なが)” の例文
いつの間にか、トチトチトン、のんきらしいひびきに乗って、駅と書いた本所停車場ステイションの建札も、うまやと読んで、白日、菜の花をながむる心地。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
つい、そのころもんて——あき夕暮ゆふぐれである……何心なにごころもなく町通まちどほりをながめてつと、箒目はゝきめつたまちに、ふと前後あとさき人足ひとあし途絶とだえた。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
舌長姥 (時に、うしろ向きに乗出して、獅子頭をながめつつあり)老人としよりじゃ、当やかた奥方様も御許され。見惚れるに無理はないわいの。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かとも思ったが、どちらをながめても、何もらず、どこに窓らしい薄明りもさなければ、一間開放したはずの、カアテンそよぎも見えぬ。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もっともね、はじめから聞えないのは覚悟だというように、顔を上げてね、人の顔をながめてさ。目で承りましょうと云うんじゃないの。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
扉の方へうしろ向けに、おおき賽銭箱さいせんばこのこなた、薬研やげんのような破目われめの入った丸柱まるばしらながめた時、一枚懐紙かいし切端きれはしに、すらすらとした女文字おんなもじ
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかし、気をつけて見ると、あれでもしおらしいもので、路端みちばたなどをわれがおしてるところを、人が参って、じっながめて御覧なさい。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
姉がじっながめていたが、何と思ったか、栄螺と蛤をもとへ直すと、入かわりに壇へ飾ったその人形を取って、俎の上へ乗せたっけ……
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と僧は心に——大方明も鐘撞堂から、このさまを、今ながめている夢であろう。何かの拍子に、その鐘が鳴ると目が覚めよう、と思う内……
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
撫子なでしこ円髷まるまげ前垂まえだれがけ、床の間の花籠はなかごに、黄の小菊と白菊の大輪なるをつぼみまじり投入れにしたるをながめ、手に三本みもとばかり常夏とこなつの花を持つ。
錦染滝白糸:――其一幕―― (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
みちわずかに通ずるばかり、枯れてもむぐらむすぼれた上へ、煙の如く降りかゝる小雨こさめを透かして、遠く其のさびしいさまながめながら
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
こゝはや藪の中央ならむともとかた振返ふりかへれば、真昼は藪に寸断されて点々星にさもたり。なほ何程なにほどの奥やあると、及び腰に前途ゆくてながむ。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
取巻いた小児こどもの上を、ふななまず、黒い頭、緋鯉ひごいと見たのは赤いきれ結綿仮髪ゆいわたかつらで、幕の藤の花の末をあおって、泳ぐようにながめられた。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
奥路に名高い、例の須賀川の牡丹園の花の香が風に伝わるせいかも知れない、汽車からながめる、目の下に近い、かど、背戸、垣根。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ふと心付いたさまして、動悸どうきを鎮めるげに、襟なる檜扇ひおうぎの端をしっかとおさえて、トうしろを見て、ふすまにすらりなびいた、その下げ髪の丈をながめた。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(じみなんですからおっかさん似合いますよ、)と嬉しそうにいう顔をながめながら、お絹は手を通しつつふり沢山な裏と表をじっと見て
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
美女たをやめは、やゝ俯向うつむいて、こまじつながめる風情ふぜいの、黒髪くろかみたゞ一輪いちりん、……しろ鼓草たんぽゝをさしてた。いろはなは、一谷ひとたにほかにはかつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
……けむりとほいのはひとかとゆる、やまたましひかとゆる、みねおもひものかとゆる、らし夕霧ゆふぎりうすく、さと美女たをやめかげかともながめらるゝ。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
寂然しんとして、はては目をつむって聞入った旅僧は、夢ならぬ顔を上げて、葭簀よしずから街道の前後あとさきながめたが、日脚を仰ぐまでもない。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一頭ひとつ、ぬっと、ざらざらな首を伸ばして、長くって、汀を仰いだのがあった。心は、初阪等二人とひとしく、絹糸の虹をながめたに違いない。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二筋ふたすぢ三筋みすぢ後毛をくれげのふりかゝるかほげて、青年わかものかほじつながめて、睫毛まつげかげはなしづくひかつて、はら/\とたまなみだおとす。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
雲から投出したような遣放やりぱなしの空地に、西へ廻った日の赤々とす中に、大根の葉のかなたこなたに青々と伸びたをながめて
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
前に青竹のらち結廻ゆいまわして、その筵の上に、大形の古革鞄ただ一個ひとつ……みまわしてもながめても、雨上あまあがりの湿気しけつちへ、わらちらばったほかに何にも無い。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とばかりで重そうなつむりを上げて、にわかに黒雲や起ると思う、憂慮きづかわしげに仰いでながめた。空ざまに目も恍惚うっとりひもゆわえたおとがいの震うが見えたり。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
雛芥子ひなげしが散って実になるまで、風が誘うをながめているのだ。色には、恋には、なさけには、その咲く花の二人をけて、他の人間はたいがい風だ。
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
