飜然ひらり)” の例文
新字:翻然
初更しよかういたるや、めるつまなよやかにきて、粉黛ふんたい盛粧せいしやう都雅とがきはめ、女婢こしもとをしてくだん駿馬しゆんめ引出ひきいださせ、くらきて階前かいぜんより飜然ひらりる。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
満枝は物をも言はずつと起ちしが、飜然ひらりと貫一の身近に寄添ひて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
えた声で手招きをしながら、もう石橋を飜然ひらりと越えて、先へ立って駆出すと、柔順すなおな事は、一同ぞろぞろ、ばたすたと続いて行く。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と若い女が諸声で、やや色染めた紅提灯、松原の茶店から、夕顔別当、白い顔、絞の浴衣が、飜然ひらりと出て、六でなしを左右から。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
失禮しつれい唯今たゞいま。」とかべなかに、さわやかわかこゑして、くゞもんがキイとくと、てふのやうに飜然ひらりて、ポンと卷莨まきたばこはひおとす。
画の裡 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かごける、と飜然ひらりと来た、が、此は純白ゆきの如きが、嬉しさに、さっ揚羽あげはの、羽裏はうらの色は淡く黄に、くち珊瑚さんご薄紅うすくれない
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
かごける、と飜然ひらりた、が、これ純白じゆんぱくゆきごときが、うれしさに、さつ揚羽あげはの、羽裏はうらいろあはに、くち珊瑚さんご薄紅うすくれなゐ
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
早瀬はちょっとことばを切って……夫人がその時、わななきつつ持つ手を落して、膝の上に飜然ひらりと一葉、半紙に書いた女文字。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
蟹五郎 神通じんずう広大——俺をはじめ考えるぞ。さまで思悩んでおいでなさらず、両袖で飜然ひらりと飛んで、はやく剣ヶ峰へおいでなさるがいではないか。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
きっと振向かっしゃりました様子じゃっけ、お顔の団扇が飜然ひらりかえって、ななめに浴びせて、嘉吉の横顔へびしりと来たげな。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それが為にこうして出向いた、真砂町の様子を聞き度さに、ことに、似たもの夫婦のたとえ、信玄流の沈勇の方ではないから、随分飜然ひらりあらわれ兼ねない。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
飜然ひらりと返して、指したと思えば、峰に並んだ向うの丘の、松のこずえさっと飛移ったかと思う、旗のあおつような火が松明たいまつを投附けたようにぱっと燃え上る。
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
せた夫人はふくらかに、の宿ったる姿して、一所になって渡ったが、姿見の前になると、影が分れて飜然ひらりと出た。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ガサリなどゝおとをさして、びく俯向うつむけに引繰返ひきくりかへす、と這奴しやつにしてらるゝはまだしものことつたうを飜然ひらりねて、ざぶんとみづはいつてスイとおよぐ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
この光景ありさまに、驚いたか、湯殿口に立った髯面ひげづらの紳士が、絽羽織ろばおりすそあおって、庭を切ってげるのに心着いて、屋根から飜然ひらり……と飛んだと言います。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
聞きも果てず、満面に活気を帯びきたった竜田は、飜然ひらりと躍込み、二人のなかと立って、卓子テイブルに手をいたが、解けかかる毛糸の襟巻の端を背後うしろねて
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
中のどれかが、折々気紛きまぐれの鳥影のすように、飜然ひらりと幕へ附着くッついては、一同の姿を、種々いろいろに描き出す。……
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
袱紗ふくさ縮緬ちりめん飜然ひらりかえると、燭台に照って、さっと輝く、銀の地の、ああ、白魚しらうおの指に重そうな、一本の舞扇。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
蒼空あおぞら飜然ひらりと飛び、帽子のひさしかすめるばかり、大波を乗って、一跨ひとまたぎにくれないの虹をおどり越えたものがある。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
美女たをやめたもとつて、そでなゝめに、ひとみながせば、こゝろあるごとさくらえだから、花片はなびらがさら/\としろかざしはなかすめるときくれないいろして、そで飜然ひらりまつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
まりがはずんでうしおに取られ、羽根が外れて海に落つれば、切立きったてのその崖を、するすると何の苦もなく、かにを捕え、貝を拾い、ななめに飛び、横に伝い、飜然ひらりかえる身の軽さ。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
つなとほつるや、筋斗もんどりち、飜然ひらりんで、つちてのひらをつくとひとしく、眞倒まつさかさまにひよい/\とくこと十餘歩じふよほにして、けろりとまる。るもの驚歎きやうたんせざるはなし。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
電車が来る、と物をも言わず、味噌摺坊主は飛乗とびのり飜然ひらり、と乗った。で、その小笠をかなぐって脱いだ時は、早や乗合の中に紛れたのである。——白い火が飛ぶ上野行。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
母親が曲彔きょくろくを立つて、花の中で迎へたところで、哥鬱賢は立停たちどまつて、して……桃の花のかさなつて、影もまる緋色の鸚鵡おうむは、お嬢さんの肩から翼、飜然ひらりと母親の手にまる。
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
七輪しちりんうへ見計みはからひ、風呂敷ふろしき受取うけとつて、屋臺やたいち、大皿おほざらからぶツ/\とけむりつ、きたてのを、横目よこめにらんで、たけかはしごきをれる、と飜然ひらりかはねるうへ
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
