羽織はおり)” の例文
「いまごろになると、毎年きまって、いけなくなるらしいのね。寒さが、こたえるのかしら。羽織はおりないの? おや、おや、素足で。」
秋風記 (新字新仮名) / 太宰治(著)
其跡そのあと入違いれちがつてたのは、織色おりいろ羽織はおり結城博多ゆうきはかたの五本手ほんて衣服きもの茶博多ちやはかたおびめました人物、年齢四十五六になるひんをとこ。客
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
かごうへに、たなたけやゝたかければ、打仰うちあふぐやうにした、まゆやさしさ。びんはひた/\と、羽織はおりえりきながら、かたうなじほそかつた。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
巴里の町にふる雪はプッチニイが『ボエーム』の曲を思出させる。哥沢節うたざわぶしに誰もが知っている『羽織はおりかくして』という曲がある。
雪の日 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そのほのぐら長屋門ながやもんをくぐって、見知みしらぬ男がふたりいそいそとはいってくる。羽織はおりはもめんらしいが縞地しまじ無地むじかもわからぬ。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
じゃ、おれのはかま羽織はおりを貸してやるから、日本服で出ろ、出て、まあ、どんな容子ようすだか見るが好いと、是公は何でもり出そうとする。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
祖母おばあさんはれい玄關げんくわんわきにあるはた腰掛こしかけまして、羽織はおりにするぢやう反物たんものと、子供こどもらしい帶地おびぢとを根氣こんきつてれました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
かくてもあられねばつまたる羽織はおりをつとくびをつゝみてかゝへ、世息せがれ布子ぬのこぬぎて父の死骸しがいうでをそへてなみだながらにつゝみ脊負せおはんとする時
それにはこたえずに、藤吉とうきちから羽織はおりを、ひったくるように受取うけとった春信はるのぶあしは、はやくも敷居しきいをまたいで、縁先えんさきへおりていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
川向うの小梅こうめの友人の所へ、を囲みに行くのだと云って、暖い晩だったので大島の袷に鹽瀬しおぜ羽織はおり丈けで、外套がいとうは着ず、ブラリと出掛けた。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そのなかにもいちばん目立めだってうつくしいのは玉虫たまむしのおばさんでありました。紫色むらさきいろ羽織はおりをきたおばさんは、ふねろうとして
玉虫のおばさん (新字新仮名) / 小川未明(著)
「たしかに入りました、お召かなにか、茶の立縞たてじま羽織はおりを着た、面長おもながな、年はもう二十五六です、ちょと好い女ですよ」
妖影 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
とほかゝりしに深編笠ふかあみがさかぶりて黒絽くろろ羽織はおりのぼろ/\したるを如何にも見寥みすぼらしき容體なりをしてうたひをうたひながら御憐愍々々ごれんみん/\と云つゝ往來にたつて袖乞を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
また紋付きの羽織はおりで、書机に向かって鉢巻はちまきをしている絵の上に「アーウルサイ、モー落第してもかまん、遊ぶ遊ぶ」
亮の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
私は先年、秋田県の花輪はなわ町の物屋ものやたのんで、絹地きぬじにこの紫根染しこんぞめをしてもらったが、なかなかゆかしい地色じいろができ、これを娘の羽織はおりに仕立てた。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
叙して「上着うわぎ媚茶こびちゃの……縞の南部縮緬、羽織はおり唐桟とうざんの……ごまがら縞、……そのほか持物懐中もの、これに準じて意気なることと、知りたまふべし」
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
洋服の上に着ている羽織はおりをぬいでかしてくれたものでした(田舎いなかの少年は寒い時、洋服の上に羽織を着ています)。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
たとえば祭礼の日にも宿老たちだけは、羽織はおりはかま扇子せんすをもってあるくが、神輿みこしかつぐ若い衆は派手な襦袢じゅばんに新しい手拭鉢巻てぬぐいはちまき、それがまった晴着であった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
かのじょ羽織はおりや帯の色が、美しい雲のように、うずを巻いて、眼のまえに浮動ふどうするのが感じられただけだった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
孫四郎はこういいながら半紙をとじた帳面をふところに入れ、矢立ての墨をあらためて腰にさすと、変に興奮したていで衣紋掛けの羽織はおりをとって引っかけた。
服装ふくそうまでもむかしながらのこのみで、鼠色ねずみいろ衣裳いしょう大紋だいもんったくろ羽織はおり、これにはかまをつけて、こしにはおさだまりの大小だいしょうほんたいへんにきちんとあらたまった扮装いでたちなのでした。
糸織いとおり小袖こそでかさねて、縮緬ちりめん羽織はおりにお高祖頭巾こそづきんせいたかひとなれば夜風よかぜいと角袖外套かくそでぐわいとうのうつりく、ではつてますると店口みせぐち駒下駄こまげたなほさせながら、太吉たきち
うらむらさき (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
午後、土井ははかま羽織はおりの出席の支度で、私の下宿へ寄った。私は昨晩から笹川のいわゆるしっぺ返しという苦い味で満腹して、ほとんど堪えがたい気持であった。
遁走 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
これに対して総兵衛ははじめは羽織はおりを脱ぎつぎは肌脱はだぬぎになりおわりにすっぱだかになっておどりだした。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
定紋じょうもんはなごま博多はかたの帯を締めて、朱微塵しゅみじん海老鞘えびざやの刀脇差わきざしをさし、羽織はおりはつけず、脚絆草鞋きゃはんわらじもつけず、この険しい道を、素足に下駄穿きでサッサッと登りつめて
