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仄
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ほのか
ふりがな文庫
“
仄
(
ほのか
)” の例文
框
(
かまち
)
がすぐに
縁
(
えん
)
で、
取附
(
とッつ
)
きがその位牌堂。これには
天井
(
てんじょう
)
から大きな白の
戸帳
(
とばり
)
が
垂
(
た
)
れている。その色だけ
仄
(
ほのか
)
に明くって、
板敷
(
いたじき
)
は暗かった。
縁結び
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
月はなかったけれど、星は降るように乱れ、その
仄
(
ほのか
)
な光りで、崖の上からは、眼の下の海岸を歩く白服が、見えぬ
筈
(
はず
)
はなかった。
鱗粉
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
其
(
そ
)
の
時
(
とき
)
畑
(
はた
)
には
刷毛
(
はけ
)
の
先
(
さき
)
でかすつた
樣
(
やう
)
に
麥
(
むぎ
)
や
小麥
(
こむぎ
)
で
仄
(
ほのか
)
に
青味
(
あをみ
)
を
保
(
たも
)
つて
居
(
ゐ
)
る。それから
冬
(
ふゆ
)
は
又
(
また
)
百姓
(
ひやくしやう
)
をして
寂
(
さび
)
しい
外
(
そと
)
から
專
(
もつぱ
)
ら
内
(
うち
)
に
力
(
ちから
)
を
致
(
いた
)
させる。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
露置く
百合
(
ゆり
)
の花などの
仄
(
ほのか
)
に風を迎へたる如く、その
可疑
(
うたがはし
)
き婦人の
面
(
おもて
)
は
術無
(
じゆつな
)
げに挙らんとして、又
慙
(
は
)
ぢ
懼
(
おそ
)
れたるやうに
遅疑
(
たゆた
)
ふ時
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
妻が愛好するアレキサンドリア産の
菫香水
(
アリモネ
)
の匂いを
仄
(
ほのか
)
に漂わせながら扉の向うでボチャボチャ! と、音させて
入浴
(
ゆあみ
)
していることなぞであった。
陰獣トリステサ
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
▼ もっと見る
母は机の下を
覗
(
のぞ
)
き込む。西洋流の
籃製
(
かごせい
)
の
屑籠
(
くずかご
)
が、
足掛
(
あしかけ
)
の
向
(
むこう
)
に
仄
(
ほのか
)
に見える。母は
屈
(
こご
)
んで手を
伸
(
のば
)
した。
紺緞子
(
こんどんす
)
の帯が、窓からさす
明
(
あかり
)
をまともに受けた。
虞美人草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
其
(
その
)
奥に
仄
(
ほのか
)
に紅味のさした紫にぬりつぶされて、秀麗な
錫
(
すず
)
ヶ岳が西の天を限っていた。久振りで眺めた中禅寺湖畔の秋色は
矢張
(
やは
)
り勝れていると思った。
秋の鬼怒沼
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
両側の人家は、次第に稀になつて、今は、広々とした冬田の上に、餌をあさる
鴉
(
からす
)
が見えるばかり、山の陰に消残つて、雪の色も
仄
(
ほのか
)
に青く煙つてゐる。
芋粥
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
すると美しい看護婦は、いくらか安心したように
仄
(
ほのか
)
の微笑を浮かべ乍ら威厳のある外人の顔を見た。と外人も微笑を浮かべ、
流暢
(
りゅうちょう
)
の日本語で、斯う云った。
人間製造
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
辛
(
からう
)
じて猶ほ上り行けば、讀經の聲、振鈴の響、漸く繁くなりて、老松古杉の
木立
(
こだち
)
を漏れて
仄
(
