あか)” の例文
乗鞍岳の絶頂では、一夜を立ちあかしていながら、朝になってなぜ物に怯えたようにして、一歩は一歩と人里に近づくのを喜んだのか。
秩父のおもいで (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
もし、二つなり、三つなりが、いっしょにあかるい世界せかいることがあったら、たがいにってちからとなってらしそうじゃないか。
明るき世界へ (新字新仮名) / 小川未明(著)
「この窓にあかりがさしてゐるとね、どうもそとから帰つて来た時に誰か一人ひとりここに坐つて、湯でものんでゐさうな気がするからね。」
O君の新秋 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そらくもくした! うすかげうへを、うみうへう、たちままたあかるくなる、此時このときぼくけつして自分じぶん不幸ふしあはせをとことはおもはなかつた。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
やうやあさはなれてそら居据ゐすわつた。すべてのものあかるいひかりへた。しかしながら周圍しうゐ何處いづこにも活々いき/\したみどりえてうつらなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
こんどこそ間違まちがいはないと玄翁げんのうおもって、ひょいとがりますと、どうでしょう、さっきの石のあったところがほんのりあかるくなって
殺生石 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
大久保おほくぼ出発しゆつぱつしてからもなく、彼女かのぢよがまたやつてた。そのかほつてあかるくなつてゐた。はなしまへよりははき/\してゐた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
いや、おれはいったい、たれの子なのか。いってくれい。……木工じじ。……あからさまに、この平太清盛へ、いい渡してくれやい。
眼をあげよ、今、くわつとあかりし二本の楠の梢を、サンシユユの黄なる花の光を、枯草の色を、淡青きヒヤシンスの芽のにほひを。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
その内に思案して、あかして相談をして可いと思ったら、って見さっせえ、この皺面しわづらあ突出して成ることならッ首は要らねえよ。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「二人をこんな目に会わせて、故郷を立退かせるようにしたのもそいつの仕業しわざなんだ、早くさがし出してあかりを立ててみてえものだ」
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
維盛卿の前なれば心をあかさん折もなく、しばしのあひだながら御邊の顏見る毎に胸を裂かるゝ思ひありし、そは他事にもあらず、横笛が事
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
いへ、良き基督教徒クリスティアーノよ、汝の思ふ所をあかせ、そも/\信仰といふは何ぞや。我即ちかうべを擧げてこのことばの出でし處なる光を見 五二—五四
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
卓子テーブルそばわづかすこしばかりあかるいだけで、ほか電灯でんとうひとけず、真黒闇まつくらやみのまゝで何処どこ何方どちらに行つていかさツぱりわからぬ。
検疫と荷物検査 (新字旧仮名) / 杉村楚人冠(著)
満堂の異形の群集は、あからひくあけぼのの光に追われし精霊すだまのごとく、騒然どやどやと先を争って、廻転扉の隙間からかき消すごとく姿は消えて跡白浪あとしらなみ
いやだ厭だ厭だ、たまらない……」と彼は身震いして両耳をおおった。それ故彼は、めったな事には人に自分の姓名をあかしたがらず
鬼涙村 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
その青年の単純なあからさまな心に、自分の笑顔えがおの奥の苦い渋い色が見抜かれはしないかと、葉子は思わずたじろいだほどだった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
末男すゑを子供こどもきながら、まちと一しよ銀座ぎんざあかるい飾窓かざりまどまへつて、ほしえる蒼空あをそらに、すきとほるやうにえるやなぎつめた。
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
見ると、ただ輪廓のぼんやりしたあかるいなかに、物差ものさし度盛どもりがある。したに2の字が出た。野々宮君がまた「どうです」と聞いた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
あかりあかるき無料むりょう官宅かんたくに、奴婢ぬひをさえ使つかってんで、そのうえ仕事しごと自分じぶんおもうまま、してもしないでもんでいると位置いち
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「ええ、ええ、たいへんでしたわ。おいしいおいしいってたべてしまってから、たねをあかすと、うがいをなさるやらなにやら——」
江木欣々女史 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
あかりがつくと連れの男にひそひそたわむれて居る様子は、傍に居る私を普通の女とさげすんで、別段心にかけて居ないようでもあった。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
もとより父に向ひてはかへすこと葉知らぬ母に、わがこころあかして何にかせむ。されど貴族の子に生れたりとて、われも人なり。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
幽界ゆうかいでは、くらいも、あかるいもすべてそのひと器量次第きりょうしだいこころあかるいものは何所どこてもあかるく、こころくらいものは、何所どこってもくらい……。
仲冬のすゑ此人居間ゐまの二階にて書案つくゑによりて物をかきてをられしが、まどひさしさがりたる垂氷つらゝの五六尺なるがあかりにさはりてつくゑのほとりくらきゆゑ
