いへど)” の例文
大略なりといへども、予が連日連夜の苦悶は、卿等必ずや善く了解せん。予は本多子爵を殺さざらんが為には、予自身を殺さざる可らず。
開化の殺人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
間斷かんだんなく消耗せうまうして肉體にくたい缺損けつそん補給ほきふするために攝取せつしゆする食料しよくれうは一わんいへどこと/″\自己じこ慘憺さんたんたる勞力らうりよくの一いてるのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
百姓町人といへども、身のたしなみに一應の武技は心得て置くべきであるといふ建前で、門人の半分以上は町の若い者達に、無祿の浪人共
しかし將來このさきこれをさいはひであつたとときいへども、たしかに不幸ふかうであるとかんずるにちがいない。ぼくらないでい、かんじたくないものだ。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
伯夷はくい叔齊しゆくせいけんなりといへども、(七三)夫子ふうし益〻ますますあらはれ、顏淵がんえん篤學とくがくなりといへども、(七四)驥尾きびしておこなひ益〻ますますあらはる。
道法とはいはく聖法なり。言ふこころは、聖法をくすといへども、亦俗法の中に凡夫の事を現じて、機にしたがひて物を化するを乃ち真宴と名づく。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
たまへ、露西亜ロシヤ帝国政府の無道擅制ぶだうせんせいは、露西亜国民の敵ではありませんか、ども独り露西亜政府のみでは無いです、各国政府の政策といへど
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
第三 さけちや菓子かしるゐ食時しよくじせつ少々せう/\もちゐて飮食いんしよく消化せうくわたすくるはがいなしといへども、その時限じげんほか退屈たいくつときもちゆとうがいあること
養生心得草 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
一、休業中といへども、金銭の支出は、毎月の予算を超過せざること、但し、炊事停止による丼物どんぶりものの勘定は、この限りにあらず
世帯休業 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
其の様を見るに三尺児といへどなほ弁ずべきを、頑然首を差伸べて来る。古狸たくみに人をたぶらかし、其極終に昼出て児童の獲となること、古今の笑談なり。
平民的短歌の作者も一種の理想派アイデアリストとなりて、さぞ満足なることならんといへども、実を忘れ、肉を忘れ、天外高く飛び去り
いま三十せき一等戰鬪艦いつとうせんとうかんをもつて組織そしきされたる一大いちだい艦隊かんたいいへども、でゝとりかぬうちに、滅盡めつじんすること出來できるであらう。
いで、戰場せんぢやうのぞときは、雜兵ざふひやういへど陣笠ぢんがさをいたゞく。峰入みねいり山伏やまぶしかひく。時節じせつがら、やり白馬しろうまといへば、モダンとかいふをんなでも金剛杖こんがうづゑがひととほり。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
奴隷関係と自由契約関係とあり、現時の自由労働制度といへども実は仮定に過ぎず。労働者の自由は死活問題を伴ひ、資本家の自由は単なる損益問題なり。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
自分じぶん好運かううん衰勢すゐせいにだらしなく感情かんじやう動亂どうらんさせるなどははなはだしばしばぼくのおかることだが、そして、ぼくいへどへてそれが全然無ぜんぜんないとははないが
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
およソ物ニ先天アル事、人ニ資禀しひんアルガ如シ。人ノ性下愚ナル者ハ、孔孟これヲ教フトいへどモ無益也。物ノ性よろシカラズバ、易牙えきが之ヲルト雖モ無味也……」
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
もとより戯曲には種々の規則あり、罪過を以つて唯一の規則となすは不可なるべしといへども、これが為めに罪過は不用なりと言ふあらばおほいに不可なるが如し。
罪過論 (新字旧仮名) / 石橋忍月(著)
一、申すに及ばず候といへども、輝元、元春、隆景、深重如在しんちようじよさいを存ぜず、われら進退しんたいにかけて見放し申すまじき事。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
トルストイ伯の人格は訳者の欽仰きんぎようかざる者なりといへども、その人生観に就ては、根本に於て既に訳者と見を異にす。そもそも伯が芸術論はかの世界観の一片に過ぎず。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
悉皆のこりなく呼出よびだされ村井長庵は兩度りやうど拷問がうもんにても白状はくじやうせざる事故身體しんたいつかはてかゝる惡人あくにんなりといへどてんさだまりて人を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
放ち、諸の聖衆とともに来つて、引接し擁護したまふなり。惑障相隔てて見たてまつることあたはずといへども、大悲の願疑ふべからず。決定して此の室に来入したまふなり。
美の日本的源泉 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
然れ共、勢の迫るところ、早晩此世界にも大恐慌の来るべきは、何人といへど預察よさつし得る所なり。
劇詩の前途如何 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
されば路地は細く短しといへども趣味と変化に富むこと恰も長編の小説の如しと云はれるであらう。
路地 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
介の維幾、息男為憲を教へずして、兵乱に及ばしめしのよしは、伏して過状を弁じをはんぬ。将門本意にあらずといへども、一国を討滅しぬれば、罪科軽からず、百県に及ぶべし。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
今、これをこの群山の間に見る、髣髴といへどもわが心いかでかこれに向つてせざらんや。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
