しば)” の例文
義塾三田に移る慶應義塾がしば新銭座しんせんざを去て三田のただ今の処にうつったのは明治四年、是れも塾の一大改革ですから一通り語りましょう。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
わたしは子供の時に、麹町から神田、日本橋、京橋、それからそれへと絵草紙屋を見てあるいて、とうとうしばまで行ったことがあった。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
階下は小売商店の立続いたしば桜川町さくらがわちょう裏通うらどおりに面して、間口まぐち三間さんげんほど明放あけはなちにした硝子店ガラスてんで、家の半分は板硝子を置いた土間になっている。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しば増上寺ぞうじょうじ涅槃会ねはんえへ往っていた権八郎がその夜霍乱かくらんのような病気になって翌日歿くなり続いて五月二十七日になって女房が歿くなった。
四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
先日からお針頭に住みこんでいるおしんが来て、しばと神田の祭礼で大口の注文があったと告げたので、磯五はますます上きげんになった。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
明治十一年のこと、当時私は廿五にじゅうご歳の青年であったが、東京とうきょうへ上京して四年後で、しば花園橋はなぞのばしぐ近所の鈴木すずき某氏の門弟であった頃だ。
死神 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
愛知県中学校長を免ずる辞令は二月十四日を以て発せられた。保はしば烏森町からすもりちょう一番地に家を借りて、四月五日に国府こふからかえった母と水木みきとを迎えた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
甲板でハース氏に会うと、いきなり、しば増上寺ぞうじょうじが焼けたが知っているか、きのうのホンコン新聞に出ていたという。
旅日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「ようござんす。じゃ願います。水がありますか。持って来てあげましょう。そのしばの上がいいですか。どこでもあなたのすきなところでおやりなさい。」
チュウリップの幻術 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
獅子ししわにのいるアフリカへ、(そこのしばの上に坐りながら)わたしはいつまでもこの城にいたい。この薔薇の花の中に、噴水の音を聞いていたい。……
三つの宝 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しばの里に、芝の庄司という人がいた。娘を一人もっていたが、長年、都の内裏だいり采女うねめとして御奉公にあげてあった。
引続きまして、梅若七兵衞うめわかしちべえと申す古いお話を一席申上げます。えゝ此の梅若七兵衞という人は、能役者の内狂言師でございまして、しば新銭座しんせんざに居りました。
梅若七兵衛 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
深川ふかがわ、浅草、日本橋にほんばし京橋きょうばしの全部と、麹町こうじまち、神田、下谷したやのほとんど全部、本郷ほんごう小石川こいしかわ赤坂あかさかしばの一部分(つまり東京の商工業区域のほとんどすっかり)
大震火災記 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
ると……見渡みわたすと……東南とうなんに、しば品川しながはあたりとおもふあたりから、きた千住せんぢう淺草あさくさおもふあたりまで、大都だいと三面さんめんつゝんで、一面いちめんてんである。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
おつぎは足速あしばや臺地だいちはたけから蜀黍もろこしのざわつく小徑こみち低地ていちはたけへおりてやうやくのことで鬼怒川きぬがは土手どてた。おつぎはばひつてしばつかまりながらのぼつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
向こうがわ傾斜けいしゃを見ると、しばいたようなやわらかさである。しかし、その傾斜は目がまわるほど深く、きわまるところに、白い渓流けいりゅう淙々そうそうと鳴っている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しば将監橋しょうげんばしそばであるので、豊岡町とよおかちょうの私の家へ帰るのには、如何どうしても、この河岸通かしとおりを通って、赤羽橋あかばねばしまで行って、それから三田みたの通りへ出なければならないのだ
白い蝶 (新字新仮名) / 岡田三郎助(著)
うめ黄色きいろはなをひらき鋸齒のこぎりばのあるまるみつつづゝ、いとのようなくきにつけたみやまきんばい、ちひさいしばのようなみやまつめくさ、たかねつめくさなどがあります。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
葉子が東京に着いてから一週間目に、宿の女将おかみの周旋で、しば紅葉館こうようかんと道一つ隔てた苔香園たいこうえんという薔薇ばら専門の植木屋の裏にあたる二階建ての家を借りる事になった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
その中には、開城の前夜にしば増上寺ぞうじょうじ山内の大総督府参謀西郷氏の宿陣で種々さまざまな軍議のあったことも出て来た。城を請け取る刻限も、翌日の早朝五ツ時と定められた。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あけ六ツならんとこゝろうれしくかぞへて見ればはなくしてしば切通きりどほしの七ツなればさては兄の長庵殿が我が出立を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
最早もう九年ばかり以前の事だ、当時私の宅へよく遊びに来たしば警察署づめの某氏の実見談じっけんだんである。
暗夜の白髪 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
当時取急ぎて普請せししばの新宅は、いまだ人の住着かざるに、はや日にくろみ、或所は雨に朽ちて、薄暗き一間に留守居の老夫婦の額をあつめては、寂しげに彼等の昔を語るのみ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そこで、諭吉ゆきちは、しば新銭座しんせんざ有馬ありまというとのさまの土地とちって、じゅくをたてたのでした。
そうですね、まるで露西亜の文学者ですねと野だはすぐ賛成しやがる。ゴルキが露西亜の文学者で、丸木がしばの写真師で、米のなる木が命の親だろう。一体この赤シャツはわるいくせだ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しば蝦より稍々やや大きいラングスチンと呼ぶ蝦ははさみを持っている。鋏を持っている蝦は一寸ちょっと形がかわっていて変だが、これがまたなかなかうまい。ことにオリーブ油で日本式の天麩羅てんぷらにするといい。
