かた)” の例文
いままで、たのしかった、いえなかは、たちまちわらいがえてしまって、あには、自分じぶん本箱ほんばこや、つくえのひきだしを、かたづけはじめました。
たましいは生きている (新字新仮名) / 小川未明(著)
かたの角の蕎麦屋の台所口とがつづいたあと、右には同じく浅倉屋の土蔵、左には、表に灰汁桶あくおけの置かれた女髪結のうちがあった。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
かたぽうでもいけなけりゃ、せめて半分はんぶんだけでもげてやったら、とおりがかりの人達ひとたちが、どんなによろこぶかれたもんじゃねえんで。……
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「そんなのを撲った日にゃかたぱしから撲らなくっちゃあならない。君そう怒るが、今の世の中はそんな男ばかりで出来てるんですよ」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そんなのをかたぱしから研究材料にして切り散らしたあげく、大学附属の火葬場で焼いてこつにして、五円の香典を添えて遺族に引渡す。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
自分じぶん同年齡おないどし自分じぶんつてる子供こどものこらずかたぱしからかんがはじめました、しも自分じぶん其中そのかなだれかとへられたのではないかとおもつて。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
みぎひだりうで釣合つりあひわるかつたんべい。ほつぺたのにくが、どつちかちがへば、かたがりべいと不具かたわぢや、それではうつくしいをんなでねえだよ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
けれども、時代じだいさきまをしたようですから、そのおさくも、自然しぜんおもしろさがかたよつてゐて、完全かんぜんなものとはまをげることが出來できません。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
さういふかたわの年輪ねんりんのことを『擬年輪ぎねんりん』とびます。これはその生長年數せいちようねんすうかぞへるときはのぞいてかぞへなければなりません。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
どこかへ買物かいものにいってきたものとみえて、かたッぽの手にふろしきをさげている。そのふろしきがほとんど手にあるのを忘れて
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
下人には、勿論、何故老婆が死人しにんの髮の毛をくかわからなかつた。從つて、合理的がふりてきには、それを善惡の何れにかたづけてよいか知らなかつた。
羅生門 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「けどそのかたはじきにつくんだ。それにあの女には、喘息ぜんそくという持病もあるし、とても一生暮すてわけに行きゃしない。」
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
とこう書いてあったから、農学校の畜産ちくさんの、助手やまた小使などは金石でないものならばどんなものでもかたぱしから、持って来てほうり出したのだ。
フランドン農学校の豚 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「二尺のこいを二ひきってくれと、二三日前から頼まれて、この広い湖へかたぱしから網を入れているが、鯉はおろか、雑魚ざこもろくろくかかりゃしない」
ある神主の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ニールスはガチョウのせなかにまたがって、足をぶらぶらやっているうちに、かたっぽうの木靴きぐつがぬげてしまったのです。
「失礼したあ」と若者は裾を捲っていた手で、こんどはかた袖を捲りあげた、「やい、この広い往来で人に突き当って、失礼したで済むと思うのかよウ」
なんでもないことだよ。それは、たまかたかたのあなのまわりにたくさん蜂蜜はちみつをぬっておいて、絹糸きぬいとありを一ぴきゆわいつけて、べつあなかられてやるのです。
姨捨山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
すると伊佐比宿禰いさひのすくねはそれですっかり気をゆるして、自分のほうもひとまずみんなに弓のつるをはずさせ、いっさいのいくさ道具をもかたづけさせてしまいました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
そうしてモデルツて來るモデルもモデルもかたはしから刎付はねつけて、手蔓てづるてやツとこさ自分で目付めつけ出したモデルといふのがすなはちお房であツた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
地獄で仏とはこのことや、蝶子は泪が出て改めて、金八が身につけるものをかたぱしから褒めた。「何商売がよろしおまっしゃろか」言葉使いも丁寧ていねいだった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
彼は三十何本かある植込みから、芭蕉の広葉の数をすくなくするため、かたぱしから広葉を切り落して行った。
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
かたわれ月が空にかかっている。その光をたよりにぼくたちは、恐龍の首をマストにとりつけた。
恐竜艇の冒険 (新字新仮名) / 海野十三(著)
もうれたに太吉たきち何故なぜかへつてぬ、げんさんもまた何處どこあるいてるかしらんとて仕事しごとかたづけて一ぷくすいつけ、苦勞くらうらしくをぱちつかせて、さら土瓶どびんした穿ほぢくり
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
どうやらこうして気儘きまま飲食のみくいができて、ブラブラ遊んでいるのでございますよ、当分は、躑躅ヶ崎のお下屋敷のかたぱしをお借り申して、あすこに住んでいるのでございます
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