母親はゝおや曲彔きよくろくつて、はななかむかへたところで、哥鬱賢こうつけん立停たちどまつて、して……もゝはなかさなつて、かげまる緋色ひいろ鸚鵡あうむは、おぢやうさんのかたからつばさ飜然ひらり母親はゝおやまる。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「お前、そのお盆なんぞ、早くよ。」と釣鐘にでも隠れたそうに、肩から居間へ飜然ひらりと飛込む。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その舌のさきって、野茨のばらの花がこぼれたように、真白まっしろな蝶が飜然ひらりと飛んだ。が、角にも留まらず、直ぐに消えると、ぱっとの底へくぐったさまに、大牛がフイとせた。……
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なよやかな白い手を、半ば露顕あらわに、飜然ひらりと友染の袖をからめて、紺蛇目傘をさしかけながら
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
瞬間、島の青柳あおやぎに銀の影が、パツとして、うお紫立むらさきだつたるうろこを、えた金色こんじきに輝かしつゝさっねたのが、飜然ひらりと宙をおどつて、船の中へどうと落ちた。其時そのとき、水がドブンと鳴つた。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
車夫の提灯ちょうちんが露地口を、薄黄色にのぞくに引かれて、葛木はつかつかと出て、飜然ひらりと乗ると、かじを上げる、背に重量おもしが掛って、前へ突伏つッぷすがごとく、胸に抱いた人形の顔をじった。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
優しいながら、口をめて——とおった鼻筋は気質に似ないと人の云う——若衆質わかしゅだち細面ほそおもての眉を払って、仰向いて見上げた二階の、天井裏へ、飜然ひらりと飛ぶのは、一面、銀の舞扇である。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
挨拶あいさつとともに番頭ばんとうがズイとてのひら押出おしだして、だまつて顏色かほいろうかゞつた、ぼんうへには、湯札ゆふだと、手拭てぬぐひつて、うへ請求書せいきうしよ、むかし「かの」とつたとくがごと形式けいしきのものが飜然ひらりとある。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
すぐに、くるりと腹を見せて、葉裏はうらくぐってひょいとじると、また一羽が、おなじように塀の上からトンと下りる。下りると、すっと枝にしなって、ぶら下るかと思うと、飜然ひらりと伝う。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
兇器きょうきが手を離るゝのをて、局はかれ煙草入たばこいれを探すすきに、そと身を起して、飜然ひらりと一段、天井の雲にまぎるゝ如く、廊下にはかますそさばけたと思ふと、武士さむらいしやりつくやうに追縋おいすがつた。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
飜然ひらりゆらぎ、おでん屋の屋台もかッと気競きおいが出て、白気はくきこまやかに狼煙のろしを揚げる。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
瞬間、島の青柳あおやぎに銀の影が、パッとして、魚は紫立ったるうろこを、えた金色こんじきに輝やかしつつさっねたのが、飜然ひらりと宙を躍って、船の中へどうと落ちた。その時、水がドブンと鳴った。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
汽車のとどろきの下にも埋れず、何等か妨げ遮るものがあれば、音となく響きとなく、飜然ひらりと軽く体をわす、形のない、思いのままに勝手な湧出わきいずる、空を舞繞まいめぐる鼓に翼あるものらしい
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
飜然ひらり此方こなたむきをかえると、なぎさすわった丘の根と、海なるその岩との間、離座敷の二三間、中に泉水をたたえたさまに、路一条みちひとすじ東雲しののめのあけてく、蒼空あおぞらの透くごとく、薄絹の雲左右に分れて
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おおいなる顔を、縁側にもたげて座敷をうかがい、飜然ひらりと飛上りて駈来かけきたり、お丹の膝にすり寄れば、もとどり絡巻からまける車夫の手を、お丹右手めてにて支えながら、左手ゆんでを働かして、(じゃむこう)の首環くびわを探り
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これが植込うゑこみはるかにすかし、もんそとからあからさまにえた、ともなく、くだん美少年びせうねん姿すがたは、おほきてふかげ日南ひなたのこして、飜然ひらりと——二階にかいではないが——まどたかしつはひつた。ふたゝく。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
飜然ひらりと飛ぶ。……乱るるくれない、炎のごとく、トンと床を下りるや、さっと廻廊を突切つッきる。途端に、五個の燈籠ひとしく消ゆ。廻廊暗し。美女、その暗中に消ゆ一舞台の上段のみ、ややあかるく残る。)
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
飜然ひらりと映って、行燈あんどうへ、中から透いて影がさしたのを、女の手ほどのおおき蜘蛛くも、と咄嗟とっさに首をすくめたが、あらず、あらず、柱に触って、やがて油壺あぶらつぼの前へこぼれたのは、の葉であった、青楓あおかえでの。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
十貫、百と糶上せりあげるのに、尾を下にして、頭を上へ上へと上げる。……景気もよし、見ているうちに値が出来たが、よう、と云うと、それ、その鯛を目の上へ差上げて、人の頭越しに飜然ひらりと投げる。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのまま、ふわりとして、飜然ひらりあがった。物干の暗黒やみへ影も隠れる。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「島野、」と呼懸けざま、飜然ひらり下立おりたったのは滝太郎である。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
蝉はひとりでジジと笑って、緋葉もみじの影へ飜然ひらりと飛移った。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と見ると二人の脇の下を、飜然ひらりと飛び出した猫がある。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しやく金鱗きんりんおもかゞやかして、みづうへ飜然ひらりぶ。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
と、蚊帳を払って、明が飜然ひらりと飛んですがった。——
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)