とお)” の例文
こんどは京都きょうと羅生門らしょうもん毎晩まいばんおにが出るといううわさがちました。なんでもとおりかかるものをつかまえてはべるという評判ひょうばんでした。
羅生門 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「そら、どらねこがきた。」といって、かおすとみずをかけたり、いたずらっは、そばをとおると、小石こいしひろってげたりしました。
ねこ (新字新仮名) / 小川未明(著)
かたぽうでもいけなけりゃ、せめて半分はんぶんだけでもげてやったら、とおりがかりの人達ひとたちが、どんなによろこぶかれたもんじゃねえんで。……
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
坊ちゃん政——それは私にいつの間にか付けられたとおだった。もちろんかねて顔馴染かおなじみの二刑事が覚えているのもせんないことだろう。
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そのあかい口びるを吸わして首席を占めたんだと、厳格でとおっている米国人の老校長に、思いもよらぬ浮き名を負わせたのも彼女である。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
可哀かわいそうな子家鴨こあひるがどれだけびっくりしたか! かれはねしたあたまかくそうとしたとき、一ぴきおおきな、おそろしいいぬがすぐそばとおりました。
まえにものべたとおり、こちらの世界せかいつくりつけの現界げんかいとはことなり、場所ばしょも、家屋かおくも、また姿すがたも、みな意思おもいのままにどのようにもかえられる。
「あれか? あれは仏蘭西フランスの……まあ、女優と云うんだろう。ニニイと云う名でとおっているがね。——それよりもあのじいさんを見ろよ。」
彼 第二 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
毎日毎夜とおしに眠れない。そうして、しまいには昼も夜もわからない、骨と皮ばかりの夢うつつみたいになって死んで行く奴が多い。
狂人は笑う (新字新仮名) / 夢野久作(著)
一首の意は、〔玉藻かる〕(枕詞)摂津の敏馬みぬめとおって、いよいよ船は〔夏草の〕(枕詞)淡路の野島の埼に近づいた、というのである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
と、すぐそばでやかすようなわらごえきこえた。あくたれでとおっているドゥチコフのいやな声だ。シューラはおもいがけなさにぴくっとなった。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
や、巡査じゅんさ徐々そろそろまどそばとおってった、あやしいぞ、やや、またたれ二人ふたりうちまえ立留たちとどまっている、何故なぜだまっているのだろうか?
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
へえ、これは、その、いえまえとおりますと、まきがきにこれがかけてしてありました。るとこの、しりあながあいていたのです。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
「聞きずてにならぬ暴言ぼうげんようがあればこそ幕内まくうちへとおる。それは奉行ぶぎょう役権やっけんじゃ。役儀やくぎけんをもってとおるになんのふしぎがあろう。どけどけ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とおすがると、どうしたのか、我を忘れたように、わたしは、あの、低い欄干らんかんへ、腰をかけてしまったんです。抜けたのだなぞと言っては不可いけません。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とりんでってしまうと、杜松ねずまたもととおりになりましたが、手巾はんけちほねと一しょに何処どこへかえてしまいました。
ところが余り暑い盛りに大患後の身体からだをぶっとおしに使うのはどんなものだろうという親切な心配をしてくれる人が出て来たので、それを機会しお
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
九月となりてわれはここに初めて団菊両優の素顔すがおとその稽古とを見得たり。狂言はたしか『水戸黄門記みとこうもんきとおしにて中幕「大徳寺だいとくじ焼香場しょうこうばなりしと記憶す。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「おっかあ、粕谷の仙ちゃんのおめかけの居たうちに越して来た東京のおかみさんがとおるから、出て来て見なァよゥ」
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
と、やがて裏門うらもんに近づく人の足音あしおとがして、だれか門をくぐると、裏庭うらにわとおって法師の方へ近づいて来ました。
壇ノ浦の鬼火 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
四五 猿の経立ふったちはよく人に似て、女色を好み里の婦人を盗み去ること多し。松脂まつやにを毛にり砂をその上につけておる故、毛皮けがわよろいのごとく鉄砲のたまとおらず。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
乗物のりもの支度したくもなかつたので、私達わたくしたちはぞろ/\打揃うちそろうてそとた。そしてえんタクでもとおりかゝつたらばとおもつて、さびしいNまちとおりを、Tホテルのほうへとあるいた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
兵馬へいばけん」とか「弓馬きゅうばいえ」とかいう語もあるほど、遠い昔から軍事の要具とせられている勇ましい馬の鳴声は、「お馬ヒンヒン」というとおことばにあるとおり
駒のいななき (新字新仮名) / 橋本進吉(著)
そのまま、しばらくにらみあいのままでいましたが、さて、線路せんろ一筋ひとすじなので、おたがいとおりぬけることができません。どちらかあとしざりをしなければなりません。
ばかな汽車 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
秋の中過なかばすぎ、冬近くなるといずれの海浜かいひんとわず、大方はさびれて来る、鎌倉かまくらそのとおりで、自分のように年中住んでる者のほかは、浜へ出て見ても、里の子、浦の子、地曳網じびきあみの男
