矢張やつぱり)” の例文
『先刻田圃で吹いた口笛は、あら何ぢや? 俗歌ぢやらう。後をけて来て見ると、矢張やつぱり口笛で密淫売ぢごくと合図をしてけつかる。……』
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
実は君の叔父さんからも種々いろ/\御話が有ましたがね、叔父さんも矢張やつぱり左様さういふ意見なんです。何とか君、うまい工夫はあるまいかねえ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
承まはり何にも知ぬ私しさへくやしくぞんずる程なればさぞ御無念ごむねんにも思し召んが他所から出來た事ではなし矢張やつぱりお身からもとめた事故人を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
はなさないでもおまへ大抵たいていつてるだらうけれどいま傘屋かさや奉公ほうこうするまへ矢張やつぱりれは角兵衞かくべゑ獅子しゝかぶつてあるいたのだからとうちしをれて
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
へえ天麩羅てんぷらかい。長「わからんのう、ながげて短くしたのを揚身あげみといふ。弥「矢張やつぱりあなごなぞは長いのを二つに切りますよ。 ...
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
娘も矢張やつぱり東京風に作るんだね……近くに大阪があるのに、それを飛び越して、遠い東京の眞似まねをするのは隨分ずゐぶん骨が折れるだらう。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
あゝおいとが芸者になつたら一緒に手を引いて歩く人は矢張やつぱりあゝ立派りつぱ紳士しんしであらう。自分は何年たつたらあんな紳士しんしになれるのか知ら。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そしてそんな有難い「心」といふものを持つてゐる自分達の幸福しあはせを思つた。——だが、さう思つても矢張やつぱり熊本の夏は暑かつた。
翌日あくるひ手伝の娘を一人附けて呉れた。矢張やつぱりミハイロ同様な貧乏人で、古ぼけた頭巾づきんに穴のいた腰巻に、襯衣しやつと、それで身上しんしやう有りツたけだといふ。
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
しまか、みつか、はたきけて——おちよ、いゝえう/\……矢張やつぱりこれは、はなしなかで、わに片足かたあし食切くひきられたと土人どじんか。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いまちひさいことにがつくとともに、それが矢張やつぱり自分じぶんのやうにすべちた一ぴきねずみぎないことをりました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
それだから故郷を出る時は矢張やつぱり人並に学若し成らずんば死すとも帰らずと力んだが、さア東京へ来て見るととても満足な学費が無くては碌な学問は出来ない。
貧書生 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
またどうすぢとほれば、馬鹿ばかはないでむといふ手續てつゞきをしへてれるものもなかつた。宗助そうすけ矢張やつぱり横町よこちやう道具屋だうぐや屏風びやうぶるよりほか仕方しかたがなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
『貢さんは矢張やつぱりうそ御吐おつき為さるのね。晃兄さんが入らつしやるのに、留守番だなんて。』
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
『おー。矢張やつぱり左樣さうだつた! あの巡洋艦じゆんやうかんのガーフのはたは、帝國ていこく軍艦旗ぐんかんきであつた※。』と、かれは、いましも、輕氣球けいきゝゆうから墮落ついらく瞬間しゆんかんに、ちらりとみとめたおな模樣もやう海軍旗かいぐんき
「いつしよに學校を出やはつたのやさうやが、矢張やつぱり出世する人は何處か違ふたるなあ。」
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
「あら、梅子さん、いやですことねエ、——結婚すると御友達と疎遠になるなんて皆様仰しやるんですけれど、貴嬢まで矢張やつぱり其様事そんなことを仰つしやらうとは思ひも寄りませんでしたよ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
これなりはずに行くなんて、それはお前かへつて善くないから、矢張やつぱり逢つて、ちやんと話をして、さうして清く別れるのさ。この後とも末長く兄弟で往来ゆきかよひをしなければならないのだもの。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
うつかり忘れてゐたところなどは、落着いて居るやうでも矢張やつぱりあわてて居たんだね
矢張やつぱり惡いのか。そりやかんね。何ういふふうに?……矢張何時いつものやうに。」
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
今日けふのやうな天候てんこうは、べつしてもあたま差響さしひゞく。わたしくのも可厭いやひとられるのも、ひと訪問はうもんするのも臆劫おつくうつたかたちで——それならてゞもゐるかとおもふと、矢張やつぱりきて、つくゑすわつてゐる。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
さア今度こんど本統ほんとうだ。いよ/\掘當ほりあてた。けれども矢張やつぱり横穴よこあなであらう。
「淋しいんだな、矢張やつぱり……」
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
誰の隣に誰を据ゑて、誰の向ふを誰の席にして——左様さうなつて来ると、これでナカ/\面倒だ。それよりは矢張やつぱり日本料理に願ひたいトサ。
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
えらいもんですね、おになんぞは矢張やつぱりつのりませう。婆「いゝえ、おにつのみん佐藤さとう老先生らうせんせいらしつて切つてお仕舞しまひなさいました。岩 ...
