よろひ)” の例文
そしてその日のひるちかく、ひづめの音やよろひの気配、また号令の声もして、向ふはすつかり、この町を、囲んでしまつた模様であつた。
北守将軍と三人兄弟の医者 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
「その中に、緋縅ひをどしよろひ着たる武者三人、網代あじろに流れて浮きぬ沈みぬゆられけるを——何とかのかみ見給ひて、かくぞ詠じ給ひける。」
武者窓日記 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「八、なたを借りて來てくれ。誰も氣のつかない、隱せさうも無いところに隱してあるに違ひない。きん太郎の腹掛や、武内樣のよろひぢやないよ」
が、そのため息がまだ消えない内に、今度は彼の坐つてゐる前へ、金のよろひ着下きくだした、身の丈三丈もあらうといふ、厳かな神将が現れました。
杜子春 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
と再び思つた自分の胸には、何故か形容せられぬ悲しい同情の涙がよろひに立つ矢の蝟毛ゐまうの如く簇々むら/\と烈しく強く集つて来た。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
それがネ、う、込み入る敵の兵卒を投げたり倒したりあしらひながら、小手すねあてをつけて、よろひさつと投げかける。
いろ扱ひ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
その二幕目でシイザアによろひを着せようとする拍子に、花冠はなかむりがとれて、この英雄の禿頭がひよつくり顔を出すと、目ざとくそれを見つけたクレオパトラが
さア/\此薬これをおつけ……此薬これはなよろひそでというて、なか/\売買ばいかひにないくすりだ……ちよいと其処それへ足をおし、けてるから…。乞「はい/\有難ありがたぞんじます。 ...
ロミオ はて、そのねらひはづれた。戀愛神キューピッド弱弓よわゆみでは射落いおとされぬをんなぢゃ。處女神ダイヤナとくそなへ、貞操ていさうてつよろひかためて、こひをさな孱弱矢へろ/\やなぞでは些小いさゝか手創てきずをもはぬをんな
良兼の軍は馬も肥え人も勇み、よろひの毛もあざやかに、旗指物もいさぎよく、弓矢、刀薙刀なぎなた、いづれ美〻しく、掻楯かいだてひし/\と垣の如くき立てゝ、勢ひ猛にさかんに見えた。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
それと同じやうに御厩河岸おうまやかしわたよろひわたしを始めとして市中諸所の渡場わたしばは、明治の初年架橋工事かけうこうじ竣成しゆんせいともにいづれも跡を絶ち今はたゞ浮世絵によつて当時の光景をうかゞふばかりである。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
なかから矢が二本てゐる。鼠色の羽根と羽根のあひだが金箔でつよひかる。其傍そのそばよろひもあつた。三四郎は卯の花おどしと云ふのだらうと思つた。向ふがはの隅にぱつとを射るものがある。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
松脂まつやにを毛に塗り砂をその上につけてをるゆゑ、毛皮はよろひのごとく鉄砲の弾も通らず。
遠野物語 (新字旧仮名) / 柳田国男(著)
それは背中のまんなかからぱつくり裂けた、赤くぴかぴかした小さなよろひであつた。
とある広場の古物商こぶつしやうに能の面が二つばかり並べてある。この古物商には不思議にも日本物にほんものが並べてあるので、よろひがあり、扇子があり、漆器があり、花瓶があり、根付ねつけがあり、能衣裳のういしやうなどもある。
日本大地震 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
さて刀劍とうけんるくらゐでありますから、甲胄かつちゆうもまたはかなかからたくさんるのです。これはたいていてつつくつたものでありまして、のち時代じだいよろひ劍道けんどうのおどうたようなものであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
よろひ、ひたたれ、なほ捨てず
はれよろひたるかな
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
紙のよろひ清正きよまさ
どんたく:絵入り小唄集 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
「あ、馬のやつ、又参つたな。困つた。困つた。困つた。」と云つて、急いでよろひのかくしから、塩の袋をとりだして、馬に喰べさせようとする。
北守将軍と三人兄弟の医者 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
萌黄もえぎ緋縅ひをどし赤縅あかをどし、いろいろのよろひの浮きつ沈みつゆられけるは、カンナビ山のもみぢ葉の、みねの嵐にさそはれて……」
武者窓日記 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
さつと、吹添ふきそ蒼水あをみづかぜれて、ながれうへへそれたのは、はなをどしよろひ冥界めいかい軍兵ぐんぴやうが、ツと射出いだまぼろしぶやうで、かはなかばで、しろえる。
月夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
が、何時いつでも竜の爪は、騎士のよろひすべつてしまつた。聖ヂヨオヂは槍をふるひながら、縦横じゆうわうに馬を跳らせてゐる。
LOS CAPRICHOS (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
よろひの渡しは人目に立つが、大廻りに橋を渡つて來る分には、江戸の街に關所はありやしません。暗くなつたら此處へ來るやうに、合圖をして御覽なさいよ」
いま山中さんちゆうむ熊とは違つて、北海道産ほつかいだうさんで、うしても多く魚類ぎよるゐしよくするから、毛が赤いて。甚「へえー、緋縅ひをどしよろひでもひますか。真「よろひぢやアない、魚類ぎよるゐ、さかなだ。 ...