蝙蝠傘かうもりがさかつぐやうにして、お光は肩で息をしてゐた。薄鼠の絽縮緬ろちりめん羽織はおりは、いで手に持つてゐた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
その日、東助とヒトミが、ポーデル博士の飛ぶたるの中へはいってみると、博士は、はだかになって着がえの最中だった。ふしぎなことに、前には羽織はおりはかまがでている。
ふしぎ国探検 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それでも合戦かっせんと云う日には、南無阿弥陀仏なむあみだぶつ大文字だいもんじに書いた紙の羽織はおり素肌すはだまとい、枝つきの竹をものに代え、右手めてに三尺五寸の太刀たちを抜き、左手ゆんでに赤紙のおうぎを開き
おしの (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
軽い暖かさを感ずるままに重い縮緬ちりめん羽織はおりを脱ぎ捨てて、ありたけの懐中物を帯の間から取り出して見ると、凝りがちな肩も、重苦しく感じた胸もすがすがしくなって
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
肩揚かたあげのある羽織はおりには、椿つばき模様もやうがついてゐた。かみはおたばこぼんにゆつてゐたやうにおもはれる。
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
僕ガ妻ヲ抱キ起シテ、長襦袢ノママデ木村ノ背ニ乗セ、ハンガーノ着物ト羽織はおりはずシテ上カラ着セタ。庭ヲ横切ッテ門前ノ自動車ノ所マデ行キ、二人ガカリデ車ニ入レタ。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
母はその日のために苦しい中から工面して木綿のしま筒袖つつそでと、つい羽織はおりとをつくってくれた。私はそれを着せてもらって、みんなと一緒に、喜び躍りながら学校に行った。
葬式さうしきつぎまた近所きんじよひとた。勘次かんじりた羽織はおりはかま村中むらぢう義理ぎりまはつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
山吹の花さし出す娘はなくて、ばあさんが簑を出して呉れたが、「おべゝがだいなしになるやろ」と云うので、余は羽織はおりを裏返えしに着て、其上に簑をはおり、帽子を傾けて高尾に急いだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
だがしわになるといけないからこの浴衣ゆかただけはお着なさいよ、私も着かへるからとしごきばかりになれば、清二郎は羽織はおりを脱ぎながら私やあ急いで来たせゐか、先刻さっきからのどが乾いてなりませぬ
そめちがへ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
あたかもその時帳場の横で黒縮緬くろ羽織はおり、鳩鼠色の紐を結んで居たのは小歌で、貞之進は何か云いたかったが云う折でもなく、又云うことも出来ぬのでそのまゝ下足番の所へ行った。
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
おまえはいつでも二十はたちの青年のむす子で、私はいつでも稚純ちじゅんな母。「だらしがないな、羽織はおりえりまがってるよ、おかあさん、」「生意気いうよ、こどものくせに、」二人は微笑びしょうして眺め合う。
巴里のむす子へ (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
うえの羽織はおりは、紺地錦こんじにしきへはなやかな桐散きりぢらし、太刀たち黄金こがねづくり、草色のかわたびをはき、茶筌髷ちゃせんまげはむらさきの糸でむすぶ。すべてはでずきな秀吉ひでよしが、いま、その姿すがたを、本丸ほんまるの一室にあらわした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
きっぱりとわせ、折鶴の紋のついた藤紫の羽織はおり雪駄せったをちゃらつかせて、供の男に、手土産てみやげらしい酒樽たるを持たせ、うつむき勝ちに歩むすがたは、手嫋女たおやめにもめずらしいろうたけさを持っている。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
大原は父母の出迎いに行く事とて礼義正しくはかまを着し羽織はおり
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
羽織はおり著た禰宜ねぎの指図や梅の垣 素覧そらん
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
あっちの羽織はおりを出してもらおう。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
羽織はおりをもまだがずに
平袴ひらばかまに紋付の羽織はおりで大小を腰にした菖助のあとについて、半蔵らは関所にかかった。そこは西の門から東の門まで一町ほどの広さがある。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
さうして御米およねかすり羽織はおり受取うけとつて、袖口そでくちほころびつくろつてゐるあひだ小六ころくなんにもせずに其所そこすわつて、御米およね手先てさき見詰みつめてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
るにはるがあづけてある。いきほへいわかたねばらない。くれから人質ひとじちはひつてゐる外套ぐわいたう羽織はおりすくひだすのに、もなく八九枚はつくまい討取うちとられた。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それでも宿へ帰る時は、何か必要な用事があって歩いて来たというふうに、はかま羽織はおりに物の包みをかかえてさっさと帰って来る。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
黒縮緬くろちりめん羽織はおり唐繻子たうじゆすおびめ、小さい絹張きぬばり蝙蝠傘かうもりがさそばに置き、後丸あとまるののめりに本天ほんてん鼻緒はなをのすがつた駒下駄こまげたいた小粋こいき婦人ふじんが、女
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
今これこれだと阿久に話すと、人に歩かせて、自分は楽をしたものだから、その罰だと笑いながらも、汚れた羽織はおりの仕末には困った顔をした。
深川の散歩 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そのかわりおれいは二まではずもうし、羽織はおりもおまえ進呈しんていすると、これこのとおりお羽織はおりまでくだすったんじゃござんせんか。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)