つら)” の例文
こは初めひとへなりしも今二重ふたへとなりぬ、そは汝のことば、これとつらなる事のまことなるをこゝにもかしこにも定かに我に示せばなり 五五—五七
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
それから永楽町の電車停留場の方へ行くと、左側のバラックには何とか活動写真株式会社とあって派手な絵看板が沢山掛けつらねてある。
丸の内 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
牧場ぼくじょうのうしろはゆるいおかになって、その黒いたいらな頂上ちょうじょうは、北の大熊星おおくまぼしの下に、ぼんやりふだんよりもひくく、つらなって見えました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
開いてみると、無数の武者修行の名が訪問の月日の下につらねてある。武蔵も前の者にならって書いたが、流名は書きようもなかった。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一番外には困る輪が黒墨を流したように際限なく未来につらなっている。そうして宗近君はこの未来をつかさどる主人公のように見えた。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
葉末はずゑにおくつゆほどもらずわらふてらすはるもまだかぜさむき二月なかうめんと夕暮ゆふぐれ摩利支天まりしてん縁日ゑんにちつらぬるそであたゝかげに。
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
まへのは砲兵工廠はうへいこうしやうけたときで、つゞいて、日本橋にほんばし本町ほんちやうのきつらねた藥問屋くすりどひやくすりぐらが破裂はれつしたとつたのは、五六日ごろくにちぎてのこと
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
『七部集』には百韻すなわち百句の連歌がたった一つあるのみで、他の六十何篇はみな歌仙、すなわち三十六句をつらねたもののみである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
モヨ子の外出穿きの赤きコルク草履ぞうりが正しく並びおり、そのかたわらより蝋燭ろうそく滴下したたり起り、急なる階段の上まで点々としてつらなれり。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
病気といってその席につらなるまいかと思ったが、悪意のある世評が、「あれ見よ。鈴木忠次郎は、面目なさに幸太郎殿の祝宴から逃げたぞよ」
仇討三態 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
露店ろてんが、つらなっていました。その一つには、ヒョットコ、きつね、おかめ、などの人形にんぎょうがむしろのうえならべてありました。
とびよ鳴け (新字新仮名) / 小川未明(著)
お絹という女の好奇心をそそって、今宵その秘密の修法しゅほうの席につらなることを許したはずの、この千隆寺の若い住職というのが、なかなかの曲者くせものだ。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
声をつらね筆をそろへて一斉いつせいに之を讒謗ざんばう攻撃していはく「軍国多事のげきに乗じて此事をなすづ売国の奸賊をちゆうして征露軍門の血祭ちまつりせざるべからず——」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
ななめに冬木立のつらなりてその上に鳥居ばかりの少しく見えたる、冬田の水はかれがれにびて刈株かりかぶ穭穂ひつじぼを見せたる
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
女の子供などは往々おうおうそのくき交互こうごに短くり、皮でつらなったまま珠数じゅずのようになし、もてあそんでいることがある。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
去年に比べると今年は御倹約の御触おふれが出てから間もないためか、川一丸かわいちまるとか吉野丸よしのまるとかいう提灯ちょうちんを下げつらねた大きな大きな屋形船に美女と美酒とを満載して
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
およそ三十度の緩傾斜をなしている裾野から、西雲仙旧火山の外輪山である野岳の内側面に添うて、妙見と野岳をつらぬる一線仁田にた峠を目ざしてのぼって行くので
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
板の間を二つ三つ過ぎると、奧には疊の部屋が唐紙で仕切つて幾つかつらなり、その一番奧、南陽みなみの當る八疊に、内儀のお照は外科げくわの手當てを受けて居るのでした。
野心や利害の相剋から生れることもあり、個人がつらなっている家族や門閥もんばつの関係から生ずることもある。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
すなわちデンマーク国の欧州大陸につらなる部分にして、その領土の大部分を占むるユトランド(Jutland)の荒漠を化してこれを沃饒よくにょうの地となさんとの大計画を
いろ/\のあつ待遇もてなしけたのちよるの八ごろになると、當家たうけ番頭ばんとう手代てだいをはじめ下婢かひ下僕げぼくいたるまで、一同いちどうあつまつて送別そうべつもようしをするさうで、わたくしまねかれてそのせきつらなつた。
丘先生——すくなくとも唯今の時間、この教室に於ては——黒板に書きつらねている数式を途中でやめて、机の上の紙片を見た。そこには次のような鉛筆の走り書がしてあった。
キド効果 (新字新仮名) / 海野十三(著)
せめて燒跡やけあとなりとも弔はんと、西八條の方に辿り行けば、夜半よはにや立ちし、早や落人おちうどの影だに見えず、昨日きのふまでも美麗に建てつらねし大門だいもん高臺かうだい、一夜の煙と立ちのぼりて、燒野原やけのはら
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
目の前に建てつらなつた店々の屋根から、軒から、解けた雪のしづくが冷たさうにポタポタと落ちる。かつと陽を受けて、雫にれた飾窓ショウウヰンドのガラスが泣いたやうにギラギラ光つてゐた。
イボタの虫 (新字旧仮名) / 中戸川吉二(著)
門の外では、珍妙な風体ふうていのチンドン屋が、お菓子屋の広告の、つらね文句を呶鳴どなっていた。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