ランプのあかりで見れば、男は五分刈ごぶがり頭の二十五六、意地張らしい顔をして居る。女は少しふけて、おとなしい顔をして、丸髷まるまげに結って居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
お蔦 (扱帯を引きあげ)もし、だれかにとがめられたら、あたしに貰ったとおいい、出る処へ出てあかりを立ててあげるから。
一本刀土俵入 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
屹度きっと殺したろう、殺したといやア黙ってるが云わなけりゃア仏様を本堂へ持って行って詮議方あらいかたするというから、驚いて否応いやおうなしに種をあかした
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
漸くに二人し事なれば吉之助にせる物なく其夜はみぎの三布蒲團を吉之助に着せ夫婦は夜中やちう辻番つじばんだいて夜をあかしけれども是にては主人を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それ愛の最もあつからんには、利にも惑はず、他に又ふる者もあらざる可きを、仮初かりそめもこれの移るは、その最も篤きにあらざるをあかせるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
しかし折角の試みも細田氏が外に姿を現わさないので、その恐怖がどの位まで氏に影響しているかをあからさまに知ることは六ヶ敷むつかしいことでした。
三角形の恐怖 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「一滴でも油をこぼしたら、これだぞ」と云って、長者は傍に置いてある赤樫あかがしつえって見せました。長者はそのあかりで酒を飲んでおりました。
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そのおさへて居ると云ふのは喜びに伴ふ悲哀でもんでもない、良人をつとと二人で子の傍へ帰つて来る事の出来なかつたのがあからままに悲しいのである。
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
月すめば谷にぞ雲は沈むめる、嶺吹き払ふ風に敷かれてたゞ御※おんむねの月あかからんには、浮き雲いかに厚う鎖すとも氷輪無為のそらの半に懸り御坐おはして
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
少許すこし調査物しらべものがあるからと云つて話好の伯母さんを避け、此十疊の奧座敷に立籠つて、餘りあかからぬ五分心の洋燈ランプの前に此筆を取上げたのは、實は
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
「うむ。それでこそ、義も情もある日本人じゃ。君は、わしの唯一の味方じゃ……では、わしの本心をあかしてあげよう」
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
すみからすみまでからりとあかるく、ひろそらつてゐるあき光線こうせんのさしてゐるうちに、かりわたつてくといふうたです。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
橋の欄干のさしてあかからぬ火影ほかげには近くの商店に働いている女でなければ、真面目な女事務員としか見えないくらい、たくみにその身の上を隠している。
吾妻橋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
もみの木はせっかくのかざりを、ひとつもなくすまいと、しんぱいしました。それに、あんまりあかるすぎるので、ただもうぼうっとなりました。——
(ホ)灌木帶かんぼくたい偃松帶はひまつたい)。 えぞまつやとゞまつの針葉樹林しんようじゆりんてそのさきうつると、きゆうひかりつよく、あたりはぱっとあかるくなつたようながします。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
その列車の食堂は明るくて、その天井は白いロイドで貼つてあり、飴色の電燈は、カツカとあかつて燈つてゐました。
夜汽車の食堂 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
名はいはざるべし、くいある堕落の化身けしんを母として、あからさまに世の耳目じもくかせんは、子の行末の為め、決してき事にはあらざるべきを思うてなり。
母となる (新字旧仮名) / 福田英子(著)
それからまたズーズーズーズー行く中に急にあかりがさしたから、見ると右側に一面にスリガラスを入れた家がある。
熊手と提灯 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
そして或晩わたしが、或る事をあかしてから、その子が腹にきたことを知ると、蒼くなってふいに考え込んだりした。
童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
このあかりじゃはっきり見分みわけがつくめえが、よくねえ。お大名だいみょうのお姫様ひめさまつめだって、これほどつやはあるめえからの
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「あいつ等二人には、この島のことは、まだ何も聞かしていないんだ。どれ、これから秘密をあかしてやろうか。」
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
洞穴ほらあなの中に一筋のあかりが差し込んでいる。それは巌の裂目さけめで、そこへ近づいてみると、かたわらにつっ立っている奇巌城が見える。ガニマールはゆびさしていった。
はかか? いや/\、こりゃはかではない、あかまどぢゃ、なア、足下きみ。はて、ヂュリエットがるゆゑに、その艶麗あてやかさで、このあなむろひかかゞや宴席えんせきともゆるわい。
東の方の空が少しずつあかるんできました。やがて、雲の間から太陽が現れました。薔薇ばら色の雲の間かられて来る光は、といのところの羽子を照らしました。
屋根の上 (新字新仮名) / 原民喜(著)
祖母おばあさんの着物きもの塲所ばしよはおうち玄關げんくわんそばいたきまつてました。そのおにはえるあかるい障子しやうじそば祖母おばあさんの腰掛こしかけはたいてありました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)