖を立て飽までに眺めんと思ふに其甲斐なし命一ツ全きを
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
斯(かゝ)る中(なか)にも社会(しやくわい)に大勢力(だいせいりよく)を有(いう)する文学者(ぶんがくしや)どのは平気(へいき)の平三(へいざ)で行詰(ゆきづま)りし世(よ)を屁(へ)とも思(おも)はず。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵、三文字屋金平(著)
斯(かゝ)る時、人は往々無念無想の裡(うち)に入るものである。利害の念もなければ越方(こしかた)行末の想(おもひ)もなく、恩愛の情もなく憎悪の悩もなく、失望もなく希望もなく、たゞ空然として眼を開き耳を開いて居る。
空知川の岸辺 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
今まで余の集め得たる証拠は総(すべ)て彼(か)れの外(ほか)に真(まこと)の罪人あることを示せるに彼れ自ら白状したりとは何事ぞ、斯(かゝ)る事の有り得べきや
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
礑(はた)と白眼(にらみ)し其形容(ありさま)に居並び居たる面々(めん/\)何れも身の毛も彌立(よだつ)ばかりに思ひ斯(かゝ)る惡人なれば如何成事をや言出すらんと皆々(みな/\)手に汗(あせ)を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
恐(おそ)らく私(わたくし)の想像(さうぞう)は誤(あやま)るまい、實(じつ)に天(てん)の禍(わざはひ)は人間(にんげん)の力(ちから)の及(およ)ぶ處(ところ)ではないが、今更(いまさら)斯(かゝ)る災難(さいなん)に遭(あ)ふとは、實(じつ)に無情(なさけな)い次第(しだい)です。
愛山君とて正可(まさか)に斯(かゝ)る御考にはあらざるべし、余とて正可に山陽が一代の文豪なりしを知らざる訳にもあらざるなり。
賤事業弁 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
然(しか)し目に見えない将来の恐怖(きようふ)ばかりに満(みた)された女親(をんなおや)の狭(せま)い胸には斯(かゝ)る通人(つうじん)の放任(はうにん)主義は到底(たうてい)容(い)れられべきものでない。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そゞろに発(おこ)りし悪心より人を殺した天罰覿面(てんばつてきめん)、斯(かゝ)る最後を遂(と)げるというも自業自得(じごうじとく)、我身(わがみ)は却(かえ)って快(こゝろよ)きも、只不憫(ふびん)な事は娘なり、血縁にあらねば重二郎どの
斯(か)うすれば斯うなる者、斯(かゝ)る場合には斯る現象を生ずと予(あらかじ)め人事を推断して、而して史を評する者なり。
明治文学史 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
吹く風に和(くわ)す唄ひ終つて忽ち見えず梅花道人鞍を打て歎じて曰く山川秀絶の氣凝(こ)りて斯(かゝ)る男子を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
老(おい)たる親(おや)の痩(や)せたる肩(かた)もむとて、骨(ほね)の手(て)に当(あた)りたるも斯(かゝ)る夜(よ)はいとゞ心細(こゝろぼそ)さのやるかたなし。
雨の夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
籠中(かごのなか)の人(ひと)聲(こゑ)を震(ふる)はし、「お人(ひと)の惡(わる)い、斯(かゝ)る難儀(なんぎ)を興(きよう)がりてなぶり給(たま)ふは何事(なにごと)ぞ。君(きみ)の御心(おんこゝろ)はいかならむ、實(まこと)に心細(こゝろぼそ)くなり候(さふらふ)」と年效(としがひ)もなく涙(なみだ)を流(なが)す、御傍(おそば)の面々(めん/\)も笑止(せうし)に思(おも)ひ
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
暫らく秘して人に知らしむる勿(なか)れとの事に、妾(せふ)は不快の念に堪へざりしかど、斯(かゝ)る不自由の身となりては、今更に詮方(せんかた)もなく、彼の言ふが儘(まゝ)に従ふに如(し)かずと閑静なる処に寓居を構(かま)へ
母となる (新字旧仮名) / 福田英子(著)
願ふ所にて恨(うら)みも晴(はれ)たれば一ト通りの歎願(たんぐわん)にてはとても助命覺束(おぼつか)なく思ひ六右衞門の申立たる棄子に事寄吉兵衞が差當りての作意(さくい)にて斯(かゝ)ることを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
何者が何の為にコロップの栓の裏に斯(かゝ)る切創を附けたるにや、其創は最(もっとも)鋭き刃物にて刺したる者にて老人の咽(のんど)を刺せし兇刃(きょうじん)も斯(かゝ)る業物(わざもの)なりしならん
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
勿論(もちろん)私(わたくし)は不束(ふつゝか)ながらも一個(いつこ)の日本男子(につぽんだんし)であれば、其(その)國(くに)の名(な)に對(たい)しても、斯(かゝ)る塲合(ばあひ)に第(だい)一に逃出(にげだ)す事(こと)は出來(でき)ぬのである。
この時に当つて句を求むるも得べからず。作調家(タイミスト)は遠く離れたり。詩人は斯(かゝ)る境界にあつて、句なきを甘んずべし。
松島に於て芭蕉翁を読む (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