「その事實の證人があります。その人の證言はあなたといへども抗辯なさらないでせう。」
しかし彼等がその平和の必要条件として、それとは全く両立しがたい腕力の二字を常に念頭に置くべくひられるに至つては、彼等といへども今更ながら天のアイロニーに驚かざるを得まい。
点頭録 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
是れ絶對は之をるるを以てなり。逍遙子は是なりといへども之をあがめず。是を以て衆理想のとなることなし。衆理想は皆非なり。是れ絶對はいづれの理想にも掩はれざるを以てなり。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
日本にほんつては大正たいしやうねん以來いらい問題もんだいまたこれ世界せかいからると、世界せかいいづれのくにいへど金解禁きんかいきんすで決行けつかうされてつてたゞ日本にほんだけが取殘とりのこされてるからして、何時いつ日本にほんきん解禁かいきんをするか
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
○さりとも志を棄てんは惜しき時、一策あり、精々せい/″\多く志を仕入れて、ところ嫌はず之を振廻さん事なり。成功を見ずといへども、附け届けを見ん。脊負しよひ切れざる程なるをもて、志の妙となす。
青眼白頭 (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
好色一代男に、『雷の鳴る時は、近寄りて頭まで隠せしこと』云々といふところがあるから、一方当時の読者といへども、西鶴のこの一句から様々の冒険の心をかしたかも知れないのである。
雷談義 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
めに一人も中毒ちうどくひしものなし、此他めしの如き如何なる下等米といへども如何なる塵芥じんかいこんずると雖も、其味のなる山海の珍味ちんみも及ばざるなり、余の小食家もつねに一回凡そ四合をしよくしたり
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
往来に打水して町の軒並に蚊柱の立つ松山の町はその基調には、たとへ、旧お城下といふ燻しがかゝつて居るとはいへど、決して酸性の刺戟を伴はぬ明るい四国の町の黄昏の一である事を否み能はぬ。
坊つちやん「遺蹟めぐり」 (新字旧仮名) / 岡本一平(著)
(演説の調にて)法相真如しんによといふといへども之れ仏陀乃至伝教等沙門の頭を写したる幻の塔、夢の伽藍、どうせ人の頭より出たるほどのもの故、学んで悟られぬ筈はおりない。悟といふはやくない徒労。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
彼らといへども労働者の子供たちであつた。
釜ヶ崎 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
怒濤をめぐらす半島といへど
「鴎で仕合せだ、——此間は馬に笑はれましたぜ。親分の前だが、馬の笑ふのを見た者は、日本廣しといへども、たんとはあるめえ」
尤もこの旅人は痩せたりといへども、尋常一様の旅人ではない。隅田川の渡りを求めに来た、寂しい何人かの旅人を一身に代表する名誉職である。
金春会の「隅田川」 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
つたはる攝養法せつやうはふ種々しゆ/″\ありといへども、實驗じつけんれば、もつと簡易かんいにしてもつと巧驗こうけんあるものは冷水浴れいすゐよくにあらざるし。
命の鍛錬 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
晏嬰あんえいすなは田穰苴でんじやうしよすすめていはく、『穰苴じやうしよ田氏でんし(四)庶孽しよげつなりといへども、しかれども其人そのひとぶんしうけ、てきおどす。ねがはくはきみこれこころみよ』
勘次かんじ異常いじやう勞働らうどうによつて報酬はうしうようとする一ぱうに一せんいへど容易よういふところげんじまいとのみ心懸こゝろがけてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
そのは、今更いまさらながら、瞬時しゆんじいへども、こゝろかげが、ねつへないものゝごとく、不意ふいのあやまちで、怪我けがをさしたひと吃驚びつくりするやうに、ぎんふたを、ぱつとつた。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ぼく支度したくして先生せんせいうちけつけました、それがあさ六時ろくじ山野さんやあるらしてかへつてたのがゆふべ六時ろくじでした、先生せんせい夏期休業なつやすみいへどつね生徒せいとちかづ
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
危岸、険崖なくんば可なり、柔櫓じうろ声中、夢を載せて、淀川を下る旅客を学ぶも差支なしといへども、若れ我文明の中にやまひを存し、光れる中に腐敗を蔵するを見ば
一、足尾の鉱毒が渡良瀬河岸被害の一原因たることは、試験の結果に依りて之を認めたりといへども、此被害たる、公共の安寧を危殆きたいならしむる如き性質を有せず。
政治の破産者・田中正造 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
歐米諸國をうべいしよこく寸尺すんしやく土地とちいへど自己じこ領分りようぶんとなさんときそひあらそひ、こゝに、一個いつこ無人島むじんとうでもあつて
物皆時あり、至醜のものといへども小美の時無くばあらず。西のは之を談ぜるなり。両諺共に佳。
東西伊呂波短歌評釈 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
日本語に之を重訳ちようやくして罪過とふは稍々やゝ穏当ならざるがごとしといへども、世にアイデアル、リアルを訳して理想的、実写的とさへ言ふことあれば、是れまた差してとがむべきにあらず。
罪過論 (新字旧仮名) / 石橋忍月(著)
これでは如何に幕府打倒といきり立つてゐる薩長といへども文句がつけられないのである。
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
かれ現在げんざい自分じぶんゆるかぎりの勇氣ゆうきひつさげて、公案こうあんむかはうと決心けつしんした。それがいづれのところかれみちびいて、どんな結果けつくわかれこゝろきたすかは、かれ自身じしんいへどまつたらなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)