きは)” の例文
かのみたりの女、姿にきはのさらにすぐれてたかきをあらはし、その天使の如き舞のしらべにつれてをどりつゝ進みいでたり 一三〇—一三二
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
我が生ける間の「明」よりも、今ま死するきはの「薄闇うすやみ」は我に取りてありがたし。暗黒! 暗黒! 我が行くところはあづかり知らず。
我牢獄 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
夜陰にとどろく車ありて、一散にとばきたりけるが、焼場やけばきはとどまりて、ひらり下立おりたちし人は、ただちに鰐淵が跡の前に尋ね行きてあゆみとどめたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
きは目に立つ豊満な肉付と、すこし雀斑そばかすのある色の白いくゝりあごの円顔には、いまだに新妻にひづまらしい艶しさが、たつぷり其儘に残されてゐる。
人妻 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
が七になつても、ふねはひた/\と波止場はとばきはまでせてながら、まだなか/\けさうにない。のうちまたしても銅鑼どらる。
検疫と荷物検査 (新字旧仮名) / 杉村楚人冠(著)
お京は家に入るより洋燈らんぷに火をうつして、火鉢をきおこし、吉ちやんやおあたりよと声をかけるに己れは厭やだと言つて柱きはに立つてゐるを
わかれ道 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
草原をつらぬき、ヒースが道の兩側のすぐきはまで蓬々と生ひ繁つてゐる。が、それでもふと通りすぎる旅の人があるかも知れない。
さういふ村落むらつゝんで其處そこにも雜木林ざふきばやしが一たいあかくなつてる。先立さきだつてきはどくえるやうになつた白膠木ぬるでくろつちとほあひえいじてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
岸のきはうをの鱗を蒔き散らしたやうに、ちら/\明るく光つてゐる、黒い海の水が、今まで話をしてゐた老人を呑んでしまつたかと思はれるやうに。
センツアマニ (新字旧仮名) / マクシム・ゴーリキー(著)
影も形もなき妄念まうねんに惱まされて、しらで過ぎし日はまだしもなれ、迷ひの夢の醒め果てし今はのきはに、めめしき未練は、あはれ武士ぞと言ひ得べきか。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
ねえさん、』と仰向あふむくとうへから俯向うつむいてたやうにおもふ、……廊下らうかながい、黄昏時たそがれどきひらききはで、むら/\とびんが、其時そのときそよいだやうにおもひました。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
芝山のきはの狭路をすぎて二里大宰府にいたる。染川をすぎて境内に入る。染川まことに小流なり。天正年間すらすでにしかり。況や今にいたりてをや。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
銀杏が向ふの方で尽きるあたりから、だら/\坂にがつて、正門のきはに立つた三四郎から見ると、坂の向ふにある理科大学は二階の一部しか出てゐない。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
連脈のうへに一ときは高い山が上部は密雲のなかにとざしたまま、鼠色な腹を示しはじめた。この地方名うての靈山岩木山だなと、わたしは心のなかで合點うなづいた。
地方主義篇:(散文詩) (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
ずツと昔時むかししば金杉橋かなすぎばしきは黄金餅こがねもち餅屋もちや出来できまして、一時ひとしきり大層たいそう流行はやつたものださうでござります。
黄金餅 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
殊にこの二人、即ちかし子とつね子とは、決してその思想に於て新しい女ではなく、ただ單に行爲の上に、慣習を破壞したあばずれが現れてゐるきはの女なのである。
しかしこのきはどい刹那せつなに侍従は半ば身を起すと、平中の顔に顔を寄せながら、恥しさうな声を出した。
好色 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
おいらなければいず、ぼく池上權藏いけがみごんざうぬるまでおいないだらうとおもひます、ぬるいまはのきはにも、かれさら一段いちだん光明くわうみやうなる生命せいめいのぞんでるだらうとおもひます。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
額髪ぬかがみの幼な女童めわらは、そのごとく今も囲むに、早や老いてふふむものなし。子をなして幾人いくたりの親、死なしめてあとのこる妻、かしましと世にいふきはか、さて寄りて我にかくいふ。
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
かう思ふと、お光は身柱元ちりけもとがぞく/\するやうであつた。そこで早速返書を書いて、其の終りへ一きは力を入れて、「光は決してはらみません」と確信の籠つた字を書いた。
兵隊の宿 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
四人——七平を加へて五人でやつた細工さいくなら、成程手際よく運びもするでせうが、最後のきはに、七平の裏切と卯八の忠義で、惡者共のたくらみが喰ひ違つてしまつたのです。
このうた興味きようみは、ごくきはどい工夫くふうにあるので、若菜わかなまうとしてゐたこゝろに、自然しぜんかなつてくれないといふことを、自分勝手じぶんかつてに、つごうよくつくなほしたものであります。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
たち表の方へ出れば垣根かきねきはに野尻宿のお專頭巾づきん眉深まぶかかぶり立ち居たり傳吉はひそかに宅へ伴ひしのばせて座中をうかゞはせたるに此中には其人なしと云ふ故傳吉は又々女房叔母を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
恨を受くる覺えなくとも、恨と迫る生死のきは人々覺悟と叫ぶや、直ちに血戰は開かれた。
古代之少女 (旧字旧仮名) / 伊藤左千夫(著)