旅客もステッキをたてかけて、さしむかいに背をかがめ、石を掻抱かいだくようにして、手をついて実をながめたが、まなじりを返して近々と我を迎うる皓歯しらはを見た。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
土地とちのものが、其方そなたそらぞとながる、たにうへには、白雲はくうん行交ゆきかひ、紫緑むらさきみどり日影ひかげひ、月明つきあかりには、なる、また桃色もゝいろなる、きりのぼるを時々ときどきのぞむ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
別にハイそれをながめるでもねえだ。美しい目水晶ぱちくりと、川上の空さあおく光っとる星い向いて、相談つような形だね。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
誰も、富士も三保の松もながめちゃあいない。気まぐれに、舞を見るものも、ごま点と首ッぴきだから、天人の顔は黒痘痕くろあばたさ。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
白泡のずぶずぶと、濡土ぬれつちつぶやく蟹の、やがてさらさらと穂にじて、はさみに月を招くやなど、茫然ぼうぜんとしてながめたのであった。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
葭簀張よしずばりの茶店が一軒、色の黒いしなびた婆さんが一人、真黒な犬を一匹、膝にひきつけていて、じろりと、犬と一所いっしょに私たちをながめましたっけ。……
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
殺されたら死ぬ気でな、——大恩のある御主人の、この格子戸も見納めか、と思うようで、軒下へ出て振返って、かどながめて、立っているとな。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一軒のかどにこのくらい咲いた家は修善寺中に見当らねえだよ。——これをながめるのは無銭ただだ。酒は高価たけえ、いや、しかし、見事だ。ああ、うめえ。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二度目には雷神坂を、しゃ、雲に乗って飛ぶように、車の上から、見晴しの景色をながめながら、口のうちに小唄謡うて、高砂たかさごで下りました、ははっ。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこに立ってただ一人ながめていた婆さんがあった、その顔を見ると、ふさがったようになった細い目で、おや! といった。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わずかに巡行の警官が見て見ぬふりという特別の慈悲を便りに、ぼんやりと寂しい街路の霧になってくのをながめて、鼻のさきを冷たくして待っておったぞ。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
祠は立場たてばに遠いから、路端みちばたの清水の奥に、あおく蔭り、朱に輝く、けるがごとき大盗賊の風采ふうさいを、車の上からがたがたと、横にながめて通った事こそ。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「うむ、」とふ。なかからふちへしがみついた、つら眞赤まつかに、小鼻こばなをしかめて、しろ天井てんじやうにらむのを、じつながめて
銭湯 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
膝にすがって六歳むッつばかりの男の子が、指をくわえながら往来をきょろきょろとながめる背後うしろに、母親のそのせなもたれかかって、四歳よッつぐらいなのがもう一人。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はじめて心付くと、先刻さっきながめた城に対して、稜威みいずは高し、宮居みやいの屋根。雲に連なるいらかの棟は、玉を刻んだ峰である。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
渠は左右のものを見、上下のものをながむるとき、さらにその顔を動かし、首をることをせざれども、ひとみは自在に回転して、随意にその用を弁ずるなり。
夜行巡査 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
けれども人々は、ただ雲をつかんで影をながめるばかりなのを……謹三は一人その花吹くそら——雲井桜を知っていた。
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と歎息するように独言ひとりごとして、しごいて片頬かたほでた手をそのまま、欄干にひじをついて、あまねく境内をずらりとながめた。
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
引被ひっかぶせてやりました夜具の襟から手を出して、なさけなさそうに、銀の指環をながめる処が、とんと早や大病人でな。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と村の小児こどもは峠をながめる。津幡川つばたがわぐ船頭は、(こうがいさした黒髪が、空から水に映る)と申す、——峠の婦人おんなは、里も村も、ちらちらと遊行ゆぎょうなさるる……
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……黒髪のさっさばけたのが烏帽子の金に裏透いて、さながら金屏風きんびょうぶに名誉の絵師の、松風を墨で流したようで、雲も竜もそこから湧くか、とながめられた。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それを透かして、写絵の楽屋のごとき、一筋のかんてらに、顔と姿の写るのを、わざと立淀んで、お孝がながめて
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
があけたわ、かほあらつたわ、旅館りよくわん縁側えんがはから、築山つきやままつへたのがいくつもかすみなかいてる、おほきいけながめて、いゝなあとつたつて、それまでだ。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
すた/\とはひつてると、たなながめ、せきうかゞひ、大鞄おほかばんと、空気枕くうきまくらを、手際てぎはよくつてかついで、アルコールのあをを、くつ半輪はんわまはつて、くとて——
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ト大様にながめて、出刃を逆手さかてに、面倒臭い、一度に間に合わしょう、と狙って、ずるりと後脚をもたげる、藻掻もがいた形の、水掻みずかきの中に、くうつかんだ爪がある。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)