いづ)” の例文
さては相見ての後のたゞちの短きに、戀ひ悲みし永の月日を恨みて三ぱつあだなるなさけを觀ぜし人、おもへばいづれか戀のやつこに非ざるべき。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
かくいづれかの一方に偏せるものは抽象的概念であつて、二者合一して初めて完全な具体的実在となるのである。(善の研究——四の三)
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
名前を調べてみると、いづれも皆広海氏なので、造船所の掛員は「あゝ、さうだつたか」と初めてあの叮嚀なお辞儀の理由わけが判つた。
悠々たる天と、邈々ばく/\たる地の間にいづれの所にか墳墓なる者あらんや、其の之あるは、人間の自から造れる者なり、国民の自から造れる者なり。
頑執妄排の弊 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
いはく、『三ぐんしやうとして士卒しそつをしてたのしましめ、敵國てきこくをしてあへはからざらしむるは、いづれぞ』と。ぶんいはく、『かず』と。
清澄寺の山門まで來ると山稼ぎの女が樅板を負うたのや炭俵を負うたのが五六人で休んで居る。いづれも恐ろしい相形さうぎやうである。
炭焼のむすめ (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
取つて二十七、少し虚弱で弱氣ですが、笛の方はなか/\の腕前で、もう一人の内弟子の、鳩谷はとや小八郎と、いづれとも言はれないと噂されました。
いづれにしても、私達四人——大阪の嫂をも入れて——がその間近まで歩み寄つてゐることは確実であつた。でも兄は私より一まはり上であつた。
町の踊り場 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
これが各部皆いと強く輝きて高くかつみな同じさまなれば、我はベアトリーチェがそのいづれを選びてわが居る處となしゝやを知らじ 一〇〇—一〇二
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
いづれがさき出来できたか、穿鑿せんさくおよばぬが、怪力くわいりき盲人まうじん物語ものがたりが二ツある。おなはなしかたかはつて、一ツは講釈師かうしやくしいたにかけて、のん/\づい/\とあらはす。
怪力 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いづれも古い家屋かをくばかりで、此処こゝらあたりの田舎町の特色がよく出てた。町の中央に、芝居小屋があつて、青い白いのぼり幾本いくほんとなく風にヒラヒラしてた。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
下の子二人はいづれもよく泣く子であつた。上二人の兄弟は恐る/\手を引き合つて表に出て往來を眺めてゐた。
そして人はそのいづれか棭斎にして孰れかたかなるを辨ずることを得なかつた。たかは歌を詠じ、文章を書いた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
いづれか此両策の一をりしなるべし、而るに後に聞く処にれば、沼田近傍はあめつねおうかりしに、利根山中日々晴朗せいろうの天気なりしは不可思議ふかしぎと云ふの外なし
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
すでに前年の政変もいづれが是か非かソレは差置さしおき、双方主義の相違で喧嘩をしたことである。政治上に喧嘩が起れば経済商売上にも同様の事が起らねばならぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
如此かくのごといづおろそかならぬあるじと夫とを同時にてるせはしさは、盆と正月とのあはせ来にけんやうなるべきをも、彼はなほいまだ覚めやらぬ夢のうちにて、その夢心地には
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
れはいづれも取止とりとめのとりこし苦勞くろう御座ござりませうけれど、うでも此樣このやうのするをなにとしたら御座ござりますか、唯々たゞ/\こゝろぼそう御座ござりますとてうちなくに
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
○さま/″\なる世に在りて、いづれを上手と定めんは、いとかたし。いづれを下手と定めんは、いと/\難し。上手を定めんよりも、下手を定めんは一層難き事なり。
青眼白頭 (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
それから二三日して、かの患者のへやにこそ/\出入ではいりする人の氣色けしきがしたが、いづれもおのれの活動する立居たちゐを病人に遠慮する樣に、ひそやかに振舞つてゐたと思つたら
変な音 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
折節おりからいづれも途方とほうれてりましたから、取敢とりあへずこれツて見樣みようふので、父親ちゝおや子供こども兩足りようあしとらへてちうつるし、外面そとかしてひざ脊髓せきずいきました、トコロガ
こちらがみやげも呉れず見すぼらしい樣子をしてゐるのをいづれも皆輕蔑してゐるやうであつた。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
お花はいづれも木綿のそろひの中に、おのひといまはしき紀念かたみの絹物まとふを省みて、身を縮めてうつむけり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
信一郎は、そのいづれかゞ瑠璃子と呼ばれはしないかと、熱心に見詰めた。二人とも、死んだ青年の妹であることが、直ぐ判つた。兄に似て二人とも端正な美しさを持つてゐた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
いづれも渋々しぶ/\食堂しよくだうりて、れいつてうまくもなんともない晩餐ばんさん卓子テーブルく。食事しよくじがすんでまた甲板かんぱんると、すでにとツぷりとれて、やツとのことでふね桟橋さんばしよこづけになつたらしい。
検疫と荷物検査 (新字旧仮名) / 杉村楚人冠(著)
「実にこれまで度々戦ひ候へ共、二合と戦ひ候者は稀に覚え候へ共、今度の敵多勢とは申しながらいづれも万夫不当の勇士、誠にあやふき命を助かり申候、先づは御安心下さるべく候……」
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
