一晩ひとばん)” の例文
一晩ひとばんのお醫師いしや離座敷はなれざしきのやうなところめられますと、翌朝あけのあさ咽喉のどへもとほりません朝御飯あさごはんみました。もなくでございましたの。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
道子みちこ一晩ひとばんかせげば最低さいていせん五六百円ぴやくゑんになる身体からだ墓石ぼせき代金だいきんくらいさらおどろくところではない。ふゆ外套ぐわいたうふよりもわけはないはなしだとおもつた。
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
「それはあいにくでございました。主人しゅじんはものいみでございまして、今晩こんばん一晩ひとばんつまでは、どなたにもおいになりません。」
羅生門 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
時も時とて飯料はんりょうの麦をきらしたので、水車に持て行って一晩ひとばんずの番をしていて来ねばならぬ。最早甲州の繭買まゆかいが甲州街道に入り込んだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
父親ちちおやは、無理むり今夜こんやあひるをころすとはいいませんでした。せめて、一晩ひとばんは、子供こども自由じゆうにさせておいてやろうとおもいました。
縛られたあひる (新字新仮名) / 小川未明(著)
にわ若草わかくさ一晩ひとばんのうちにびるようなあたたかいはるよいながらにかなしいおもいは、ちょうどそのままのように袖子そでこちいさなむねをなやましくした。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
損「なりますとも、一晩ひとばん四布よのが五銭に、三布布団みのぶとんが三銭、しめ八銭、三八さんぱ二円四十銭しじっせんが二ヶ月で四円八十銭に成りますわねえ」
「三年まえです。ぼくは一晩ひとばん寒い中でねました。いっしょにいた親方はこごえて死にましたし、ぼくは肺炎になりました」
「一つ皮肉ひにくに、せんだって使者にまじってきた、菊池半助きくちはんすけをたずねて、一晩ひとばんめてくれともうしこんで見ようじゃないか」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
途中とちゆう一晩ひとばんとまつたといふやうなことをいつて勘次かんじこゝろせはしくまで理由わけをいはなかつた。勘次かんじやうやくおしなたのまれてたのだといふことをつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
とうとうしまいに、ガンたちは、教会きょうかいのあとの、草のえたゆかの上におりて、そこで、一晩ひとばんをすごすことにしました。
たつた一晩ひとばんの事ではあるし、病院へとまるか、とまらないか、まだわからないさきから、関係もない人に、迷惑を掛けるのは我儘過ぎて、強ひてとは云ひかねるが
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
一晩ひとばんのうちに、ふじのつるで、着物からはかまから、くつからくつ下まで織ったり、こしらえたりした上に、やはり同じふじのつるでゆみをこしらえてくれました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
「うん、わしはゆうべ一晩ひとばんねむらなかった。けれども今朝けさわしのからだは水晶すいしょうのようにさわやかだ。どうだろう、天気は」王さまはとばりを出てまっすぐに立たれました。
四又の百合 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
なんとかかんとか鋸楽師をいじめて寝かさなかった。おいぼれは一晩ひとばん中こごんで肝臓をかばっていた。
売春婦リゼット (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
北国すじの或る大都会などは、ことに迷子まいごというものが多かった。二十年ほど前までは、冬になると一晩ひとばんとしていわゆるかね太鼓たいこの音を聞かぬ晩はないくらいであったという。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
翌曉あくるあさ小樽に着く迄は、腰下す席もない混雜で、私は一晩ひとばん車室の隅に立ち明した。小樽で下車して、姉の家で朝飯をしたゝめ、三時間許りも假寢うたゝねをしてからまた車中の人となつた。
札幌 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
なんにも知らぬ新吉が見ても、象はたいへんよろこんでいることがわかりました。昨夜さくや一晩ひとばん、同じ貨車かしゃの中ですごしたので、象は新吉を友だちのように思っているふうなのです。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
ゆふべ、じつはこのはるへ、れんげそうみにとおもつてた、その自分じぶんが、あんまりのなつかしさに、いへへもかへらないで、つひ/\、そこで一晩ひとばんくらしたといふ意味いみです。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
よ、おまへ此樣このやう病氣びやうきになつてから、お父樣とつさんもお母樣つかさん一晩ひとばんもゆるりとおやすみになつたことはない、おつかれなされておせなされて介抱かいはうしてくださるのを孝行かう/\のおまへ何故なぜわからない
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
甚兵衛は家にかえって、その話をさるにいってきかせ、うらなしゃ言葉ことばを二人で考えてみました。地獄じごくるがわけはないというのが、どうもわかりませんでした。二人は一晩ひとばん中考えました。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
ほかの奴は皆船から出て行て、私一人で船の番をして居る。うすると一晩ひとばんとまって、どいつもこいつもグデン/\によって陽気になって帰て来る。しゃくさわるけれども何としても仕様しようがない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それや、一月ひとつきつていふのは、少し長すぎたけど、どうしても手の放されない患者だつたんですもの……。一晩ひとばん、代りを頼んでと思つたこともあるわ。でも、やつぱり、気がとがめて……。
モノロオグ (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
