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遙
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はる
ふりがな文庫
“
遙
(
はる
)” の例文
明智は一艘の小舟に身を
托
(
たく
)
して、
遙
(
はる
)
かに明滅する、どことも知れぬ燈台の光を頼りに、腕の限りオールをあやつらねばならなかった。
魔術師
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
雲林筆
(
うんりんひつ
)
と
称
(
とな
)
へる物は、
文華殿
(
ぶんくわでん
)
にも三四
幅
(
ふく
)
あつた。しかしその画帖の中の、
雄剄
(
ゆうけい
)
な松の図に比べれば、
遙
(
はる
)
かに画品の低いものである。
支那の画
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
で、仕様事なしに山の頂から、ズツと東の方を
眺
(
なが
)
めて居ますと、
遙
(
はる
)
か向ふから
蜒々
(
うねうね
)
とした細い川を
筏
(
いかだ
)
の流れて来るのが見えました。
山さち川さち
(新字旧仮名)
/
沖野岩三郎
(著)
どうしてもこれは
遙
(
はる
)
かの南国の夏の夜の景色のやうに思はれたのです。私はひとりホクホクしながら通りをゆっくり歩いて行きました。
毒蛾
(新字旧仮名)
/
宮沢賢治
(著)
風が
激
(
はげ
)
しくなり、
足下
(
あしもと
)
の
雲
(
くも
)
がむくむくと
湧
(
わ
)
き立って、
遙
(
はる
)
か下の方に
雷
(
かみなり
)
の音まで
響
(
ひび
)
きました。王子はそっと下の方を
覗
(
のぞ
)
いてみました。
強い賢い王様の話
(新字新仮名)
/
豊島与志雄
(著)
▼ もっと見る
くど/\と
長
(
なが
)
たらしい
事
(
こと
)
を
書
(
か
)
いた
手紙
(
てがみ
)
よりか『
御返事
(
ごへんじ
)
を
待
(
ま
)
つて
居
(
を
)
ります』の
葉書
(
はがき
)
の方が、
遙
(
はる
)
かに
君
(
きみ
)
の
胸
(
むね
)
をゑぐる
力
(
ちから
)
を
持
(
も
)
つてゐたんだね。
ハガキ運動
(旧字旧仮名)
/
堺利彦
(著)
下
(
した
)
を
見
(
み
)
ると
驚
(
おどろ
)
く
程
(
ほど
)
首
(
くび
)
が
長
(
なが
)
くなつて
居
(
ゐ
)
て、
宛
(
まる
)
でそれは、
遙
(
はる
)
か
眼下
(
がんか
)
に
横
(
よこ
)
たはれる
深緑
(
しんりよく
)
の
木
(
こ
)
の
葉
(
は
)
の
海
(
うみ
)
から
抽
(
ぬ
)
き
出
(
で
)
て
居
(
ゐ
)
る
莖
(
くき
)
のやうに
見
(
み
)
えました。
愛ちやんの夢物語
(旧字旧仮名)
/
ルイス・キャロル
(著)
第一の理由としては、僕の詩論に於ける根本思想が、尋常一様の常識でなく——
遙
(
はる
)
かに常識を超越して——複雑している為である。
詩の原理
(新字新仮名)
/
萩原朔太郎
(著)
袂
(
たもと
)
に
黒
(
くろ
)
く、こんもりと
濃
(
こ
)
い
緑
(
みどり
)
を
包
(
つゝ
)
んで、
遙
(
はる
)
かに
星
(
ほし
)
のやうな
遠灯
(
とほあかり
)
を、ちら/\と
葉裏
(
はうら
)
に
透
(
すか
)
す、
一本
(
ひともと
)
の
榎
(
えのき
)
の
姿
(
すがた
)
を、
前
(
まへ
)
に
斜
(
なゝめ
)
に
見
(
み
)
た
處
(
ところ
)
で
月夜車
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
女中が向うの物を運び終り、酒の注文を聞いて退ると、大四郎は敷物に坐ってまわりを眺めた。前の座敷より
遙
