もち)” の例文
ばあさんが古手桶ふるておけを下げて出て参り升て、私どもの腰かけてるかたはらの小川の中へ手桶ておけを浸し、半分ほどはいつた水を重気にもちあげ升た。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
如何にも研究熱の旺盛な余りに出たらしい脂切あぶらぎった口調で、柔らかく、固くもちかけて来たもんだから吾輩ウッカリ乗せられてしまった。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
眞實まことと思ひ終に吾助の言葉の如く二兩の金をもち宿やどへ下りたり然るに惡事千里のことわざの如く早晩いつしか吾助がお兼と言合せ飯炊めしたきの宅兵衞より金五兩を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
もちおもりのする番傘ばんがさに、片手腕かたてうでまくりがしたいほど、のほてりに夜風よかぜつめたこゝろよさは、横町よこちやう錢湯せんたうから我家わがやかへおもむきがある。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
道々の在々所々の庄屋、大百姓ども召寄せられ、馬のはみをば合せぬかにせよ。先手先手に、もちたるたしなみの米を出したかせよ。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三百石の家にては侍二人、具足持ぐそくもち一人、鑓持やりもち一人、挾箱はさみばこもち一人、馬取二人、草履ぞうりとり一人、小荷駄こにだ二人の軍役を寛永十年二月十六日の御定めなり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
どうかして僕がよそから工面くめんしなければならないのは貴女あなたにもわかるでせう。だから今夜はこれだけおもちなさい。あとは二三日うち如何どうにかますから。
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
もちたる木鋤こすきにて和尚をほりいだしければ、和尚大にわらうちを見るにいさゝかきずうけず、みゝかけたる眼鏡めかねさへつゝがなく不思議ふしぎの命をたすかり給ひぬ。
もし、三千代に対する自分の態度が、最後の一歩前迄押しめられた様な気もちがなかつたなら、代助はちゝに対して無論さう云ふ所置を取つたらう。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
隠蓑かくれみの」なる言葉は『信綱記』にもいう如く、「鬼もちたる宝は、かくれ蓑、かくれ笠、打出うちで小槌こづち、延命小袋」
蓑のこと (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
少し眼のある者は元勲がどれくらい無能力かということ大臣はまわもちにて新聞記者より大臣に上りし実例あることくらいは承知致し説き聞かせ候えども
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
スウィフトの諷刺せし如く、スウィフトの嘲罵てうばしたる如くに、沙翁も亦諷刺の舌を有し、嘲罵の喉をもちしなり。
熊次郎やりもちて裏より行、などといふ事件の記事もある。これは、宝泉寺住職㝫応りゆうおう和尚が上京して留守中、泥棒が入らうとして日本刀で戸をずたずたに切つた。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
我ひそかに思へらく、この鳥恐らくはその習ひによりて餌をこゝにのみ求むるならむ、恐らくはこれをほかの處に得てもち舞上まひのぼるを卑しむならむと 二五—二七
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
人事ひとごと我事わがこと分別ふんべつをいふはまだはやし、おさなごゝろまへはなのみはしるく、もちまへのけじ氣性ぎせう勝手かつてまわりてくものやうなかたちをこしらへぬ、氣違きちが街道かいだうぼけみち
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
その頃下女の給金は衣裳いしょう此方こちらもちの年に十八円位が頂上とまりです。然し、私は奥様のお古か何かで着せて頂いて、その外は相応な晴衣の御宛行あてがいという約束きめに願って出ました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
なんぼ亭主もちだって、ちっとは俺の切ないおもいも酌んでくれそうなものだけれど、それがないとこを見ると、俺のお前を思うよりか、お前が源様を思う方が深いと見える。
片男波 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
是は藤心村の観音寺という真言寺しんごんでらもちでございまして、一切の事は観音寺で引受けて致しまする。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
消えなんとしていまだ消えず、薄気味悪き青光をかすかに洩すのみ、時刻も分らず場所も分らず、時計を出して見るに、その針はすでに停まりいたり、余の時計は二日もちにて
南極の怪事 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
否少くとも、閣下の肉親の方が他人に依って惨殺されたと云う御経験をおもちでしょうか。
ある抗議書 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
山葵の刺撃でつぶれるというほどの力をもちます。それですから西洋料理に唐辛のような物を使う時はその配合法がさだまっていてその力を胃の刺撃にのみ用ゆるような工風くふうがしてあります。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
出窓でまどえんひじけて、するりとからだもちちあげると、如何いかにも器用きよういた草履ぞうり右手みぎてぎながら、こしの三尺帯じゃくおびへはさんで、ねこのように青畳あおだたみうえったのは、三年前ねんまえいえたまま
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「我身も田園等をもちたる時もありき。また財宝を領せし時もありき。の時の身心しんじんとこのころ貧うして衣盂えうにともしき時とを比するに、当時いまの心すぐれたりと覚ゆる、これ現証げんしょうなり」(同上第三)。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
どうぞお后様、おもちになっていらっしゃる
「はあ、御主人もちですか」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
さてまた憑司は其夜昌次郎を立せやり草履ざうりに血の付たるをもちて傳吉宅へしのこみには飛石とびいしへ血を付置き夫より高田の役所へ夜通よどほしに往てうつた捕方とりかた