ほのか
)
に見ゆる諸坊の
燈
(
ともしび
)
、早や行先も遠からじと勇み勵みて行く程に
滝口入道
(旧字旧仮名)
/
高山樗牛
(著)
翌日、
曠野
(
こうや
)
の只中に行き暮れた武蔵が、如何せんと辺りを伺うと、遥か彼方に
仄
(
ほのか
)
な
灯影
(
ほかげ
)
が見られたので、近づいて見れば、軒傾いたいぶせき藁屋であった。
随筆 宮本武蔵
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
そも/\
空想
(
くうさう
)
は、
空氣
(
くうき
)
よりも
仄
(
ほのか
)
なもので、
今
(
いま
)
は
北國
(
ほっこく
)
の
結氷
(
こほり
)
に
言寄
(
いひよ
)
るかと
思
(
おも
)
へば、
忽
(
たちま
)
ち
腹
(
はら
)
を
立
(
た
)
てゝ
吹變
(
ふきかは
)
って、
南
(
みなみ
)
の
露
(
つゆ
)
に
心
(
こゝろ
)
を
寄
(
よ
)
するといふ
其
(
その
)
風
(
かぜ
)
よりも
浮氣
(
うはき
)
なものぢゃ。
ロミオとヂュリエット:03 ロミオとヂュリエット
(旧字旧仮名)
/
ウィリアム・シェークスピア
(著)
そんなものかなあという、
仄
(
ほのか
)
な、ほんのりとした、くゆりを、思いしみないでもなかった。
田沢稲船
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
来青花その
大
(
おほい
)
さ桃花の如く六瓣にして、其の色は
黄
(
くわう
)
ならず
白
(
はく
)
ならず恰も琢磨したる象牙の如し。
而
(
しか
)
して花瓣の肉
甚
(
はなはだ
)
厚く、
仄
(
ほのか
)
に臙脂の
隈取
(
くまどり
)
をなせるは正に佳人の
爪紅
(
つまべに
)
を施したるに譬ふべし。
来青花
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
か包申べき
御賢察
(
ごけんさつ
)
の通り
茂兵衞
(
もへゑ
)
が
悴
(
せがれ
)
なれども十五
歳
(
さい
)
の
時
(
とき
)
仔細
(
しさい
)
有
(
あり
)
て出家
仕
(
つかま
)
つり
諸國修行
(
しよこくしゆぎやう
)
の身に
御座
(
ござ
)
候
其後
(
そののち
)
弟
(
おとゝ
)
出生
(
しゆつしやう
)
の
事
(
こと
)
仄
(
ほのか
)
に
承
(
うけた
)
まはりし
儘
(
まゝ
)
此程國許へ
參
(
まゐ
)
り
尋
(
たづ
)
ね候所
弟
(
おとゝ
)
吉
(
きち
)
三郎金屋利兵衞方に
譯
(
わけ
)
有
(
あ
)
りて國許を
大岡政談
(旧字旧仮名)
/
作者不詳
(著)
兼
(
かね
)
て
工夫
(
くふう
)
慘憺
(
さんたん
)
の
由
(
よし
)
仄
(
ほのか
)
に
耳
(
みゝ
)
にせしが、
此度
(
このたび
)
いよ/\
機
(
き
)
熟
(
じゆく
)
しけん、
或
(
あるひ
)
は
他
(
た
)
に
慮
(
おもんぱか
)
る
處
(
ところ
)
ありてにや、
本月
(
ほんげつ
)
初旬
(
しよじゆん
)
横濱
(
よこはま
)
の
某
(
ぼう
)
商船會社
(
しやうせんくわいしや
)
より
浪
(
なみ
)
の
江丸
(
えまる
)
といへる一
大
(
だい
)
帆走船
(
ほまへせん
)
を
購
(
あがな
)
ひ、
密
(
ひそ
)
かに
糧食
(
りようしよく
)
、
石炭
(
せきたん
)
、
氣發油
(
きはつゆう
)
、
※卷蝋
(
くわけんらう
)
海島冒険奇譚 海底軍艦:05 海島冒険奇譚 海底軍艦
(旧字旧仮名)
/
押川春浪
(著)
うすら寒く、空は西の方が
仄
(
ほのか
)
に卵色をし、あとは灰色に見ゆ。
日記:07 一九二一年(大正十年)
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
仄
(
ほのか
)
に宿る電の
花守
(旧字旧仮名)
/
横瀬夜雨
(著)
座中は目で探って、やっと一人の膝、誰かの胸、別のまた
頬
(
ほお
)
のあたり、
片袖
(
かたそで
)
などが、風で
吹溜
(
ふきたま
)
ったように、
断々
(
きれぎれ
)
に
仄
(
ほのか
)