(
はる
)
かに上等である。
ひやめし物語
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
吉田はなあんだという気がしたと同時に自分らの思っているよりは
遙
(
はる
)
かに現実的なそして一生懸命な世の中というものを感じたのだった。
のんきな患者
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
ことに、
裸馬
(
らば
)
を駆る技術に至っては
遙
(
はる
)
かに陵を
凌
(
しの
)
いでいるので、李陵はただ
射
(
しゃ
)
だけを教えることにした。
左賢王
(
さけんおう
)
は、熱心な弟子となった。
李陵
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
前にして遠く
房總
(
ばうそう
)
の山々を
望
(
のぞ
)
み南は
羽田
(
はねだ
)
の
岬
(
みさき
)
海上
(
かいじやう
)
に
突出
(
つきいだ
)
し北は
芝浦
(
しばうら
)
より淺草の
堂塔迄
(
だうたふまで
)
遙
(
はる
)
かに見渡し凡そ
妓樓
(
あそびや
)
の
在
(
ある
)
地
(
ち
)
にして此
絶景
(
ぜつけい
)
を
大岡政談
(旧字旧仮名)
/
作者不詳
(著)
ウィリアムも人に劣らじと出陣の用意はするが、時には殺伐な物音に耳を
塞
(
ふさ
)
いで、高き
角櫓
(
すみやぐら
)
に
上
(
のぼ
)
って
遙
(
はる
)
かに夜鴉の城の方を眺める事がある。
幻影の盾
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
その時
遙
(
はる
)
か林の方から不思議の叫び声が聞こえて来た。林に住むようになって以来かつて一度も聞いたことのない得体の知れない声である。
沙漠の古都
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
彼らの立ちどまった地点から
遙
(
はる
)
か奥地の山々がま正面に見えた。山というよりも、淡い水色にほのぼのと浮んだ幻しであった。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
必
(
かなら
)
ず
朝夕
(
てうせき
)
の
餘暇
(
よか
)
には、
二階
(
にかい
)
の
窓
(
まど
)
より、
家外
(
かぐわい
)
の
小丘
(
せうきう
)
より、また
海濱
(
かいひん
)
の
埠頭
(
はとば
)
より、
籠手
(
こて
)
を
翳
(
かざ
)
して
遙
(
はる
)
かなる
海上
(
かいじやう
)
を
觀望
(
くわんぼう
)
せられん
事
(
こと
)
を。
海島冒険奇譚 海底軍艦:05 海島冒険奇譚 海底軍艦
(旧字旧仮名)
/
押川春浪
(著)
それが、
遙
(
はる
)
かで幽かであるけれども、聴いてゐるうちにだんだん近寄るやうにも思へる。それから二つゐるやうにも思へる。
仏法僧鳥
(新字旧仮名)
/
斎藤茂吉
(著)
遙
(
はる
)
か向ふに薄墨色をしてゐる
山
(
やま
)
の
端
(
は
)
から、
夕靄
(
ゆふもや
)
が立ち
初
(
そ
)
めて、近くの森や野までが、追々薄絹に包まれて行くやうになつた。
東光院
(旧字旧仮名)
/
上司小剣
(著)
更
(
かう
)
闌
(
た
)
けて、天地の間にそよとも音せぬ
後夜
(
ごや
)
の靜けさ、やゝ傾きし
下弦
(
かげん
)
の月を追うて、冴え澄める大空を渡る雁の影
遙
(
はる
)
かなり。
滝口入道
(旧字旧仮名)
/
高山樗牛
(著)
五百年
(
ごひやくねん
)
も
千年
(
せんねん
)
も
前
(
まへ
)
の
歌
(
うた
)
の
方
(
ほう
)
が、
自分
(
じぶん
)
たちのものより
遙
(
はる
)
かに
新
(
あたら
)
しく、もつと/\
熱情
(
ねつじよう
)
が
籠
(
こも
)