八百屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
遠きおやの片身のよろひ万代よろづよにいかで我が名も伝へてしがな
故郷七十年 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「そのかぶとの下と、よろひの下とに、封金があるから」
小壺狩 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
きんよろひくわんくら
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
巨きな鉄の胸甲むなあてを、がつしりはめてゐることは、ちやうどやつぱりよろひのやうだ。馬にけられぬためらしい。将軍はすぐその前へ、じぶんの馬を乗りつけた。
北守将軍と三人兄弟の医者 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
かたちおごそかなるは、白銀しろがねよろひしてかれ守護しゆごする勇士いうしごとく、姿すがたやさしいのは、ひめ斉眉かしづ侍女じぢよかとえる。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「左樣でございます。若旦那は武家の出ださうで、自慢の短刀でございました。りの少ない、直刄すぐばの短刀で、昔あんなのは大將よろひの腰に差した、鎧通しだつたさうで」
山男がこの日ので立ちは、水牛のかぶとに南蛮鉄のよろひ着下きおろいて、刃渡り七尺の大薙刀おほなぎなたみじかにおつとつたれば、さながら城の天主に魂が宿つて、大地も狭しと揺ぎいだいた如くでおぢやる。
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
よろひかろ/″\
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
とこよろひかざつてあつて、便所べんじよとき晃々ぴか/\ひかつた……わツて、つたのをおぼえてないかい。」
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そして本たうに恐ろしいことはその子供らの間を顔のまっ赤な大きな人のかたちのものが灰いろのとげのぎざぎざ生えたよろひを着て、髪などはまるで火が燃えてゐるやう
ひかりの素足 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
この合圖を受取つた昔の染五郎は、何を措いてもよろひの渡しを越えてお絹に逢ひに行きました。
屹度きつと持參ぢさんこと、とふ……けだ發會はつくわい第一番だいいちばんの——おたうめでたうござる——幹事かんじとんさんが……じつ剩錢つりせんあつめる藁人形わらにんぎやうよろひせた智謀ちぼう計數けいすうによつたのださうである。
九九九会小記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
足跡をよけて木戸の外へ出ると、河岸つ縁は初秋の陽が一パイに射して、クワツとするやうな明るさ、鼻の先のよろひの渡しをへだてて、向う河岸の家並が、人間の表情まで讀めさうに見えるのでした。
しかりとはいへども、雁金かりがね可懷なつかしきず、牡鹿さをしか可哀あはれさず。かぶと愛憐あいれんめ、よろひ情懷じやうくわいいだく。明星みやうじやうと、太白星ゆふつゞと、すなはち意氣いきらすとき何事なにごとぞ、いたづら銃聲じうせいあり。
月令十二態 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
水馬の術などは、その馬の性状を生かすのが主意で、重いよろひを着けた人間が、馬に泳がして貰ふ術といつても宜い——まして音無瀬おとなせと言はれた名馬が、橋から落ちたくらゐのことで容易に死ぬ筈はない
……いはほそうは一まいづゝ、おごそかなる、神将しんしやうよろひであつた、つゝしんでおもふに、色気いろけある女人によにんにして、わる絹手巾きぬはんかちでもねぢらうものなら、たゞ飜々ほん/\してぶであらう。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「まさかよろひを着るわけにも行きませんよ」
銭形平次捕物控:126 辻斬 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
臆病おくびやうだね、……よろひきみ可恐おそろしいものがたつて、あれをむかつてけるんだぜ、むかつて、」
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
せめては狩衣かりぎぬか、相成あひなるべくは、緋縅ひをどしよろひ……とがつくと、暑中伺しよちううかゞひに到来たうらい染浴衣そめゆかたに、羽織はおりず、かひくちよこつちよに駕籠かごすれして、ものしさうに白足袋しろたび穿いたやつ
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
すみ先生せんせいよろしく、と挨拶あいさつして、ひとり煢然けいぜんとしてたふげくだ後態うしろつきの、みづうみ広大くわうだい山毛欅ぶなたかし、遠見とほみ魯智深ろちしんたのが、かついくさやぶれて、よろひて、雑兵ざうひやうまぎれてちて宗任むねたふのあはれがあつた。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
川上かはかみ下流かりうえぬが、むかふの岩山いはやま九十九折つゞらをれのやうなかたちながれは五しやく、三しやく、一けんばかりづゝ上流じやうりうはう段々だん/″\とほく、飛々とび/″\いはをかゞつたやうに隠見いんけんして、いづれも月光げつくわうびた、ぎんよろひ姿すがた
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
こんな、さびしいときの、可恐こはいものにはね、よろひなんかたつてかなはないや……むかつてきや、きえちまふんだもの……これからふゆ中頃なかごろると、のきしたちかるつてさ、あの雪女郎ゆきぢよらうたいなもんだから
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)