ともな)” の例文
とその家庭かてい苦痛くつう白状はくじやうし、ついにこのしよ主人公しゆじんこうのち殺人さつじん罪人ざいにんなるカ……イ……をともなひてその僑居けうきよかへるにいた一節いつせつきはめて面白おもしろし。
罪と罰(内田不知庵訳) (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
信長には、用心ぶかい家康などには、到底、空想もなし得ない経綸けいりん雄志ゆうしと、壮大極まる計画があった。理想にともなう実行力があった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
参集の時刻は午後一時、来会者はな約束を重んじて一人も遅刻せるものなし。妻や娘をともなえる老人連は多く家庭教育会の会員なり。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
見るに衣裳なり見苦みぐるしけれども色白くして人品ひとがら能くひなまれなる美男なればこゝろ嬉敷うれしくねやともなひつゝ終に新枕にひまくらかはせし故是より吉三郎もお菊を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
第三に自己の金力を示そうと願うなら、それにともなう責任をおもんじなければならないという事。つまりこの三カ条に帰着するのであります。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そしてそうなると、人間が加速度的に伸びていくし、喜びもそれにともなっていよいよ大きく、高く、深くなっていくものである。——
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
先生は予がこのこうともないしをふか感謝かんしゃせらるるといえども、予の先生にうところ、かえってだいにしておおいしゃせざるべからざるものあり。
いつか婚期を失ってしまったお蘭は自分自身を諦め切っている気持にともなって、もはや四郎を生ける人としては期待しなくなった。
みちのく (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ともなふどち可笑をかしがりて、くわくらん(霍乱)の薬なるべしと嘲笑あざわらひ候まま、それがし答へ候ははくらん(博覧)やみが買ひ候はんと申しき。
芭蕉雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
一方いつぽう屋外おくがい避難ひなんせんとする場合ばあひおいては、まだきらないうち家屋かおく倒潰とうかいし、しか入口いりぐちおほきな横木よこぎ壓伏あつぷくせられる危險きけんともなふことがある。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
家主あるじ壮夫わかもの三五人をともなひ来りて光る物をうつに石なり、皆もつてくわいとし石を竹林に捨つ、その石夜毎よごとに光りあり、村人おそれて夜行ものなし。
大抵たいていこれにはむかし名僧めいそうはなしともなつてて、いづれも讀經どきやうをり誦念しようねんみぎりに、喧噪さわがしさをにくんで、こゑふうじたとふのである。ばうさんはえらい。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
私は手刀てがたなで力をこめてくび筋を、えいえい、とたたいた。たたく度に後頭部に、しびれるような感覚をともなって血が上って来た——
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
ベラン氏だけは、ついに仲間外なかまはずれになった。そして残りの五名の記者は、イレネにともなわれて、はじめて展望室に足を踏み入れたのであった。
宇宙尖兵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
前年と違いよほど苦辛くしんを重ねたれば少しは技術も進歩せりと思う、江藤新平えとうしんぺいを演ずるはずなれば、是非御家族をともない御来観ありたしという。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
そのために昼は研究ができず、夜は眠ることのできない三日四日が続いたが、それには何らの焦燥も苦悩もともないはしなかった。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
余が十歳の夏、父母にともなわれて舟で薩摩境さつまざかいの祖父を見舞に往った時、たった二十五里の海上を、風が悪くて天草の島に彼此十日もふながかりした。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
源叔父の独子ひとりご幸助海におぼれてせし同じ年の秋、一人の女乞食日向ひゅうがかたより迷いきて佐伯の町に足をとどめぬ。ともないしは八歳やっつばかりの男子おのこなり。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
それと共にまたこの江戸の音曲をばれいれいしく電気燈のしたで演奏せしめる世俗一般の風潮にもともなって行く事は出来まい。
これを知識ちしきうへあそびといひます。それとゝもに、氣分きぶんすこしもともなはないのですから、散文的さんぶんてきうたといはねばなりません。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
ベシーは私の帽子やその他のものをちやんと元のやうにしてくれると、私はベシーにともなはれてお邸の方へと番小屋を出た。
ちからはげしいほど拂曉ふつげうしもしろく、れがしろほどみだれてからすごと簇雲むらくもとほ西山せいざん頂巓いたゞきともなうて疾風しつぷうかけるのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
わが彼をこゝにともなひ來れる次第は汝に告げんも事長し、高き處より力降りて我をたすけ、我に彼を導いて汝を見また汝の詞を聞かしむ 六七—六九
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
だが桔梗様は不安そうに、「ともないそうでございますよ。恐ろしい恐ろしい危険がね! ああ何んとなく私達の恋には!」
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
愛情あいじょうともなわぬつめたい夫婦ふうふ間柄あいだがら……他人ひとさまのことはぞんじませぬが、わたくしにとりて、それは、にもあさましい、つまらないものでございました……。