つてゐるといふことに、
皆
(
みんな
)
が
心
(
こゝろ
)
づくようになりました。
歌の話
(旧字旧仮名)
/
折口信夫
(著)
梶にはそれらの話よりも犬に向って発した友人の日本語の怒声の方が
遙
(
はる
)
かに興味深く尾を
曳
(
ひ
)
いて感じられるのであった。
厨房日記
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
バッハの神性は凡人に近づき易いものではなく、ベートーヴェンの激情は、一般大衆の経験を
遙
(
はる
)
かに絶したものである。
楽聖物語
(新字新仮名)
/
野村胡堂
、
野村あらえびす
(著)
遙
(
はる
)
か、坂下の大手門のそばで、孫の兵庫が手招きしていた。石舟斎は、自分の早支度をひそかに誇っていたらしいが
剣の四君子:02 柳生石舟斎
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
ローラなどはロミオが
愛姫
(
ひめ
)
に
比
(
くら
)
べては
山出
(
やまだ
)
しの
下婢
(
はしため
)
ぢゃ、もっとも、
歌
(
うた
)
だけはローラが
遙
(
はる
)
かに
上等
(
じゃうとう
)
のを
作
(
つく
)
って
貰
(
もら
)
うた。
ロミオとヂュリエット:03 ロミオとヂュリエット
(旧字旧仮名)
/
ウィリアム・シェークスピア
(著)
彼女は不良少女という、ちんぴらな、
小砂利共
(
こじゃりども
)
の世界からは肉体的にも感情的にも
遙
(
はる
)
かに脱却した
心算
(
つもり
)
であった。
刺青
(新字新仮名)
/
富田常雄
(著)
俺は俺が荒野の
遙
(
はる
)
かかなたを歩いている小さな姿を、こっちから見ているのだ。つまり俺は歩いている俺と、その俺を見ている俺の二人に分裂している。
いやな感じ
(新字新仮名)
/
高見順
(著)
京橋にかかると、何もない焼跡の堤が一目に見渡せ、ものの距離が以前より
遙
(
はる
)
かに短縮されているのであった。
廃墟から
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
世には多くの
唖
(
おし
)
の芸術家がいる。彼等は人に伝うべき表現の手段を持ってはいないが、その感激は往々にして
所謂
(
いわゆる
)
芸術家なるものを
遙
(
はる
)
かに
凌
(
しの
)
ぎ越えている。
惜みなく愛は奪う
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
ジョヴァンニ・グァスコンティという一人の青年が、パドゥアの大学で学問の研究をつづけようとして、イタリーのずっと南部の地方から
遙
(
はる
)
ばると出て来た。
世界怪談名作集:08 ラッパチーニの娘 アウペパンの作から
(新字新仮名)
/
ナサニエル・ホーソーン
(著)
それ以来、彼は多年
培
(
つちか
)
っていた自分の声望がめっきり落ちたのを知った。自分から云えば、
遙
(
はる
)
かに後輩の浅太郎や喜蔵に段々
凌
(
しの
)
がれて来た事を、感じていた。
入れ札
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
遙
(
はる
)
かに見える小さい港に、ごちやごちやと、小さい船がもやつてゐる。海添ひの家の屋根が、白と黒との切紙細工のやうなのも、富岡には珍しい眺めだつた。
浮雲
(新字旧仮名)
/
林芙美子
(著)
一里余り登ってまた一里ばかり降りますと、
遙
(
はる
)
かの向うに大きな原あり原の向うはやはり雪の山であります。
チベット旅行記
(新字新仮名)
/
河口慧海
(著)
窓の先は
隣家
(
りんか
)
のやねで町は少しも見えない。青く深く澄んだ空に星の光りがいかにも遠く
遙
(
はる
)
けく見える。都会のどよみはただ一つの音にどやどやと鳴っている。
廃める
(新字新仮名)
/
伊藤左千夫
(著)
靈
(
れい
)
なる
哉
(
かな