に見える。
吉原新話
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
階下
(
した
)
より
仄
(
ほのか
)
に足音の響きければ、やうやう泣顔隠して、わざと
頭
(
かしら
)
を支へつつ
室
(
しつ
)
の
中央
(
まなか
)
なる
卓子
(
テエブル
)
の
周囲
(
めぐり
)
を歩みゐたり。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
くっきりと肉の締った横顔は、
後
(
うし
)
ろからさす日の影に、耳を
蔽
(
おお
)
うて肩に流す
鬢
(
びん
)
の影に、しっとりとして
仄
(
ほのか
)
である。
虞美人草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
考え込んでいるうちに、
蝋燭
(
ろうそく
)
の
仄
(
ほのか
)
な光でまた私は、朝まで何にも知らずにぐっすりと眠り込んでしまいました。
墓が呼んでいる
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
白い壁面は磨いたように光沢を帯びて、下から反射する水の色がそれへ
仄
(
ほのか
)
に青く映っている。凄美の極だ。十二時、本流と祖母谷との岐れ道に着いて昼飯にした。
黒部川を遡る
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
香染
(
こうぞめ
)
の衣を着た、青白い顔の、人気のあった坊さんが静々と奥院の方から
仄
(
ほのか
)
にゆらぎだして来て、
衆生
(
しゅじょう
)
には背中を見せ、本尊
菩薩
(
ぼさつ
)
に
跪座立礼
(
きざりつれい
)
三拝して、説経壇の上に登ると、先刻嫁を
罵
(
ののし
)
り
旧聞日本橋:20 西川小りん
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
遠景が
仄
(
ほのか
)
に
暈
(
ぼか
)
された。
隠亡堀
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
(
鎧
(
よろい
)
の
結目
(
むすびめ
)
を解きかけて、音楽につれて
徐
(
おもむ
)
ろに、やや、ななめに立ちつつ、その竜の爪を美女の背にかく。雪の振袖、紫の鱗の端に
仄
(
ほのか
)
に見ゆ)
海神別荘
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
麻蝦夷
(
あさえぞ
)
の
御主殿持
(
ごしゆでんもち
)
とともに
薦
(
すす
)
むる筒の
端
(
はし
)
より
焼金
(
やききん
)
の吸口は
仄
(
ほのか
)
に
耀
(
かがや
)
けり。歯は
黄金
(
きん
)
、帯留は
黄金
(
きん
)
、指環は
黄金
(
きん
)
、腕環は
黄金
(
きん
)
、時計は
黄金
(
きん
)
、今又
煙管
(
きせる
)
は
黄金
(
きん
)
にあらずや。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
何という意味かその時も知らず、今でも分らないが、あるいは
仄
(
ほのか
)
に
東洋城
(
とうようじょう
)
と別れる折の連想が夢のような頭の中に
這回
(
はいまわ
)
って、
恍惚
(
こうこつ
)
とでき上ったものではないかと思う。
思い出す事など
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
河上から折々雲が
颪
(
おろ
)
して来て、谷の空気が潮の退くように
仄
(
ほのか
)
に薄曇ると、濃藍色をした深い上流の山の端から、翠の影がさっと谷間を流れて、体がひやりと冷たくなる。
釜沢行
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
肩
(
かた
)
を
細
(
ほそ
)
く、
片袖
(
かたそで
)
をなよ/\と
胸
(
むね
)
につけた、
風通
(
かぜとほ
)
しの
南
(
みなみ
)
へ
背
(
せ
)
を
向
(
む
)
けた
背後姿
(
うしろすがた
)
の、
腰
(
こし
)
のあたりまで
仄
(
ほのか