つてからは、城の内外の持口々々もちくち/″\篝火かゞりびつらねて、炎焔えん/\てんこがすのであつた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
越後の頸城郡くびきこほり松の山は一庄いつしやう総名そうみやうにて、許多あまた村落むら併合あはしたる大庄也。いづれも山あひ村落むら/\にして一村の内といへども平地なし。たゞ松代といふ所のみ平地にて、農家のうかのきつらぬ。
それはおもての舟梁ふなばりとその次の舟梁とにあいているあなに、「たてじ」を立て、二のたてじにむねを渡し、肘木ひじきを左右にはね出させて、肘木と肘木とを木竿でつらねて苫を受けさせます。
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
もと播州ばんしうむろの津にいたりけり當所は繁華はんくわみなとにて名に聞えたるむろ早咲町はやざきまちなど遊女町いうぢよまちのきつらねて在ければ吾助は例の好色かうしよく者と言ひ懷中には二百兩の金もあり先此處にてつかれを慰めうつ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そういうものがわずかなすき間もないばかりに一面に並んでつらなっていたのである。
日本橋附近 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
居住区に入って行くと、通路の真中に卓を長くつらね、両側にそれぞれ皆腰かけ、卓の上は麦酒瓶ビールびん行列ぎょうれつであった。煙草の煙が奥深くこもり、瓶やコップの触れる音がかちかち響いた。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
余は「みゝずのたはこと」の校正を差措さしおいて、鶴子を連れて其席につらなり、日暮れて帰ると、提灯ちょうちんともして迎えに来た女中は、デカが先刻せんこく甲州街道で自動車にかれたことを告げた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
峨々がゝたる高山のつらなりのせゐか、一日中に、晴曇雨が交々こもごも来るところで、颱風たいふうの通路にあたるせゐか、屋久島は一年中、豪雨がううに見舞はれ、村の財政は、窮乏に追ひこまれ、治水対策が
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
かべには道場の貼出はりだしのように、名を書きつらねた一枚の巻紙が貼ってあるのだ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ぐ目の下に鴨緑おうりょく色の水を湛えた菅沼が手に届く程に近い。湖をめぐって鬱蒼たる針葉樹の梢が無数のほこを建てつらねたように、水際からひら地へ、ひら地から山腹へ、すくすくと立ち並んでいる。
秋の鬼怒沼 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
いし裏返うらかへしにして再び他面にみぞを作り、兩面よりの殆んとあひつらなるに及んで、石の一部分ぶぶんつよく打ちこれを他の部分より取り離したるならん、いしを截るにも石を研ぐにも多少たせうの水を要すべし。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
屋内酒樽さけだるのあるあらばきはめてめうなれども、若し之なくんば草臥くたびぞんなりと、つひに帰路をりて戸倉にいたるにけつす、一帯の白砂はくさおはれば路は戸倉峠につらなる、峠のたかさ凡そ六千呎、路幅みちはばわづかに一尺
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
木曾きそ秋田あきたその地方ちほうで、特別とくべつ針葉樹しんようじゆ保護ほごしてゐる土地とちのぞけば、あとはほとんど落葉樹らくようじゆで、ふゆになつてちると、まるでとほてんつらなつてゐるようにさびしい景色けしきになります。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
ひとわたり悪態のつらねが回ると、もとの太十に戻つて
武者窓日記 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
自ら詠じ、たけたかき韻をつらぬる才ありき。
リシダス (旧字旧仮名) / ジョン・ミルトン(著)
唯熟したる麦の田は黄金海おうごんかいつらなりて
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
海の向うにつらなる突兀とっこつ極まる山脈さえ、坐っていると、窓の中に向うから這入はいって来てくれるという重宝ちょうほううちなんだそうである。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかし、矢はつるに、はやまんまると、弓はひきしぼられていた。頭上へかかる一トつらかりがねがあった。花栄はさけんだ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、よほど、天気てんきのいいでもなければ、つらなるやまのすがたをつくすことができなかったのであります。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
その洗面所には鏡がつらなってかかっている。その鏡の前にはそれ等の女群の一隊が列をなしている。そうして厚ぼったく塗った白粉おしろいの上に更に白粉を塗っている。
丸の内 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
空濠からぼりふではない、が、天守てんしゆむかつた大手おほてあとの、左右さいうつらなる石垣いしがきこそまだたかいが、きしあさく、段々だん/\うもれて、土堤どてけてみちつゝむまであしもりをなして生茂おひしげる。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
この珍碩というのは前の洒堂しゃどうとたしか同じ人で、奇妙に泣くという附句の席にばかりつらなっている。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
御岳みたけの山も沢井あたりの山も大菩薩の方も、眼の前につらなっています。与八はこれを見るとまた悲しくなって、そっと後ろの郁太郎を振返ると、子供は無心に寝入っている。
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
一人娘の嫁入りの儀式につらなる禮裝の麻裃あさがみしも、兩刀を高々と手挾たばさんだのを、後ろに廻して、膝の汚れも構はず、乘物の中に手を突つ込み、娘の首を起してハツと息を呑みました。
 一、雨に名所の春も悲しき闇の中を街燈遠く吾妻橋まで花がくれにつらなれるが見えたる。
向嶋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)