)
この石、
天
(
てん
)
の
雨
(
あめ
)
降
(
ふら
)
んとするや、
白雲
(
はくうん
)
油然
(
ゆぜん
)
として
孔々
(
こう/\
)
より
湧出
(
わきい
)
で
溪
(
たに
)
を
越
(
こ
)
え
峯
(
みね
)
を
摩
(
ま
)
する其
趣
(
おもむき
)
は、
恰度
(
ちやうど
)
窓
(
まど
)
に
倚
(
よ
)
つて
遙
(
はる
)
かに
自然
(
しぜん
)
の
大景
(
たいけい
)
を
眺
(
なが
)
むると
少
(
すこし
)
も
異
(
ことな
)
らないのである。
石清虚
(旧字旧仮名)
/
国木田独歩
(著)
何しろ俺は、学問に
於
(
お
)
いてはお前に及ばないかも知れないが、しかし人間として見たらお前なぞよりも
遙
(
はる
)
かに高いところにあるつもりだ。そりゃ俺の方がずっと
上手
(
うわて
)
だ。
新生
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
まあお
待
(
ま
)
ちなさい、
左様
(
さよう
)
今
(
いま
)
に
遙
(
はる
)
か
遠
(
とお
)
き
未来
(
みらい
)
に、
監獄
(
かんごく
)
だの、
瘋癲病院
(
ふうてんびょういん
)
の
全廃
(
ぜんぱい
)
された
暁
(
あかつき
)
には、
即
(
すなわ
)
ちこの
窓
(
まど
)
の
鉄格子
(
てつごうし
)
も、この
病院服
(
びょういんふく
)
も、
全
(
まった
)
く
無用
(
むよう
)
になってしまいましょう、
無論
(
むろん
)
六号室
(新字新仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
これから江戸へ出て、それから京都にのぼり、そして目的地の備中の国、玉島へいく、
遙
(
はる
)
かな道のことを思つた。その道は遠い。良寛さんの将来も、またそのやうに長い。
良寛物語 手毬と鉢の子
(新字旧仮名)
/
新美南吉
(著)
たとひ
多少
(
たしよう
)
強
(
つよ
)
い
地震
(
ぢしん
)
を
起
(
おこ
)
すことがあつても、それは
中流以下
(
ちゆうりゆういか
)
のものであつて、
最大級
(
さいだいきゆう
)
の
程度
(
ていど
)
を
遙
(
はる
)
かに
下
(
くだ
)
つたものである。
前
(
まへ
)
に
噴火
(
ふんか
)
の
前後
(
ぜんご
)
に
地盤
(
ぢばん
)
の
變動
(
へんどう
)
が
徐々
(
じよ/\
)
に
起
(
おこ
)
ることを
述
(
の
)
べた。
火山の話
(旧字旧仮名)
/
今村明恒
(著)
見
(
み
)
わたすかぎり、
草
(
くさ
)
と
灌木
(
かんぼく
)
の
生
(
は
)
え
茂
(
しげ
)
った
平原
(
へいげん
)
であります。
真
(
ま
)
っ
青
(
さお
)
な
空
(
そら
)
は、
奥底
(
おくそこ
)
の
知
(
し
)
れぬ
深
(
ふか
)
さを
有
(
ゆう
)
していたし、
遙
(
はる
)
かの
地平線
(
ちへいせん
)
には、
砲煙
(
ほうえん
)
とも
見
(
み
)
まがうような
白
(
しろ
)
い
雲
(
くも
)
がのぞいていました。
戦友
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
蒼
(
あを
)
い
空
(
そら
)
は
淺
(
あさ
)
い
水
(
みづ
)
の
底
(
そこ
)
から
遙
(
はる
)
かに
深
(
ふか
)
く
遠
(
とほ
)
く
光
(
ひか
)
つた。さうして
何處
(
どこ
)
からか
迷
(
まよ
)
ひ
出
(
だ
)
して
落付
(
おちつ
)
く
場所
(
ばしよ
)
を
見出
(
みいだ
)
し
兼
(
か
)
ねて
困
(
こま
)
つて
居
(
ゐ
)
るやうな
白
(
しろ
)
い
雲
(
くも
)
が
映
(
うつ
)
つて、