)
に
見
(
み
)
える、
敷居
(
しきゐ
)
に
掛
(
か
)
けた
半身
(
はんしん
)
で
帶
(
おび
)
と
髮
(
かみ
)
のみ
艷
(
あで
)
やかに
黒
(
くろ
)
い。
浅茅生
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
緊張した神経繊維の末端はこの窮窟な肉体を衝き破って、
仄
(
ほのか
)
に光る一波の閃きにもピリピリ顫えている恣な大気の分子——神経繊維と抱き合おうとする、恐ろしい衝動の力。
黒部川奥の山旅
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
夜が白んで物の色が
仄
(
ほのか
)
に明るくなった頃、御互の顔を見渡すと、誰も彼も
奇麗
(
きれい
)
に砂だらけになっている。眼を
擦
(
こす
)
ると砂が出る。耳を
掘
(
ほじ
)
くると砂が出る。頭を
掻
(
か
)
いても砂が出る。
満韓ところどころ
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
お雪は細い
音
(
ね
)
に立てて唇を吸って招きながら、つかつかと出て
袂
(
たもと
)
を振った、横ぎる光の蛍の火に、細い姿は
園生
(
そのう
)
にちらちら、髪も見えた、
仄
(
ほのか
)
に雪なす顔を向けて
黒百合
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
唐檜や黒檜の薄暗い幹の中に、白茶化けた樺が
仄
(
ほのか
)
に明るく光っている。それを目あてに東南を指して進んだ。笹は短くなって歩きよくなるが、白檜や
大白檜
(
おおしらびそ
)
の若木が
蔓
(
はびこ
)
り出した。
秋の鬼怒沼
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
熱い
蕎麦湯
(
そばゆ
)
を
啜
(
すす
)
りながら、あかるい
洋灯
(
ランプ
)
の下で、
継
(
つ
)
ぎ立ての
切炭
(
きりずみ
)
のぱちぱち鳴る音に耳を傾けていると、赤い
火気
(
かっき
)
が、囲われた灰の中で
仄
(
ほのか
)
に揺れている。時々薄青い
焔
(
ほのお
)
が炭の
股
(
また
)
から出る。
永日小品
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
仄
(
ほのか
)
に聞くにつけても、それらの面々の面目に係ると悪い。むかし、八里半、
僭称
(
せんしょう
)
して十三里、一名、書生の羊羹、ともいった、ポテト……どうも脇息向の
饌
(
せん
)
でない。
薄紅梅
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
雪渓の雪が先ず
其
(
その
)
光を吸って
仄
(
ほのか
)
に輝き始める。
黒部川奥の山旅
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
碑の
面
(
おもて
)
の戒名は、信士とも
信女
(
しんにょ
)
とも、苔に埋れて見えないが、三つ
蔦
(
づた
)
の紋所が、その葉の落ちたように寂しく
顕
(
あら
)
われて、線香の消残った台石に——田沢氏——と
仄
(
ほのか
)
に読まれた。
灯明之巻
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
小松原が、ト
透
(
すか
)
すと、
二重
(
ふたえ
)
遮って
仄
(
ほのか
)
ではあるが、細君は蚊帳の中を動かずにいたのである。
沼夫人
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
そこには
明
(
あかり
)
取りも何にもないから、
仄
(
ほのか
)
な
星明
(
ほしあかり
)
も
辿
(
たど
)
れないが、昼の
見覚
(
みおぼえ
)
は違うまい。
沼夫人
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
逢いに来た——と
報知
(
しらせ
)
を聞いて、同じ牛込、北町の友達の
家
(
うち
)
から、番傘を傾け傾け、雪を
凌
(
しの
)
いで帰る途中も、その
婦
