かる)” の例文
旧字:
わたしは、かるく、すばしこいから、だいじょうぶ、ねこになどらえられるようなことはありません。」と、とんぼはこたえました。
春の真昼 (新字新仮名) / 小川未明(著)
かるみちは吾妹子が里にしあれば、……吾妹子が止まず出で見しかるいちに』とあるので、仮に人麿考の著者に従つてかく仮名した。
人麿の妻 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
浪花なには座で『忠臣蔵』をつてゐる鴈治郎なども、おかる道行みちゆきのやうな濡事ぬれごとを実地ひまがあつたら一度青蓮寺に参詣まゐつたがよからう。
百姓は、そっと黒いつめをしたどろまみれのふとゆびをのばして、まだひくひくひっつれているわたしのくちびるにかるくさわりました。
さあ、さあ、大評判おおひょうばん文福ぶんぶくちゃがまにえて、手足てあしえて、綱渡つなわたりのかるわざから、かれおどりのふしぎな芸当げいとう評判ひょうばんじゃ、評判ひょうばんじゃ。
文福茶がま (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
かるの村の愛人の死をいたんだ歌とならんで、もう一首、人麻呂がもうひとりの愛人(こちらの愛人とは同棲どうせいをし、子まであった)
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
しばらくうまと一しょあそんで、わたくしたいへんかる気持きもちになってもどってましたが、そのってにもなれませんでした。
とある家の前をとおりかかったとき、露台ろだいの戸が開いて、黄色い光が、すきとおったかるいカーテンをとおして流れでてきました。
すこしもながく、おせんをめておきたい人情にんじょうが、たがいくち益々ますますかるくして、まるくかこんだ人垣ひとがきは、容易よういけそうにもなかった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
そのとき、一人の巡礼じゅんれいのおじいさんが、やっぱり食事のために、そこへやって来ました。私たちはだまってかるく礼をしました。
雁の童子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
たまに廊下などですれ違うと、かるく目礼して、眼を伏せて急ぎ足で行ってしまう。不幸の重荷を背負っているような薄倖はっこうな感じのひとだった。
キャラコさん:03 蘆と木笛 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
背広せびろかるいセルのひと衣にぬぎかへて、青木さんがおくさんと一しよにつましやかなばんさんをましたのはもう八ちかくであつた。
(旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
うなじからかたおもふあたり、ビクツと手応てごたへがある、ふつと、やはらかかるく、つゝんで抱込かゝへこむねへ、たをやかさと重量おもみかゝるのに、アツとおもつて、こしをつく。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
三四郎は、とらはれた儘、さからはずに、寐たりさめたりするあひだに、自然にしたがふ一種の快感を得た。病症がかるいからだと思つた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
するとまた、そのうしろにかくれていた六ゆびが、前のさむらいのなかをかるくついて、ふりかえった顔となにかひそひそ話しているようす。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
へやの戸をかるく叩く物音に自分は喫驚びつくりして夢から覚めた。ホテルのボオイが早や石油のランプを持ち運んで来たのである。
海洋の旅 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
うたうと、マリちゃんもたちまち、かるい、たのしい気分きぶんになり、あかくつ穿いて、おどりながら、うちなか跳込とびこんでました。
無論一部の事にはそろへども江戸えど略語りやくご難有ありがたメのと申すが有之これあり難有迷惑ありがためいわくそろかるくメのりやくし切りたる洒落工合しやれぐあひ一寸ちよつと面白いと存候ぞんじそろ。(十九日)
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
水はいまに規則きそく正しい波になって、こうの中を走っていた。気ちがいのようないきおいでうずをわかせながら、材木ざいもくをおし流して、はねのようにかるくくるくる回した。
自分はなんらおかしたつみはないと考えても、それがために苦痛くつう事実じじつかるくなるとは思えないのだ。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
おかみさんがハム・エッグをさらにのせて、かるくドアをたたいて客室きゃくしつにはいっていくと、とたんに、男はナプキンを食卓しょくたくの下になげ、それをひろうようなかっこうをして
するとからだはかるくなるし、鉛筆などをほおりあげても、いつまでも上でふわふわしていて、なかなか下へおちてこないというわけで、まるで魔術師になったようでおもしろい。
宇宙の迷子 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その時の勘平は道行みちゆきの勘平で、おかるは福助、伴内は松助であったが、菊五郎は楽屋で条野採菊じょうのさいぎく翁にこんなことを話したそうである。かれは勘平の顔を真っ白に塗りながら言った。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かる瀟洒せうしや夜会服やかいふくたのや、裾模様すそもよう盛装せいそうをしたのや、そのなかにはまたタキシイドのわか紳士しんしに、制服せいふくをつけた学生がくせい、それに子供こともたちもすくなくなかつた。軍服姿ぐんぷくすがたもちらほらえた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
