たと)” の例文
たとへば、淡路あはぢ和泉いづみあひだうみは、古來こらい茅渟ちぬうみせうたつたのを、今日こんにちはこの名稱めいせうばないで和泉洋いづみなだまたは大阪灣おほさかわんせうしてゐる。
国語尊重 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
しかこれきたはなしとか、交際かうさいとかとふものとはまたべつで、あま適切てきせつれいではりませんが、たとへば書物しよもつはノタで、談話だんわ唱歌しやうかでせう。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
たとへば越中えつちゆう氷見ひみ大洞穴だいどうけつなかには、いまちひさいやしろまつられてありますが、そのあななかから石器時代せつきじだい遺物いぶつがたくさんにました。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
たとえ過失にもせよ、あきらかに殺人事件だから、道化ピエロの死体とともに、劇団「笑う妖魔」一座の者は、その場から警視庁へ連行された。
劇団「笑う妖魔」 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
たとへば相模平野さがみへいやおこ地震ぢしんおいては、其地方そのちほう北西方ほくせいほうおい氣壓きあつたかく、南東方なんとうほうおいてそれがひくいと其地方そのちほう地震ぢしん誘發ゆうはつされやすい。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
たとえば、船に、横浜解纜かいらんの際、中学の先生から紹介して貰った、Kさんという、中学で四年先輩のひとが、見習船員をしておりました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
鋭敏えいびん作用はたらきをすることがある………たとへば何か待焦まちこがれてゐて、つい齒痒はがゆくなツて、ヂリ/″\してならぬと謂ツた風にさわぎ出す。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
看板とによって満艦飾されて居ることか! たとえてみれば浅草の活動館街と新宿の盛り場とをウントコサ広く拡張したような有様なのだ。
赤げっと 支那あちこち (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
が、娘としてこれはまあ自然だらう。しかしたとへば、歩き疲れて白砂にどつかと腰を下す。弟が早速いでゐるなぎさでせつせと砂山を作る。
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
独身者のことゆえ、家庭的な煩悶はんもんがあったというでもなく、そうかといって、痴情の自殺、たとえば失恋という様なことでもなかったのです。
目羅博士の不思議な犯罪 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
たとえば、村の人々の間にはこんなうわさがされ出していた。この頃、この村へ地震のために気ちがいになった一人の女が流れ込んできている。
三つの挿話 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
のごとき妖艶ようえんを極めたるものあり。そのほか春月、春水、暮春などいえる春の題を艶なる方に詠み出でたるは蕪村なり。たとえば
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
たとへば」と云つて、先生はだまつた。けむりがしきりにる。「たとへば、こゝに一人ひとりの男がゐる。ちゝは早く死んで、はゝ一人ひとりたよりそだつたとする。 ...
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そのうへ趣味しゆみひろく——たとへば最近さいきん、その三上みかみ對手あひてとして、いいとしをしながら(失言しつげん?)將棋しやうぎ稽古けいこしかけたりしてゐる。
「お前の話の方が餘つ程穩やかぢやないぜ。誰が誰に惚れようと、日本中御法度はねえ筈だ。たとへば、お前が三浦屋の高尾に惚れやうと——」
たとへば松林の間を貫く坂道のふもとに水が流れてゐて、朽ちた橋の下に女が野菜を洗つてゐるとか、或は葉雞頭の淋し氣に立つてゐる農家の庭に
畦道 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
たとえそれが星のかけらであっても、食卓に出ている以上、この女達は鯷薬味汁アンチョビ・ソウスをつけてフォウクに刺して舌へ載せたことであろうと私は推測した。
踊る地平線:09 Mrs.7 and Mr.23 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
わがヴェロニカを見んとてたとへばクロアツィアより人の來ることあらんに、久しく傳へ聞きゐたるため、その人くことを知らず 一〇三—一〇五
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
たとへば、それがあさの九であつたと假定かていして、丁度ちやうど其時そのとき稽古けいこはじめる、時々とき/″\何時なんじになつたかとおもつてる、時計とけいはりめぐつてく!一時半じはん晝食ちうじき
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
たとえば会社から諸君に支給する昼の弁当だね。従来三十銭だったのをこの春から二十五銭に下げた。本社支店工場を
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
はたして、さしものにたけくるった大時化おおしけが、もなくおさまり、三浦みうら土地とちはさしたる損害そんがいもなくしてんだのでしたが、三浦以外みうらいがい土地とちたとえば伊豆いずとか
たとへば客の乗車券を買つて来てやつたり、ステーションまで手荷物をかゝへて客を送つたり、夜になると泊り客を届け帳に記入して派出所へ持つて行つたり
ある職工の手記 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
たとへば日比谷公園ひゞやこうえんよこ道路どうろや、青山赤坂通あをやまあかさかどほりなどにゑてあるすゞげたようなのなる並木樹なみきぎとして立派りつぱなすゞかけのは、あかるい淡緑色たんりよくしよくをしてゐます。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
たとえば、優れた作品ほど正当な鑑賞を受けにくいということは、古来の偉大な作品が明らかに実証している。
蝸牛の角 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