己は其れ等の書物を見たら、藝術に就いてのやゝ明瞭な概念が得られるだろうと云う希望を以て、かたぱしから一生懸命に耽読たんどくした。最初に取り付いたのはハムレットであった。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
のすすまぬ現世時代げんせじだいはなしとおかたづいて、わたくしなにやらかるくなったようにかんじます。
釣瓶つるべだの、手桶ておけだの、かた手桶だの、注口そそぎくちの附いたのや附かない木の酌器だの、柄杓ひしゃくだの、白樺の皮でつくった曲物まげものだの、よく女が苧やいろんなくだらないものを入れる桶だの
わたしは犬をひもでつないで、ジョリクールは上着の下に入れて、停車場ていしゃじょうかたすみに立って待っていた。わたしは身の回りに起こっていることはほとんど目にはいらなかった。
東京中のあらゆる階級の女の、あらゆる指を、彼はかたぱしから見て来たのだった。省線電車の中に並んだ女達がつつましく膝の上に揃えた指、乗合自動車の吊り革をつかむ女達の指。
指と指環 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
そこでいよいよマルセーユの『ヘルキュレス』対、かたやコルシカの『ナポレオン』の顔合せだ。なにしろ思いも掛けぬ不遜ふそんな挑戦にマルセーユ人はすっかりカンカンになっている。
車の動揺どうようのために、ともすると、よろけそうになるのを、じっとふみこらえて、ランプをかたすみにさしつけると、大きな大入道おおにゅうどうのような影法師かげぼうしがうしろのいたかべにいっぱいうつった。
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)
かたきと付ねらふ事ひとへ麁忽そこつの至りなり然ながらしひ勝負しようぶのぞむと成ばかたぱしより我手にかけ今のまよひを覺してくれんと彼の宅兵衞を殺して奪ひ取たる脇指わきざしを引拔て一討ひとうちとお花を目掛めがけうつかゝるを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
随分ずゐぶんちやをとこだな……草履下駄ざうりげたかたちんばにいてやつがあるか、いぬがくはへてつた、ほかに無いか、それではそれでけ、醋吸すすひの三せい孔子こうし老子らうし釈迦しやかだよ、天地てんち唐物緞子からものどんす
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
いさめを言うもまたかくの如し。いかなるおろかなる人も、必ずいずくにぞかたはしに道理開けて明らかなる所あり、或いは好む所のよくあり。その所をよく見つけて言い入るれば聞き入れやすし。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
やがて台所だいどころかたづけものましたおくさんはつぎかしてある子どもやう子をちよつとてくると、またちやへはいつて※て、しやうちかくにきよせた電燈でんとうの下で針仕事はりしごとにとりかゝつた。
(旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
竹がまだ野に生きているうちに少し切目きりめなんか入れましたり、痛めたりしまして、十分に育たないように片っ方をそういうように痛める、右なら右、左なら左の片方をそうしたのをかたうきす
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
もともと農を営まぬ人々の間に始まった正月の慣習なるが故に、その用途は次第に食饌しょくせんの方にかたより、もみ玄米げんまいとなりまた白米となり、粔米おこしごめとさえなったうえに、餅の大きな改良によって
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
貧乏びんぼうだったので、いろいろの道具類どうぐるいは、みんな古道具屋から買い入れたのでしたが、きれいきな主人は、何でもきちんとかたづけ、ぴかぴかとみがいて、小ぎれいにさっぱりとしておきました。
神様の布団 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
大層たいそうかたづけておっしゃった。三次は大恐縮、ヘイコラ頭を掻いて出て行く。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
言語学者は榊原と姓のつく者をかたぱしから記憶のなかに呼び出してみた。
「退校させるならさせるがいいさ、かたぱしからたたききってやるから」
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
取るものも取りえずスグ船に乗て、このたびは誠に順風で、すみやかに中津の港について、うちに帰て見ればモウ葬式は勿論もちろん、何もかたつい仕舞しまった後の事で、ソレカラ私は叔父おじの処の養子になって居た
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
こんなありさまをくやしがり、かた意地を張って京大阪名代なだいの寿司屋連が、握りなにものぞ、とばかりやり始めたのが、今日京大阪にみる大看板の握り寿司であるが、まるっきり問題になるものではない。
握り寿司の名人 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
三人みたりの影法師は相並んで道べの草にきつつ伊香保のかたに行きぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
どれからでも、かたぱしから片をつけて行かなくちゃいかんよ。
華々しき一族 (新字新仮名) / 森本薫(著)
しかし、もうお前の方のかたはついたのかい。
雅俗貧困譜 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
佐久さくたひらかたほとり
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
きよき恋とやかたがひ
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
まことくんだって、なくすやい。昨日きのううわぐつをかたっぽおとしてきて、おかあさんにしかられていたから。」と、しょうちゃんはいいました。
ボールの行方 (新字新仮名) / 小川未明(著)
しか肝心かんじん家屋敷いへやしきはすぐみぎからひだりへとれるわけにはかなかつた。仕方しかたがないから、叔父をぢ一時いちじ工面くめんたのんで、當座たうざかたけてもらつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)