娘のかるやかに踊るのを、——その人は大抵品のいゝ西洋人とばかり踊つてゐた。
私の社交ダンス (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
このとき、ちかくの水草みずくさしげみから三うつくしい白鳥はくちょうが、はねをそよがせながら、なめらかなみずうえかるおよいであらわれてたのでした。子家鴨こあひるはいつかのあの可愛かわらしいとりおもしました。
関寺せきでら番内ばんない、坂本の小虎、音羽の石千代、膳所ぜぜ十六とおろく、鍵はずしの長丸、手ふいごのかぜ之助、穴掘の団八、繩辷なわすべりの猿松、窓くぐりのかる太夫、格子こぼち鉄伝てつでん、猫真似のやみ右衛門、穏松明たいまつの千吉
猿飛佐助 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
それからぼくは からだがとてもかるくなつて 空を自いうにとびまはりました
「米屋さんが米を持って来たから、のちまでとかるう云っておいたよ」
南北の東海道四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
草ふかき水城みづき飛び越え立つ鴨のかる鴨の子をうつくしみ見む
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
だが、かすかなかるしめに似た気持ちが、皆の心に動いた。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
あはれ白き羽二重のごとかる
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
それをかる薄手うすで上等じょうとうなものとしてあり、それを使つかわなければならぬということは、なんといううるさいばかげたことかとおもわれました。
殿さまの茶わん (新字新仮名) / 小川未明(著)
かる黒髪くろかみそよがしにかぜもなしに、そらなるさくらが、はら/\とつたが、とりかぬしづかさに、花片はなびらおとがする……一片ひとひら……二片ふたひら……三片みひら……
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
中には、おかあさんのあとを、どこまでもどこまでも、ついてくるものもありますし、またかるばたきながら、飛び立っていくものもあります。
「こっちはすぐたべられます。どうです、少しおあがりなさい」鳥捕とりとりは、黄いろのがんの足を、かるくひっぱりました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
平岡は断然たる答を一言葉ひとことばでなし得なかつた。さう急にうのうのといふ心配もない様だが、決してかるい方ではないといふ意味を手短かにべた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それを見て、水をすかしているふたりの士卒しそつがいった。大久保勢おおくぼぜい兵糧方ひょうろうがためししる煮炊にたきする身分のかるい兵である。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さうこたへて玄関げんくわんにあがると、機嫌きげんのいいときにするいつものくせで、青木さんは小がらおくさんのからだかるせながら、そのくちびるにみじかせつぷんをあたへた。
(旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
マリちゃんはそのほね杜松ねず根元ねもとくさなかくと、きゅうむねかるくなって、もうなみだなくなりました。
自分のひそかに通っていたかるの村の愛人が急に死んだ後、或る日いたたまれないように、その軽の村に来てひとりで懊悩おうのうする、そのおりの挽歌でありますが
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
もっとわたくし先祖せんぞなか立派りっぱ善行ぜんこうのものがったおかげで、わたくしつみまでがよほどかるくされたともうすことで……。
「さあ、それではおもほうかるほうと二つありますから、どちらでもよろしいほうをおください。」
舌切りすずめ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
兼吉かねきち尿板にょうばんのうしろをとおろうとすると、一とうの牛がうしろへさがって立ってるので通れないから、ただ平手ひらてかるく牛のしりを打ったまでなのを、牛をだいじにする花前は
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
かるいけうら回行みゆきめぐるかもすらに玉藻たまものうへにひと宿なくに 〔巻三・三九〇〕 紀皇女
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
しかしそんなものはこの歳月としつき唯「おかる勘平かんぺい」のような狂言戯作げさく筋立すじだてにのみ必要なものとしていたのではないか。それが今どうして突然意外にも不思議にも心を騒がし始めたのであろう。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
徳太郎とくたろうようや安心あんしんしたように、ふふふとかる内所ないしょわらった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
だが、かすかなかるしめに似た気持ちが皆の心に動いた。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
ぢや わたしからだかるいから先に飛び降てみるわ
「おじいさん、せんだってっていったくわは、まことにいいくわだが、おもくて、がくたびれます。もっとかるくして、つくってください。」
おじいさんとくわ (新字新仮名) / 小川未明(著)