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
兼吉かねきち尿板にょうばんのうしろをとおろうとすると、一とうの牛がうしろへさがって立ってるので通れないから、ただ平手ひらてかるく牛のしりを打ったまでなのを、牛をだいじにする花前は
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
人前にんまえ、一人分にんぶん、一ととおり、人並ひとなみ、十人並にんなみ、男一ぴきの任務などいう言葉はわれわれのつねに聞くところである。なかんずく一人前という言葉は種々の場合に応用されている。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
どうしてって……おれにはわからない……おちよ……じっさいまずい……第一、ばかげているから……そうだ、そのとおりだ……ばかげている、なん意味いみもない……そこだ。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
この「子を取ろ子とろ」が、この深夜、材木町ざいもくちょうとおりに斬りむすぶ剣林のなかに、始まった。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それにこっちでこれだけ思っているのだから、皆までとは行かぬにしても、この心が幾らか向うにとおっていないことはない筈だ。なに。案じるよりは生むが易いかも知れない。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
なり結城ゆうき藍微塵あいみじん唐桟とうざん西川縞にしかわじま半纒はんてんに、八丈のとおえりの掛ったのを着て門口かどぐちに立ち。
あっちの邦土くにだれにも見せないと、意地悪くとおせんぼうをしているようにも見える位だ。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そういうカードを五とおり作って、合計二十五枚を一組の透視(実験用標準)カードとする。即ち一組の透視カードは、円、四角など五種類のものが、それぞれ五枚ずつあることになる。
しぜん人も馬も重苦しい気持にしずんでしまいそうだったが、しかしふととおが過ぎ去ったあとのようなむなしいあわただしさにせき立てられるのは、こんな日は競走レースれて大穴が出るからだろうか。
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
わたしは、またもう一つ読本の中にあったくまのをありありと思いだすことができます。それは、大きなくまが後足で立って、木のえだにさけをたくさんとおしたのをかついでいくところです。
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)
友人たちは初め承知しなかったが、結局ヴラジーミル・ペトローヴィチは自説をとおした。二週間ののち、彼らが再び寄り合った時、ウラジーミル・ペトローヴィチは、その約束やくそくを果した。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
被害者ひがいしゃ刈谷音吉老人かりやおときちろうじんは、もと高利貸こうりかしでへんくつで、昼日中ひるひなかでももんしまりをしていて、よびりんをさないと、ひと門内もんないとおさなかつたというほどに用心ようじんぶかく、それに妻子さいしはなく女中じょちゅうもおかず
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
三軒が皆とおしのようになっていて、その中央なかの家の、立腐たちぐされになってる畳の上に、木のちた、如何いかにも怪し気な長持ながもちが二つ置いてある、ふたは開けたなりなので、気味なかのぞいて見ると
怪物屋敷 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
天から下界へとおって来て
かぜがなくていいな。」とゆめなかだけれどおもっていたときです。蒸気じょうきポンプのわだちが、あちらのひろとおりをよこほうがったようです。
火事 (新字新仮名) / 小川未明(著)
百姓ひゃくしょうは「桑原くわばら桑原くわばら。」ととなえながら、あたまをかかえて一ぽんの大きな木の下にんで、夕立ゆうだちとおりすぎるのをっていました。
雷のさずけもの (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
と、おもいました。そしてまだじっとしていますと、りょうはなおもそのあたまうえではげしくつづいて、じゅうおと水草みずくさとおしてひびきわたるのでした。
「そのとおり。——おかみさん。太夫たゆう人気にんきたいしたもんでげすぜ。これからァ、んにもこわいこたァねえ、いきおいでげさァ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ハバトフはそのあいだ何故なにゆえもくしたまま、さッさと六号室ごうしつ這入はいってったが、ニキタはれいとお雑具がらくたつかうえから起上おきあがって、彼等かれられいをする。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
あなたも御承知ごしょうちとおり、こちらの世界せかいでは、なにをやるにも、手間暇間てまひまりません。おもったが吉日きちじつで、すぐに実行じっこううつされてきます。
「殿様、わたくしはあなた方に御別れ申してから、すぐに生駒山いこまやま笠置山かさぎやまとへ飛んで行って、このとおり御二方の御姫様を御助け申してまいりました。」
犬と笛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それかといって葉子はなべての女の順々にとおって行く道を通る事はどうしてもできなかった。通って見ようとした事は幾度あったかわからない。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
彼はその光る身体で私の原稿紙の上に寝たものだから、油がずっと下までとおって私をずいぶんな目にわせた。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこで、ことによると、だれかとおりがかりの人が気のどくに思って承知してくれるかもしれないと、そんなことを当てにして、大通おおどおりへ腰をおろしました。
「ウーム、ってとおさんとあらばぜひがない。では、ただいまおくへにないこんだ婦人ふじんをこれへだしてもらいたい」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)