たとへばつちはづる〻とも青年せいねん男女なんによにして小説せうせつまぬ者なしといふ鑑定かんていおそらくはづれツこななるべし。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
まして、たとえ親類にもせよ、他人の子供を育てて下さったということは、並大抵のことじゃありませんよ。
女の一生 (新字新仮名) / 森本薫(著)
僕は多く不浄のはなしをならべるようではあるが、身をしばられた例は奴隷どれい制度の廃止された今日こんにち娼妓しょうぎをもってたとうるのほかなしと思い、ここに引例したのである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
たとえば薯の煮たの、豆のゆでたの、餅等と云うものを茶菓子に出すので、家から家へと泳いで廻って居るこの人等は三度に二度は他人の家で足して居られるので
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
たとえば芭蕉ばしょうの思想も、突として芭蕉にはじまったものではなくて、既に何百年か前の、連歌の宗祇そうぎの思想に根ざしている。否々いないな、その思想は古き仏教の思想である。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
たとえその首が見つかったところで、五週間からになれば、腐敗してしまっているに相違ないから、それで被害者の身元を探り、そこから犯人を探すことは困難だろう。
風力を測る器械の側で、技手は私に、暴風雨あらしの前の雲——たとえば広濶こうかつな海岸の地方で望まれるようなは、その全形をこの信濃しなのの地方で望み難いことを話してくれた。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
たとえば、府下大井町の呑み友達の家へ行く省線から降りての途中、床屋の新店が出来てたとする。
青バスの女 (新字新仮名) / 辰野九紫(著)
仏工は古来より阿弥陀如来の立像と、地蔵菩薩じぞうぼさつの立像をむつかしい物の東西の大関にたとえてある。
をんなこと愁言なきごとふは、たとへば、弄僕あはうめが、ともないつらをして、れい棒切ボーブルをおったてゝ……
……つまり、売笑婦の蠱惑を戦場の地域にたとえるのに、現今として誰一人、不服はない筈だ。
戦争のファンタジイ (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
ところがエスペラントは何国どこの言葉といふのでないから、同じ文法に依つて、同じ言葉を使ひながら、各国皆其スタイルが違ふやうだ、たとへば英人は英語を、独逸人は独逸語を
エスペラントの話 (新字旧仮名) / 二葉亭四迷(著)
くもそびゆる高山たかやまも。のぼらばなどかへざらむ。そらをひたせる海原うなばらも。わたらばつひわたるべし。わが蜻蛉洲あきつしまあかねさす。ひがしうみはなじまたとへばうみ只中たゞなかに。うかべるふねにさもたり——。
ともすとのたとへの如くなれば召使めしつかふ下女下男に至る迄一人として永くつとむる事なく一半季はんきにて出代る者多き中に久八而已のみ幼年えうねん成と雖も發明者にて殊には親に棄られたる其身の不幸を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
□夕方西にくれないほそき雲棚引たなびき、のぼるほど、うす紫より終に淡墨うすずみに、下に秩父の山黒々とうつくしけれど、そは光あり力あるそれにはあらで、冬の雲は寒く寂しき、たとへんに恋にやぶれ
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
たとへば太平記、平家物語、などは高等民種のうちに歓迎せられたりといへども、平民社界に迎へらるべき様なし、かるが故に彼等の内には自ら、彼等の思想に相応なる物語、小説の類生れ出でたり
徳川氏時代の平民的理想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
法然帰依の輩がこの大事件を聞いて歎き悲しむことたとうるにものなく、門弟のうち皆々住蓮、安楽が既に死刑に処せられた上は、上人のお咎めとしては念仏興行の理由ばかりであるから
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
たとえばちょっとした調子はずれの高い言葉も、調和を破るために禁じられる。
猫町:散文詩風な小説 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
たとへば昨年さくねんの七ぐわつ日本にほん標準生糸へうじゆんきいときん横濱相場よこはまさうばは千三百二十ゑんであつて、對米爲替相場たいべいかはせさうばは四十四ドルぶんの一であつたから、米國べいこくではこれが五百八十二ドル四十五セントであるが
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
世界の女が皆あの顔になってくれてはおおいに失望する男も多いだろうと思う、たとえば私の愛人であるカフェー何々のお花の顔が、一夜にしてモナリザと化けてしまったとしたら、私は困ってしまう。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
たとえば私が朝鮮の人だとすれば、ああいう子供たちの私に対する気持の中には、愛情というものの外に悪い意味での好奇心といっていいか、とにかく一種別なものが先に立って来ると思うのです。
光の中に (新字新仮名) / 金史良(著)
「なあにたとへて云つたのさ。皇族が大統領でもかまひはしない。」
手品師 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
「怒ったね苅田君、——今のはたとえ話さ。つまり足台クッションの位置を直した者があるとすれば、ここには君より他に誰もいないと云ったんだ」
海浜荘の殺人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
せい元來ぐわんらい身分みぶん分類ぶんるゐで、たとへばおみむらじ宿禰すくね朝臣あそんなどのるゐであり、うぢ家系かけい分類ぶんるゐで、たとへば藤原ふじはらみなもとたひら菅原すがはらなどのるゐである。
誤まれる姓名の逆列 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
たとへばすみ別室べつしつ藥局やくきよくてやうとふには、わたくしかんがへでは、少額せうがく見積みつもつても五百ゑんりませう、しかあま不生産的ふせいさんてき費用ひようです。』
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
たとへばひらたく兩方りようほうからみがしてゐる石斧せきふ、あるひはながやり、あるひは庖丁ほうちようといつたふうに、使用しよう便利べんり種々しゆ/″\かたち出來できたのであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)