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
蔦屋も蔦竜館ちょうりゅうかんとなった発展で、もちのこの女中などは、京の津から来ているのだそうで、少しも恩人の事を知りません。
雪霊記事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
此打切は川口を一ばんとして水上みなかみへ十五番まであり。こゝはいづくのもちとて川にその境目さかひめありてはなはだ厳重げんぢゆう也。
つまり、この一軒家も、そこの旅籠屋のもちで、朝夕ちょうせきの食事も、向うの台所から運んで来ることになっている。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つてゐらつしやればかつたのに」と女らしく愛想をつけ加へた。けれども其調子は沈んでゐた。尤もこれは此女のもち調子で、代助は却つて其昔をおもした。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
れよりおこりし生道心なまだうしんなどならば、かへすがへすあさましきことなり、だい一は不憫ふびんのことなり、中々なか/\高尚けだかこヽろもちそこねて、魔道まだう落入おちいるは我々われ/\書生しよせいうへにもあるを
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
大臣はまわもちにて、新聞記者より大臣に上りし実例ある事位は承知致し説き聞かせ候へども、田舎の先生は一向無頓著にて、あひかはらず元勲崇拝なるも腹立たしき訳に候。
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
たく物置ものおきかつ自分じぶんもちあるいた畫板ゑばんつたのつけ、同時どうじ志村しむらのことをおもひだしたので、早速さつそくひといてると、おどろくまいことか、かれは十七のとし病死びやうししたとのことである。
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
其のうち土蔵くらの塗直しが始まり、質屋さんでは土蔵を大事にあそばすので、土蔵の塗直しには冬が一番もちがいゝと云うので、職人が這入ってどし/\日の暮れるまで仕事をして
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
父の日記は、大凡おほよそ農業日記であつて、そのなかに、ぽつりぽつり、僕に呉れた小遣銭こづかひせんの記入などがあるのである。明治廿二年のくだりに、宝泉寺え泥ぼうはひり、伝右衛門下男げなんもちて表よりゆく
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
お手におもちなさった一と房の花の上へかかるのを、たしかに見た事があるんですが、これをおもえば、徳蔵おじの実貞じっていな処を愛して、深い思召おぼしめしのある事をおおせにでもなったものと見えます。
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
そうしないと中の物がふくだして蓋がもちません。深い鍋へ酒に味淋に醤油に煮汁だし美味おいしい汁を沢山こしらえて今の南瓜を柔くなるまで煮て出します。こうしたのは双方の味がよくしみて大層美味くなります。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
さあこの鍵をおもちなさい。
相※に召捕べしと申渡し彼紀州よりもち來りし笈摺おひずるには紀州名草郡平野村感應院かんおうゐんの弟子寶澤十四歳と記し所々血汐ちしほそめし品々を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それから四張の三味線を座敷に運んで、調子を合せて、差置くや否や、取って返して、自分がもちの下方の調しらべの緒をめる時分には、二人悠々と入って来る。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
我が住む塩沢しほざはの巽三里に清水村といふあり、此村もちの山に笈掛岩おひかけいはといふあり、高さ十丈あまりよこ二十五けんあり。
これはわたしわる御座ござりました、ではおまをしませう、おともいたしませう、さぞおどろきなさりましたろうとて惡者わるらしくもなく提燈ちようちんもちかゆるに、おせきもはじめてむねをなで
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
宅の物置にかつて自分がもちあるいた画板があったのを見つけ、同時に志村のことを思いだしたので、早速人に聞いて見ると、驚くまいことか、彼は十七のとし病死したとのことである。
画の悲み (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
老「いや此の辺はお代官もちで、公方様くぼうさまから沙汰がえば手え入れられねえでがす」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ひげ真白まつしろと云はんよりは、寧ろ黄色きいろである。さうして、はなしをするときに相手あいて膝頭ひざがしらかほとを半々はん/\に見較べるくせがある。其時のうごかしかたで、白眼しろめ一寸ちよつとちらついて、相手あいてに妙な心もちをさせる。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
かれもちふるしたかばんよ。手摺てずれもやが一めんに、しみかた樺太からふとうかぶ。汽車きしや白河しらかはいたのであつた。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
双坡楼そつはろうあふぎをいだしてふ、妓ももちたる扇をいだす。京水画をなし、余即興そくきやうしよす。これを見て岩居がんきよをはじめおの/\かべだいし、さら風雅ふうがきやうをもなしけり。
五十軒によき得意場はもちたりとも、内証の車は商買ものの外なればせんなく、十三になれば片腕と一昨年おととしより並木の活判処かつばんじよへも通ひしが、怠惰なまけものなれば十日の辛棒つづかず
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
何うももちざっぺいが悪くて仕方がございません、お客様が折角のお志で下すった物を、粗末にしたり落しちゃア済まないよ、お志を無にするからと申しましても、あの通り頑是がんぜがございませんから
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
五十けんによき得意塲とくいばもちたりとも、内證ないしようくるま商賣しようばいものゝほかなればせんなく、十三になれば片腕かたうで一昨年おとゝしより並木なみき活版所かつぱんじよへもかよひしが、怠惰なまけものなれば十日とうか辛棒しんぼうつゞかず
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)