異国食餌抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
たしかしば亀吉かめきち)さんだったかが初めて読んだのも、この雑誌会であった。
日本のこころ (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
それがしきりに市中を巡邏じゆんらする。尚ほ手先を使つて、彼等盜賊のあとを附けさせると、それが今のしば薩摩さつまぱらの薩州屋敷にはいるといふのでこの賊黨はとう/\薩藩さつぱんちうあふものだといふことが分つた。
兵馬倥偬の人 (旧字旧仮名) / 塚原渋柿園塚原蓼洲(著)
田のしばにぬか雨むすぶ蜘蛛ののかがよふ見れば春は来にけり
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「若様、このしばの上で相撲すもうを取りましょう」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
……ここしばの一帯は、修羅のちまたと一変した。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
これでも、わかときや、しばぱらかけ
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
明治十七八年ごろのことであった。改進党の壮士藤原登ふじわらのぼるしば愛宕下あたごしたの下宿から早稲田の奥に住んでいる党の領袖りょうしゅうの処へ金の無心むしんに往っていた。
雑木林の中 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
安政あんせい末年まつねん、一人の若武士わかざむらいが品川から高輪たかなわ海端うみばたを通る。夜はつ過ぎ、ほかに人通りは無い。しば田町たまちの方から人魂ひとだまのやうな火がちゅうまようて来る。
雨夜の怪談 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
下谷したや佐竹さたけはらしば薩摩原さつまっぱらの如き旧諸侯の屋敷跡はすっかり町になってしまった後でも今だに原の名が残されている。
授業料の濫觴さて鉄砲洲てっぽうずの塾をしば新銭座しんせんざに移したのは明治元年すなわち慶応四年、明治改元の前でありしゆえ、塾の名を時の年号にとって慶應義塾と名づけ
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それはられてぐつしやりとしめつていね土手どてしばうへぱいされてあつたからである。いねはぼつ/\とむらがつて野茨のばらかぶのぞいてこと/″\ひろげられてある。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ずツと昔時むかししば金杉橋かなすぎばしきは黄金餅こがねもち餅屋もちや出来できまして、一時ひとしきり大層たいそう流行はやつたものださうでござります。
黄金餅 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
そして日あたりのいい南向きのかれしばの上に、いきなり獲物えものを投げだして、ばさばさの赤い髪毛かみけを指でかきまわしながら、かたを円くしてごろりところびました。
山男の四月 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
かぶりて打臥うちふしたり家主は枕元にすわりて長庵殿しばふだの辻の自身番より急の御差紙さしがみを以て村井長庵を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
この能役者のうやくしやは、木曾きそ中津川なかつがは避暑中ひしよちうだつたが、猿樂町さるがくちやう住居すまひはもとより、寶生はうしやう舞臺ぶたいをはじめ、しば琴平町ことひらちやうに、意氣いき稽古所けいこじよ二階屋にかいやがあつたが、それもこれもみな灰燼くわいじんして
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
実に可懐なつかしかつたのです、顔を見ると手をつて、たゞち旧交きふこうあたゝめられるとわけで、其頃そのころ山田やまだわたし猶且やはり第二中学時代とかはらずしばんでましたから、往復わうふくともに手をたづさへて
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
浅草あさくさといふ言葉は複雑である。たとへばしばとか麻布あざぶとかいふ言葉は一つの観念を与へるのに過ぎない。しかし浅草といふ言葉は少くとも僕には三通みとほりの観念を与へる言葉である。
野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
運搬人はすべてしばのほうから頼んで来た。そして荷物があらかた片づいた所で、ある夜おそく、しかもびしょびしょと吹き降りのする寒い雨風のおりを選んで葉子は幌車ほろぐるまに乗った。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
青銅瓦せいどうがわらのご殿てん屋根やね樹林じゅりんからすいてみえる高楼たかどのづくりのしゅ勾欄こうらんしば土手どてにのびのびと枝ぶりをわせている松のすがたなど城というよりは、まことに、たちとよぶほうがふさわしい。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
明和九年二月二十九日のひるごろ目黒めぐろ行人坂ぎょうにんざか大円寺だいえんじから起こった火事はおりからの南西風に乗じてしば桜田さくらだから今のまるうちを焼いて神田かんだ下谷したや浅草あさくさと焼けつづけ、とうとう千住せんじゅまでも焼け抜けて
函館の大火について (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
宗助そうすけいしうへしばつて扇骨木かなめ奇麗きれい植付うゑつけたかき沿ふて門内もんないはひつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
所はしば烏森からすもりで俗に「はやしの屋敷」と呼ばれていた屋敷長屋のはずれのうちだったが、家内うち間取まどりといい、庭のおもむきといい、一寸ちょっと気取った家で、すべ上方かみがた風な少し陰気ではあったが中々なかなかった建方たてかたである
暗夜の白髪 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
初め麹町こうじまち八丁目の鳥羽とば藩主稲垣対馬守長和ながかずの邸内にあったのが、中ごろ築地海軍操練所内に移るに及んで、始めて攻玉塾と称し、次でしば神明町しんめいちょう商船黌しょうせんこうと、しば新銭座しんせんざの陸地測量習練所とに分離し
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
三〇二しばの里に芝の庄司なるものあり。女子むすめ一人もてりしを、三〇三大内おほうち三〇四采女うねめにまゐらせてありしが、此の度いとま申し給はり、此の豊雄をむこがねにとて、媒氏なかだちをもて大宅おほやもとへいひるる。