明治の地獄 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
夫では和郎あなたはあの所とちがつて上野か向島「イヤ矢張やつぱり行先は王子にてしかも音羽へ出て行くつもり「ヲヤ/\夫では昨日きのふおなじだとふさ丁稚でつちに錢を ...
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
わたし一人子ひとりご同胞きやうだいなしだからおとゝにもいもとにもつたこと一度いちどいとふ、左樣さうかなあ、それでは矢張やつぱりなんでもいのだらう
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ニヤゴとまたく。みゝについてうるさいから、シツ/\などとつて、ながら兩手りやうてでばた/\とつたが、矢張やつぱりきこえる。ニヤゴ、ニヤゴと續樣つゞけざま
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
『然し、靴なんかよりは下駄の方が余程歩きいいんですよ。——それあ草鞋は一番ですがね。貴方は矢張やつぱり草鞋ですか?』
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ジヨオヂ・ムアに従ふと、英吉利の男も矢張やつぱり神様のやうに、自分達に肖せて女をこしらへるが、それに要る土だけは亜米利加から取寄せてゐるといふ事だ。
併し頭の禿げた連中は仕方が無いとして若い者は奈何どうかと云ふと、矢張やつぱり駄目だ。血気盛んな奴が懐中手ふところでをして濡手で粟の工風くふうばかりする老人連の真似をしたがる。
青年実業家 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
『そんなおほきななりをしてさ!』(あいちやんはよくひます)『くなんテ!おだまんなさい、よ!』つても矢張やつぱりおなじやうにいてて!なみだの一ながした揚句あげく
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
矢張やつぱり鎌倉邊かまくらへんからうとおもつてる」と宗助そうすけいてこたへた。地味ぢみ宗助そうすけとハイカラな鎌倉かまくらとはほとんどえんとほいものであつた。突然とつぜんふたつのものをむすけるのは滑稽こつけいであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「あらやだ。すつかり直つたつもりでゐたけんど、矢張やつぱりいけないかねえ。」
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
もとより星光ほしあかりだからくはわからぬが、うしろの方へ振向いて見ても、矢張やつぱり黒い山影が見える。自分は愈々いよ/\弱ツてしまツた、先へ進むでいのか、あとへ引返していのか、それすらわからなくなツて了ツた。
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
兄の蘿月らげつに依頼しては見たものゝ矢張やつぱり安心が出来できない。なにも昔の道楽者だうらくものだからとわけではない。長吉ちやうきちこゝろざしを立てさせるのは到底たうてい人間業にんげんわざではおよばぬ事、神仏かみほとけの力に頼らねばならぬと思ひ出した。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
それは此方こつち矢張やつぱりわるい。げろ/\と初掘はつぼりの大失敗だいしつぱい
矢張やつぱり、不思議ですな。」
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
『吉野が?』と妹の顔を見て、『彼奴あいつの詩は道楽よ。時々雑誌に匿名で出したのだけさ。本職は矢張やつぱり洋画の方だ。』
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
夢かうつゝかや是も矢張やつぱり小西屋が破談に成た故で有うあゝ悦ばし嬉しとて手のまひ足のふむ所も知ざるまでに打喜うちよろこび夫ではばんに待てゐるから急度きつとで有るよと念を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
れとふも矢張やつぱり原田はらださんの縁引ゑんるからだとてうちでは毎日まいにちいひくらしてます、おまへ如才ぢよさいるまいけれど此後このごとも原田はらださんの御機嫌ごきげんいやうに
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「兄さんは矢張やつぱり叔母さんの生家さとへ知らずに買物に行つたのよ。三度も。なんでもハイカラな娘が居たなんて——きつとおきみさん(叔母さんのめひ)のことよ。」
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「是非見て貰ひ度い、富豪かねもちが雪舟を見せ度がる格で、禿山でも自分の者になると、矢張やつぱり見て貰ひたくてなあ。」
(あゝん、のさきの下駄げたはうえゝか、おまへすきところへ、あゝん。)とねんれてたが、矢張やつぱりだまつて、爾時そのときは、おなじ横顏よこがほ一寸ちよつとそむけて、あらぬところた。
山の手小景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
矢張やつぱりれてるは、ちツともかわかなくッてよ』とあいちやんがかなしさうにひました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
矢張やつぱりなにをしたつて、さううまくもんぢやあるまいよ」とつた宗助そうすけ言葉ことば
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
矢張やつぱりあなたは急病きふびやうかなんかで此処こゝへおでなすツたかえ。
明治の地獄 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
もしか大隈伯が身投でもする場合には、矢張やつぱり履物を脱いで、義足を露出むきだしに死ぬるだらうかと疑つた者がある。
信吾は五六歩歩いて、思切悪気おもひきりわるげに立留つた。そして矢張やつぱり振返つた。目は、淡く月光つきかげを浴びた智恵子の横顔を見てゐる。コツ/\とステツキさきで下駄の鼻を叩いた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
おもけなくおためにつて……一寸ちよつとうれしいことわたしは。……矢張やつぱり何事なにごとこゝろつうじますのですわね。」と撫子なでしこまた路傍みちばたへ。わすれていたか、と小草をぐさにこぼれる。……
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)