勘次
(
かんじ
)
が
走
(
はし
)
れば
走
(
はし
)
る
程
(
ほど
)
先
(
さき
)
へ/\と
移
(
うつ
)
つた。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
桂次
(
けいじ
)
が
思
(
おも
)
ひやりに
比
(
く
)
べては
遙
(
はる
)
かに
落
(
おち
)
つきて
冷
(
ひや
)
やかなる
物
(
もの
)
なり、おぬひさむ
我
(
わ
)
れがいよ/\
歸國
(
きこく
)
したと
成
(
な
)
つたならば、あなたは
何
(
なん
)
と
思
(
おも
)
ふて
下
(
くだ
)
さろう、
朝夕
(
あさゆふ
)
の
手
(
て
)
がはぶけて、
厄介
(
やくかい
)
が
减
(
へ
)
つて
ゆく雲
(旧字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
篠田は
例
(
いつも
)
の如く早く起き出でて、一大
象牙盤
(
ざうげばん
)
とも見るべき
後圃
(
こうほ
)
の雪、いと惜しげに下駄を
印
(
いん
)
しつゝ
逍遙
(
せうえう
)
す、日の光は
尚
(
な
)
ほ
遙
(
はる
)
か地平線下に
憩
(
いこ
)
ひぬれど、夜の神が
漉
(
こ
)
し成せる清新の空気は
火の柱
(新字旧仮名)
/
木下尚江
(著)
まして学生は世の中へ出た者に比して
遙
(
はる
)
かに多くの閑暇をもっている筈だ。そのうえ読書は他の娯楽のように相手を要しないのである。ひとはひとりで読書の楽しみを味うことができる。
如何に読書すべきか
(新字新仮名)
/
三木清
(著)
それが
不圖
(
ふと
)
したことからある
近親
(
みより
)
の人の眼を患つて肥前
小濱
(
をはま
)
の
湯治場
(
たうぢば
)
に滯留してゐた頃、母と乳母とあかんぼと
遙
(
はる
)
ばる船から海を渡つて見舞に行つた當時の出來事だということがわかつた。
思ひ出:抒情小曲集
(旧字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
ゴーン……と
遙
(
はる
)
かに除夜の鐘が聞えて来た——ゴーン……またゴーン……。
老残
(新字旧仮名)
/
宮地嘉六
(著)
上方から凍えた外気が、重たい霧のように
降
(
ふ
)
り下って来る。二人の前方
遙
(
はる
)
か向うには、円形の
赭
(
あか
)
い光の中に絶えず板壁の羽目が現われて、法水の持つ懐中電燈が目まぐるしい旋回を続けていた。
聖アレキセイ寺院の惨劇
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
前歯の抜けた
窪
(
くぼ
)
い口が
遙
(
はる
)
か奥に見えるくらゐ半島のやうに突き出た長い
頤
(
あご
)
、眼は小さく、額には幾条もの太い
皺
(
しわ
)
が寄り、老婆そのまゝの容貌をしてゐたので、入舎早々ばア様といふ
綽名
(
あだな
)
がついた。
途上
(新字旧仮名)
/
嘉村礒多
(著)
そして自分のすぐ前の山の、又その向ふの山を越えて、
遙
(
はる
)
かに帯を
曳
(
ひ
)
いたやうな
銀
(
しろがね
)
の色のきらめき、あれは恐らく
千曲
(
ちくま
)
の流れで、その又向ふに続々と黒い人家の見えるのは、大方中野の町であらう。
重右衛門の最後
(新字旧仮名)
/
田山花袋
(著)
一方には裾を短くしてほとんど
膝
(
ひざ
)
まで出し、他方には肉色の靴下をはいて錯覚の効果を予期しているのに比して、「ちよいと手がるく褄をとり」というのは、
遙
(
はる
)
かに媚態としての
繊巧
(
せんこう
)
を示している。
「いき」の構造
(新字新仮名)
/
九鬼周造
(著)
遙
部首:⾡
14画
“遙”を含む語句
逍遙
遙々
冬逍遙
逍遙遊
遙拝
遙拜
御嶽遙拝所
逍遙軒
逍遙子
逍遙馬車
逍遙場
遙下
遙察
逍遙城
逍遙人
遙拝所
遙授
遙望
遙知郡斎夜
遙語
...