子家鴨こあひるつかれとかなしみになやまされながらここで一晩ひとばんあかしました。
なが一晩ひとばんかりをしてまわり
まざあ・ぐうす (新字新仮名) / 作者不詳(著)
「ああ、おばあさん。じつはこのはらの中で日がれたので、とまうちがなくってこまっているものです。今夜こんや一晩ひとばんどうかしてめてはいただけますまいか。」
安達が原 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
そしてそのくろあたまをぺこぺこげて、どうか今夜こんやだけもう一晩ひとばんここにめておいてくれとたのみました。しかし若者わかものたちは承知しょうちをしなかったのです。
カラカラ鳴る海 (新字新仮名) / 小川未明(著)
もう、バルフルールに着いたときは、夕方おそくなっていたので、ボブの兄弟はわたしたちによければ今夜一晩ひとばん船の中でねて行ってもいいと言った。
霜月しもつき末頃すゑごろである。一晩ひとばん陽氣違やうきちがひの生暖なまぬるかぜいて、むつとくもして、火鉢ひばちそばだと半纏はんてんぎたいまでに、惡汗わるあせにじむやうな、その暮方くれがただつた。
夜釣 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ニールスは、ほとんど一晩ひとばんじゅう目がさめていました。あけがたになって、すこしねむりましたが、そのとき、おとうさんとおかあさんのゆめをみました。
きのふまでちひさなたけだとおもつたのが、わづ一晩ひとばんばかりで、びつくりするほどおほきくなつたのがあります。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
豊臣家とよとみけにはなんのしたくもなく、見物けんぶつにまじってぶらりとやってきた三名は、さしずめ、そこらののしたにござでもしいて一晩ひとばん明かすよりほかにしかたがない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其様そんな手紙は未だ見なかったのである。来意らいいを聞けば、信州の者で、一晩ひとばん御厄介ごやっかいになりたいと云うのだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
わざ/\電報を掛けて迄逢ひたがる妹なら、日曜の一晩ひとばん二晩ふたばんつぶしたつて惜しくはない筈である。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「まあごはんを食べよう。今夜一晩ひとばんあぶらけておいてみろ。それがいちばんいいという話だ」
貝の火 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「みんながあたまをぺこぺこげて、今晩こんばんだけもう一晩ひとばんめておいてくれいとたのみました。」と、そのさまはなしました。
カラカラ鳴る海 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そのくる日保名やすなは目がめてみると、昨日きのううけたからだきず一晩ひとばんのうちにひどいねつをもって、はれがっていました。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
また、それだけにつりがうまい。素人しろうとにはむづかしいといふ、鰻釣うなぎつり絲捌いとさばきはなかでも得意とくいで、一晩ひとばん出掛でかけると濕地しつち蚯蚓みゝず穿るほどひとかゞりにあげてる。
夜釣 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
この作り話のがいつもあるわけではなかったが、たまにそれが当たるといい一晩ひとばんごされた。そうだ、わたしはほんとにひつじのちちいていた。
「ここで一晩ひとばんすごす気らしいな。」と、ニールスは思いながら、ガチョウのせなかからとびおりました。
がつゆき綿わたのようにまちて、一晩ひとばんのうちに見事みごとけてゆくころには、袖子そでこいえではもう光子みつこさんをこえこらなかった。それが「金之助きんのすけさん、金之助きんのすけさん」にわった。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それとも宿やどがなくなって今夜一晩ひとばんとめてもらいたいとうのか。バキチが頭をきやした。いやどっちもだ、けれども馬を盗むよりとまるよりまず第一だいいちに、おれは何かが食いたいんだ。
バキチの仕事 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
いま一遍は、愈新聞の方がまつたから、一晩ひとばんゆつくきみみたい。何日いくかて呉れといふ平岡の端書はがきいた時、折悪く差支が出来たからと云つて散歩の序に断わりにつたのである。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そのこえをおきになると、天子てんしさまはおひきつけになって、もうそれからは一晩ひとばんじゅうひどいおねつが出て、おやすみになることができなくなりました。
(新字新仮名) / 楠山正雄(著)
そのふねおきに一にち一晩ひとばんまっていましたが、あくるは、そのかげ姿すがたもなかったのであります。そうしてそのから、むら薬売くすりうりがこなくなりました。
薬売り (新字新仮名) / 小川未明(著)
こと此頃このごろながし、東京とうきやうときから一晩ひとばんとまりになつてならないくらゐ差支さしつかへがなくば御僧おんそう御一所ごいつしよに。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
わたしはそれを思い切って聞けなかった。頭から足のつま先までわたしはやあせをかいていた。わたしはこのありさまでまる一晩ひとばんかれた。にわとりが夜明けを知らせた。
わづ一晩ひとばんばかりのうちにたけはずんずんおほきくなりました。すずめきて、またたけやぶへあそびにきますと、きのふまでえなかつたところにあたらしいたけたのがあります。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
てられたお人形にんぎょうは、一晩ひとばん、ものさびしい野原のはらなかで、露宿ろじゅくしました。あらしおとをきいておそれていました。気味悪きみわるひか星影ほしかげておののいていました。
風の寒い世の中へ (新字新仮名) / 小川未明(著)
いつもは一晩ひとばんぐらいおこもりになっても、明日あすあさはきっとおましになって、みんなにいろいろととうといおはなしをなさるのに、今日きょうはどうしたものだろうとおもって
夢殿 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)