かこ)” の例文
旧字:
行燈あんどんの光に照された、古色紙こしきしらしいとこの懸け物、懸け花入はないれ霜菊しもぎくの花。——かこいの中には御約束通り、物寂びた趣が漂っていました。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それでわたしたちはかこんで、いっしょにくらすばんなどには、そういう古い本をたんすから引き出して、めいめいに分けて読んだ。
麦畑むぎばたけ牧場ぼくじょうとはおおきなもりかこまれ、そのなかふか水溜みずだまりになっています。まったく、こういう田舎いなか散歩さんぽするのは愉快ゆかいことでした。
町はずれの町長のうちでは、まだ門火かどびを燃していませんでした。その水松樹いちいかきかこまれた、くらにわさきにみんな這入はいって行きました。
種山ヶ原 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
途中に分捕ぶんどりの大砲が並べてある。その前の所が少しばかり鉄柵てつさくかこい込んで、鎖の一部に札ががっている。見ると仕置場しおきばの跡とある。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
本邦に例の多かった大工の棟梁の娘が大名の御部屋おへやとなり、魚売りの娘がその棟梁のかこものとなりていずれも出世と心得たに異ならぬ。
お蝶は、この山屋敷のかこいの外のあこがれに生きていますが、二官は束縛された境遇を窮屈とも思わず、お蝶によって生きている。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
明るい茶の間の電燈の下で、父と兄との間にはさまれて、鋤焼鍋をかこんだ時の次郎の気持には、何とも言えない温かさがあった。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
峨峰がほう嶮山けんざんかこまれた大湖たいこだから、時々とき/″\さつきりおそふと、このんでるのが、方角はうがくまよふうちにはねよわつて、みづちることいてゐた。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
すこしもながく、おせんをめておきたい人情にんじょうが、たがいくち益々ますますかるくして、まるくかこんだ人垣ひとがきは、容易よういけそうにもなかった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
このむらに、一けん金持かねもちがんでいました。そのうちはすぎのや、いろくろずんだ、かしのなどでかこまれていました。
女の魚売り (新字新仮名) / 小川未明(著)
「その男は病人だ。狂犬病という奴でな、むやみに誰にでもくってかかる。アッハハハハ、困った病気だ。それよりどうだ碁でもかこもうか」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
芸妓買げいしやがひはなさる、昨年あたりはたしか妾をかこつてあると云ふうはささへ高かつた程です、だ当時黄金かねがおありなさると云ふばかりで、彼様あんなけがれた男に
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
かなりの老人であるとのことだが、この女を身請けしていずれかへかこって置くつもりらしい。女も、それをまんざらいやとは思っていないらしい。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
母は下谷の雛妓だった時分に父に見染められて、それからずっとかこわれている。父は母の美人を愛してはいるが、母の諂曲へつらいの性質が嫌いでそれで打つ。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
もうになつたころだ。ふか谷間たにまそこ天幕テントつた回々教フイフイけう旅行者りよかうしやが二三にん篝火かがりびかこんでがやがやはなしてゐた。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
四方しほうやまかこまれた甲府こうふの町のことですから、九月になるともう山颪やまおろしの秋風が立ち、大きなテントの屋根は、ばさりばさりと風にあおられていました。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
私達は長田ながた秀雄氏と三人小さなテーブルかこつて色々の話をした。氏はその折吾がのために近々きん/\演劇と当局の取締とについて長い論文を書かうと約束をした。
阪を上り果てゝ、かこいのトゲつき鉄線はりがねくぐり、放牧場を西へ西へと歩む。赭い牛や黒馬が、親子友だち三々伍々、れ離れ寝たり起きたり自在じざいに遊んで居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
八月の初旬、信濃の高原は雲の変幻の最もはげしい時である。桔梗が原をかこむ山々の影も時あって暗く、時あって明るく、その緑の色も次第に黒みを帯びて来た。
木曽御嶽の両面 (新字新仮名) / 吉江喬松(著)
一様に規則正しいうねや囲いによって、たとえば玉菜の次に豌豆があり、そのうしろに胡瓜きゅうりの蔓竹が一とかこい、という順序に総てが整然とした父の潔癖な性格と
幼年時代 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
中央あたりに荷物げ用のエレヴェーターがあって、その周囲は厳重なかこいが仕切られて居り、その背面には、青いペンキを塗った大きな木の箱があって
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
野菜をかこっておく場所だったが、祖父の代に、地埋ちづみの部分の板壁に、モルタルを塗って電灯を引きこみ、西洋のカーヴ(地下室の酒倉)式の部屋をこしらえた。
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
前に岩っかけを積み重ねてかこんだだけの岩穴で、それには少しもわざわざやったという細工のあとがないのがなにより自然で、岩小屋の名前とあっていて気持がいい。
なにがしという一人の家をかこみたるおり、にわとりねぐらにありしが、驚きて鳴きしに、主人すはきつねの来しよと、素肌すはだかにて起き、戸を出ずる処を、名乗掛なのりかけてただ一槍ひとやりに殺しぬ。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
 これは秋色といふ女が十三歳の時ものして上野の桜に結びつけたりとて、その桜を秋色桜と名づけ今も清水堂の裏手にかこひたる老樹なり。井戸もその側に残りあり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