(
おんな
)
を思うと、
鎖
(
とざ
)
した
町家
(
まちや
)
の隙間
洩
(
も
)
る、
仄
(
ほのか
)
な
燈火
(
あかり
)
よりも
颯
(
さっ
)
と濃い
緋
(
ひ
)
の色を
第二菎蒻本
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
誰言うとなく
自然
(
おのず
)
と通じて、
投遣
(
なげや
)
りな
投放
(
むすびばな
)
しに、中を結んだ、
紅
(
べに
)
、
浅葱
(
あさぎ
)
の細い色さえ、床の間の
籠
(
かご
)
に投込んだ、白い
常夏
(
とこなつ
)
の花とともに、ものは言わぬが
談話
(
はなし
)
の席へ、
仄
(
ほのか
)
な
俤
(
おもかげ
)
に立っていた。
吉原新話
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
黒格子を
仄
(
ほのか
)
に、端が
靡
(
なび
)
いて、
婦人
(
おんな
)
は、頬のかかり
頸脚
(
えりあし
)
の白く透通る、黒髪のうしろ向きに、ずり落ちた
褄
(
つま
)
を薄く引き、ほとんど
白脛
(
しらはぎ
)
に消ゆるに近い薄紅の
蹴出
(
けだ
)
しを、ただなよなよと
捌
(
さば
)
きながら
神鷺之巻
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
両方壁の
突当
(
つきあたり
)
は、
梯子壇
(
はしごだん
)
の上口、新しい
欄干
(
てすり
)
が見えて、
仄
(
ほのか
)
に
明
(
あかり
)
がついている。
此方
(
こなた
)
に水に光を帯びた冷い影の映るのは一面の姿見で、向い合って、流しがある。
手桶
(
ておけ
)
を、ぼた——ぼた——
雫
(
しずく
)
の音。
わか紫
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
夏の日を海気につつんで、崖に草なき
赤地
(
あかつち
)
へ、
仄
(
ほのか
)
に反映するのである。
悪獣篇
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
月影が射したから、
伏拝
(
ふしおが
)
んで、心を
籠
(
こ
)
めて、
透
(
す
)
かし透かし見たけれども、
眗
(
みまわ
)
したけれども、
見遣
(
みや
)
ったけれども、ものの
薫
(
かおり
)
に形あって
仄
(
ほのか
)
に
幻
(
まぼろし
)
かと見ゆるばかり、雲も雪も紫も
偏
(
ひとえ
)
に夜の色に
紛
(
まぎ
)
るるのみ。
薬草取
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
そこから
彗星
(
ほうきぼし
)
のような
燈
(
あかり
)
の末が、半ば開けかけた襖越、
仄
(
ほのか
)
に玄関の畳へさす、と見ると、
沓脱
(
くつぬぎ
)
の
三和土
(
たたき
)
を
間
(
あい
)
に、暗い格子戸にぴたりと
附着
(
くッつ
)
いて、横向きに立っていたのは、俊吉の世帯に
年増
(
としま
)
の女中で。
第二菎蒻本
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
と、瞳を凝らした、お町の眉に、その霧が
仄
(
ほのか
)
にうつッた。
古狢
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
と誰伝うるとなく、程
経
(
た
)
って
仄
(
ほのか
)
に
洩
(
も
)
れ聞える。
草迷宮
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
着たままで隠れている、
外套
(
がいとう
)
の色が
仄
(
ほのか
)
に鼠。
伊勢之巻
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
“仄”の意味
《名詞》
(ソク)仄韻。また、その字。
(出典:Wiktionary)
仄
漢検1級
部首:⼈
4画
“仄”を含む語句
仄暗
平仄
仄白
仄明
仄々
仄紅
逼仄
仄闇
仄聞
仄見
仄青
仄筆
仄赤
仄紅色
仄白々
仄浮
仄起
仄透
仄歩
仄黄色
...