おかる勘平かんぺい道行みちゆきといつたやうな、芝居の所作事しよさごとと、それにともなふ輕く細く美しい音樂とが、しきりに思ひ出されて來た。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
わたくしだまつて點頭うなづくと夫人ふじんしづか立上たちあがり『皆樣みなさまのおみゝけがほどではありませんが。』とともなはれてピアノだいうへのぼつた。
ロミオ ローザラインと一しょぢゃと被言おッしゃるか? その名前なまへも、その名前なまへともな悲痛かなしみも、わし最早もうみんなわすれてしまうた。
これより小厠こづかいを一にん使用するの必要は無論感ずる所なりしといえども、しいてこれをともなわんとすれば、非常に高き賃金を要し、またたまたま自ら進んで
或日一行にともなわれて孤踏夫人なる女人のもとへ行った。これは痴川の女であって閨秀けいしゅう画家であるが、三十五で二十四五に受取れる神経質な美貌であった。
小さな部屋 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
喬介にともなわれた一行が、二号船渠ドックの海に面した岸壁のあたりまで来た時に、どきまぎしながら彼等について行った私に向って、初めて喬介が口を切った。
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
如何いかなる事業じげふしたがふとも、體力たいりよくこれともなふて強健きやうけんならずば、ごと活動くわつどうするあたはず、また所期しよきの十一だもたつするあたはざるは、世上せじやうそのれいおほところなり。
命の鍛錬 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
実際生活を暗指あんじしつつ恋愛情緒れんあいじょうしょを具体的にいって、少しもみだらな感をともなわず、ねたましい感をも伴わないのは、全体が邪気じゃきなくこころよいものだからであろう。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
「マリイの君のゐ玉ふ処へ、たれか行かざらむ。人々も聞け、けふこの『ミネルワ』の仲間に入れむとてともなひたるは、巨勢こせ君とて、遠きやまとの画工なり。」
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
運命を自覚した影の薄い童子たちは、かろうじて通じている電車で旅程りょていに出るのだ。いろいろの不可知ふかち要素のともなっているこの生別せいべつは、万感深きものがあった。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
芝田要はそんな事は耳にも入れず、其場から藩の江戸屋敷に戻り、永の御暇を願つた上、錢形平次をともなつて、龍の口評定所へ眞つ直ぐに驅け込んだのです。
しかして教会ならびに教職の同情援助は余の身にともなわざりしといえども、神の恩恵と平信徒の同情との余に加わりしが故に、余は今日に至るを得たのである。
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
それに受持以外に課外二時間づゝと來ては、他目よそめには勞力にともなはない報酬、否、報酬に伴はない勞力とも見えやうが、自分は露聊つゆいさゝかこれに不平は抱いて居ない。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
植木鉢うゑきばち草花くさばな花束はなたば植木棚うゑきだな、そのしづかに流れるは、艶消つやけしきんの光をうつしつつ、入日いりひうんを悲んで、西へともなふセエヌかは、紫色の波長く恨をひいてこの流
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
『一月ほど前のものとは甚しく劣れど、今も踊れるものなきにあらず。行きて見んと思はゞ、ともなひ行かん』
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
老母あはれみて四四をさなき心をけ給はんや。左門よろこびにへず。母なる者常に我が孤独をうれふ。まことあることばを告げなば、よはひびなんにと、ともなひて家に帰る。
とにかく、それの感じられるものが善きことであり、それのともなわないものがしきことだ。極めてはっきりしていて、いまだかつてこれに疑を感じたことがない。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
なんなりとおつしやれ、言譯いひわけのちにしまするとてりてけば彌次馬やぢうまがうるさいとをつける、うなり勝手かつてはせませう、此方こちら此方こちら人中ひとなかけてともなひぬ。
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
夢がこれほど実感をともなって、みえたことはないというのは、オリムピックを通じての感想ではありましたが、それをこの時ほど、如実にょじつに感じたことはありません。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
武甲山より二里ばかり奥に、三峰山みつみねざんがあって、三峰神社の信仰者は多く登山するが、武甲山の方は近いにかかわらず、信仰のともなわない山だから、滅多に登山するものがない。
武甲山に登る (新字新仮名) / 河井酔茗(著)
一丁のと風まかせの帆をあやつっての一人旅であるからには、甚作の場合よりもっと大きい不安がともなうわけであるが、かやは別にそれを口に出してくやみもしなかった。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
ても亡びんうたかたの身にしあれば、息ある内に、最愛いとしき者を見もし見られもせんとからくも思ひさだめ、重景一人ともなひ、夜にまぎれて屋島をのがれ、數々のき目を見て
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
が、さういふ氣持は力強く實行に移らなくつて、われながら仕事の上にすぐれた進歩は見られなかつた。肉體を描いても自然を描いても、實感のともなはないものばかりだつた。
仮面 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
「病気と申上げると、語弊ごへいがあります。病癖でございます。それから、それにともなう恐怖心……」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
彼の性質としてもとより維新後に生存し得る能わず、仮りに一の不思議力は、彼を明治年間にともない来ることありとするも、彼は維新の元勲げんくんとして、巨冠を戴き、長裾を曳き
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)