永「あゝ彼処あそこに墓場が有るから参詣人が有るで、墓参りのお方に見えぬように垣根してかこったので」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そしてまもなくみこご自身が軍務をおひきつれになって、大前おおまえ小前こまえの家をおかこみになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
畑の中へ指して行きましてそこへ驢馬の荷物をすっかり卸して其荷それを三方に積み立ててかこいを造り
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
御承知ごしょうちかたもありましょうが、三崎みさき西海岸にしかいがんにはいわかこまれた水溜みずたまりがあちこちに沢山たくさんありまして、土地とち漁師りょうし小供達こどもたちはよくそんなところで水泳みずおよぎをいたしてります。
客人まろうどの席のうしろをかこっていた屏風びょうぶが邪魔になって見えにくかったのであるが、故意にか偶然にか、追い/\騒ぎがはげしくなり、人々がったり居たりするにつれて
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
つぎ瓢箪池へうたんいけうづめたあと空地あきちから花屋敷はなやしきかこそとで、こゝには男娼だんしやう姿すがたられる。方角はうがくをかへて雷門かみなりもんへんでは神谷かみやバーの曲角まがりかどひろ道路だうろして南千住行みなみせんぢゆゆき電車停留場でんしやていりうぢやうあたり
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
そこのおかみさんに聞いてみますと、女は結婚したのではなく、かこわれているのだということでした、男というのは何処かの米屋の主人らしく、五十四五の頭の禿げた親父で
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
 御せついはくおよそもの方体はうたいは(四角なるをいふ)かならず八を以て一をかこ円体ゑんたいは(丸をいふ)六を以て一をかこ定理ぢやうり中の定数ぢやうすうしふべからず」云々。雪をむつはなといふ事 御せつを以しるべし。
目黒の百姓家に通善をかこって、髪の毛の伸びるのを待って居る頃、お新は時々使いに来て居るから、無住の尼寺に入って泊っても、近所の衆は大した不思議とも思わなかったらしい
先ず待合其他の曖昧な家か或はそのかこわれて居る自分の家だナ(大)サ夫だから囲い者で無いと云うのです、第一、待合とか曖昧の家とか云う所だと是程の人殺しがあって御覧なさい
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
第一の必要が高燥で日当りの好い土地ですから物置ものおき檐下のきしたで南向きの処を択べばそれで沢山です、先ず其処そこを一坪竹矢来たけやらいかこいます。一坪なくとも奥行四、五尺位でも構いません。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
それはかれふるくから病院びょういんにいるためか、まち子供等こどもらや、いぬかこまれていても、けっして何等なんらがいをもくわえぬとうことをまちひとられているためか、とにかく、かれまち名物男めいぶつおとことして
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
そこでまたはげしいいくさがはじまりました。保名主従やすなしゅじゅういくつよくっても、先刻せんこくはたらきでずいぶんつかれている上に、百ばいもあるてきかこまれていることですから、とてもかないようがありません。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
海をかこめる数万の群集、にはかにピツタリと鳴りを静め、稲佐の岸打つ漣の音。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「さうでせう。それで、身請をしてほかかこつて置かうとでも云ふのですか」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ある時は深山しんざんに迷い込みて数千すせんおおかみかこまれ、一生懸命の勇をならして、その首領なる老狼ろうろうを引き倒し、上顎うわあご下顎したあごに手をかけて、口より身体までを両断せしに、の狼児は狼狽ろうばいしてことごと遁失にげう
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
一 遠野郷とおのごうは今の陸中上閉伊かみへい郡の西の半分、山々にて取りかこまれたる平地なり。新町村しんちょうそんにては、遠野、土淵つちぶち附馬牛つくもうし、松崎、青笹あおざさ上郷かみごう小友おとも綾織あやおり鱒沢ますざわ宮守みやもり達曾部たっそべの一町十ヶ村に分かつ。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
彼女は祇園でかなり知られた芸妓だつたさうだが、今は廃めて、ある旦那にかこはれて居るのであつた。彼女は伯父をば「お父つあん。」と呼んで居たが、お雪伯母をば「姉はん。」と言つて居た。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
其は、別の何かの為方しかたで防ぐ外はなかつた。だから、唯の夜だけでも、村なかの男は何の憚りなく、垣を踏み凌いで処女の閨の戸をほと/\と叩く。石城しきかこうた村には、そんなことはもうなかつた。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
あの娘が大納言様のかこい者にされてしまっても構わないのですか? 衛門、悪いことは申しませぬから是非そうなさいませ。何でしたら、手前からあの娘にようくそのことを云い聞かせて差上げます。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
私達わたしたち卓子てーぶるかこんで、たばこをふかしながら漫談まんだんときうつした。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
これは温泉から沈澱ちんでんしたのです。石英せきえいです。岩のさけ目を白いものがめているでしょう。いい標本ひょうほんです。〕みんながかこむ。水の中だ。
台川 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ある有名な御用商人の店へ、番頭格にかよっている田宮は、おれんが牧野にかこわれるのについても、いろいろ世話をしてくれた人物だった。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
けれどその翌日よくじつも、巡査はまたやって来た。そうしてわたしたちの芝居小屋しばいごやかこいのなわをとびこえて、興行こうぎょうなかばにかけこんで来た。