呆(たわけ)、其の方支配を致す身の上で有りながら、其の店子(たなこ)と云えば子も同様と下世話で申すではないか、其の子たる者の斯(かゝ)る難儀をも知らんで居(お)るという事は無い
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
肥(こ)えたる腮(あご)の二重(ふたへ)なるなど、斯(かゝ)る人(ひと)さへある身(み)にて我(わ)れは二心(ふたごゝろ)を持(も)ちて濟(す)むべきや、ゆめさら二心(ふたごゝろ)は持(も)たぬまでも我(わ)が良人(をつと)を不足(ふそく)に思(おも)ひて濟(す)むべきや、はかなし、はかなし
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
日本の座敷に据付けた古物のピアノの恐しく音色の惡いばかりでない。自分の手腕の未熟なばかりでない。日本の居室全體の心持が斯(かゝ)る種類の音樂にはどうしても一致しない。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
斯(かゝ)る注入的の教育を以て人物を作らんとす、吾人其太(はなは)だ難きを知る、昔し藤森弘庵、藤田東湖に語りて曰く、水藩に於て学校の制を立てしこと尋常一様の士を作るには足りなん
出(いだ)す此人若(も)し東京に出(いで)て學ぶこと多年ならばいかなる英傑とならんも知れずと我輩曰く斯(かゝ)る奇才子は宜しく此の山間に生涯を終りて奇を丘壑(きうがく)に埋(うづ)むべし然らずして東京へ出(いで)てなまじひに學問を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
斯(かゝ)る無邪気の労力をもて我はわが胸中に蟠(わだかま)りたる不平を抑へつ、疲れて帰る夜の麦飯(むぎめし)の味、今に忘れず、老畸人わが往事を説きて大に笑ふ時、われは頭を垂れて冥想す。
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
藤「いや面目次第もございません、一時の心得違いから屋敷を出まして、尾羽(おは)打ち枯らした身の上、斯(かゝ)る処へ中原氏(うじ)が参ろうとは存じません、面目次第もございません」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
若し母と寧児さえ無くば妾(わらわ)斯(かゝ)る危き所へ足蹈もする筈なけれど妾の如き薄情の女にも母は懐しく児は愛らしゝ一ツは母の懐しさに引(ひか)され一ツは子の愛らしさに引されしなり
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
始めて東京へ出て来た地方の人は、電車の乗換場(のりかへば)を間違へたり市中(しちゆう)の道に迷つたりした腹立(はらだち)まぎれ、斯(かゝ)る地名の虚偽を以てこれ亦(また)都会の憎むべき悪風として観察するかも知れない。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
斯(かゝ)る苦界に沈んで居るとは如何にも不憫、盲目の身で会っても益ないが、何うかして此の金をやりたいというので、渡邊外記から餞別に貰った百両を包み、重三郎に頼み
吾人は敢て魯文柳北二翁を詰責するものにあらず、唯だ斯かる混沌時代にありて、指揮者をもたざる国民の思想に投合すべきものは、悲しくも斯(かゝ)る種類の文学なることを明言するのみ。
肋(あばら)へ突込(つきこ)みこじり廻せば、山本志丈は其の儘にウンと云って身を顫(ふる)わせて、忽(たちま)ち息は絶えましたが、此の志丈も伴藏に与(くみ)し、悪事をした天罰のがれ難く斯(かゝ)る非業を遂げました
斯(かゝ)る曲物(くせもの)を置きたりとて何の障(さは)りにもなるまじけれど、その芥(あくた)ある処に集り、穢物(ゑぶつ)あるところに群がるの性あるを見ては、人間の往々之に類するもの多きを想ひ至りて聊(いさゝ)か心(むね)悪くなりたれば
秋窓雑記 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
斯(かゝ)る次第ゆえ、此の始末を娘が聞知(きゝし)る時は、憂(うれい)に迫(せま)り病(やまい)重(おも)って相果(あいは)てるか、願(ねがい)の成らぬに力を落し、自害をいたすも知れざるゆえ、何卒(どうぞ)此の事ばかりは娘へ内聞(ないぶん)にして下さらば
後の世の仕合(しあわせ)であると申したという、お咳などには大妙薬である、斯(かゝ)る結構な物を毒とは何ういう理由(わけ)だ尤(もっと)も其の時に盜跖(とうせき)という大盗賊が手下に話すに、是(こ)れは好(よ)いものが出来た
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
斯(かゝ)る殊勝(しゅしょう)の体(てい)を見て、作左衞門は始めて夢の覚めたように、茫然として暫く考え
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
只一人斯(かゝ)る山の中に居って、躬(みずか)ら自然薯(じねんじょ)を掘って来るとか、或(あるい)は菌(きのこ)を採(と)るとか、薪(たきゞ)を採るとか、女ながら随分荒い稼ぎをして微(かす)かに暮しておるという独身者(ひとりもの)さ、見れば器量もなか/\好(よ)い
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
又「是は怪(け)しからん所で御面会、斯(かゝ)る場所にて何(なに)とも面目次第もござらん」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
斯(かゝ)る悪人を助けおかば旗下(はたもと)の次三男をして共に大伴の悪事に染(し)みて、非道の行いを見習わせれば実に天下の御為(おんため)にならぬ、捨置きがたき奴、此の兄弟は文治郎此処(こゝ)に於(おい)てずた/\に斬り殺し
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)