俺れはこのきはになつてもお前の心持ちにはどこか狂つた所があるやうに思ふがな、お前は今學術を生活するんだと云つたが、自然科學は實驗の上にのみ基礎を置くのが立場たちばだのに
実験室 (旧字旧仮名) / 有島武郎(著)
この入りつる格子はまださねば、ひま見ゆるによりて西ざまに見通し給へば、このきはにたてたる屏風も、端のかたおし畳まれたるに、まぎるべき几帳きちやうなども、暑ければにや打掛けて
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何時いつの間にか月がさして、練絹ねりぎぬを延べた様なロアル河はぐ前に白く、其れを隔てたツウルの街はたゞ停車場ステエシヨン灯火あかりを一段きはやかに残しただけで、外は墨を塗つた様に黒くしづかに眠つて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
しぬいきるかのきはにいたりて此銭を何にかせん、六百にて弁当をうり玉へといふ。
纔かに岩石のきはを穿ちて、禾穀を栽ゆるに過ぎざれば、從つて是を以て一年の貯食と爲すこと能はず、家々皆獸獵採樵してその生計を圖る云々、及び古昔平家の餘類、この山中に隱れたり云々
日光山の奥 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
斯く説き聞せられて、我はいつもながら氣はゞみて聲もかすかに、さらば君が友だちといふはあまり善ききはにはあらぬなるべしと答へき。ベルナルドオはこらへず。善き際にあらず、とは何をか謂ふ。
ホツ、ホツとしまりの無い笛を鳴らして、自動車が過ぎた。湯村の車が右に避けようとしたその車輪のきはどい間をくゞり、重い強い発動器の響を聞かせて、砂埃ほこりの無い路を太いゴム輪が真直にむかうせた。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
寢ざむればうすく眼に見ゆわがいのちの終らむとするきはの明るさ
それだのに彼はさうきはだつて、勉強してゐる樣子もなかつた。
受験生の手記 (旧字旧仮名) / 久米正雄(著)
子と言へばせめて命のきはばかり膝をもきて死なんとぞ思ふ
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
寺の墓地の土塀のきはの一本松の根かたへいつた
故郷の花 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
わかるるせめてのきはにそは何ゆゑ。
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
われかのきはに辛うじて
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
我は盜人の中にて汝のきはたか邑民まちびと五人いつたりをみたり、我之を恥とす、汝もまた之によりて擧げられて大いなる譽を受くることはあらじ 四—六
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
貫一は帽を打着て行過ぎんとするきはに、ふと目鞘めざやの走りて、館のまらうどなる貴婦人を一べつせり。端無はしなくも相互たがひおもては合へり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
剛毛こはげのブラッシュで髮を撫でつけ、前掛を脱がせると、階段のきはまで私をせき立てゝ、朝食堂ブレーク・フアスト・ルームで待つてゐるから、まつ直ぐりて行くようにと命じた。
今川橋いまがはばしきは夜明よあかしの蕎麥掻そばがきをそめころいきほひは千きんおもきをひつさげて大海たいかいをもおどえつべく、かぎりのひとしたいておどろくもあれば、猪武者いのしゝむしやむか
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
第二の書牘は頼杏坪らいきやうへいの関五郎に与へたもので、其文は極て短く、口上書と称すべききはのものである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
代助はからうじて、今一歩いまいつぽと云ふきはどい所で、踏みとゞまつた。帰る時、三千代みちよは玄関迄送つて
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それぢやアくるませよう、うして浅草あさくさ観音くわんおんさまへれてゆかう。とこれから合乗あひのりで、蔵前通くらまへどほりから雷神門かみなりもんきはくるまり、近「梅喜ばいきさん、これ仲見世なかみせだよ。梅「へゝえ何処どこウ……。 ...
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
其お方がお死にのきはに、深く/\思ひこまれた一人のお人が御座りまする。耳面刀自みゝものとじと申す大織冠のお娘御の事で御座ります。前から深くお思ひになつて居たと云ふでもありません。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
雨戸あまどうちは、相州さうしう西鎌倉にしかまくら亂橋みだればし妙長寺めうちやうじといふ、法華宗ほつけしうてらの、本堂ほんだうとなつた八でふの、よこなが置床おきどこいた座敷ざしきで、むかつて左手ゆんでに、葛籠つゞら革鞄かばんなどをいたきはに、山科やましなといふ醫學生いがくせい
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ちひさな身體からだでありながらすこするどくちばしつたばかりに、果敢はかないすゞめ頬白ほゝじろまへにのみ威力ゐりよくたくましくするもずちひさな勝利者しようりしやこゑはなつてきい/\ときはどく何處どこかの天邊てつぺんいてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
よびかいへ上り三人ひざ突合つきあはせしに彦三郎はこゑひそめ御家内樣御聞下されても相成あひなり申さずとずつかべきはへ寄り私は大坂おほさか堂島だうじまの彦三郎と申者なるが昨夜さくや御當地ごたうち到着たうちやくいたまだ宿やども取らず夜の明るを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
しぬいきるかのきはにいたりて此銭を何にかせん、六百にて弁当をうり玉へといふ。
我等が往方ゆくてを塞ぎたるは、極めて卑ききはの老若男女なりき。この人々は聖母のみほごらの前にて長きをなし、老いたる猶太ユダヤ教徒一人を取り卷きたり。身うち肥えふとりて、肩幅いと廣き男あり。