またひと建築けんちく本義ほんぎは「實」であるとふかもれぬ。いづれがせいいづれがじやであるかは容易よういわからない。ひと心理状態しんりじやうたい個々こゝことなる、その心理しんり境遇きやうぐうしたが移動いどうすべき性質せいしつもつる。
建築の本義 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
ことあたらしく今更に道十郎が後家に告口つげぐちなし此長庵がいのちちゞめさせたるは忝けないともうれしいともれい言盡いひつくされぬ故今はくゝられた身の自由じいうならねばいづ黄泉あのよからおのれも直に取殺し共に冥土めいどつれゆき禮を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
〔評〕兵數はいづれかおほき、器械きかいは孰れかせいなる、糧食りやうしよくは孰れかめる、この數者を以て之をくらべば、薩長さつちやうの兵は固より幕府に及ばざるなり。然り而して伏見ふしみの一戰、東兵披靡ひびするものは何ぞや。
いづれかけゆくくいのあわだつとき
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
いはく、『百くわんをさめ、萬民ばんみんしたしましめ、(九一)府庫ふこたすは、いづれぞ』と。ぶんいはく、『かず』と。
読者いづれも何となく奇異の観をなすと覚ゆ、要するに古藤庵の情熱、おのづから従来の作者に異るところあればなるべし、悲曲としての価値はかく
情熱 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
今の上流夫人の好くものは、お手製の西洋菓子と、オペラバツグと、新音曲と——いづれもお上品で軽い物揃ひである。
しかいづれも發汗はつかんともなうてかつしたくちさわやかな蔬菜そさいあぢほつしないものはない。貧苦ひんくなやんでさうして蔬菜そさい缺乏けつばふかんじてるものは勘次かんじのみではない。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
功名朝露の如し、頼むべからず、人生つひに奈何。藐然ばくぜんとして流俗の毀譽に關せず、優游自適其の好む所に從ふ、樂は即ち樂なりと雖も、蟪蛄草露に終るといづれぞや。
人生終に奈何 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
右両説のいづれをるも同じと雖も、奈何いかんせん十日間の食糧を以て探検たんけん目的もくてきを果さんとの心算なれば、途中如何なる故障こしやうおこるありて一行餓死がしうれへあるやも計られず
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
淨本は文化十三年六月二十九日に歿した人、了蓮は寛政八年七月六日に歿した人である。今にはかいづれを是なりとも定め難いが、要するに九代十代の間に不明な處がある。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
いづれとも義雄の胸で取れたり、うち消されたりしてゐる間に、汽車出發の汽笛が鳴つた。
いづれも只周圍の勢力に制せられて殆ど無我夢中で今日迄來た。鴨川堤を離れて吉田町に曲りかけた時、三藏は漸く我に歸つたやうな顏をして「山本君、叡山はどの山かい」と聞いた。
俳諧師 (旧字旧仮名) / 高浜虚子(著)
此池このいけの深さいくばくともはかられぬ心地こゝちなりて、月はそのそこのそこのいと深くに住むらん物のやうに思はれぬ、久しうありてあふぎ見るに空なる月と水のかげといづれをまことのかたちとも思はれず
月の夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
全国男女の気品を次第々々に高尚に導いて真実文明の名にはずかしくないようにする事と、仏法にても耶蘇やそ教にてもいづれにてもよろしい、これを引立てゝ多数の民心をやわらげるようにする事と
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
床の間にはんな素人しろうとが見てもにせと解り切つた文晁ぶんてう山水さんすゐかゝつて居て、長押なげしにはいづれ飯山あたりの零落おちぶれ士族から買つたと思はれる槍が二本、さも不遇を嘆じたやうに黒くくすぶつて懸つて居る。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
孤驛こえきすでよるにして、里程りていいづれよりするもたうげへだてて七あまる。……かれ道中だうちう錦葉もみぢおもつた、きりふかさをおもつた、しもするどさをおもつた、むしそれよりもゆきおもつた、……外套ぐわいたうくろしづんでく。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そのいづれともあらばあれ。
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
いて頼朝の墓を鎌倉山に開きて見よ、彼が言はんと欲するところ何事ぞ。来りて西行の姿を「山家集さんかしふ」の上に見よ。いづれか能く言ひ、執れか能く言はざる。
人生に相渉るとは何の謂ぞ (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
いはく、『西河せいがまもりて、しんへいあへひがしむかはず、かんてう(九二)賓從ひんじうするは、いづれぞ』と。
大杉さかえと伊藤野枝のえとが例の恋愛事件に対する告白を読んで見ると、いづれも理屈ばかりならべてゐる。
いづれにしてもおつぎのこゝろには有繋さすがかすかな不足ふそくかんずるのであつた。勘次かんじあらざらしの襦袢じゆばんふんどし一つのはだかかけて、船頭せんどうかぶるやうな藺草ゐぐさ編笠あみがさあさひもけてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
此商人の家は水戸家の用達で、眞志屋と號した。しかし用達になつたのと、落胤問題とのいづれが先と云ふことは不明である。その後代々の眞志屋は水戸家の特別保護の下にある。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
その相談はどうせ小樽に着してからでなければいづれとも定められない事情であつた。
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
久しうありて仰ぎ見るに、空なる月と水のかげといづれをまことのかたちとも思はれず。物ぐるほしけれど箱庭に作りたる石一つみづおもてにそと取落せば、さゞなみすこし分れて、これにぞ月のかげ漂ひぬ。
あきあはせ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)